第44話② ベイトフィネス(実際に使ってみたお話)
何をやってもなかなか釣れなくなってしまったフィールド。
はたして打開策になったのか?
それともならなかったのか?
ユキの部屋にて。
いつもはあまり見ない説明書に目を通す。
店員に説明されたことが、脅しのように書いてある。
糸巻量がいつもは目分量なのに、「50m巻くには74回転」なんて書いてある。
巻く回数指定とか、初っ端から面倒っちい。
軽いルアー、ベイトで扱おうとしたら気を遣うコト多いんやな。
ブレーキの調整も結構繊細。
メカニカルは、左右に動かすと、ごく僅かにカタカタ音がする程度。これはリョウガやジリオンでも同じ。
最初の一投目は強めのブレーキで、とのこと。
徐々に弱めていき、僅かに糸が弛むとそこから一目盛強める。
これで、セッティング完了なのだそうだ。
説明書には「とにかく初速が早いから」と念押してある。
調整方法は覚えた。
早速桃代と家の前の川へ。
桃代と再会した場所。
今は田んぼのシーズンで満水だ。
実釣開始。
ルアーはカットテール4インチのノーシンカー。
普通なら完全にスピニングの領域だ。
一応警戒して、マグブレーキは「8」から。
軽く投げてみる。
バックラッシュはしないが、かなり引き摺った感がある。
あまり飛ばない。
6で投げる。
まだ、引き摺った感が強い。
5で投げる。
糸が僅かに弛んだ。
「これか。」
引き摺った感は消えないが結構飛んだ。
「なんか…すごくない?」
「来週、ウチも買う!」
既にときめいていた。
5.5に合わせ、投げてみた。
バックラッシュしない。しかも飛ぶ!
ちなみに引き摺った感は消えないみたい。その辺は同じエアブレーキを搭載したアルファスSVと似た感覚だ。
再度投げてみる。
バックラッシュはしない。
「おぉ~、これか!」
スピニングの飛距離に匹敵する。
かなり感動モンだ。
桃代はスピニングで比較中。
断続的に川面を渡る風。
普通に強い。
スピニングにはかなりツラい条件だが、ベイトフィネスだとどうだ?
向風という悪条件。
せーの、で同時に投げてみる。
「何これ!でったんスゲーき!」
スピニングより飛んでいた。
一緒に投げていた桃代は、
「マジで?スピニングよか飛ぶやん!」
感動していた。
「ウチもゼッテー来週おんなしもん買お!一緒行こうね。」
「うん!分った。」
来週末、釣具屋行きが決定した。
しかし凄い。
理由を考えてみた。
恐らく、スピニングは投げるとき糸が完全にフリーになるため、風に吹かれて多目に出てしまう。ベイトはスプールが回転して飛ぶため、テンションがかかりっぱなし。だから余分な糸があまり出ない。
多分、そんな感じなんだと思う。
大成功な買い物だ!
それから数投。
なんとなくコツは掴めたっぽい。
ノーシンカーのカットテールは、沈めるのに少々時間がかかり過ぎる。手返しをよくするため、ハリのシャンクに板オモリを2cmほど巻いた。
さらに使いやすくなった。
ブレーキの目盛りを4.5にセット。
かなりぶっ飛んだ。
いいね!
