第27話② 釣具屋デート(買った釣り具を使ってみよう)

 桃代は帰って早速買ったものを広げてみる。

 ユキは自分の買ったルアーを桃代に預け、一旦サオとリールを家に置きに帰る。

 庭を挟んだ隣だから、1分もあれば置いてこれる。




 桃代の部屋にて。

 ルアーを半分っこする。

 被らないように買ったから、かなりの種類になった。

 釣り具を弄っていたら結局行きたくなってしまう。


「今からちょっと行ってみよっか?」


「うん。千春呼ぼ。」


「いーね。あのスペシャルなテクをおしえてもらわんと!」


 ということになり、家電の子機で千春に連絡する。

 すぐに出たので、


「千春?今から釣りいこうや!テクおしえてよ。」


 要件を話すと、


「え~。ユキもおるんやろ?なら、お前らウチが見よる前でエロいことするやろーもん?ウチ、そげなシーン見せつけられるの耐えられんばい。」

 

 まさかの拒否。

 声が丸聞こえなので、隣にいるユキはかなり恥ずかしい。


「バカゆーな!誰が人前でそげなことするか!それはいーとして、そこをなんとか!」


 ムキになって食い下がる。

 それでも、


「え~…だって、お前らゼッテーヤラシイことするやん。」


 断固拒否。全く信じられてない。


「人前じゃせんし!」


 桃代がさらにムキになっている。

 ユキは、


「言いたか放題やな…」


 恥ずかしさが限界を突破し、ボソッとつぶやいた。

 なおも食い下がる桃代。


「ねぇ。お願い!来てちょんまげ。」


 電話なのに頭を下げている。

 なかなか微笑ましい。

 結局折れさせられた千春。


「分かった分かった。今から用意してそっち行きゃいーんやろ?」


 渋々返事をした。


「うん。ありがと。待っちょくね!」


 電話を切る。


「今から来るっちばい。」


「釣れればいーね。」


「うん。」


「ならオレ、道具用意してくんね。」


「わかった。」


 ユキはサオを取りに帰る。




 数分後。

 ユキは千春がちょうど表の門から入ってきたところにガチ会った。


「お~、千春ちゃん!」


「おつ~。サオとリール買いに行ったんやろ?」


「うん。でも中古でいいの少ないね。」


「そーね?見してん?アグレシオンとレボネオス…いーの買ったやん。」


「そやろ?桃ちゃんも同じサオの2ピースばい。」


「長いきいーね。ウチも今度長いの買お。」


「今度一緒買い行こーや。」


「うん。」


 いつのことかわからない釣具屋息が決定した。

 勝手口の戸を開け、


「桃~。」


「あがりぃ。」


「「お邪魔しま~す。」」


 階段を上がり、部屋の前。


 コンコン


 ノックする。


「どーぞ。っち、こらー!」


 ユキは…千春から恋人つなぎされていた。

 部屋に入る前に突然握られたのだ。

 ビックリしているが、かなり嬉しそう。

 邪悪な微笑みに満ち溢れる千春。

 効果は絶大だった。


「離さんか!ユキくんはウチの彼氏ぞ!ユキくんもニヤけん!」


 

 ムキになっている桃代が面白くて仕方ない千春。

 大成功だ。

 いつもこんなリアクションだから菜桜がいじりたくなるのだ。


「ユキ、ウチと付き合うっちばい。今、下で告られた。お前、いらんっち。」


 苦笑いするユキ。


「ウソゆーな!大体お前らこの頃酷過ぎるぞ!」


「そーか?」


「『そーか?』やねーちゃ!」


 ギュッ!


