第11話② 冬イベント盛り合わせ(釣りのお話)

 今日は釣り納。

 大晦日。

 午前中は雪が舞っていたが午後からは晴れた。風がないと少しだけポカポカする。

 大掃除も終わらせ暇になる。

 現在午後の3時。

 暗くなるまではまだ少し時間がある。

 と、言うワケで。


 行ってみるか!

 

 場所はいつもの越冬場。

 

 メンバーはユキと桃代、大気、菜桜。

 他のヤツらは家の用事が終わってなかったりイチャイチャしたりで忙しい。


 ちなみにイチャイチャとは海と涼である。

 この日、海は…涼の親が外出しているのをいいことに、指を入れていた。

 二人でマッタリしていたら、ムラムラっとしてしまったのだ。

 でも、そこから先はちょっと怖くて、ヘタレてできなかった。

 只今海は勃起しすぎて●マキンが痛くなっている。太ももに当たると下腹部に鈍い痛みが走るほどに。

 これからもこの二人はこんな感じで進展していくこととなる。

 そして、こんな事態になっていることを他のみんなは知らない。

 

 

 使用ルアーは以下の通り。

 ユキは3インチファットヤマセンコー。

 桃代はベイビーシャッドの大きい方。

 大気はステイシー。

 菜桜はゲーリーヤマモトスピナーベイト。

 

 今年一年を締めくくる釣りだ。

 是非ともボーズは免れたい。

 それぞれが思うポイントに入り釣り始める。

 

 みんな黙々と投げては巻いての繰り返し。

 時折吹く風が刺すように冷たい。

 誰も釣れない。

 今のところ全く異常なし。

 

 各自ルアーをローテーション。

 桃代はそのままシャッド。

 ユキはイモグラブ。

 大気はメタルバイブ。

 菜桜はラバージグにダブルテールグラブの組み合わせ。

 

 しかし、来ない。

 何の反応もない。

 段々心が折れてくる。

 

 桃代は顔の感覚がなくなり、鼻水が垂れているのに気付いてない。

 ちょっと向こうで釣っていた菜桜が、

 

「きったね~、桃!お前、鼻タレちょーっちゃ!拭いちょきない!」


 気付いて警告する。

 桃代は、

 

「うわっ!ホントやん!でったん出ちょーし。ベロベロやん。」

 

 手袋した手の甲でグシグシと拭く。

 ホッペの方にビロ~ンと伸びる。

 

「うぇ、つべて~!」

 

 こんなところがフツーに残念だ。

 

「サブいね。集中力なくなってきた。」

 

「こんだけ頑張ったっちゃ釣れんっちゃき無理やろ。帰ろっか?」

 

「そやね。」

 

 帰ることを決意する。

 この年の最後はボーズで締めくくった。

 悔しい。

 でも、これも釣り。生き物相手だからしょうがない。

 

 


 初詣。

 おせちは既に飽きた。

 そもそもおせちには若者が好むものはあまり入ってないので、初日から飽きていたといっても過言じゃない。

 おせちもいいけどカレーもね!という名言があるが、おせちなんか食べなくていい。純粋にカレーがいいと思った。

 

 家族で過ごす幼馴染もいるので、全員は集まらなかった。

 集まっているのはユキ、桃代、涼、海、菜桜、千春、環。

 

 近くの神社にとりあえず行って、お参りらしきことをした後、釣具屋の初売りに行った。

 

 ユキはリョウガを買おうと企んでいる。

 ショーケースを見ていて気付いた。


 小さいリョウガが出ちょーやん!


