第40話⑤ マイカー(弄るお話)

 クルマが来て初めての休日。

 ユキと一緒に(勿論有喜はいる)マジマジとクルマを眺める。


「ちょっとだけ雰囲気変えてみたいよね。」


 そんなことを言い出した。


 ならば、ドレスアップするしかないじゃない!


「んじゃ、とりあえずアルミ?手っ取り早いでかなり雰囲気変わるよ?」


「それいーね!」


 アルミホイール探しの旅が始まる。

 全国チェーンの店数軒を回る。

 カッコイーヤツは新品のセットでクルマよりも高い。かといって、安いやつだと地味だったりカッコ悪かったりで、なかなか自分の思い通りのモノがない。

 早々と諦める。


 次は中古パーツ屋。

 ユキがミニカのパーツを色々物色した店だ。

 20年ほど前、流行っていたディッシュタイプ。ザウバーディッシュというヤン車定番のヤツ。

 多少メッキが浮いていたりするけれど、程度は妥協できる範囲。値段もタイヤ付で4万円。15インチというサイズはタイヤが安くてありがたい。まずは保留。

 次に見つけたのはロンシャン。

 エッジの効いた6本スポーク。これもまたヤン車の定番、かつ走り屋の定番アルミだ。これもまた前者と同程度の品質。値段は3万8千円でやはり15インチ。今日は旧車用アルミの品揃えが豊富だ。これもまた候補に入れた。

 5本スポークのリネアスポーツ。

 17インチで前者よりは少しキレイ。だから値段は少し高めの5万円。ド定番のデザインだがこれも似合いそう。

 中古だから無くなるのは覚悟している。とりあえずこの三つから選ぶことを考えつつ、ユキが大学時代世話になっていたショップと、今も車検とかで世話になっている整備工場を回る。

 ショップの方は、中古も新品も今時のクルマによく似合うデザインのアルミがメインの品揃え。実際装着してみれば似合いそうだが、それならさっきの候補の中から選びたい。ここでは顔見知りの店員さんと雑談しただけで店を後にした。



 最後に整備工場。

 クルマを止め降りて挨拶。


「いつもお世話になってま~す。今日はこのクルマに似合うアルミを探してまして。ちょっと寄らせてもらいました。」


「何ね。彼女?」


「ははは。まぁそんなところです。」


 否定しなかったことがビミョーに嬉しかったりする。

 気付かれないように、反対側を向き赤面していた。


「Y30ね~…この頃はすっかり見らんよぉになったよね。これやらどうよ?」


 指を刺した先には…R32スカイラインGT-R純正。

 5本スポークでガンメタの塗装がしてありカッコイー。


「おぉ~!GT-R純正ですか。いーですね。っち桃ちゃんはどげ?」


「うん。なんかカッコイー。これにしよっかな。」


「16インチやき、タイヤが少し高くなるけど、これでいいなら安くするよ。3万でどう?」


「中古タイヤ無いですか?」


「あるよ。Y30のワゴンはタイヤハウス狭いき、太いの着けれんよ。だき、なんぼ太いでも205ぐらいかな。」


 というわけで、これに決める。

 バランスと工賃はタダにしてもらえた。

 タイヤをホイールに組んで、バランスを取ってもらい、いざ装着!

 思っていたよりカッコイー!


「「おぉ~!」」


 2人して歓声を上げる。

 結局5万でアルミをゲットできた。

 これだけで、半分以上完成したと言っても過言ではない。

 純正タイヤを積んで、嬉しさいっぱいで家に帰る。

 帰り着くと、前から後から横から記念撮影。最後に有喜を運転席に乗せハンドルを持たせ撮った。

 今後、釣り以外の写真が増えそうだ。




 次は何をしよう。

 じーっと見て考える。


 そうだ!ガラスを真っ黒にしよう!