 胸に当てようとして腕を引っ張る。


「あー!こら!ゆった傍から!ユキくんも嬉しそうにせん!」


 まだ当たってはないものの、これは許し難い光景だ。

 しかもユキがニヤニヤしているのが猛烈に気に食わない。

 幼馴染女子は全員、恥ずかしがりもせず当ててくるからホントに質が悪い。


「あ…違った。この頃デカくなりよぉもんやき。」


 わざとしょうもない言い訳をして桃代をあおる千春。

 その胸は今の時点で既にかなりの差になっている。

 桃代はというと…小学校の4年くらいから育ったという実感がない。おそらく小学6年生にも負ける自信がある。


「何が『違った』か。大体デカくなりよぉとか言い訳にもなっちょらんめーが!も~~~!はがいー!でも…なんでウチだけおっきくならんっちゃろか?」

 訳:言い訳にもなってないじゃないか


 胸に手を当て本気で悔しがっている。

 その様子を見て楽しむ千春。


「しょーがない。人それぞれ。まぁ頑張れ。」


 完全に余裕の表情だ。

 元々自分の胸の大きさにはあまり関心がなかった千春だったが、急激に成長してきたためここぞとばかりに桃代いじりのネタに使っている。

 トドメを刺しに入る千春。


「ユキ?ちっぱい面白くなかろ?ウチの揉んでみる?」


 手首を掴み、掌を胸に押し当てようとしている。


「また!ホントムカつく!」


「いーと?でもオレ桃ちゃんの乳好きよ。でったん感じてくれるし。」


 躊躇いもなく恥ずかしい話を暴露してしまうユキ。

 ホント、アホである。

 一気に赤面し、


「また!も~!ユキくんは!」


 怒られた。


「その話、詳しく!桃っちしよーときどげな感じなん?」


「えーっとね…なんかこう…」


 手で何かを形作りながら説明しようとしているユキ。


「わ~~~~!」


 恥かしげもなくえっちの内容を口走りそうになったため、慌てて口を塞ぐ。


「あ!ごめんごめん。つい。」


「バカ!『つい』じゃないよ!」


「え~。おしえてくれんの?」


「おしえん!」


「なんで?」


「そげなこと、人にゆーてまわるげなことやないやろーが。」


「そぉかね?」


「そーくさ!」


「残念。ウチしたことないき。」


「自分でしよーとと変わらん!帰ったら自分でしとけ!」


 ホントは違う。

 そもそも嬉しさが違う。

 一人でしたら虚しいが、二人ですると嬉しくて心が満たされる。




 用意を済ませ、いざ釣り場へ。

 今日は少し下流の越冬場。

 ド定番の深場である。

 珍しく誰もいない。

 帰った後なのか?

 わりと曇っていて、気温は低いが風がない。

 できるならば、今日このタックルに魂を込めたい。



 千春は2.5インチシャッドシェイプワームのスプリットショット。

 桃代は自作スモラバ2.8g+2インチドライブクロー。

 ユキは3.75インチネコストレートのネコリグ。


 各々干渉しない程度に離れ、釣り始める。


 約30分経過。

 沈黙を破ったのはやっぱり千春。

 ゴロタの沈むエリア。

 底を取り、根掛かりを躱しながら、エビや小魚が跳ねるイメージでシェイクする。

 そして零れた石を乗り越えコロリと落ちた時、居食いした。

 食った瞬間のアタリは出ない。

 次動かしたとき、モワッとした重さが残る。

 さらに引っ張るとサオ先お辞儀をした。

 千春のサオは本来巻き物用。グラスファイバー多目のカーボンだからアタリはあまり鋭く出ない。でも、好きで買ったサオなので特性は十分わかっている。


 これ、根掛かりじゃない。食ったな。


 確実にアタリを見極め、

 

 グッ!


 鋭くアワセた。

 と同時にサオが根元からブチ曲がる。


「きたー!」


「おぉ~!」


 即座に左手でドラグを緩め、※サオを立てて突進をやり過ごす。

 ※)サオと魚が一直線になると、サオのバネが利かなくなり糸だけの強さで耐えることになるから切れる。垂直でも水平でもいいから角度をつけるように心がける。


 ジ―――――ッ!


 04ルビアスのあまり大きくない籠ったようなドラグ音。

 突進が止まるとともにドラグを締めて巻き始める。

 首を振り、底に向かう。かと思えば急浮上してエラ洗い。

 あらゆる手段を使ってフックを外そうとする魚。

 その度に、


 ジ―――ッ!


 ドラグ音が鳴る。

 またもや水面に向かって走る感触。

 フワ~っと軽くなる。


 飛ぶ!


 サオを立て、糸を張るとエラ洗いに備える。


 バシャバシャ!バシャバシャ!


 デカい!


 このあたりのやり取りがマジでウマい。

 長年スピニングメインで戦ってきただけのことはある。

 すぐに真似できる代物ではなかった。

 再度、流心に向かって走る。

 サオと糸の角度に気を付け、耐える。

 勢いが弱くなるとドラグを締め、巻き取りはじめる。

 徐々に寄せられる魚。

 足元に置いていた網を左手に持ち、右手をいっぱいに上げ、引き寄せ…


 入った!


