第46話① 新車(クルマを決めるお話)

 KDH201Vレジアスエース。


 ハイエースの兄弟車で販売店がネッツ。

 それがレジアスエース。

 纏めて200系と呼ばれている。

 レジアスエース単体としては超マイナーだが、200系としては超有名。

 国内で最も売れているキャブオーバータイプワンボックスの商用車。カスタムカーの世界においても、ベース車として大人気。様々なドレスアップパーツが存在し、ハイエース専門の雑誌も多い。カー用品専門店なんかに行くと「ハイエースコーナー」なるモノがあったりする。

 また、ホビーや玩具の分野にも数多く存在する。プラモデル、ラジコン、ミニカー、チョロQなどで確認済みだ。

 たかが四角い商用車。なのにこの人気。まあまあ特殊なケースのような気がする。


 この度これがユキの愛車となった。

 緑のメタリック。黒バンパーに黒のリップスポイラーが着いていてかなり目立つ。

 すれ違いざまに知り合いからパッシングされたり、クラクション鳴らされたりする。

 ラブホなんか行こうものなら即バレ間違いなし。まだ勇気が無くて行ってないけどね。

 ちなみに「Ⅱ型」と呼ばれる初のマイナーチェンジが行われ、グリルのデザインがちょっと変わり、ディーゼルエンジンが3リッターになったものだ。


 ※今現在Ⅳ型まで出ているが、ここではまだⅡ型が出たばかりという設定。




 夏のボーナスが出てついに目標金額に達した。

 

 新車を買うぞ!

 というわけで、昼飯を済ませ、ユキの下品爆音ミニカで桃代と二人ディーラー巡り。

 ボートを中に積む、という明確な目的があるため、ハイエース、レジアスエース、キャラバンといった、いちばん大きなキャブオーバータイプが購入の対象となってくる。

 トヨペット、ネッツ、福岡日産、日産プリンスを巡ってみることにした。

 

 まずは近場から。

 隣町のトヨペット。

 マークXやアルファードなど、高額なクルマを比較的多く扱っている。

 ボロい軽自動車で来店したユキと桃代を見て、明らかに「こいつら買わんな」という態度をしやがった。

 悔しかったのですぐさま、

 

 「ハイエース考えているんですけど。」

 

 と、意思表示。

 実際に買う気で来た。

 具体的な話をすると態度がコロッと変わりやがった。


 こいつ…ま、いーけどね。



 グレード、ボディタイプ、エンジン、オプション、下取りの有無等々の話をし、見積もりを出してもらう。

 4ドアロングバンDX。

 3.0ディーゼルターボ、パワーウィンドー、リモコンドアミラー、オーディオレス2スピーカー、プライバシーガラスといった仕様。

 ロングという名称だけれど最も小さく幅も狭い5ナンバーサイズ。ナンバーは4ナンバーになる。いわゆる標準ボディというヤツだ。

 下取り無し、値引き込で270万!

 中古は高いと思っていたが新車も高い!

 内装なんか今乗っているミニカと大して変わらないのにマークXの低いグレードの新車が買える。

 値引きがたったの17万というのもまあまあガッカリの結果だった。

 しかし買う気があると思われたらしく、来店直後の見下し感はいつの間にか無くなっていた。

 超売る気満々だ。


「値引きはこれだけしかできませんが、ご購入後のサービスは精一杯させてもらいますから!」


 だそうだ。

 おおよその額が分かった。あとは別の店と別のメーカーで見積りを出してもらおう。


 話が終わったところで「試乗車があります。乗っていかれませんか?」と、店員からの提案。

 試乗することにする。


 しかし、商用車の試乗とか…まるで乗用車やな。


 店の外に出るとⅠ型スーパーGLの銀色ツートンが用意してあった。最上級グレードなのでバンパーはボディ同色。フォグランプが着いていて乗用車みたい。バンには見えない。

 早速乗り込みインパネ周りを見渡した。

 最上級グレードらしくタコメーター付。内装はフルトリムで床はカーペット。後部座席の背もたれがリクライニングする。前列のシートは枕が取れて(後列も取れる)フルフラットになるらしい。ミニカよりは少し充実しているものの、レンタカーで借りたヴィッツよりもはるかにショボイ装備。なのに値段は通常グレードのヴィッツ二台分以上!


 助手席は店員。後部座席には桃代。

 グローしてエンジンをかけ、ブレーキ踏んでセレクトレバーを「D」へ。

 サイドブレーキをリリースして、さあ!出発だ!!


 店から外に出るとき歩道の段差を越える衝撃で、


「ぅえっ!」


 無意識に桃代が声を発する。乗用車に比べると突き上げが相当酷い。前列シートでは路面などの凹凸が確認でき、クルマの挙動がある程度予測できるためそこまで気にはならないが、後部座席では大騒ぎだ。アスファルトや橋の継ぎ目などを通過する度に「ぅえっ!」っと声が出ていた。スーパーGLはDXよりも車重が200kg程重い。よって積載量は1000kgとなり、乗り心地はDXよりだいぶ軟らかい。それなのにこの有様。買おうとしているDXは1250kg積なのでさぞかし…。


 加速してみる。

 流石ターボ付き!2.5リッターとはいえ100系ハイエースバンの最終型5L(3リッター)エンジンよりも鋭い走り。


 ちなみに5Lは当時の排ガス規制対応エンジンで、アクセルの反応がイマイチ鈍い。MTはそうでもないみたいだが、ATだとかなりアクセルを踏み込まないと流れに置いて行かれそうな感じがする。2L(2.4リッター)と3L(2.8リッター)エンジン搭載車ではターボ無しでもかなりいい加速していたのに。


 試乗コースを一周し、店舗に戻りクルマを返す。

 少し話して店を後にした。



 移動中。


「乗り心地、どうやった?」


 桃代に聞いてみると、


「あれは…酷いね。好きで買うっちゃき何も言わんけど。どっか遠く行くときはグロリアで行こ?」


 完全にマイっていた。




 次にトヨペットと同じ通りにあるネッツ。

 トヨペットの如く見下されはしなかった、というよりも歓迎されている。流石、軽自動車もラインナップしている店舗!