 値段を見てビックリ。小さい方が高かった。

 2020に決めた。

 リールを買っただけでお年玉数年分&数か月分の小遣いが全て消し飛んだ。

 中学生には高い買い物だった。

 

 桃代はユキと再会してすぐワームのサオを買った。

 今は巻きのセットと同じくらいお気に入り。

 ふと考えると、どちらのサオにも着けるのは一台のリョウガ。

 同時に二本使えない。

 リールを買う必要がある。


 この釣具屋は中古も置いてある。

 そちらのショーケースも見てみる。

 自分達の生まれる遥か昔。親たちが中学生の時のモノがいっぱいあった。


「あ!これウチのルアーデビューした時のやん!」


 TD-X103Pi。

 今でも使える。よく飛んで、扱いやすいお気に入りのリールだ。同じものを発見し、ちょっとだけ嬉しくなった。


 シマノのカルカッタコンクエスト100。

 金色でカッコイイ。状態はいいみたいだが割高。人気機種の中古は高い。


 スコーピオンかメタマグは…数が多いもののボロっちいのしかない。シマノで探すのはやめた。


 結局ABUとダイワで迷った挙句、ミリオネアCV-X105の型落ち新品が安かったのでそれに決めた。

 強引に設定されてない16ポンドを巻いて巻き専用にするのだ。



 涼はルアーしか持ってないのでサオとリールを買う予定。

 小学生の頃から貯めていたお金でついにマイロッド&マイリールを購入に踏み切るのだ。

 新品でそこそこのグレードを揃えるか、中古で最上級のを揃えるか。

 悩むところである。

 先程桃代が型落ちの新品を選んでいたのを見ていた。


 そんなのもあるんか。じゃそっち方面で探そ。


 ショーケースの中。


 あった!ABUの上位機種。レボSTX。


 デッドストックだったらしく綺麗な品。

 安いのでこれに決まり。

 サオは…シマノの上位機種、レサト1653R

 中古だけどサオ先の修復歴もなくいー感じ。使用範囲も広いのでこれに決まり。

 これで、毎回海に借りなくて済む。

 独り立ち?だ。

 あとは、糸を買ったらいつでも釣りに行ける。


 大きな買い物をしたのは以上のヤツら。




 他のヤツらは?というと、主にルアー物色中。


 菜桜はワーム。

 巻きの方はそこそこ充実したのでワームを見ている。

 ノーシンカーで使うスティックベイト、バックスライド系、ストレート、i字系。

 テキサスで使うザリガニ、エビ、グラブ。

 あと、千春がスピニングタックルを使って毎回釣っていたのを見て必要性を感じ、今後のためにと一緒に相談しながら検討中。


 千春はスモラバを巻いてみようかと思っていた。

 巻いてあるのは高い。2個買うとプラグが買える。根掛かりの多い場所なら2個とか平気で無くす。ラバースカートの巻いてないヤツは一個の値段で3~5個入っている。これは作るしかない。スカート、ステンレスの針金、ジグヘッドを何種類か買った。他にはスモラバに着けるワーム。

 3インチシュリンプ、2インチドライブクロー、3インチグラブを買った。

 あとは最近買ったベイト用のルアーを少々。ノーシンカーとテキサスができればそれでいい。サオのアクションはMなので、思い描く釣り方はほぼカバーできる。

 7gと10gのシンカーを追加。グラブとストレートワームを数種類買った。

 そこで思う。ストレートワーム買ったなら、ネコリグとジグヘッドワッキーもできるのでは?と。急きょ、マスバリとワッキー用ジグヘッドと1.3gネイルシンカーも購入した。



 環はワーム。

 グラブ、スイムセンコー、4インチヤマセンコー、4インチドライブクロー、ZBCブラッシュホグ、チャンキー、色んなメーカーのネコとかワッキーに使えるストレートワームを買った。

 スピニングも必要だとは思っている。

 今回は予算的に無理があって買わないが、今年の夏を目処になんとかにしようと思っている。

 ショーケースを開けてもらい、色々触っているとプラスチック製のリールに辿り着く。

 ルビアス2506。

 手に取ってみると、ほんのり暖かい感じがする。金属特有の冷たさが無いのだ。これは寒い時期大きなアドバンテージとなる。

 値段はそこそこするので回転の滑らかさは申し分ない。

 ドラグも高性能なものが採用されている。


 これいいかも!


