第4話④ 涼と海の物語

 2年生の1学期。

 クラス替えは…また一緒になれた!

 心から嬉しいと思えた。

 担任が変わり、まだ名前を全員把握できてないためアイウエオ順で席が並ぶ。

 「ま」と「も」。

 海とは近いはず。

 前と後ろだった。

 どんな一年になるかな?

 楽しいこといっぱいあればいいな。


 4月。

 涼に誕生日が来る。

 また二人で祝おう。

 と思っていた矢先、海からの提案。


「幼馴染呼びたい。ダメ?」


 少し考えたけど、


「いーばい。ユキと千尋と大気やろ?」


「うん。あと、菜桜ちゃんと、千春ちゃんと、渓ちゃん、環ちゃん、美咲ちゃん。」


「そっか。今年は賑やかやな。」


 大勢でイベントをやることに慣れてない涼。

 断ろうかとも思ったが、提案を飲むことにした。

 今名前が挙がった者たちは、全員釣り仲間なので会話ぐらいはしている。

 交友関係を広げたい。

 海と出会えて変われたから、このように思うことができる。


 なんとなく、ホントになんとなく入り浸っていたワルソの集団。

 性格に悪影響しか及ぼさない。

 海と仲良くなった時点で自ら切った。

 友達ともいえない集団だったので、溜まり場に出入りすることを止めても何のリアクションもない。

 所詮その程度の付き合いだったんだ。

 身が少し軽くなった気がした。


 本人は気付いていないが、少し見た目や言葉遣い、態度が軟化した。

 それだけでクラスの誰かしらが話しかけてくるようになる。

 タバコも減らした。海が煙たいのを我慢しているのを知ってしまったからだ。

 このまま止めようと思う。




 誕生日当日。

 放課後、帰る途中、参加者全員で店に寄ってお菓子と飲み物を買った。

 帰ったら母親がケーキと食事を用意してくれていた。

 飲み物を注いで乾杯。

 今年の誕生日は今までとは違う!

 友達と過ごせることの嬉しさを知った。

 もっと早く気付きたかった!と後悔する。

 海が作ってくれたつながり。

 感謝してもしきれない。

 全員からのプレゼント。

 みんなルアー。

 戦力が増えた。

 嬉しい。

 もし、もしも今後、誰かの誕生日に呼んでもらえるのならば、お返しをしたい。

 そして、その願望は今年度全員分叶えることができた涼であった。

 遅ればせながらボッチを脱却できたと思えた。




 それからも放課後釣りに行く日は続く。

 海と。或いは他の誰か。

 他の男とのツーショットは流石に間が持たないので行かないが、女子連中とは誰かしらと行っている。

 そしてその時は唐突に訪れる。


 初フィッシュ!


 それは梅雨時の大雨後。

 大増水し、土手の真ん中の段まで水位が上昇し、雨が止んで減水。

 普段より若干水量が増えた程度のいつもの水門

 川との合流地点の落ち込みで。

 重さ調整したバックスライド系のワームを落とし込んだ一投目。

 ルアーにゆっくり引きずり込まれていた糸が突然早く沈みだす。

 聞いていた通り、一呼吸おいて強烈なアワセ。

 サオが弓なりになる。

 ベイトタックルなので余裕はある。強引にこっちを向かせ引き寄せる。

 フックの掛り具合を見て一気に抜き上げる。

 45cmの立派な魚体。

 思わず震える。

 下あごを握ってフックを外す。

 そして記念撮影。


「やった!」


 逃がした後、海と二人で手を取り合ってはしゃぐ。

 人生初バス。

 嬉しいよね。

 また思い出に残る出来事が増えた。




 夏休み。

 海に行こうといつものヤツらに誘われる。


 水着ねえし…スク水でいーか。


 海に見られるのはなんか恥ずかしい。

 でも、楽しい思い出がまた一つ増えるのは願ってもないこと。

 勿論誘いには乗る。

 そして当日。

 水着は着込んできている。

 海の家にて。

 水着姿を披露。

 見事なまでに巨乳がいない。

 涼は平均サイズなのに、この中では巨乳の部類だ。

 低レベルの争い。

 涼と菜桜と環が同サイズ。

 他は見事にちっぱい。

 海が見ている。


「いーね。」


 と、サムズアップしてくる。


「バカ!ジーッと見んな!」


 恥ずかしい。

 水着でさえこれだけ恥ずかしいのだ。

 クリスマスにしようとしたことが現実に行われていたとしたら…。

 耐えられない。

 とりあえず上にTシャツ着ることにした。

 他の女子たちも考えは一緒だったらしく、急いで自分の荷物に戻って上を着てくる。

 男子たちからは大ブーイングだが恥ずかしいもんは恥ずかしい。

 海にはそのことを陰でコソッと言って納得してもらう。

 クラゲに刺されながら潜ったり泳いだり浮き輪に乗って流れたり。

 ユキは泳げないらしく浮き輪に乗ったまま。

 水をかけたら「パニくるきやめろ!」っと半分マジで叫んでいた。

 海は少しマシみたいだけど、それでも危なっかしい。

 今は涼の使っている浮き輪に一緒につかまって浮いている。

 つかまりながらお尻とか胸とか触ってくる。

 意外とヤラシイ。


「こら!」


 怒ると、ちょっと照れて顔を赤くしながらしばらくするとまた触る。


「バカ!」


 そのやり取りが楽しいし嬉しい。

 流石に大事なところに指を浸入させようとしていたのには焦って赤面。

 頭を軽くはたいたが。

 二人きりで、誰もいない海だったら野外でしたかな?

 海の中でえっち?

 なんて、しょーもない想像をしてみたり。

 そんなこんなで今日も腹いっぱい遊んだ。

 これも楽しかった夏の日の思い出。

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