 釣具を積んだとき、中は見えない方がいい。

 ユキもしているし(←これが一番の理由。結構マネしんぼさんなのだ)。

 近所のスーパー兼ホームセンターで、透過率5%のスモークを買う。


 そして週末。

 霧吹きに中性洗剤を入れ希釈。

 カッターと新聞紙を用意。

 スモーク貼りが始まる。


 新聞紙をガラスに当て、できる限り正確に型を取る。

 貼ろうとしているガラスは後ろのドア、カーゴルーム、ハッチバック。

 まずは、右のカーゴルーム。

 側面のガラスで一番デカい。新聞紙をセロテープで固定。鉛筆でガラスの縁をなぞる。

 次は左側。

 パワーウィンドーなので2分割。

 続いて左右の後ろのドア。

 最後にハッチバック。

 全て型を取り終わる。

 糊が着いた面に貼ってある透明フィルムを確認し、裏表間違わないよう型紙を貼り付け切る。

 そして型に合わせ切っていく。

 それが終わると貼り付け。

 ガラスの汚れを可能な限り取る。

 霧吹きで洗剤を噴霧。

 スモークの透明フィルムを剥がす。このとき端っこにセロテープを張ると剥がしやすい。

 フィルムが捲れると、そこに洗剤を噴霧しながらシワにならないよう徐々に剥がす。このとき誰かに片一方を持ってもらうか、平坦なモノに貼り付けると、シワにならず剥がせる。

 剥がしたフィルムを濡らしたガラスに貼り、位置を微調整し、決まったら付属品のヘラで洗剤や気泡を追い出す。

 Y30は比較的曲面が少ないため、1枚で張ることができるが、そうじゃないクルマは何段かに分割すると、キレイに貼ることができる。

 昼ご飯を食べたあとから始まったスモーク貼り。

 結局夕方までかかった。

 難航したのは、パワーウィンドーのガラスがドアの中に入っていく部分にあるゴム。

 ゴムを避け、しわを入れずにフィルムを差し込むのがやたら難しい。

 何枚かパーにした。

 あとは裏表を間違えたり風が吹いてクシャクシャになったりで結構な大騒ぎだった。

 恐らく丸々一本はダメにした。

 はたして仕上がりは?

 素人工事だった割にはキレイに貼れたんじゃない?

 どんどん愛着が増していく。


 そういえば!

 ハンドルがカッコ悪い。

 前々から、ユキのミニカに着いているMOMOのステアリングが可愛いなと思っていた。

 ちなみに自分の名前が「桃」なのは関係ない。


「ユキくん。これ、ユキくんのミニカみたいな木のハンドルにならんの?」


 早速、マネしんぼさんが発動する。


「できるよ。今度見にいこ。」


 来週の予定が決まった。

 ウッドステアリング探し!


 中古パーツ屋にて。

 かなり豊富な品ぞろえである。

 母親の青春時代はエアバッグが装着されたクルマは珍しくて、ステアリングはオシャレアイテムの代表格だったらしい。

 今はよっぽど低いグレードの軽自動車でもない限り、エアバッグは標準装備。

 エアバッグ装着車でもステアリング交換はできなくないけど、ボスが高価だったり任意保険が高くなったりする。

 エアバッグ付きのモノもあるにはあるが、ステアリング自体高額だ。

 エアバッグのユニットだけ利用するタイプは安いけど、バラす時爆発しそうで怖い。

 そんな理由で、今のクルマのオシャレアイテムは、もっぱらハンドルカバーだったりする。


 ステアリングコーナーに腰を据え、じっくりと品定め。

 桃代はどうにかしてお揃いにしたいらしく、似たようなデザインを見つける度ユキに聞いている。

 MOMOのスーパーインディーは、あるにはあったがニスが剥げて汚かったため却下。


 ステアリングホイールを一周する一本の黒い線が特徴の、旧車ではおなじみの品。


 ナルディークラシック。


「これも可愛くない?」


 桃代が見つける。


「おぉ~、ナルディーやん。キレーやし、ありやね。」


「じゃ、ウチこれにする。」


「ちょっと待った。」


「何?」


「ナルディーとMOMOじゃ、ビスの位置が違ったはず。ボスの説明見てみらんと。」


「そぉなん?」


 ナルディーとそれ以外ではビスの位置が違う。具体的には、ボスに固定する6本のビス穴が六角形の頂点に開いているわけだが、ステアリングを中立にした時、ナルディーは六角形の辺が真上にくる。それ以外は頂点だ。

 そう思い新品のボスの説明を見る。ちゃんとナルディー用のビスの穴が開いていた。

 ステアリングとボスご購入。7千円也だ。

 早速帰って作業開始!