「ふぅ~。でけー!」


 指を広げ、ざっと測定。

 45cmくらいある卵を抱えたグラマラスな女の子。

 1kgは余裕で超えている。

 電話のカメラを起動させ、サオと魚を並べ、撮る。

 口を右手で持ってぶら下げ、もう一枚。


「よっしゃ!さらば!」


 そっと水に浸け、指を離す。

 勢いよく深場に戻っていった。


「どーよ、お二人さん!見本になったかい?」


「「お~。お見事!」」


「それほどでもありますよ!ま、せいぜい頑張ってくれたまえ。ウチはノルマ達成!」


 腰に手を当て、得意げな千春。

 実に嬉しそうだ。


「いーなー。ユキくん、ガンバろ!」


「了解!」


 再び元の場所に戻り、黙々と誘う。



 しばらくすると桃代が掛けた。

 バンクシャッドに替えていた。

 ゆっくり巻いていたら、モワッと重くなるアタリ。


「ん?」


 巻くスピードを速くし、巻きアワセ。

 グーンと重くなり…フワッと軽くなった。


「あ~…多分今一瞬ノッた。食いが浅いなー。」


 悔しがる。

 ドラグをさらに緩めて数投後。

 またもや同じ感触。

 今度はアワせない。

 そのまま巻き続けると、ルアーの取るべき軌道とは明らかに違う方向へと走り出す。と同時に、


 ジ――――ッ!


 ドラグ音が鳴り響く。


「きた!」


 サオが弧を描く。

 ドラグを滑らせながら巻き寄せる。

 抵抗する魚。

 流心へと突進する。

 かなりシビレル展開だ。


 飛ばれたらバレるかも。


 糸のテンションを緩めないよう、サオと糸の角度に充分気を付ける。

 魚が見えた。

 ハーモニカ食いしている!

 フロントもリアも掛っているから大丈夫。

 一度は足元に寄ってきたものの、再度突進。

 横に走ったり、潜ったり、しばしのやり取りのあと、ドラグを締め一気に巻き寄せる。

 エラの辺りを腹側から掴み、ランディング。


「やったー!これもデカい!」


 指でざっと測ってみると40cm。

 冬の定番。シャッドで釣った一本。


 巻きで釣れたらいいよね!


 記念撮影し、ペンチでフックを丁寧に外し、そっと抱え水に浸け、


「ありがと!バイバイ。」


 手を振ってお別れ。

 ゆっくり深場へと戻っていった。




 釣ってないのはユキだけとなった。


「オレだけ釣れん。悔しいぞ。」


「ユキ、頑張れ!」


「おう!」


 黙々と投げ続け、やがてその時はやって来る。

 ゴロタと土の境目。

 零れた石が点在するポイント。

 数匹の群れが回遊してくる。

 石の横をルアーがヘコヘコしながら通過する。

 興味を示す魚。寄ってきてじっと見る。

 そして…そっと吸い込んだ。


「ん?」


 不明瞭な重みを察知するユキ。

 サオ先が残る。

 ひと呼吸置いて、


「食った!」


 鋭くあわせると、重さが乗って生命感。


「よっしゃ!乗った!」


 流心に突っ込んで逃れようと首を振る。


 重い!


「デカいかも!」


 ジ―――!


 ドラグ音。

 リールは巻かずにサオを立てて耐える。


「でたんつえ~!シビレル~。」


 糸はナイロン6ポンド。あまり無理はできない。

 左手でドラグを緩め、糸を出す。

 首を振る感触が伝わってくる。

 フワッとした感触。


 浮き上がった!飛ぶ!


 急いで糸を巻く。


 ガバッ!ガバッ!


 大きな水柱。


 デカい!