 決まったのであとは金を溜めるだけだ。

 サオはLかML辺りで何でもできそう。飛距離を稼ぐため6.6フィート以上のモノがいいかも。

 中古売り場を見てみると、思ったヤツがいくつかあった。値段も手ごろだ。


 リール買う時、これに似た中古あればいいな。



 こんな感じで初売りツアーは終わった。

 各々、家に帰って妄想しながらバッグに詰める。

 リールを買ったヤツは、糸を巻きながら来たるべきその日を妄想しつつニヤケる。

 そしてサオにセットし、糸を通し、リグを組み、クラッチを切って糸を引っ張り出しては巻いてを繰り返す。


 みんな似たようなことをやりながら、眠くなって…おやすみなさい。




 釣り初め。

 この一年、心に余裕を持って釣りができるかどうかが決まる大切なイベント。

 なかなか釣れないと焦りまくってさらに初日が遠のく。


 今日は是非とも釣りたいな。


 しかし、寒い。

 雪は降ってないが、盆地特有の底冷えがする。

 気温は4~5℃といったところか。


 メンバーはユキ、桃代、千春、渓。

 女子ばっかでちょっとうれしいユキ。


 ポイントに入り、釣りを始める。


 と、ユキが先行者から声をかけられる。


「ちょっといいかな?写真撮ってもらえる?」


 オシャレ防寒着に身を包み、虹色でミラーの偏光グラスをした、モデルもビックリなイケメンオニィサンが、明らかに50cm超えの立派な魚を持って近寄ってきた。


「はい…分かりました。」


 いきなし凹む。

 暗い声で対応する。

 ケータイをわたされ写真を撮る。


「ありがとうございます!」


 目が眩むような爽やか笑顔で礼を言い、嵐の如く去っていく。

 少しして、ピカピカに磨きあげられたガンメタで品川ナンバーのシボレー・タホが、ユキ達の後ろをゆっくりと走り抜けていった。

 勝ち逃げだ。

 のっけから打ちのめされる。


「あ~あ。初っ端からあげなんと見せつけられたら、やる気なくすよね。」


「うん。なんかもぉ釣れる気せんくなった。」


「とりあえずやってみよ。せっかく来たっちゃき。」


「あれ、ゼッテーわざっとよね?」


「ちょっとイケメンっちゆってえばっちょーんか!」


「クルマやらナンバーまで何もかんもカッキーし。」


「東京からわざわざこげなとこまでくんなよ!」


 段々卑屈になってきた。



 気を取り直して釣り再開。


 ユキは5・3/4カットテールのネコリグ。1.3gのネイルシンカーを入れている。

 桃代はメタルバイブ。エバーグリーンのリトルマックス3/8オンス、コットンキャンディー。

 千春はスモラバ+3インチグラブ。

 渓は4インチカットテールの1.8gライトテキサス。


 一時間ほどして…

 最初に掛けたのは渓。

 沈んだゴロタに引っかからないようにワームをズル引いていたら、前触れもなく持って行った。


「食った!」


 アワセるとサオが大きく曲がる。

 が、しかし!

 テンションが急に無くなり軽くなる。


「ぐわ~!バレた~!ショック~。冬の貴重な一本がぁ!今のでったんデカかったぞ。」


 シンカーには引っ掻いたような歯型が残る。

 ハリ先を触ってみるが、フックポイントは異常なし。


 んじゃ、伸びた?


 新品と比べてみるが、全く同じ形。

 意味が分からない。


 恐らく、釣られ過ぎて口がボロボロになった魚、かも?既に開いたハリ孔にうまいこと入ったんかな?


 そんなことになると、ハリのカエシの効きが極端に悪くなる。

 何年も釣りをやっていると、そうとしか思えないバラシがたまに起こる。


 ショックにもめげず再開する。

 似たようなところでアタリ。

 居食いに近いモソッと重くなるだけの不明瞭なアタリだった。

 サオ先に神経を集中し、軽く引っ張り聞いてみる。

 確かに重い。

 ひと呼吸置いて、アワセる。

 重さが乗り、一気に走り始めた。

 鈍く重い感触。


 デカい!


 ジ―――…!


 ドラグが悲鳴を上げる。


「うお~、でけー!」


 みんな駆け寄ってくる。


 エラ洗いはしない。下に下に潜ろうとする。ヤバいような障害物はなかったはず。


 止まった!


