第44話① ベイトフィネス(お買い物にいったお話)

 釣れない。

 スピニングの使用頻度が以前にも増して高い。

 それに伴い悔しい思いをすることが増えてきた。というのもドラグワークがあまり上手くないこともあって、せっかくヒットしても根に潜られたりしてバラしてしまうからだ。

 由々しき事態である。


 社会人だし、金にモノを言わせ、上位機種のスピニングを買おうかとも考えた。

 確かにそれはそれで必要ではあるのだが、その前に。

 ベイトフィネス!

 実は、前々から気になっていた。

 というわけで、こちらから手をつけることにした。

 

 

 で、ベイトフィネスとは?

 読んで字の如く、ベイトでやるフィネス。

 今、最も熱い(?)メソッドだ。

 フィネスというと普通、スピニングで扱う繊細なタックルのことを指す。

 その、繊細なタックルをベイトで扱う。

 それがベイトフィネス。

 具体的には、今までスピニングの守備範囲だったトコロの重い部分。

 これをベイトタックルで扱う。

 重さ的には、ベイトタックルとスピニングタックルの境目、という位置づけだ。


 ところで、何故このような釣り方が必要になってきたのか?

 それは、釣り人の増加によるハイプレッシャー化と魚の大型化。

 日々何度もルアーを見せられ、釣り上げられたりバレたりすると警戒心がどんどん強くなり、通常のベイトタックルだとなかなか反応しなくなる。

 そんな時、スピニングで小さいルアーを使うと食わすことができる場合がある。

 障害物が無い場所ならルアーを飲まれない限りなんとか取れるのだが、それがカバーの中だったり、複雑な障害物周りだったりすると話が変わってくる。

 スピニングタックルは、糸が細くて(通常6ポンド以下)ドラグ力も弱いため、一気に中へ潜り込まれてしまうのだ。

 そうさせないためのやり取りがかなり難しい。

 それに加え魚の大型化。

 今では、本場アメリカでのレコードクラスが日本で釣れる可能性だって充分にある。そこまでの大型は、そう滅多にお目に掛かれるわけじゃないが、40cmクラスならまぁ釣れる。

 こんな大きさ魚のスピニングタックルでのやり取りは、かなりスリリングで超絶楽しいのだが、バラす可能性も高くなる。フックアウトならまだいいが、ラインブレイクすると、ハリが魚に掛かったままになってしまい、最悪口が開かなくなりエサが食えなくて死んでしまう。糸が途中で切れた場合、その糸を引き摺ってまわる。障害物などに絡むと身動きが取れなくなり溺れ死ぬ。

 それじゃ魚に申し訳ない。確実に取って、ちゃんと外して逃がしてあげたい。

 といった問題を解消するのにベイトフィネスが有効となってくる。


 ベイトリールのメリットとしてまず挙げられるのは、巻き上げる力が強いコト。

 そして、スピニングより太い糸が使える。

 よって重いルアーが扱える。

 太い糸が使え、重いルアーが扱えるということは、同時に軽いルアーには向かないというデメリットにもなる。

 通常のベイトタックルの下限は約7g。これを下回ると、使えなくはないが使いづらくなってくる。

 その下限以下を扱いやすくするためには、新技術や新素材といったモノが必要になる。

 ジュラルミンでできたスプールを、強度が保てるギリギリまで薄く削り、さらに肉抜きして超軽量に仕上げる。スプールベアリングの径も小さくし、粘度の低いオイルを使用し、可能な限り回転の抵抗を減らす。

 そうすることによって、1g程度のルアーでもキャストすることができるようになる、というわけだ。


 

 

