第4話⑤ 涼と海の物語

 新学期。

 楽しかった夏休みも終わり。

 無免許運転もタバコも完全にやめた。

 いつもの如く、眠い目で遅刻ギリギリ教室へ。

 海に、


「おはよ。」


「うん。おはよ。」


 朝の恒例行事の後、海が突然、


「今日、幼馴染が東京から帰ってくるげな。」


 新情報を提供してきた。


「へ~。男?女?」


「女。ユキくんのこと好きなんよ。で、ユキくんもね。」


 モロバレだ。


「ほぉ。付き合いよん?」


「いや、まだ。」


「明らかに好きあっちょーのに、お互いに自信ないもんやき、見よるみんなじれったいん。」


 なんかビミョーに思い当たる節が…。


 罪悪感。

 僅かに表情が曇る。

 どーにかせんと、と思い悩むと、海も分かったらしく


「あ、ゴメン。そーゆー意味で言ったんじゃないき、気にせんで。僕、もぉ勝手に決めちょーき。」


 フォローした。


 マジで近いうち告白し直そ。


 休み時間、環と美咲が隣のクラスに走って行った。

 転校生に会いに行ったんだとか。

 二人きりになってしまうと、

 

「桃代ちゃんもいい人やき、多分友達になれるよ。バス釣りもするみたいやしね。」


 海からの追加情報。


「ふーん。どげな人?」


「そーねー…背が高い。170cmぐらいあるよ。そして明るいで優しい。んで…下品で面白い。」


「なんかそれ。」


「ホントやきしょーがない。あと、顔半分に激しい火傷の痕がある。」


「そらまた…女なんに顔にケガとか大変やなぁ。」


「うん。でも話してみたらわかるけど、でったんいー人やき元気もらえるよ。」


「んじゃ、楽しみにしとこ。」


 それから数日後、釣り場で桃代と対面することとなる。




 海と一緒に釣り場に行ったら知らない誰かと一緒にユキがいた。


 あいつか…ユキより高いやんか。


 などと思いながら近づく。

 セミロングでサラサラの黒髪。

 顔の左半分を隠すように下ろしている。

 チラホラ見える横顔だけでもあり得ないほど可愛い。

 近寄ると、


「こんにちは!初めまして!ウチ、狭間桃代。よろしくね!」


 第一声から違う。


「こちらこそ。自分は町田涼。」

 

 なるほど。明るいし、いい子そう。

 軽く会釈すると髪が前に垂れ、隙間ができて傷痕があらわになる。

 想像していたよりもずっと広範囲に及ぶ焼け爛れた痕。

 痛々しい、とかで片付けられるようなレベルじゃない。


 大変やなぁ、とか考えていると、


「なんなん?涼ちゃんっち海くんの彼女さん?」


 思ってもみない方にハナシが飛ぶ。


「うん。」


 何の躊躇もなく海が答える。

 正直照れる。

 とか思っていたら


「もぉ海くんとはした?」


 とんでもないことをキラキラした眼差しで聞いてくる。


「~~!」


 恥ずかしいのと意表を突かれたので変な間が空いてしまう。

 すると海は、


「したよ。もぉ毎日しまくり!」


 躊躇いもなくウソを言う。


「バ、バカ!お前、なんちゅうことを!」


 焦っていると、


「ウチと一緒やん。ウチも毎日白い本気汁出しまくって頑張りよる!」


 対抗してきた!


 明るく下品…そーゆーことか。


 納得した。

 しかもキョーレツにヤラシイ。

 エロさが直接的でオイサン臭い。

 今、付き合いのある海の幼馴染達とはまた違うキャラ。

 明るくおバカな感じだが、喋り方とか雰囲気に嫌味とか影らしきものが全く感じられない。

 地でいい人なんだ。

 そして、ユキと話したりはしゃいだりしているのを見たら、ホントに可愛らしい。

 嬉しさが溢れ出していて見ているこっちの方が恥ずかしくなってくる。

 ユキの方を見ると…同じだ。デレデレだ。

 他の皆にバレバレなのも頷ける。

 何気なくその光景を見ていると、


「あ。これ、気になるっちゃろ?」


 自ら髪を上げて見せてきた。

 全く思いもしない展開に焦りつつも、つられて目線を移すと…コメカミあたりの髪はなく、眉毛もまつ毛もない。

 瞼も完全には開いてなく、薄目を開けている感じ。

 目の周りから頬にかけて引き攣った皮膚が火傷の酷さを物語る。


 人と接することを躊躇ったとしてもおかしくはないはずなのに…。

 

 性格も可愛く人当たりもよい。

 それが素なのも感じ取れる。

 笑顔がとびっきり素敵で、大きなケガなのにそのことが気にならないほど些細に見えてしまうから不思議だ。

 


 何この超人!


 そんな言葉が自然と浮かび、軽く衝撃を受けた。海の言った通りだった。


「うん。なんか…すげーね。痛かったろ?」


「ううん。産まれたばっかの赤ちゃんの頃やき全然わからんのよ。」


「そーなんて。」


「産まれて産婦人科から家に帰る途中、クルマの事故で燃えたげな。そん時お父さん焼け死んで母子家庭。」


「なんか壮絶やね。」


「ウチは最初っからこげなふうやったきまだいーけど、お母さんたまらんかっちょろーね。」


「そーやね。」


 暗い話のはずなのに明るい。

 元気をもらえるというのはどうやらホントのようだ。


 とはいえ重い話なので聞くのが辛くなってくる。

 話題を変えた。


「んで、ユキのこと好いちょん?」


 聞いた瞬間、


「わ―――っ!な、何なんイキナリ?もぉ!バレるやろ!」


 劇的な変化だった。

 顔を真っ赤にして狼狽えまくる姿が女から見てもホントに可愛い。

 人差指を口の前に


「し~!」


「ちゆーかそれ、モロバレやろ?マジで本人気付いちょらんの?」


「うん…そのはず。」


「いやいやいや。初めて会った自分ですらモロ分かりばい?ちゆーか、そんなんじゃ全員知っちょーやろ。」


「うう~…そーやろか?」


 頬の赤みが退かずウルウルっとなっている。

 ヤラシイことは平然と口に出すくせに、自分の恋バナになるとアワアワっとなる。

 そのギャップが面白い。というか、可愛すぎ。


「告らなね。」


「決心がついたらね。」


「がんばれ!」


「ありがと。」


 初対面なのにここまで喋れるとは驚いた。

 これはもう一つの才能だと思った。


 海の言うとおり、また一人友達ができた。

 これから先、もっともっと楽しくなりそうだ。

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