すると、見ていてやってみたくなったのだろう。
「ウチにも貸して?」
催促が来る。
「ほい。最初ゆっくり振ったがいいよ。」
ちょっとしたアドバイスをしてタックルをわたす。
「さっきも思ったけど、軽いよね。」
ふんわりと投げてみた。
「アルファスよか引き摺った感強いね。」
「そーやね。」
「でも投げやすい。管理釣り場のマスもできるっち書いてあったよね?納得かも。はい。ありがと。」
サオを返す。
黙々とキャストを繰り返す。
障害物が何もない単なる深場。
変化といえば反転流ぐらいか。
その中心に、フォールスピードを調整した4インチカットテールを投げ込んだ。
ちょうど魚が群れで回遊してくる。
落ちてくるルアーを見つけ、近寄ってきた。
そして…。
ツ…ツ~~~…
一定速度で水中に引き込まれていた糸が、急に早く沈みだす。
「食った。」
一呼吸おいて鋭くアワセた。
サオに重さが乗ると同時にドラグが滑る。
「おっしゃ!ノッた!」
一気に流心へ突っ込まれる。サオの弾力を利用して耐える。
キリキリキリ…
さらにドラグが滑る。
使用している糸がフロロの8ポンドなので、普通のベイトタックルみたいに強引なファイトはできない。だからドラグはフルロックしない。フルロック状態から僅かに(2~3クリック程)緩めている。強く引かれると出る設定だ。
そのまま巻き取る。
滑りながらも巻き取っているリール。
突っ込まれると耐え、糸を出す。
これの繰り返し。
普通のベイトでのファイトとはまるで違う。
スピニングに近い。
とか考えながら頑張っていたら、水面へと向かう感触。
数舜の後、
バシャバシャッ!
エラ洗い。
大してデカくないのに強く感じる。
深場へ突っ込む。
障害物が無いため、安心して糸を出しながらファイトする。
なかなか弱らない。
突っ込まれた時の緊張感が、たまらなく面白いと思った。
サオのアクションがML(ミディアムライト)とかなり弱いため、しっかり持ってないと魚に力負けしてしまいそうになる。
グリップを肘にしっかり当ててやり過ごす。
さらにエラ洗い。
今度は横に走る。
キリキリキリ…
肉抜きしていて空洞が大きいからなのか、ドラグが滑って出るとき特有の音がする。
スプールに巻かれた糸が擦れて内側で反響しよるんかな?
魚がだんだん疲れてきたっぽい。
サオを立てたらやっとこっちを向いた。
一気に巻きとり、抜き上げ…ることはできそうにない。サオが柔らかすぎる。
口に右手親指を突っ込んでハンドランディング。
取った!
「やったね!」
いい年こいて、二人で抱き合って喜んだ。
上がってきたのは、35cmのキレイな魚。
しっかり餌を食って回復してらっしゃる、アフター回復系。
喉からテナガエビのヒゲが出ていた。
大してデカくはないけど、繊細なタックルなのでファイトが楽しかった。
ベイトフィネス、結構おすすめかも!
おニューのタックルに魂がこもった!
初日にこめることができたのがなんとも嬉しい。
あとは大物に出会うだけ。
ジャンジャン使ってあげよう。
魚をかけた時の感触が、なんとなくわかった。
今日はこれで十分だ。
試し釣りは大成功。
帰ることにする。
「よし!釣れたし。帰ろっか?」
「そやね。」
タックルを片付け撤収する。
打開策になったかどうかは今のとこ分からない。
今日釣れた一本だけじゃ、なんとも判断が難しい。
これから見極めよう。
土手の斜面を登る。
あと少しで登りきるところで、突然、
「ぅわ~っ!」
いつもの如く「キャー!」じゃなく、あまり可愛らしくない声をあげ、先に登っていた桃代がコケる。
「大丈夫?ケガしてない?」
ユキが心配する。
「うん。」
晴れ続き。
地面は乾燥しているはず。下りるときは滑らなかったのに何故?