 まずはボスを組み立てる。

 指定された穴に2本のピンをハンマーで打込む。ピン穴の位置を間違えると、ハンドルを戻したときウィンカーが戻らない。色んな車種用の穴が開いているため間違わないよう注意する。

 ホーンの電気が流れる真鍮の接点に付属のグリスを塗る。

 キーを抜いてハンドルロックをかけ、純正のホーンパッドを外し、中心のナットを緩める。ステアリングを叩き、固渋したのを緩める。そして自分側に衝撃を与えながら引っ張って外す。このとき注意するのは、中心のナットを全部外さないこと。すんなり取れれば問題ないが、固渋している場合、いきなし外れステアリングが顔面を直撃し、大ケガすることになる。

 説明をすると、


「ウチがする!」


「んじゃ、気を付けて。」


 ハンドルをガンガン叩いて、自分側に引張る。


「ユキくん取れんよ?」


「ちかっぱいぶっ叩いていい。壊れるようなもんじゃないき。」


「分かった。」


 衝撃を与えては引張り、を繰り返す。

 すると、


 ガクン!


 純正ハンドルが浮いた音。


「今のが取れた音ね。」


 キーを刺し、ハンドルロックを解除。中立を合わせ、ナットを外し、純正ハンドルを外す。

 先程組み立てたボスを、矢印が真上にくるようセット。ナットを締める。そしてステアリングをビス止めし、ホーンスイッチを着ける。鳴るかどうか確認。OKのようだ。ハンドルのナットを増し締めし、ビスを隠すリングを着けると完成だ。


「おぉ~!高級感が増した。いーね!ホントはユキくんと同じのが良かったけど、これもいい!」


「なんかいいね!替えて正解!」


 元々あるダッシュボードの木目とのコンビネーション。

 なんかいい雰囲気を醸しだしていた。

 純正のステアリングは有喜のオモチャに。



 ユキのクルマに乗っているときのこと。

 隣町のショッピングモールで買い物を終え、家へと帰る。

 家に入るとき右折のため待っていると、対向車が止まり行かせてくれた。

 「ありがとう」の意味を込め、


 パッパッ!


 クラクションを鳴らす。


「何、今の音?」


「ん?何が?」


「クラクション、音違くない?」


「あ~これ。替えてある。」


「いーね!ウチのもできる?」


「できるよ。替える?」


「うん!今から買いにいこ!」


 急きょ、ホーンを買いに行くことになった。


 近所のホームセンターにて。


「この辺のヤツ。オレのはこれ。」


「んじゃ、これにする。」


 即決だ。

 ボッシュの電子ホーンを買った。

 帰ってすぐにボンネットを開けてみる。

 流石?高級車。

 純正も2個ついているため、配線は新たに作り直す必要がない。

 取付け個所を決定するだけだ。

 ド定番のグリル裏。

 ステーを使い固定することにした。

 グリルを外し、ラジエーターと干渉しないよう、位置を決め固定。

 元の配線を延長し繋ぐ。

 鳴らしてみる。

 ちゃんと鳴った。

 完成だ!

 弛んだコードは纏めて結束バンドで縛る。


「いーね!」



 思いつくコトは大体やった。

 満足だ。

 後は、小物関係やワックスなどの洗車関係。

 思いついたらその都度やっていこう!


 学生時代ユキと一緒にいじりたかった。

 そんなことをちょっと思ったりもしたけれど…


 クルマいじり、楽しいじゃないか!

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