第46話② 新車(再会したお話)

 次の週の土曜日。

 この日、桃代は留守番。

 家から出られないため、ユキ一人で行くことになる。

 今日は契約するつもりで行く。

 目的地は隣町のネッツ。

 出かける前、桃代に会ってそのことを言うと、


「そぉなん?ふぅん。」


 何故かリアクションが薄い。

 そして、またもやビミョーな顔をする。

 一体何があるというのだろう?


「じゃ、行ってくるね!」


「うん。気を付けて…色々と」


 最後に言った「色々と」が気になり、


「色々っち何?」


 と尋ねるが、


「別に~…。」


 おしえてくれない。

 不審に思いながら店へと向かう。




 店に到着し、お客様駐車場にクルマを止め、降りたところで女性の店員が駆け寄ってきて挨拶。


「いらっしゃいませ!本日はどのようなお車をお探しで…っち、ユキ?」


 へ?どちら様?なんでオレの名前知っちょーん?


 その店員さんの顔を見たら、バッチシ目が合った。

 栗色のロングヘアーででったん可愛い。

 背は普通だが、主張しまくる乳が…いーね!


 こんな知り合いおったっけ?


 声は聞き覚えがある気がするのだが…。


 必死で考える。

 名前を呼ばれてからここまで約5秒。


 …!


 思い出した!


「…長谷さん?」


 ミクだった。

 って、名札見ろよ!っつーハナシだけど。

 化粧でだいぶ印象が違うし、いきなり呼ばれたのでテンパって、そんな心の余裕どこかへぶっ飛んでいた。


「正解!メールやらはずっとしよったけど、会うのは久しぶりやね!」


「うん。雰囲気でったん変わったき、すぐ思い出せんやった。ごめん。」


 あまりのキレーさに感動しまくり。


「いーよいーよ!ウチ、そげ変わった?」


「うん。大人っぽくなった。でったん可愛いし!」


「ははは、ありがとね。」


 言葉ではサラッと流したが、大好きな人の突然の来店である。

 テンションが上がる。

 そして可愛いと言われ、心の中で喜びまくる。



 そういえば、これまでのメールのやり取りでここの店にいると言っていた。


 先週来た時、呼び出せばよかったんやん。


 今更思いつく。

 で、朝とあの時の桃代の不自然な態度はこれだったんだと納得する。


「先週も週末来たんばい。おらんやったよね?」


「え…そーなん?先週は土日ともおったはずよ?何しよったかな?何時頃きた?」


「えっと…昼過ぎ…よー覚えんけど多分1時から2時の間ぐらい?」


「その時間は、えっと~…あ!そうそう!納車に行っちょった。」


「あ~、だきおらんやったんやね。」


「うん。それにしても懐かしい。今度みんなで飲もうや!」


「そやね。日にち決めんといかんね。」


「うん。楽しみ!で、今日は何しに来たん?」


「ん?クルマ買い。」


「何買うと?安くしちゃーよ?」


「マジで?助かる!レジアスエース買おうかっち思いよる。」


「そらまたマイナーなクルマを。この前の見積もりとかある?」


「うん。」


 クルマから見積書を出して渡す。


「これ、高いね。任せちょき!ウチがでったん安くする!」


 頼もしい限りである。

 そして、


「そっか!釣り用?」


 用途に気付く。


「うん。ボート乗せる。」


「ボートやら持っちょーって。今度乗せてよ?」


「いーよ。でも釣りせんのに暇じゃない?」


「するする。だき、おしえてよ!」


「いーけど、日焼けやら大丈夫?」


「そげなん全然気にせんばい。真っ黒になってもOKやし。」


「あと、トイレ困るよ?」


「あ、そっかー…でもいー。行きたくなったらその辺でするし。まぁそれはさすがに冗談やけど、なんとかなるやろ。岸に着けてもらったらコンビニまでクルマで行くし。」


 かなりノリノリである。


「うん。わかった。」


「やった!んじゃ、店入ろ?」


「うん。」


 店に入り、見積もりしてもらうことにした。

 とりあえず先週の条件で見積り。

 見積書ができた。

 ビックリするほど安くなっている。

 カッコ重視のオプションも追加することにした。黒バンパーなのに、リップスポイラーの設定がある!これは着けたい。それと、ウッドステアリングも追加。

 再度見積り。


 キリッとした表情で、ノートパソコンに条件を打ち込んでいくミク。

 できる社員感が漂っていた。

 思わず見惚れ、


「仕事姿、カッキーやん。」


 ついつい口に出してしまう。


「そぉ?ありがと。」


 ほのかに頬を染め、礼を言うミク。

 改めて。


 でったん可愛いやんか!オレ、こんな子から告られたとか…信じられん。


 ミクの仕事姿を正面から見つつ、そんなことを考えていた。


 見積もりが出た。

 総額250万!流石知り合い割引!この前より装備が良くなったのに20万も安くなった。

 即、契約した。

 店長が出てきて挨拶。

 ミクが喜んでくれている。

 納車は…


 2カ月待ちげな、どげな人気車種よ?普通、長いでも1カ月くらいじゃない?


