第11話③ 冬イベント盛り合わせ(バレンタインのお話)

 2月14日はバレンタインデー

 モテない人にとっては拷問のようなイベントだ。

 ユキは生まれてこの方母親以外からチョコを貰ったことが無い。義理チョコすら、だ。←小学校の時はそんな文化が無かった。もしそんなことしようものなら、一生モンのトラウマを植え付けられるくらい苛められた。

 致命的にモテない。

 参考までに、ユキには妹がいるのだが、くれない。ダサダサなお兄さんのコトが嫌いなのでイマイチ仲がよろしくないのだ。


 これまでは、

 お菓子屋の陰謀に惑わされるな!とか、甘いもの好きじゃねぇし!とか、痛々しい負け惜しみを陰で言っていた。

 でも今年は桃代がいる。

 ちょっとだけ…いや、超期待する。

 傍から見ていて分かるほどくれくれオーラ全開だ。

 かなり情けない。

 友達も苦笑気味。

 これでもらえなかったら…多分立ち直れない。

 その様子を早くも桃代に察知される。


「なん?チョコ欲しいん?」


「当たり前やん!ちょーだいよ。」


「どぉしよっかな?」


 ホントは今すぐあげたい桃代。

 只今絶賛焦らしプレイ中。

 というか、みんなの前でわたすのは恥ずかしかったりする。


「あとでね。放課後まで待って。」


「分かった!」


 やった!貰える!人生初のチョコが一番好きな人から!


 放課後が待ち遠しい。


 よし!チョコもらう時に告るぞ!


 意気込んでみる。

 テンション上がる。


 この時、ミクはユキのことを全然諦めきれてなかった。

 あげようかと思ったのだが、二人の間に入り込む余地がなかったため、我慢して実行には移さなかった。


 期待しすぎた時はお約束でどちらかが遅くなり、一緒に帰れなかったりする。

 この時はユキが委員会で遅くなる。

 ガッカリ展開。

 帰ってわたす作戦に変更。

 ユキにメールして帰ることにした。


 学校から帰ると外はすっかり暗くなっていた。

『帰ったばい』

 帰宅したことを連絡するユキ。

『今から行く。』

 すぐに返信があり、数分後桃代が来る。

 部屋に入るとすぐに


「はい。」


 念願のチョコ!

 手作りではなかったが、本命だと一発でわかる。

 嬉しすぎる。


「ありがと!実はオレ、家族以外からチョコ貰うのっちはじめてっちゃ。」


「マジで?アキちゃん(ユキの妹)は?」


「アイツはくれん。前からそうやったけど、この頃いよいよオレのこと好かんきね。」


「ほんじゃ、ミクは?くれんやった?」


「うん。何もないよ。」「マジか。アイツはゼッテーなんかしてくるっち思ったばってんが…よかった。でもお母さんはくれるやろ?」


「今年はお母さんくれんかったばい。」


「やった!ウチが第一号やん!」


 超絶嬉しそうな顔に変わる。

 その顔があまりにも可愛すぎて、受け取った瞬間抱きしめてしまう。

 目を見開き驚いている桃代。

 でも、嫌悪とかの感情は無い…ように見える。

 流れで下ろした髪をかきあげ、顔をそっと近づけ…


 不自然じゃなかったはず!


 勇気を振り絞り、目を瞑るとそっと唇を重ねた。

 暖かく柔らかい感触。


 ファーストキス。


 わずか数秒。

 触れるだけのぎこちないキスだった。

 震えている。

 お互い幸せで満たされる。


 顔を離し、目を開けると…桃代が赤面してうっすら涙を浮かべ俯いている。

 ギョッとした。


 しまった!オレ、間違った?


 心配になって、


「もしかして…したら…いかんやった?」


 聞いてしまう。


「ううん…嬉しかったと。ありがと。」


 消え入りそうな声で応えてくれた。

 ホッとして脱力。


 やっとここまでできた!ヘタレなオレにしては上出来だ。


 と、自分を褒めた。


 しばらく部屋で喋っていたけど、


「ご飯ば~い。」


 ユキ母の声が終了の合図となり桃代は帰っていった。


 その夜。

 ファーストキスの嬉しさに酔って一人ニヨニヨしていたら、


 告るの忘れた!


 大変なことに気付いてしまう。

 痛恨のミスである。

 そして、


 は~~~…


 特大のタメ息一つ。


 やっぱダメダメやん、オレ…。


 と、落ち込む。


 なかなか思うようにはいかない。




 以上が、この冬の各種イベント盛り合わせ。



 春からは三年生。

 受験勉強が始まるため、今までのように遊びまわってはいられない。


 と、言うわけで。


 がんばれ!受験生!!

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