第36話② ユキ(新しい趣味)
これは入学して間もない頃の話。
ユキは母親から軽自動車を貰った。
通っている大学は通うとなるとかなり交通の便が悪いところにある。
公共の交通機関を使用した場合、どのような方法でも数回の乗り換えが必要となる。様子見で定期券を1か月分購入したが、かなりの額。3カ月や半年分買えば割引は大きくなるものの、ガソリン代と比べるとやはり高額だ。
クルマを使用すると、通勤ラッシュに巻き込まれても精々30分程度だが、公共の交通機関だと通常で1時間ちょっと。時間帯によっては待ち時間込みで2時間ほどかかる。
時間と金が勿体ない。
幸い?田舎の学校なので駐車場は広く、クルマの乗り入れは1年次より可能。
そんな時、母親が新車を買ったので、お下がりを貰うこととなったのだ。
今乗っているボロを通学に使わせるため新車購入に踏み切った、というのがホントの話。
新たな趣味ができた瞬間だ。
そのクルマの名前は三菱ミニカ(H42V)。
歴史のあるクルマである。
軽自動車の規格が変わりボディが大きくなった最初の型で、色はワインレッド。黒バンパーの3ドア。4速MTの一番ショボイヤツ。内装は鉄板がむき出し。快適装備はエアコンとパワステのみ。オーディオはスピーカー一体AMラジオ、パワーウィンドーすらない。一応定員は4人だけど、後部座席は背もたれが垂直で、大人2人がちゃんと乗れないほど狭い貨物車だ。
このクルマに乗り出して気付いたことがある。同じクルマに乗っている若者をほとんどいないのだ。台数こそソコソコ見るが、そのほとんどが年寄りで、ほぼ全てノーマル。
これっち少し手を加えただけでいー具合に目立てるのでは?
カスタムのベース車両として最適だ。
溜めたお年玉と単発で入るバイトのバイト代。その金をドレスアップに全てつぎ込む。
とりあえず、バンパーが紫外線で劣化して、みっともなく灰色のマーブル状になっているので下塗りとボディ色を買ってきて塗った。素人工事なので垂れたりゴミが付着しているのはご愛嬌。目を瞑ることにする。遠目に見ればボディ同色バンパーに見えなくはない。
流石にオーディオが無いのは寂しい。AMラジオはよく聞くが、好きな音楽も聞きたい。中古のCDデッキを装着した。クルマを買う時、オーディオやナビを付けていればドアにスピーカーがついてくるのだが、なんせオプションの類が一切ついてない。後付けとなると内貼りを剥がしてコードを通さなくてはならないため、素人じゃ配線が困難。ボックスタイプのリアスピーカーを中古屋で買ってきて、荷室の荷物が見えないように、コンパネでボードを作り、そこに取付けた。スピーカーの配線はフロアマットの下に隠しただけ。CDはかさばるので、メモリースティックやマイクロSDが再生できるFMトランスミッターで飛ばすことにする。
そして三本スポーク、15インチのアルミ。大学で友達になったヤツからタダでもらった。免許を取り、初めて買ったクルマに着いていたヤツで、デザインがビミョーに気に入らず、すぐに別のと交換したのだとか。邪魔になり処分に困っていたモノらしい。普通車用なので、軽自動車に着けると少しはみ出る。タイヤには新品に近いくらい目が残っていたため、下取りに出して軽自動車用に付け替えた。安定感が増し、勇ましいカッコになった。いちばんのお気に入りポイントだ。
しばらく乗ると車高が気になりだす。その友達はクルマ関係の友達を複数知っていて、工賃格安で扱ってくれるところを紹介してくれた。
足回りのバネを雑誌の通販で見つけた。切ることもできるらしい。車高をベタベタに下げられる。買いだ。装着すると地を這うような車高になった。
次にマフラー。
工場の隅っこにもう使わない何の車種に使ったかもわからないスポーツマフラーが転がっている。
工場の人に、
「部品代いらんきこれ着けてみらんね?」
提案され即了解する。
ミニカ専用じゃないので合わないところは切ったり繋げたりして加工。俗にいう現物合わせというヤツだ。取り付けたら見事に爆音。どんどん勇ましくなっていく。家に帰ってくるのが数百メーター先からわかるらしい。親から怒られた。
釣具を積んでいるときに車内を見られるのはとても嫌だ。透過率5%のスーパーブラックのスモークを近所のスーパー兼ホームセンターで買ってきて貼る。直線と平面から構成されるボディだからと侮っていた。実はうっすら曲面で、スモークのフィルムが濡れている間はすぐに浮き上がりイラっとする。一生懸命水を追い出し、やっとの思いで貼り付ける。
ハンドルにはエアバッグがついてない。ホーンボタンを外しセンターのナットを緩めるだけで交換できるタイプ。中古パーツ屋に行き物色。MOMOのウッドステアリング、スーパーインディーが格安で手に入り、ボスは新品でも2千円。灰色一色だった内装。茶色のアクセントが効いてなかなか良くなった。
シフトノブもアルミの長いヤツに交換し、アクセル、ブレーキ、クラッチのペダルも気の利いたやつを被せた。
ダッシュボードにムートンを敷き、ヤシの木を生やし、UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみを妹に貰い、置いた。
内装のボードを外し、両面テープでムートンの生地を貼りつける。白熊みたいになった。
フロアマットもおそろい。泥足で乗るのには躊躇する土禁仕様。イチイチ靴を脱ぐのが面倒っちぃ!と不評だったので、助手席側のマットの上にそのまま乗れるよう土足用のマットを敷いた。
テールランプはスモークのスプレーで真っ黒に。ナンバー灯とポジション球を青に替えた。
ヘッドライトはHID。夜の視界もなかなかだ。
室内灯をピンクにしたら走るラブホと言われた。
完全にヤン車だ。でも、自分で仕上げたクルマ。思いのほか愛着が湧いて、気に入って乗っている。
今ここに桃代がいたら、一緒にバカ話しながらいじれたら、どんなに楽しいだろう…。
ともあれ楽しみは見つけた。自分はなんとか4年間我慢できそうだ。
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