 週末、ベイトフィネス用のサオとリールを買いに行く。

 毒見的な意味あいで、まずはユキが買ってみる。

 これでよかったら、桃代も真似して買うことにする。

 有喜は爺ちゃん婆ちゃんがどこか遊びに連れて行っている。

 この頃よく遊びにつれて行ってくれるので、意外にも二人の時間が取れるのだ。


 久しぶりの釣具屋デート。

 別れてからは初めてだ。

 実に高校生以来ぶり。

 少し前、桃代のクルマが納車され、大きい部分のドレスアップが終わった。

 となると、いっぱい走り回ってみたい。

 帰ってきてずっと、ユキにばっかしクルマを出してもらっていたから、恩返し?もしたい。

 というわけで、この日の運転は桃代。


 力強いクリープ現象。

 癖のあるキックダウン。

 前が柔らかく、後が固い足回り。

 段々挙動が分かってきた。

 初めてのマイカーを満喫中なのである。


 ユキはというと…横から運転中の桃代にちょっかいを出すのに一生懸命。

 信号待ちの度、乳を触る。

 飲み会の時、デカくなったのに気付いてしまったため、気になって&楽しくてしょうがないのだ。

 突いてみたり、揉んでみたり。

 極貧乳から貧乳にランクアップしたため、なかなかどうして触り心地が良い。

 ふんわりした優しい軟らかさが癖になる。

 触られるたびに、


「ンあっ…」


 身体をピクンと跳ねさせ、色っぽい声が漏れる。

 感じやすさは健在だ。

 というか、むしろ今まで全く触られていなかったため、感度がとんでもないことになっている…気がする。


「こら!危ない!ちゃんと前向いて乗っちょけ!」


 耳まで赤くして、甘い声で怒る。


「いーね!セパレートシートより全然触りやすい!桃ちゃん、いー感じやね。」


 おかしなポイントに感動中のユキ。

 先輩が言っていた「えっちシート」とはこのことだったのかと、身を持って知ることとなった。

 ユキは助手席ではなく、真ん中のシートにわざわざ座ってちょっかいを出していた。

 ホントにアホである。


「うるさい!バカ!止めちょかな事故るぞ!」


 口では「止めろ」とは言っているものの、触られることがたまらなく嬉しかったりする。

 なので、キツくは言わない。

 ユキもクルマが動いている最中の悪戯はしない。信号待ち限定だ。

 そんな悪戯をしている間に到着。


 マ●コがかなりベチョベチョになってしまっているのは秘密だ。ズボンまで染みてしまっていた。濃い色のズボン&ケツまで隠れる長いシャツを着てきて大正解だった。

 歩いたら、ヒヤッとしてヌルッとして気色悪い。

 この日、別れて以来初めて濡れた。

 トイレに行くふりをして拭いてきた。




 物色開始。

 先ずはリール。

 ショーケースのカギを開けてもらい、色んなメーカーのモノを扱ってみる。

 どれもまあまあ感動するレベルの軽さ。

 スプールの肉抜きが凄まじいと思った。

 でも、それ以外は普通のリール。

 クラッチを切り、スプールを弾いて回転させても大して違いが分からない。


 次にサオ。

 数日前からカタログを見ながら、ある程度決めていた。それでも、もしかしたら他にいいヤツが見つかるかもしれない、などと考え、様々なメーカーのサオを手に取り振ってみる。が…どれもただのサオ。いつも使っているMやMHクラスのサオより幾分繊細な感じはするけれど、それでもスピニングロッドと比べればだいぶ硬い。リール以上に特徴が無い。あえて特徴を挙げるならば、どこのメーカーも超小口径ガイドを採用しているところくらいか。


 

 リールはSS AIR 8.1Rにした。最終的にアルデバランBFS-XGとどちらにするかで迷ったが、以前カルカッタコンクエストに馴染むまでに時間がかかったことを思い出し、今回は見送った。

 サオはブラックレーベルPF 6101MLFBを選んだ。

 もう一セット必要性を感じたときは、改めてアルデバランにしようと思った。

 

 糸はフロロの8ポンド。

 スモラバ、それ用のトレーラー数種、ライトテキサス用のシンカー1.8~3.5g、それ用のフック、ワーム数種、ベイトフィネス機専用ベアリングオイルを購入。

 

 

 使用上、いくつかの注意点があるらしく、レジで店員から説明を受けた。

 

 根掛かりについて。

 サオを水平に持って、一直線にして糸を引っ張って切らないこと。

 これをやると、スプールが歪んでしまうらしい。

 必ずタオルを手に巻くか手袋をし、糸を直接引っ張って切るように!とのこと。

 

 糸の強度の上限について。

 16ポンド以上は巻かない。

 これもスプールが歪む原因。

 

 キャストするルアーの重さの限界について。

 15g以上は投げない。

 これも理由は同じ。

 

 糸の巻き替えの時、スプールを床などに落さない。

 これも理由は同じ。

 

 どんだけスプール弱いん?当たり前に使えんっちゃないと?

 

 そんな気になってくる。

 

 

 色々と細かい注意点はあるみたいだが、久しぶりのニュータックルだ。

 魚を掛けた時のことを考え、ワクワクしながら店を後にした。


 帰り道も、行きと同じように触る。

 それを、甘い声で嬉しそうに怒る。

 二人ともアホである。

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