起きあがった瞬間、
「うわっ!くっせ~!」
思わず叫ぶ。
「なん?どげしたん?」
「イヌのクソ。コッテリ付いた。最悪。」
なんともジューシーなイヌのクソ(下痢気味。生みたてホヤホヤ)を踏んで滑ったのだった。
ナマ足からショーパン、Tシャツにかけて一直線に茶色の帯。
イヌの散歩をしていた人間が放置したモノだ。
※警告:クソはちゃんと持ち帰りましょう。
「あ~ん…くさ~い。」
草をむしってグシグシと拭いている。
桃代らしいハプニング。
確かに昔は、こんな感じだったが社会人になってまで…。
家に着くと、庭木に水をやっていた桃母から、
「うわっ!臭っ!あんたなんしてきたと?はよ風呂に行きなさい!」
怒られていた。
そして、月曜日。
桃代はイヌのクソを踏んで滑ってコケたことを自慢げにヒカルと風香に報告して、「バカ」と言われていた。
ウンコ漏らしたり、一人えっち見られたり。恥ずかしいハプニングが発生すると、必ずその場にいなかった人に律儀に報告する。実に残念だ。こんなところ、学生時代と全く変わってないんやな。
次の土曜日。
今度は桃代の番。
有喜はまたもや爺婆に奪われた。ここのところ毎週だ。会えないとちょっと寂しいユキだった。
欲しいものは決まっている。
ユキと全く同じタックルだ。
そして、それ用のルアーも数種類買う。
桃代は巻きもしてみたいためプラグを買い足した。
既に使ってみたい気持ちでいっぱいだ。
さっさと買い物を済ませ店を後にした。
「ん~、楽しみ!」
「ハマるよ。」
帰宅してリールに糸を巻く。
1、2、3…72、73、74!
これで使えるようになった。
先週ユキのやることを間近で見ていたため、ブレーキ調整などは説明書を読まなくても分かる。
サオにリールをセット。
ガイドに糸を通しオフセットフックを結んだ。
ワームをセットして、板オモリをハリの軸に巻く。
準備完了!
早速釣り場へ。
先週の場所は、朝方誰か入った痕跡があったため却下。
橋の下に行くことにした。
以前、ヤラシイことをしていて菜桜に見つかった場所だ。
競争率の高いポイントだが、今日はどうだ?
どうか魚いますように!
「橋脚…誰か撃ってなかったらいいね。」
「そやね。お先にどーぞ。」
「ありがと。」
距離的には10m無いくらい。
ピッチングで橋脚を直撃。
「は~…浮き上がらんでピッチングできるげな。でったんスゲーき!」
軽いルアーのピッチングしやすさに絶賛感動中。
橋脚に沿って垂直フォール。水深は2メートル前後。
糸が一定速度で水中に引き込まれていく。
着底し、糸がたるむ。
スッとサオ先を上げ、ワームを浮かせた瞬間、一気に絞り込まれた。
「きたー!」
同時に渾身のアワセ。
サオが大きな弧を描く。
「ぅお~!フツーのベイトより引く力強く感じる。」
「スゴイやろ?」
「うん!これ、でったん楽しい!」
エラ洗いに耐え、突っ込みにも耐え、必死にリールを巻いている。
リョウガと比べるとタックルに余裕がないためかなりテンパっている。
「すっげー!一投目よね?」
「うん。でったん嬉しいっちゃき!」
巻いては突っ込まれて糸を出され、再び巻いて引き寄せる。
数度同じことをやって、ようやく魚がこっちを向いてくれた。
足元まで引き寄せる。
抜き上げるパワーは無いのでハンドランディング。
「これ、足場高かったら網要るね。」
「そっか。そうやね。今度は一緒に網買いに行こ。」
「また来週やね。」
「うん。イチオーそげな予定にしちょこ。」
指を広げ、測り、記念撮影。
40cmジャストの丸々肥えた魚体。
ハリを外し、そっと水に浸け、
「ありがと!バイバイ!」
久しぶりに聞いた。
やっぱいいな。
「これハマる!一投目で入魂とか嬉しすぎ!」
大喜びしている。
そして、
「ウチ、巻いてみる。」
今は夏。
プラグでも充分勝負できるはず。
糸を切り、スナップを結び、スピニングで使うために買っていたハイカットを繋ぐ。
空気抵抗を考え、2目盛ほどブレーキを強くし、投げてみた。
「プラグもイケる!」
ニコニコ顔だ。
夏の昼間やけど食ってくるかな?
