第25話② 毒虫(イラガの幼虫に刺されるお話)

 一人。

 カミキリで遊ぶ。

 意外と楽しい。

 何気なく上を見ているともう一匹。


 これは取らなくては!


 箒で突くと…。


「イテッ!」


 思わず声が出た。

 落ちてきた葉っぱが右腕に触れた瞬間、今まで味わったことのない強烈な傷みに襲われたのだ。

 例えるならハチ+ヤケド。

 そんな感じの激痛だった。

 クワガタ取りに行って刺されたアシナガバチより遥かに痛い…気がする。

 原因と思われる葉っぱを見てみると、そこには…


 キモ!


 思わず背筋に冷たいものが走る。

 黄緑色のトゲをもつ2cm程の毛虫がビッシリとついていた。


 これ図鑑で見たことがある!イラガやん!


 イラガ(刺蛾、Monema flavescens)はチョウ目イラガ科に属する昆虫及びその総称である。「蜂熊」「オキクサン」「シバムシ」「キントキ」「デンキムシ」「ヤツガシラ」「オコゼ」とも言い、そのほかに数十の地方名がある。

 幼虫

 通常7~8月頃、多い年は10月頃に再び見られる。体長は25mm。脚が短くずんぐりした体に多くのトゲを持ち、触れるとハチに刺されたような鋭い痛みを生じる。様々な樹種で繁殖し、葉裏に、集団で生息していることが多い。

 繭

 終齢幼虫(前蛹)で越冬し、そのための繭を作る。独特の茶色い線が入った白く固い卵状の殻で、カルシウムを多く含み日本の昆虫がつくる繭の中で最も固いとみられる。春先に中で蛹化し、6月に羽化する。羽化時には繭の上端が蓋のように開き、地方によりスズメノショウベンタゴ(担桶)とも呼ばれる。玉虫と呼んで釣り餌(特にタナゴ釣り)に用いられる。

 成虫

 無毒。明かりに飛来する。口吻が退化しているため、成体は何も食べない。

 ※ウィキペディアより引用。


 あまりの痛さに腹が立ち、思いっきり踏みにじる。

 それにしても痛い!

 既にあれから何分か経っているが刺された直後の痛さのまま。

 我慢できなくなり、カミキリは解放してあげて水道のある場所に行く。

 水で冷やす。それでも刺されたときの痛みがそのまま継続していて、治まらない。


 冷やしている真っ最中。

 今、いちばん会いたくない人が!

 桃代である。

 水飲み&タオルを濡らしにやってきた。

 姿を見るなり


 ヤバい!また心配させてしまう!