 疑問に思い聞いてみる。

 そしたら関東優先なんだそうな。ここ何ヵ月かで排ガス規制が変わり、注文が殺到しているとのこと。

 待ち長い。


「ウチが担当やき!なんかあったらウチ宛に来てね。」


 ということになり、名刺をわたされた。

 同級生の名刺。幼馴染男チームのが全員持っている。女子チームは美咲、渓に続きミクのまで。勿論桃代のは持っている。縁起もん?の社会人として本当の一枚目だ。

 同級生コレクションが順調に増えていっている。

 改めて、社会人になったことを実感した。。


「うん。それはいいね。友達が担当やったら行きやすいもん。」


「それはそーと今日、桃は?」


 桃代が異動してきた数日後、偶然連絡があったので知らせておいた。なので、こっちにいることは既に知っている。


「家の用事。」


「そっか。会いたかったな。桃とはどげなっとるん?」


「いや…。」


 ビミョーな顔になってしまった。

 すぐに気付かれる。


「なんかあった?」


「うん…大学ん時、別れてね。」


「マジで?そっか…大学別々になったんよね?だけん、連絡なくなったんかぁ。」


 ビックリし、そして納得。


「うん。せっかく会社で再会できたっちゃけど、いろんなことがあり過ぎて…また臆病になっとる。今はオレ、桃ちゃんの部下。仲良くはしよるよ。」


「そっか。まぁいーや。桃によろしくね?」


「うん。わかった。じゃーね。」


 世間話もひと段落したので店を後にした。




 ミクはガッツリときめいてしまっていた。

 仕事中もユキのことが頭を離れない。

 その日、帰ってちょっとだけ悩む。


 別れたっち言いよったな。どうにかしたいな。でも、桃好きなの丸わかりやったもんな…桃も多分好きよね?やっぱウチ、入れる余地ないっちゃろーね。


 でも、付き合っているとは言ってなかった。


 もっかい告ってみよっかな?


 ずっと燻っていた気持ちが再び燃え上がろうとしている。




 ユキは帰って桃代に契約したことを報告。


「決めたよ!木のハンドルと前だけエアロ着けた。」


「へ~。来るのが楽しみ!」


 自分のことのように喜んでくれる。

 そのことが結構嬉しかったりするわけで。

 そして追加情報。


「でね、でったん安くしてもらえたん!」


「なんで?」


 嫌な予感がする。


「それがね、こぉ!前聞いちょったのに、おるの忘れちょって。」


 嬉しそうにミクの名刺を見せる。


 やっぱし!


「ちっ!気づきやがったか。」


 実は先週行ったとき、桃代はミクのいる店舗だと気付いていた。でも、思い出させるのはなんか嫌なのであえて言わなかった。そしたら運がいい?コトにミクは納車で外出中。ユキと会わないで済んだ、という訳だ。


 今日、ユキがその店に行くと言い出したので、また外出だったらいいのにと思っていた。が、しかし…会ってしまっていた。しかも名刺をもらい、嬉しそうに見せやがった。というか、担当になってしまっている。今後、車検やなんやで必ずお世話になるし、正当な理由でユキと会うことが多くなってしまう。

 桃代のヤキモチ芸が発揮されることも多くなりそうだ。


「行ってから話しかけられて、初めて思い出したっちゃけどね。ツインテールやめて大人っぽくなっちょったき、いっとき誰か分からんやった。」


 嬉しそうに話すのが全く持って気に食わない。

 一瞬でヤキモチモード全開になる。


「ふ~ん。それはよー御座いましたな。嬉しそうにしやがって。」


 不機嫌だ。

 かなり反応が薄い。


「ごめんごめん。」


 笑って誤魔化した。


「うるせー。バカ。」


 口を尖らせて怒っている…ように見える。


「そういや飲みに行こうっち言いよったよ?」


「ふ~ん。二人で行って来れば?お幸せに!」


 いつもの展開に苦笑するユキ。

 こうなっている桃代をからかうのは結構面白かったりする。

 いつもの如く悪戯心が芽生え、


「分かった。じゃ、今日にでも行ってくるよ!」


 わざと、嬉しそうに桃代の提案に乗ったフリをする。

 すると、


「あっ!ダメ!ウソ!ウチも行く!」


 ものすごく慌てふためきツーショットにならせまいとする。

 こういった反応がイチイチ可愛らしいのだ。

 いじめ過ぎたと少しだけ反省し、


「二人でやら行ったりせんよ。他の人も誘ってみんなで飲も?」


 そう言うと、安心し即座に機嫌を治す。

 本当に怒っているわけじゃないのですぐに治る。


「うん。わかった!渓達に聞いてみる!」


 幼馴染とミクと涼と舞で連絡を取り合う。

 勿論菜桜と千春にも声をかける。

 ユキが飲める年になってすぐ桃代と別れ、それが原因で起こった事件だったため、近所に住んでいるにもかかわらず一度も一緒に飲んだことがない。本音は参加したいと思っている菜桜と千春だったが、ユキに吐いてしまった暴言の数々を思い出すと、申し訳な過ぎて行けないという。誘う度に「ユキは気にしてない。会いたいっち言いよったよ」と説得しているのだが、どうしてもダメなようだ。女子会をするときには躊躇なく来るのに…こんなことになってしまったコトがとても寂しい。

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