 ドラグを締め、巻く。

 ジリジリ逆転しながらも、徐々に寄ってくる。

 重量感がハンパない。

 今度は横に走る。咄嗟にドラグを緩めた。せっかく巻いた糸が再び引き出される。

 止まったところでサオを立て、こちらを向かせる。

 ジワリジワリと寄ってくる。

 首を振り、また走ろうとする。

 ゴリゴリとした感触がないから飲まれてはないはず。

 巻くのを止め、糸を出す。

 止まったのでサオを立てる。

 ファイトが永遠に感じられる。

 突進する距離が短くなった。

 だいぶ弱ったっぽい。

 少しドラグを締めて強引に巻くと、徐々に寄ってくる。

 抵抗はするもののなんとか寄ってきた。

 もう目の前だ。


 魚体が見えた!


「でっけー!さっきのオイサン(実はオニィサンぐらいの年だったが)のよかデケくねぇ?」


「わ~、すげーね!」


 千春が取り込む。

 ランディングネットからはみ出らんばかりの大きさ!


「すっげ~!自己記録更新やな!」


 グーが入りそうな口。

 桃代がスケールを持ってきた。

 口を閉じしっぽを開く。


 52.5cm!


「うれしー!」


 記念撮影し、ハリを外すとき何かに気付く。


「ん?コイツ、口から糸が出ちょー。何やか?」


 口を開き、中を見ると自分のルアーの他に水垢の着いた楕円形の物体がある。


「やった!この子、クランク咥えちょー!」


「マジ?儲けやん!」


 テンション上がりまくり。

 まず自分のルアーを外し、もう一つのルアーを外す。

 枯草で拭いてみるとブルーバックチャートの色が確認できる。

 丁寧に拭いてみる。

 リアフックの前に名前。

 MODEL Aと書いてある。

 ボーマーの名作、モデルA。

 歴史のあるクランクベイトで大きさや色が多数あり、高浮力でキビキビ泳ぐ。様々なシーンに対応できるお利口さんだ。


「モデルA!戦力追加。」


 持ち帰り、メラミンスポンジで拭いて、スプリットリングとフックを交換することにした。



 次に掛けたのはユキ。

 5・3/4カットテールのネコリグ。

 深場のテトラと泥の境にて。


 ツ―――…


 着底。


 チョンチョンチョン…


 サオを小刻みに動かし生命を吹き込む。


 ツ―――…


 沈めて、


 チョンチョンチョン…


 ツ―――…


 コツッ!


 弾くようなアタリ。少し待つと、


 グッグッグッ


 サオ先をゆっくりと絞り込む。


「食った!」


 渾身の力でアワセを入れる。

 瞬間、重量感と生命感。


「よっしゃ!ノッた!」


 Hアクションのサオが大きな弧を描く。

 リールをジリオンからこの前買ったリョウガに替えていた。

 流心に突進するバスを力ずくでねじ伏せこっちを向かす。

 なおも横に走ろうとするが、サオの角度を変え対処する。

 この間巻きっぱなし。

 ドラグはフルロック。糸は20ポンドのフロロなので強引にイケる。

 激しく暴れるまんま巻き寄せた。

 そして前まで寄せて、掛かり具合を見て


「よいしょー!」


 抜き上げる。


「おっしゃー!リールに魂こもった!巻き上げる力すごいね!しかも魚がカッコいー!」


「そぉやろ!」


 桃代が自分のことのように喜ぶ。

 45cmの腹パンパン。口にはハリ傷が数カ所あるがキレイな魚だ。

 写真を撮り、そっと逃がす。

 フワッと漂い、勢いよく深場に消えていった。


「バイバイ。次はウチに釣れてね!」


 と、桃代。



 みんな元の場所に散って釣り再開。

 なかなか後が続かない。


 冬の夕暮れは早い。

 そろそろ暗くなってきた。

 糸が見え辛くなってきたので帰る準備。


 寒い割にはなかなかの釣果。

 みんなで二本の魚をネタに、駄弁りながら土手を歩く。


 もうすぐ冬休みが終わる。

 三学期も釣りまくろう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る