 逃げようとしたのだが…遅かった。

 激痛に顔を歪め、必死に冷やしているところを見られてしまっていた。

 瞬く間に心配モードに移行した桃代は、


「ユキくん!どげしたん?」


 あわてて駆け寄ってくる。


「何もない!」


 咄嗟にウソをついて腕を隠すが、


「ウソばっか!手ぇ見してん!」


 力ずくで隠した腕を引っ張られる。


「何これ?」


 毛虫の形に腫れていた。

 応援もせず、カミキリムシと遊んでいて毛虫に刺されたとか、恥ずかしくてとても言えない。


「いや…何でもない。」


 目が泳ぎまくる。


「ウソ!一生懸命冷やしよったの見たっちゃきね!」


 騒ぎで周りにいた人間が注目し、さらに言えない状況に陥る。

 桃代はムキになっていて、とてもじゃないが引き下がってくれそうにない。


 困った。


 諦める。

 ここで話すのは流石にアレなので、


「分かった!話す!話すき人がおらんトコ行こ。」


 とりあえず人気のないところに移る。


「うん。絶対説明せなやきね?」


 半ば取り乱し気味の桃代。

 ホント、見られたくなかった。


 部活棟の自販機スペースにやってきた。

 他の幼馴染が勢揃いしている。


 そっか。今昼休み。終わった…またバカにされる。


 気が重い。


「で、どげしたん?」


 桃代が怖い。


「いや…毛虫に刺された。」


「はぁ?何しよって?」


「ゴマダラ取りよって葉っぱが落ちてきたら、それに毛虫が着いちょった。」


「もぉ~…ホント何しよぉん?」


 ほとんど泣きそうである。


「あのあと刺されたん?」


 菜桜が聞いてくる。


「菜桜、その場におったん?」


「うん。ユキ、カミキリに紐つけて飛ばして遊びよったもんね。」


「応援もせんでそげなことしよるきバチが当たるって!」


 その通りである。

 言い訳できません。


「んで大丈夫なん?」


「いや、まだ刺された時のまんまの痛みが治まらん。」


「何それ?すぐ保健室いこ!」


 そのまま桃代に手を引っ張られ保健室へ。

 去った後、


「桃、この頃ユキに対してすごいね。神経質過ぎん?」


 菜桜が、ぼそりと呟いた。




 保健室にて。


「またキミか。口はだいぶんいいみたいやね。で、今度はどげしたんね?」


「毛虫に刺されて…痛いです。」


「何処で?何しよったらそげなもんに刺されるんね?今、クラスマッチありよるんやないとね?」


「いや…まぁ…色々とありまして…。」


 恥かしくて言えない。

 しかし桃代は、


「カミキリ捕まえよって毛虫が落ちてきたらしいです。」


 包み隠さず説明する。


 最悪だ。


「ちゃんと応援しよかんきそげなことなろうが。」


 呆れられている。


 今回のクラスマッチは散々だった。

 顔面にボールは直撃するわ、毛虫にさされて痛いわ、桃代には怒られまくるわ。

 ホントついてなかった。

 と、いうことにしておこう。


 実際は全部自業自得なんだけど…。




 苦痛でしかないクラスマッチもやっとのことで終わり、帰りついた。

 毛虫に刺されたところがまだ痛い。

 とりあえず菜桜に連絡してみる。

 「すぐ行く」と返事があり部屋で待機中。

 釣具の用意がちょうど終わりそうなタイミングで、


「ユキ~。」


 菜桜が来た。


「は~い。上がりぃ。」


 返事する。

 廊下を歩いてくる音。

 ドアノブに手がかかり、


 ガチャ。


「お待たせ!」


 入ってきた菜桜のカッコを見た瞬間、


「ぅわっ!菜桜ちゃん…。」


 驚くユキ。

 超絶薄着だった。

 薄く風通しのいい上着の下に、胸元が大きく開いたタンクトップ。

 谷間と横乳がモロ見えだ。

 きわどくて目のやり場に困る。

 菜桜は桃代と違ってデカい。

 海に行ったときよりさらに育って環に匹敵するくらいの大きさになっている。

 バインバインのタユンタユン。

 かなりエロい身体つき。

 オロオロするユキ。

 座るとき前屈みになると隙間ができ、嫌でもそこに視線が吸い寄せられる。


 わざとか?わざとなのか??


 鼓動が跳ね上がる。

 上着のせいで気付かなかったのだが…薄着だと必ず浮き出るはずのブラのヒモがどこにも見当たらない。「ポチ」っとした盛り上がりも確認できる。少しでも角度を変えると乳首が見えそうだ。


「ちょっと!菜桜ちゃん?ノーブラやん!」


 焦りまくるユキ。


「あ…ホントやん。してくるの忘れた。まぁ暑いし、いーやろ。嬉しかろ?」


 ニヤッと悪い微笑み。

 確信した。


 コイツ!わざとだ!