 姿が見えた。口の大きさからして50UPっぽい。

 深場への突進が止まったらリールを巻く。

 ベイトみたいに強引なやり取りはできない。


 慎重に慎重に。


 言い聞かせるようにリールを巻いた。

 いつ突進されても良いように、サオと糸の角度を適正に保ちながら。


 走り回り、潜り、跳ねてなかなか寄ってこない。

 こんな時は本当に恐怖を感じる。


 勢いが少し弱まった気配がした。

 突進の回数が減ってきたのだ。

 ドラグを締める余裕がないので、少し緩いまま巻き続ける。

 巨体を傾かせ、ジワジワと寄ってくる。

 右手を高く上げると水面から顔を出す。


「でけー!待っちょけ!すくっちゃーき!」


 千春がランディングネットを持って走ってきた。


「ありがと。ヨロシク。」


 と、ここで。


「お前、なしさっきウチの魚すくっちゃらんやったん?」


 桃代が気付いてしまう。


「ん?ユキ、ウチの彼氏やき。」


 悪びれもせず言い返す千春。ユキのことが好きだけど、間に入る余地なんかないから、せめてもの抵抗だ。


「こら!いつからそげなことなったんか?ユキくんはウチのっち何回ゆったらわかるんか?」


「ん?分からんばい。」


「バカ!」


 しょーもないやり取りをしている間に、目の前まで寄ってくる。

 足元での突進を数回やり過ごし、千春がすくってやっと決着。


「うぉ~!でけ~!」


 喜びの声が上がる。

 即座にカメラを起動し記念撮影。

 今回は本人出演だ。

 両手で抱え写してもらう。

 ハリが上アゴのど真ん中。

 川口直人プロが言うところの100点の位置に掛っていた。


「100点のところに掛っちょーやん!」


「ホントね!」


 糸を結び直す際、いつもの如く魚の長さに合わせて糸を切る。

 これを帰ってスケールで測定する。

 大まかな長さはサオで測ったので、そっと逃がす。


「バイバイ。次はウチに来てね!」


 桃代が手を振っている。


 夕方までまだまだ時間はあるが、全員釣れたため満足感がハンパない。

 達成感で集中できないため帰ることにした。




 今日はよい一日だった。

 こんな日もあるからまたすぐに行きたくなる。

 釣れないと悔しいのでまたすぐ行きたくなる。

 釣りとはそんなもんだ。




 帰り道。

 土手を三人並んで歩く。

 突然、千春がユキの腕にしがみつき、


「ユキ!ほら!」


 胸に押し当てる。


「おっ!いー感じ。」


「あ!こらまた!ユキくんも嬉しがらん!」


 桃代に見せつけ怒られる。

 ユキは喜んでいる。

 防寒着を着込んでいるから、胸の感触はあまりよく分らないが、その行為自体許し難い。


「バカ千春!離れんか!」


 桃代がムキになって引き離しにかかる。


 幼馴染とじゃれ合う楽しいひと時。




 一旦釣具を置いてユキの家に集まる。

 お菓子と飲み物を用意し、コタツに入ると冷えた体を温める。

 千春の家は隣ではなく、数件離れているのでほんの少し時間がかかる。


 !


 この時ユキはいらんことを思いつく。

 桃代にバレないように、


 ぷす~。


 コタツの中で、音を出さずにそっと屁をこいた。

 肛門が「カッ」と熱くなった気がする奴だ。


 これはゼッテー香るはず!


「ユキ~。」


 千春が到着する。


「どーぞ。」


「お邪魔しま~す。」


 廊下を歩いてくる音がし、


「おまた!これ持ってきた。」


 スナック菓子の種類が増えた。


「おぉ~。食おうぜ。」


「お~、サブかった~!」


 千春がコタツに顔まで潜った瞬間、猛烈な硫化水素臭が千春の鼻を襲う。


「うわっ!でったんくせーき!誰か!コタツん中で屁ぇコイたの?」


 ソッコー顔を出す。

 布団を持ち上げ確認する桃代。


「マジで?うわっ!でったん卵の腐った臭いする!ユキくん!ウンコ行ってきぃよ!」


「出らんよ。」


「何食ったらそげな臭いするん?」


「ん~…唐揚げ?」


「ウソゆーな。ウチ、唐揚げ食って屁ぇしてもこげな臭いせんぞ?」


「じゃなんやか?まぁいっかぁ。」


「お前はいいかもしれんばってん、こっちは迷惑ぞ。せっかく温もったコタツ、台無しやねーか。」


「ホント。全然温くなくなった。」


 大ブーイングである。


 それにしても、なんでコタツん中でする屁はあんなにも臭いっちゃろ?

 鼻毛が枯れるよね!

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