第2話② 再会…桃代の場合(帰郷)

 夕方の帰宅ラッシュ時に小倉駅。

 混雑しているにもかかわらず、ホームに降り立つと少しホッとした。

 筑豊方面行きのホームには列車が既に止まっている。

 行先表示の文字が懐かしい。

 相当な満員っぷりだが直行なので乗換しなくてよい。それだけでも気が楽だ。


 少し待つと発車時刻となり走り出す。

 都会の風景も終わり、段々見慣れた風景に変わっていく。

 帰ってきた実感が徐々に増してゆく。


 みんなと、そしてユキくんとまた会える!


 そんなことを考えつつ約1時間、電車に揺られた。


 駅に到着すると、ここからはバスに乗り換える。田舎には似合わない、赤いオシャレバスだ。

 20分ほどで懐かしの我が家。

 ピンポンを押し、降りる。


 やっと帰ってこれた!


「ただいま!」 


「おかえり!」


 祖父母が出迎えてくれる。


「くたぶれたやろ?風呂沸いちょーき入ってき。今、ご飯の用意しよーき。」

 訳:疲れたでしょ?


「わかった。」 


 一日電車に揺られっぱなしで流石に疲れた。

 暑いから、この時期はいつもシャワーで済ますけど、今日は湯船に浸かる。

 肩の力が抜けて心の底からホッとする。


 風呂から上がってお母さんに電話。

 お母さんは、会社の引き継ぎと規定で10月に入って帰ってくる。自分は、二学期の始業式から登校できるようにするため、早めの移動をしたというわけだ。


 晩ご飯は刺身。

 九州感溢れる種類の多さ。タイ、ヒラメ、ブリ、アジ、アオリイカ、タコ、ウニ…。そう言えば関東で白身の魚の刺身を食べた記憶があまりない。刺身といえばサケとマグロとカツオばかりだった気がする。それはそれで美味しかったのだが、やはり食べ慣れたのが一番だ。


「どげね?」


「おいしい!」


「そらぁよかった。どんどん食べりぃね。」


「はぁい。」


 久しぶりの故郷の味を満喫。普段より多めに食べた。

 お腹一杯になり、


「ごちそうさま!」


「腹一杯になったね?」


「うん!」


 関東の思い出話も一段落し、しばらくダラッとテレビを見ていたが、面白くないので自分の部屋へ。

 お母さん帰ってきたら釣りビジョン見れるようにしてもらわんと。とか考えつつ、


 関東の友達にメールしとこ。


 と、ここまでは思いつけたのに、幼馴染へのただいまメールを忘れてしまっていた。結局、始業式まで思い出せず、無意識サプライズになってしまい、怒られてしまったコトは少し先のお話。


 すぐに返信。

 ひとしきりやり取りをしたあと、ボーっとしているとサオが目に付いた。


 そーだ!明日、早速釣りに行ってみよ!


 引っ越し荷物から釣具を引っ張り出す。

 古いほうのは2本継のサオ。

 繋いでガイドを一直線に合わせる。リールをセットし、糸をガイドに通し、スナップを結ぶ。

 そして、今のお気に入り。


 1本物のちょっと長いサオ。


 古いのと同じように組み立てる。


 明日はこれを使おう!


 ちょっとの間、クラッチ切って糸を引っ張り出したり、リールのハンドルを回したりしたあと、睡魔が襲ってきたので素直に従った。 


 おやすみなさい…っち、あちー!


 睡魔が襲ってきたものの、蒸し暑くてなかなか寝つけない。


 筑豊の夏は暑い。とにかく暑い。

 内陸の盆地であるため、気温が北九州や福岡より数℃高い。

 その上湿気が多い為、耳の後ろとか首筋がベタベタになる。

 家にいるときの重ね着なんかあり得ない。

 女の子だから見えないようにしなくては!と、一応は思うけど、暑さには勝てません。

 上:男物の解放感抜群のタンクトップ。超ツルペタなので当然ノーブラ。

 下:トランクス。

 女だけの二人暮らしだったので、いろいろ物騒。で、カモフラージュのための手段で購入したトランクス。でも、穿いてみるとこれがなかなか!気に入ったので愛用中。友達からは具がモロ見えになる、という理由で何度も止められた。

 忠告を聞かなくて、本能の赴くままに行動するものだから、罰が当たり大惨事が起こるのだが、それも少し先のお話。


 ちなみに冬は極寒。

 筑豊はフツーに雪が降るし、積もる。峠なんかはしょっちゅう通行止めになる。

 霜はホント毎日だ。

 放射冷却で異常に冷えるため、無風の時は必ず凍る。毎朝戦いだ。お母さんはクルマと風呂の間を残り湯持って走り回る。


 というわけで、あまりの暑さに観念して少しだけエアコンをつけることにした。ホントは喉がカラカラに乾くので使いたくはないのだが、この暑さは流石に堪える。オフタイマーをセットしベッドに寝転がる。やっとのことで少し涼しくなり、深い眠りに落ちていった。



 次の日の朝。

 あまりの暑さに目が覚めた。

 遅くまでゴロゴロなんてとても無理。

 起きて、顔洗ったり朝ごはん食べたり歯を磨いたり。

 夏休みの友的な薄い問題集を解いてしまうと(前の学校から全部解いて、行った先の学校に提出するように言われている)やることがない。


 ユキくんに帰ってきたこと伝えに行こうかな?


 昨日から思ってはいるのだが、いざ実行に移そうとすると恥ずかしさが先に立ち躊躇してしまう。すぐにでも逢いたいくせに勇気が無くてどんどん後回しに。

 ヘタレな性格は相変わらず。


 困ったもんだ。


 結局何もせず、自分の部屋でボーっとしている。

 今から釣りに行くのは暑すぎる。

 日焼けもするし、日射病もヤバい。


 昼過ぎ…3時ぐらいから出ろっかな?釣具でも弄りよくか。


 リールの整備をすることにした。


 スプールの軸受けベアリングに注油。

 ハンドルノブにグリス。

 レベルワインドのウォームシャフトにグリス。


 まぁ、こげな感じかな。


 クラッチ切って糸を軽く引張り出すと…かなり弛んで止まった。


 うん。いー感じ。


 弛みが無くなるまで引っ張り出して巻きなおす。これでイチオー油は回ったはず。

 ルアーのフックを点検し、フックポイントの鈍くなったヤツは交換したり研いだりする。


 そんなことをしている間に昼。

 暑いので昼ご飯はそうめん。

 サラッと終わらせ昼寝。


 暑くて寝れないけど、体力温存の意味を込めて、扇風機の前でゴロゴロする。エアコンだと冷えすぎるし、喉が乾燥するのでここはあえて扇風機。


 ゴロゴロしている間に暑さのピークもボチボチ終わり。


 準備するかな。


 タックルはもちろんお気に入りのリョウガセット。

 ルアーは、実績ある子達が勢揃いのタックルボックスを1つだけ。

 あとはペンチをバッグに入れれば準備完了。


 超軽装備!軽装備はオカッパリの基本やもんね。


 あとは服装。


 暑いし、田舎やし誰も来んよね。


 長袖はパス。襟も袖もガバガバ、風通し重視のシャツだけタンクトップの上に着とこ。足下は草が深いと痒いので、ジャージに決まり!カメサンダルなら少々の草は大丈夫のはず。タオルを首にかけて、さあ出発!


 うわ~…可愛くねー。女子失格かな?まあ、いっかあ。


 可愛さも大事だけど、もっと基本的な大切なものを一枚、着るの忘れてませんか?


 服まで軽装備にしたことが、後々大惨事になるなんて…。




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