 この頃、やることのあくどさに磨きがかかってきている。


「そらぁ嬉しいけど…部屋に二人きりでそれはちょっとまずいやろ。」


 こんなところを桃代に見られたら、無条件で二人とも怒られる。


「なんでか?チン●起つきか?」


「当たり前やん!」


「触らしちゃっか?」


 平気でそんなことを言ってくる。


「触りたいけどそれはダメやろ!」


 魅力的な提案だが辛うじて断った。

 それなのに、


「桃には黙っちょっちゃーばい?」


 尚も、しかけてくる。


「ダメダメ!それはダメ!はよ釣りいくばい!」


 強引に話を終わらそうと頑張るユキ。

 ユキも弟的立場なので、桃代程ではないが菜桜からはよくからかわれる。


 この後の展開が読めそうな気がする。

 なんか…釣り場に桃代を呼んでいる気がする。

 で、乳絡みのチョッカイかけて焼きもち焼かせる。

 そんな作戦は充分考えられる。

 さっきから絡み方がどうもわざとらしい。

 調子にのって触っていたら大変なことになっていた。

 しばらく警戒しておこう。


「じゃ、行こっか?」


「うん。でもその前にブラしてきーよ!」


「いや、時間が勿体ない。はよいこ。」


 何分もかかる訳ないのに…。

 やっぱし…何か企んでいる。

 それでも、


「他に人がおるんばい。」


 本気で心配している。

 その心配が嬉しかったりする。

 前に環が言っていたように菜桜もユキを意識したことはある。

 桃代とくっついたため、今となってはどうしようもできないが、心配してもらってちょっとだけいい気分に浸る、ということは度々やっている。

 だから。


「お前の女やねぇんやし。別に見られたっちゃよかろぉもん?」


 心配することを言って嬉しくなれる言葉を引き出す。


「だきオレは菜桜ちゃんが他の人間からヤラシイ目で見られるのは嫌なん!」


 少しムキになるユキ。


 これだ!この言葉を待っていた。


「大丈夫。上着あるし。」


 ピラピラさせ中を見せる。

 歩くだけでバインバイン。

 揺れ方でノーブラなのが一目瞭然だ。

 ちなみに下も短パンで、太もも丸出しだ。


「も~。」


 結局押し切られ、そのまま釣り場へ行くことになった。




 普段スピナベを多用する菜桜。

 今日は珍しくワーム。

 生理で腹が痛いらしく、座って釣りたいとのこと。

 生理なら下をもっとどうかしたの穿いてくればいいのに!とユキに怒られたが、全く反省していない。今日は心配してもらうために身体を張る、と決めているのだ。




 釣り開始。

 ユキは4インチセンコーのストレート掛け。

 菜桜はメタボックのバックスライドセッティング。

 二人並んで桃代とエロいことをしていた橋の下で橋脚を狙っている。

 ユキは立って、菜桜は座って釣っている。

 わざとらしく見えるようにしているのをあえて無視する。

 でも、どうしても気になって仕方ない。引力が強すぎてチラ見してしまう。

 体勢を変えるため、上体が少し前に傾いた瞬間…見えた!

 キレイな乳首だった。


 しかしあの程度傾いただけで中が見えてしまう。これじゃ、誰か来たら即気付かれる。

 再度心配になってくるユキ。


「ねぇ…今…おもいっきし先っぽまで見えたよ?」


 マジか!


 思いっきし動揺するが、その素振りは決して見せない。

 コントロールできるところが菜桜のスゴイところ。


「嬉しかろうが?」


 冷静に答える。


「嬉しいけど…気になって集中できん。やっぱブラしに帰ろ?ついていくき。」


 心配でしょうがないユキ。

 そんなやり取りをしているところに着信音。


 桃ちゃんかな?


 もしそうなら少しして土手の上に桃代が確認できるはず。

 で、そのタイミングでなんか仕掛けてくる。

 警戒レベルを上げた。


 土手を見る。

 誰か歩いてきている。だんだん近づく。サオを持っている。


 やっぱし!


 確認できるほどの距離にまで近づいたところでニヤッと笑い、聞こえるように、


「ユキ!ホントは好き!桃と別れて!」


 強く抱きしめ胸を押し付ける。

 女の子のいい匂い。


「ちょ!菜桜ちゃん?」


 焦りまくるユキ。

 状況を把握した桃代。


「こら~~~~!」


 叫びながら猛ダッシュしてくる。


「菜桜!きさん何してくれよぉんか!」


 引き離そうとし、力任せに菜桜を抱え上げようとしたその瞬間。


 ズルッ!


 上着とタンクトップがユキの目の前で捲れ上がる。

 今度はモロ見えだ!

 デカい!

 この眺めは圧巻だ!


「バカ!桃!」


 菜桜の顔が一気に真っ赤に染まる。


「ぅわっ!ごめん、菜桜!っちゆーかお前、ノーブラやねーか!」


 激オコだ。

 さらに追い打ちをかけてくる菜桜。


「せっかくさっきの続きしよったんに邪魔すんなっちゃ。」


「『さっきの続き』ちなん?」


 一気に不安な顔になる桃代。


「ちょ!菜桜ちゃん?桃ちゃん。オレ、なんもしてねーよ!」


 即答するユキ。


「ウソゆーな!さっき部屋で挿入したくせに!ブラはユキの部屋に忘れた。」


 無いこと無いこと言い出す菜桜。


「ちょ!」


 酷過ぎる!


