第40話③ マイカー(お気に入りに出会ったお話)
前回のクルマ探しから一カ月ほど経った週末の出来事。
その日、桃代は母親から買い物を頼まれ、日産中古車センターの近くに来ていた。
有喜は爺ちゃん婆ちゃんが見てくれていて、どこかに連れて行くと言っていたから一人なのだ。
頼まれたものも買ったので一安心。
今からはゆっくりできる。
とりあえず、帰って昼ご飯にしよっかな?
そんなことを考えつつ家に向かう。
日産中古車センターの前を通過中。
休日なので渋滞とまではいかないが、流れがビミョーに悪い。
特に意識はせず、ホントに何気なく、展示してあるクルマを見ながら前を通過していた。
そのとき。
いちばん奥のいちばん端っこにチラッと見えた茶色いクルマに何故か視線が釘付けとなる。
ステーションワゴン?
確かめたい衝動に駆られ、少し先のコンビニでUターンして戻ってくる。
お客様駐車場に入れると、先ほど見えた気になるクルマのところへ向かう。
不当に高いE25と、スポーツカーな燃費のバネット…という名のマツダボンゴ。
この並べ方には見覚えがある。
2台のワンボックスに囲まれて、敷地の隅っこにひっそりと「ソイツ」はいた。
前来た時とそげん入れ替わっちょらんのに、なんで気付かんやったっちゃろ?
不思議な気分になる。
近付いてみた。
両サイド、前から後まで木目が入ったチョコレート色の古いステーションワゴン。
定規で引いたような線で構成された四角いボディは、今のクルマには無い味わいがある。
立派なメッキグリルはかなりの迫力。
ヘッドライトの下に、100系ハイエースワゴンⅠ型みたいなオレンジ色の涙目。
天井はキックアップルーフ。
一昔前のアメ車みたいで、なんともカッコイイ。
何ちゆー名前?
後ろに回ってみると、ハッチバックの真ん中に青で「GLORIA」の文字。
グロリア?あ~…あれかぁ(Y33や34をイメージ中)。
でも、
全然違くない?
思いついたクルマとは何一つ似ていないのだ。
似ているところ…クルマであること。タイヤの数。そして日産車であること。
あとは…無いね。
それくらい似ていない。
グロリアワゴン(Y30型)。
昭和58年からずっとこのカタチ。親の世代の青春時代のクルマだ。
セダンやハードトップは、ヤンキーや暴走族に大人気だった。マフラーを腹下でぶった切り、屋根を切ってベッコベコのシャコタンにしてヨタ(シンナー)しながら乗るのが当時のお洒落だったらしい。
少し前、ひっそりと姿を消したという、超ロングセラーだけど超地味な存在。
ちなみにここにあるのは平成4年式。
カスタムの世界では割と人気がある車種だったりするが、桃代はそんなこと知らない。
じっくり観察し、ボディの状態を確かめる。
小傷はあるが、思ったよりキレイ。
運転席に座ってみようと思い、ドアノブに手をかける。
?
鍵がかかっている。
値札無いね。売り物じゃないんかな?これ気に入ったのにな。
店員に声をかけようと探していると、こちらの存在に気付き、猛ダッシュしてきた。背の高いクルマの陰で、桃代の存在に気が付かなかったのだろう。
「申し訳ありませ~ん!気付きませんでした~!」
顔の傷痕に一瞬怯んでいたようだが、いつものことなので気にしない。
「あの、これ売り物ですか?」
聞いてみると、
「はい。古いですが調子はいいですよ。見てみますか?」
よかった!売り物だ!
「お願いします!」
キーを持ってきてもらう。
運転席に座ってみた。
走行距離3万キロっち、少なっ!前の持ち主っち何者?
「古いのに走行距離少ないけど、どんな人が乗ってたんですか?」
「お爺ちゃんです。」
なるほど。そーゆーことか。
そして気になること。
「事故歴は?」
「大きいのはありません。バンパーとか所々傷はありますが。」
う~ん。ますます欲しくなってきた!