 何故か店に入ってから桃代に落ち着きがない。カウンターの中をじっくり見ている。まるで知り合いを探しているかのように。一通り見まわしてホッとした。


 ?


 どげしたっちゃろ?


 それはさておき、(さておいていいのか?理由を聞かなくていいのか?)ここではレジアスエース。

 名前は違うが同じ200系。ハイエースとは何が違うかというと…名前が違う。だから、ハッチバックに貼ってある車名と販売店のステッカーが違う。あと、ハイエースにはあるワゴンがレジアスエースには設定されないから、その分カタログも薄い。あとは何も違わない。外見も内装も全く同じ。

 マイナーなクルマなので、知り合いとクルマの話になった時、車名を言ってもかなりの確率で分かってもらえない。かなり詳しい人でも知らないことが多々ある。なのでイチイチ説明する羽目になる。しかも、勝手にハイエースレジアスに変換されてしまいがち。

 所有した人間だけに分かるあるあるだったりする。


 結局同じ条件で見積りしてもらったが、大した違いはなかった。

 近い店ならネッツ。サービス重視ならトヨペットかな。


 そんなことを考えつつ店を後にした。




 次の目的地はやはり同じ町にある日産プリンス。

 ここではE25キャラバンが目当て。

 一つ前のE24はカッコよくて、100系ハイエースと人気を二分していた。

 E25にフルモデルチェンジした直後は売れていたが、ハイエースが少し遅れて200系にフルモデルチェンジすると、一気に差を開けられてしまう。


 はっきし言って人気がない!ということは値引きたくさんしてくれるかな?


 とても期待する。

 ハイエースの方がカタチ的に好きではあるが、キャラバンも決して嫌じゃない。値引き次第じゃ充分ありだ。ただ、気になるのが荷室の長さ。標準ボディは荷室の長さがハイエースより20cm短い。ボートは確実に入らない。中に積むとなるといちばん安い4ナンバーの6人乗りは選べない。自動的にスーパーロングになってしまう。1ナンバーとなり、車両価格も高くなる。

 スーパーロングの6人乗りでオプションを選び見積りしてもらう。

 定価は高いが果たして値引きは?

 とりあえず、ハイエースも考えていることを告げてみた。

 見積もりができてくると…ガッカリだ。

 元の値段が高いため、値引きが大きくてもハイエースよりだいぶ高いから却下。

 営業マンが熱血でいい人っぽかったので、少々残念だ。




 次は同じ通りにある福岡日産。

 もう一度キャラバンにチャレンジ。

 プリンスにも行ったとか、ハイエースも考え中とか言ってみたけど結果は同じ。

 桃代を奥さんと勝手に決めつけ、やたらマーチを薦めてくる。

 夫婦と思ってくれるのは嬉しいが、今回はマーチを買いに来たわけじゃない。

 店員の雰囲気はプリンスの方がよかったかも。

 カタログが増えまくる。




 めげずに頑張る。

 別の隣町まで足を延ばし、同じくトヨペット、ネッツ、プリンス、福岡日産と回るも結果は似たり寄ったりだった。




 そして思いつく。


 そうだ!いすゞ!


 いすゞにはキャラバンのOEMでコモというのがある。安ければこれでも全然構わない。

 乗用車のメーカーじゃなくなってしまったため、ビミョーに入りにくい。

 とりあえずコモの話をするが、全く売る気なし。日産よりだいぶ高い。

 ガッカリ。

 途中で諦め、コーヒーを飲み干して店を後にする。




 あとは…マツダ!

 ボンゴに、ブローニーというスーパーロングがあったはず。ハイエースやキャラバンに比べるとひょろ長くて、不自然な形があんましかっこよくないけど安いなら買う価値はある。

 何軒かのマツダに寄ってみる。

 結果から言うと、売る気が全く無い。値引きの額がさらに低い。それ以前に週末だというのに店員がいない。カウンターの呼び鈴を押すと、長靴を履いた店員が走ってきた。中古車を洗っていたという。人手が足りてなかった。

 カタログを見ながら話す。ボディサイズは似た感じだが、エンジンが2リッター。小さすぎじゃない?まぁそれは目を瞑ろう。


 で、値段は?


 ハイエースやキャラバンとほぼ同じ。

 一度モデルチェンジしているが、基本構造はそんなに変わっておらず、古いまま(昭和58年のクルマ)で、ある意味完成形なのだろうが、明らかに見劣りする。それでこの値段なら、新しいのを選びたい。

 三菱のデリカもボンゴなので考えたが、値段が値段なのでこの時点で諦めた。スペースギアベースのデリカがまだあったのならば行ってもよかったのだが…。

 マツダも三菱も無しだ。


 コーヒーを飲み過ぎてションベンがやたら近い。さっきから移動する度トイレに行っている。




 どのクルマも値段はさほど変わらなかった。

 これ以上回っても無駄と判断し、北九州への進出を諦めた。


 そうなると、近い店で選んだ方がいいんかな?故障した時も持っていきやすいしね。


 この日のディーラー巡りは終了だ。

 う~ん…ビミョーな収穫。


 その日帰って考えてみた。

 様々な条件を考慮した結果、一番近いネッツがいいように思えた。

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