第26話 依存
二年生。
クラスが別々になって約半年。
桃代の様子が少しだけ変わった。
どう変わったかというと。
不安とか寂しさが伝わってくる瞬間があるのだ。
最もわかりやすいのが二人きりでいる時。
本来ならばもっとも落ち着いていなければならない口づけやセックスの時、ほんの一瞬だが目で訴えてくる。
とても気になるので聞いてみようとも思ったが、本人ですら気付いていない可能性も充分に考えられる。
う~ん…これっち、桃ちゃんに直接聞いても分からんかも知れんよね…さて、どうするかな?もしかしたら、他の幼馴染達に聞いてみた方が分るやか?
そんな考えに至る。
昼休み。
いつもの溜まり場にて。
たまたま何かの用事で桃代だけがいない。
ちょうど桃ちゃんおらんね。本人目の前にして聞くのもなんか…ね。だき、聞くんなら今かな?
菜桜に聞いてみることにした。
「あの…菜桜ちゃん。ちょっと聞きたいことある。」
「ん?何?」
「あんね。桃ちゃん、この頃たまーに寂しい顔することあるっちゃけど、なんか変わったこととか気付いたことっちない?」
「う~ん…クラス違うき昼休みしか会わんもんねぇ。よぉ分らん。」
今までのように、幼馴染女子の誰かしらが常に一緒にいる状況なら、もしかして気付けたかもしれないのだが、理系を選んだ女子は桃代だけ。
基本、昼休みくらいしか話す機会が無い。
「そっかー。」
「でも…どーやろ?お前とクラス離れたきやねーんか?」
菜桜のこの言葉がキッカケとなり、他の幼馴染達も次々と口を開く
「あ~。それあると思うよ。」
「クラス替えの発表のあと、桃、だいぶん落ち込んどったし。」
「隣のクラスなんにねー。しかもしょっちゅう会いよるんに、なんでそげん落ち込まないかんっちゃろ?」
「分からんね~。」
結局、誰一人として気付いちゃいなかった。
二人の時にしかあの表情は見せてないんやな。
解決には至らなかったものの、どうやらクラス替えが原因になってそう。
人間関係で拗れたりして変わったのではなさそうだったので、少しホッとする。
その日、下校時にでも直接本人から聞いて見ようと思い、時間を合わせようと試みた。
しかし、クラスが違うため帰る時間が合わない。
呼びに行ったのだが用事で担任の先生に呼ばれており、教室にはいなかったのだ。
メールで先に帰る旨を伝え下校する。
着替えてベッドに寝転がり、ボーっとしていたら、
「ユキく~ん。」
少し経って桃代がやってくる。
「上がりぃ。」
「は~い。お邪魔しま~す。」
部屋のドアを開け、入ってくるなり寝たままのユキに抱きついた。
胸に顔を埋め、グリグリしている。
今までこんなことはなかった。
「うわ!ちょっと!どげしたん?」
「へへへ。ユキニウム補給中。これ、してみたかったん。イヤやった?」
「ううん。そんなことはないけど。」
抱きついたまま顔を上げ、視線を合わせて微笑み、口づける。
その時、やはり一瞬寂しそうな表情になる。
あ…またやん…何なんやろ?聞くなら今かな?
そう思って切り出した。
「あんね。」
「うん。」
「聞きたいことあるん。」
「何?」
「この頃ね、二人でおる時にね、たま~に寂しそうな顔することあるんね。今もちょうどしたもんね。だき何かあったんかな~っち。ちょっと心配になって聞いてみた。」
「え?そぉなん?」
やっぱし。
全く気付いていなかった。
目を丸くして驚いている。
「うん。今もいきなしギューッとかしてきたやろ?今までそげなコトっち無かったよね?だき、なんか悩み事とか心配事あるんかな?っち考えたんよ。」
「ごめんね~、心配させて。フツーのつもりやったんやけどねぇ~。」
「だきねオレ、今日菜桜ちゃんたちに聞いてみたっちゃん。」
「へー。そーなんて。で、何ち?」
「クラス離れて寂しいんかも、っちいーよった。」
「あ~。それ大いにあるね。ウチ、ショックやったもん。クラス替え発表された時、泣きそやったし。」
流石菜桜!
大正解だ。
「そっか。そこまで思ってくれちょったとか…なんか嬉しいね。」
そっと抱き寄せ、唇を重ねる。
「うん。だって好きなんやもん。」
「あんまし思い詰めんごとね。桃ちゃんになんかあったらオレ、嫌やきね?」
「えへへ。」
笑顔。
強張りが取れたような気がした。
純粋に綺麗だと思った。
この笑顔が好きなんだ!
見惚れていると。
チュッ!
今度は桃代から。
今回の桃代の変化は別々のクラスになることによって起こったユキ成分の欠乏が原因だった。
今、完全に依存しきっている状態。
要するに「ユキ中毒」だ。
だが、それ自体悪いコトとは思えない。
強く想われるということはこの上なく嬉しいし、これからもずっとそうであってほしいから。
だから、今後もし精神的に追い込まれるような事態が起こったとして、心が病んでしまいそうになったとしたならば、全力でフォローし、乗り切っていきたい。
そう、心に誓うユキだった。
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