改めてちゃんと座ってみる。
シートのフカフカ具合はちゃんと高級車。
座面が少し高くて前がよく見える。
ボンネットは長いけど、ビシッと四角なので見切りもいい。
運転しやすそう!
内装は…へ?
目が点になる。
スピードメーター四角!目覚まし時計みたい。タコメーターも無し。
ハンドルのデザインなにこれ?ホーンパッド四角で二本スポーク…凝ったエンブレム付なのにカッコ悪い。
ドアの取っ手がベルト!なんでこんなことした?パワーウィンドースイッチの並びに穴ほがせばよかったんじゃ?
木目入って高級感バリバリなのにカッコ悪っ!
残念さと突っ込みどころ満載の内装だ。
流石日産…。
そういえば。
この瞬間が日産車だね!
といったCM、昔あったよね。
まぁいっかぁ。
ベンチシートでコラムAT。
足元、広っ!
「これ、6人乗れるんですよね?」
「いえ。8人乗れますよ。」
「へ?」
どーゆーこと?
驚きの連続である。
「カーゴルームにあと二人。やってみましょうか?」
振り返ってみてみると、ハッチバックの内側に取っ手がある。
店員さんがハッチを開け、何やらゴソゴソやっている。
降りて後ろに回ると、進行方向とは逆向きの、ベンチみたいな小さいシートが出現していた。
「いいですね!」
このシートは有喜が喜びそう!
「エンジンかけてみますか?」
「いーんですか?」
「どーぞどーぞ!ディーゼルやき、焼いてかけてくださいね。」
カチャッ…キーをONまで回し、カコン…グローランプが消えスタート!
キュキュキュガオ~ンカラカラカラ…
一発で始動。
黒煙が一瞬ボワッと排出された後は、NOXの目に染みる臭いだけ。
ホントに調子いい。
室内では、僅かにカラカラ聞こえるけどかなり静か。
一旦外に出て音を聞く。
ボンネット側から聞くとアイドリングはカラカラとやかましい。なかなかに優れた防音性能だ。
後ろから聞くと、直列6気筒の「ボ―――…」という重低音。なかなかカッコイイ。
試乗してみたいけど…いちばん奥でした。
試乗不可能。
残念。
コラムの左側の付け根の辺り。
何?このスイッチ。
ウィ――――。
モーターの音したけど、何が起こった?
「あ、それパワーアンテナです。」
右のドアミラーを見ると、カーゴルーム後部にあるアンテナが一杯に伸びていた。
「じゃ、これは?」
コラムを挟んで逆側にあるスイッチ。
ウィ――――。
またもやモーター音。
「へ?」
今度は何?
自分の周囲を見回しても何も起こってなく見える。
「カーゴルームの窓が左だけ開くんです。」
「マジですか?」
振り向くと、窓が開いている。
「外からも開け閉めできますよ。」
運転席を離れ左後ろへ。
カーゴルームのピラーに鍵穴がある。そこにキーを刺し、ひねるとガラスが開け閉めでき、積み荷の出し入れができるのだ。
「おぉ~!」
さっきから意表を突かれるギミックに感動しっぱなし。
誰かに先を越されるのはもう嫌だ!
純粋にそう思った。
この前の中古車選びみたいになりたくない。←良いと思ったヤツがことごとく売約済みになっていたので懲りた。
「これいくらですか?」
気付いたら口から出ていた。
営業マンは、
「見積もり出しましょうね。」
そう言い残し走り去る。
すぐに見積もりを出してもらうコトになったのだ。
屋内の展示スペースに入り、コーヒーを貰う。
しばらくして見積書を持ってきた。
総額80万!←2023年現在で状態の良いヤツは200万円を軽く超える。
2.8リッター+思いやり税で税金は少し高いが、そこは目を瞑ろう。
買うことに決めた。
古いのに、半年の保証までつけてくれるという。
もしかして、これはよい買い物をしたのでは?
ニコニコしながら家路につく。
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