第4話③ 涼と海の物語

 放課後。


 帰って仲間たちと釣り。

 まだ魚とは出会えてないが、ベイトもスピニングも使えるようになった。

 来たるべき日のために日々精進。

 打ち込める趣味ができてよかったと思えた。

 ふと思う。

 釣具、借りてばっかじゃ申し訳ないな…金貯めて、なるべく近いうち買いに行こう。

 海と一緒に。




 月日は流れクリスマス。

 海に「二人で過ごそ?」と言われた。

 もちろんOK。

 二人でスーパーへ買い出し。

 シャンパン(アルコールなし)、ケーキ、お菓子。

 母親は仕事で帰りが遅い。

 主食的な何かは家で作ろう。

 母子家庭なので料理はできる。

 海にいいとこ見せなきゃだ!

 冷蔵庫を開けてみる。

 なんか旨そうなデカい肉がある。

 これを焼こう。

 あとは…レタスとかなんやかんや、ナマで食べられる野菜がある。これでサラダ。

 いざやってみるとメニューが決まらない。

 これを毎日こなす母親。偉大なりだ。

 もうこの際季節感は無視しよう。

 量で攻める作戦に変更。

 パスタ!

 カルボナーラのレトルト発見。

 麺を茹でるだけ。

 多少手抜きになったが、まぁ…良しとしよう。

 これだけあれば満腹になるだろう。

 女子力は見せつけることできたかな?

 海に料理できるか聞いてみた。

 簡単なものなら、という返事が返ってきた。

 いつか機会あったら食べさせてもらおう。

 さぁ!いただきます!だ。

 その前に、


「「メリークリスマス!」」


 シャンパンを用心しながら開ける。栓が蛍光灯にヒットして料理が台無し!とかそんなお約束はしない。零れるのも目に見えているので流しの上でそっと開ける。


「「かんぱ~い!」」


「なんかいーね。」


「そやね。」


「プレゼントあるっちゃ。」


 海が笑う。


「自分もあるよ。」


「じゃ、交換ね。」


「ん。」


「はい。」


「なんこれ?ルアー?」


「うん。サオとリールは流石に買いきらんやったき。」


「それは自分で買うくさ。そんときはついてきて?」


「わかった。釣具屋デートたのしみ!」


 次は涼がわたす番。


「ん。」


「開けていい?」


「ん。」


「ネックレス?」


「そ。金は買いきらんやったき銀。してくれる?」


「もちろん!今する。着けて?」


「ん。はい。」


「似合う?」


「ははは。あんましやね。」


「そぉやろぉね。でもいい。嬉しいき、ずうっとしちょく。」


「そっか。よかった。」


「よし!飯食おうぜ!腹減った。」


「うん。」


「「いただきま~す!」」


「でたん美味しいばい!料理上手やね。」


「そっか。そげゆーてもろたら作った甲斐がある。」


「僕もちょっと練習せなやね。」


「おっ!食わしてくれるんか?」


「うん。」


「楽しみしちょくぞ。」


「了解。」


 完食。

 食器は二人で片付ける。


 マッタリとくつろぐ。

 改めて今、おかれている状況を嚙締める。

 二人きりだ。嬉し恥ずかし二人きりだ。

 はい!ここ大事!


 二人きり&夜。

 ホルモンの分泌が活発に!

 徐々に空気が色っぽい方向に変わりだす。

 意を決したように涼が、


「自分としたいとか思う?」


「うん。」


 正直に答える。


「マジで?」


「うん。でも僕…ちょい勇気無い。」


「そっか。自分も。ちょっと怖い。」


「うん。」


「それはまた今度にしよ。」


「うん。」


 出だしはなかなか良かったのにお互いヘタレた。

 あまりのハードルの高さに二人して凹む。

 せっかくのクリスマスなのに…ここはもう一度勇気を振り絞って!

 がんばれ俺!


「涼ちゃん…えっちぃこともしたいけど…その前に。…僕…ね。」


「ん。」


「好いちょーんよ…でったん」


 海の顔がいつになく赤い。


「…ホントに?自分げなんとでいーと?」


「涼ちゃんやきいーと。」


 自分を認めてもらえた瞬間。

 感動の一言だった。

 涼は出会ってから今までの中で一番テンパる。

 頬を真っ赤にし、目を潤ませ何か言おうとしているが声にならない。


 がんばれ自分!海が勇気出して告ってくれたやんか!…ダメだ…両想い確定なんやき何か言わんと!


 言葉が出てこない。

 口がアウアウしている。情けない。

 人に、シャキッとせぇ!とか言えた柄じゃなかった。


 ガッカリだよ!自分。


 落ち込んだけど、海はその表情で全てを理解した。

 そのリアクションで十分だ。

 好きでいてくれていることは一目瞭然。


「その表情でわかるよ。OKとして受け取っちょくね。」


 海が優しく笑うが、笑い返すことすらできない。

 辛うじて小さく小さく頷いた。

 一応伝わったことは分かったが、何とも中途半端な結果だ。

 納得いかない。

 自分が許せない。


 その夜、海が帰った後、大いに落ち込んだ。

 まるで今の様子をすぐ近くで見ているかのようにメールが来る。

『落ち込まんでね。僕は嬉しかったき。』

 分ってらっしゃる。申し訳なさ過ぎて泣けてくる。

『ありがと。』

 メールでも告白の返事ができないとは…ダメダメやな。

 できるだけ早く「OK!」と言おう。

 それまではどうか甘えさせてください。


 それから数日過ぎ、毎日のように逢っている。

 気まずくはなっていない。

 むしろ仲が深まった感じがする。

 でも、どうしても拭いきれない何かがある。

 この気持ちを安定なものにする為にも、返事はいつか必ず改めて声に出してする!

 心に誓う涼だった。

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