「ウソ…ユキくん…ホント?」


 桃代が混乱し、泣きそうになっている。


「なんで?してない!絶対してない!なんでそっち信じる?菜桜ちゃん?」


 泣きだしそうになった桃代を見て慌てまくるユキ。

 満足した菜桜。

 そこで白状。


「ウソよ。ユキがするわけねぇやろぉが。」


 意地悪い微笑みで桃代を見る。

 もう心底タチが悪い。


「もぉ!バカ!信じかかったやねぇか!菜桜のウンコ!たいがいしちょけよ!」


 顔を真っ赤にして怒る桃代。

 大成功だ。

 ハプニングでユキにナマ乳は見られたが。


 釣りをしながら、


「ユキ?ウチの乳どげやった?」


 ここでそれ聞くか?また怒られるやん。


 でも、


「すげぇね。エロかった。」


 ユキも基本バカなので素直に答える。


「ユキくん?そげ菜桜がいーん?」


 睨んでくる桃代。


「ごめんなさい。もう言いません。」


「ちゆーか、そげな質問すんな!バカ菜桜!」


「ユキ?今度また揉ませちゃーね。そげなちっぱいよかこっちの方がよかろーが?」


「も~~~っ!ホント、グラグラする!」


 ふて腐れて釣りを始める。



 桃代もワームだ。

 ⅰシャッド4.8インチのノーマルセッティング。


「釣れんね。帰ろっか?」


 菜桜が言う。


「そやね。」


 結局その日の釣果は0。

 大体、釣り場で騒ぎ過ぎだ。




 さて帰るか。

 立ち上がると、


「菜桜ちゃん!血!」


 ユキが指さす。

 太ももを血が一筋。


「げっ!ナプキン飽和した!桃、お前替えのナプキン持たん?」


 あんまし意地悪するもんで罰が当たった菜桜だった。

 家を出るとき新品に替えて、帰るまで余裕のつもりだったのだが、ユキに乳を見られて興奮し、大量に汁を製造したのが原因。


「ほら見ろ。意地が悪いことばっかするきそげな目に遭うやろーが。だいたいウチ、今生理やないっちゃき予備やら持っちょーわけねーし。そもそも自分の生理やろーが。ちゃんと持って来ちょけ。」


 桃代はまだ菜桜がユキにいらんことをしたのを怒っている。


「うるせー。」


 あんまし反撃しなかった。

 流石に乳を見られて興奮して濡れた。だから飽和した。とか言えない。


 ユキがサラ金屋のティッシュを渡す。

 ベイトのスプールベアリングに注油しすぎるとスプールの縁にオイルが着いて飛びが悪くなることがある。その対策用としてティッシュはいつも釣り用バッグに入れている。


「はいこれ。足りるか分からんけど。」


「ありがと。」


 些細な行動なんだけど思わずグッとくる。

 好きを蒸し返しそうになったが我慢した。

 自分だと桃代程一生懸命好きになりきれる自信が無いから我慢する。

 一緒にいていちばん一生懸命になれる者に資格があると考える菜桜。

 可愛い妹分が幸せになれるなら、とも本心では思っている。

 そして…ユキはこっちを向いてくれないと分かっているから。


 でも、こんな些細なやり取りが嬉しいからいつもユキと一緒にいる。

 一緒にいるとみんなに平等に優しいのが見ていてわかる。

 恐らく、他の幼馴染達もそう感じているはずだ。

 この時ばかりは優しさを直に感じることができる幼馴染で本当によかったと思う。


 そうでない友達。

 新しかったり関わりが浅かったりするクラスメイトのことだ。

 特に女子はユキの見てくれとか表面上のキャラで判断する。

 悪いことではないが勿体ないと思う。

 そこを見抜いたミクはつくづく見る目があると思った。




 垂れてきたのを拭きながら帰る。

 残念な姿…こんなのクラスメイトとか同級生には絶対見せられない。


 ユキでよかった。


 帰ってソッコー血の付いたパンツと短パンは洗面器に水を張り、浸して風呂に入る。




 湯船に浸かり、ゆったりした気持ちで思い出す。

 今日はいっぱいユキに心配してもらえた。嬉しかったな、と。

 この頃、それに満足してしまっている自分がいる。


 当分彼氏はいらない。


 イケナイことかもしれないが、そんな気分になっていく。

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