ゆっくり底を叩きながら引いてくる。
すると2/3ほど巻いたところで、
ゴッ!
サオ先をひったくるような強いアタリ。
反射的にアワセる。
またもや弧を描くサオ。
「すっげ~!二投で二本?ベイトフィネス恐るべし!」
コイツは跳ねない。とにかく底に向かって突っ込む。
違う魚?
ドラグを滑らせつつもサオを立て、浮かすと反転して魚体が見えた。白っぽくて真ん中には黒の線。
バスだ!
「う~~~ん!う~~~ん!」
ポンピングで寄せてくる
足元までくる。
ハーモニカ食い、というよりは丸呑みに近い。リップの先しか口から出てない。
糸が歯に当たってないことを確かめると、強引に巻く。
ドラグを滑らせながら寄せてきた。
腕を伸ばし…エラ孔辺りを鷲掴みにし、取った!
太い!
「おっしゃー!これもデカいぞ!しかも巻きで釣れた!嬉しすぎ。」
キラキラ笑顔。
「桃ちゃんすっげー!」
いつもの如く記念撮影。
測ると43cm。
「ありがと!バイバイ!」
そっと逃がした。
「買ってよかったよ!」
大喜びである。
「さぁ!もっと釣るぞ!」
バックスイングを取り、振った瞬間。
風で揺れた草にルアーが引っかかり…
ヤバい!と思い、親指でスプールを押えたが間に合わなかった。
「あちゃ~。」
目が点になる。
見るも無残なことになっていた。
誰がどう見ても修復不可能なバックラッシュ。
桃代は恥ずかしかったのか、苦笑いしている。
バッグからハサミを取り出し、モジャモジャになった糸を切る。
しばらく切れた糸を引っ張り格闘する。
やっと元通り。改めてハイカットをセット。
投げると、
ビン!
糸が全部出た。
ルアーもそんなに遠くまで飛んでない。
3投で桃代の試し釣りは幕を閉じた。
かに見えたのだが、
「はい。桃ちゃん、糸。」
ユキは予備の糸を持ってきていた。
なんて用意のいい!嬉しすぎる!
「何で予備の糸げな持ってきちょったん?」
「いつかこげなるっち思いよった。糸巻量少ないしね。早速役に立った。」
ベイトフィネス用のリールのスプールは浅溝タイプ。
8ポンドフロロが50mと表示されている。なので、バックラッシュクラスの糸の損失をしようものなら、一撃で使い物にならなくなってしまうのだ。
次からは予備の糸を持って行くことを心に誓う。
ユキが持ってきてくれてなかったら、二投しかしてないのに強制終了する羽目になっていた。
ホントに感謝。
それから糸を巻き直し、続けること数時間。
二人で大きいのばかり3本を追加し、すっかりハマった二人であった。
あれから数か月。
結構な頻度で使いまくって分かったことがある。
それは、スプールの強度について。
すぐに歪んでしまうのかと心配し、替えのスプール購入の覚悟はしていた。
が、意外にも頑丈なのだ。
ついつい今までの癖で、根掛かりすると、サオを引っ張ったりあおったりして糸を切ってしまったりするのだが、それをやってもなんら問題無く使える。
あれだけ「絶対にやらないでくれ!」と、注意書きしてあったのに。
勿論、意識的にやるわけではないし、お勧めするわけでもない。
説明書通りの使い方をすることが前提で、あくまでも「ついつい」なのだ。
といったわけで、そこそこラフに扱っても壊れないくらいには頑丈にできている。
ベイトフィネスを購入することにより、スピニングの出番がメッキリ減った。でも、要らない訳じゃない。2インチセンコーのノーシンカーなんかはやはりスピニング。
釣果はというと、劇的に変わったわけではないものの、安心感が違うため思い切ったことができる。スピニングよりも糸が太いため、大きいのをバラす確率が格段に減った。
それだけでも、ベイトフィネス効果はあったと言えそうだ。
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