第1話② 再会(ちっぱいが見えてしまったお話)

 なんか流れでワームの操作を桃代におしえることになった。

 まずは、自分のタックルを使ってやってみせる。


 いつの間にか風は止み、川面はベタ凪。

 ノーシンカー(厳密には、フォールスピードを調整するために、オモリを付けてある)やるにはいい感じ。


「とりあえず見よってね。」


 バックスイングからの、


 カチッ!


 クラッチを切って、


 ビュッ!


 サオを振り切ると、


 ヴ―――――ン…ポチャ。


 着水して、


 ツ―――…


 糸が一定速度で僅かに波を立てながら、水中に引き込まれ…止まる。

 同時に、サオから水面までの糸の弛みが大きくなった。

 これが着底のシグナルだ。


「これが底ね。わかる?」


「うん。なんかフワっちなったね。」


 理解が早い。


 カチッ!


 ハンドルを回し、クラッチを戻すと少し巻き取り弛みをなくす。

 再びサオをスッと立て、ワームを浮き上がらせる。

 サオを寝かせ、弛んだ余分な糸を巻き取り、


 ツ―――…


 これの繰り返し。


「こげな感じ。暇に感じたりせん?」


「ううん、全然!」


 横に座り、キラキラした表情のままじっと糸の動きを観察している。


 なんか…いーな。


「んで?魚きたら糸どげなるん?」


「んーっとねぇ、糸が沈む速さ変わる。早くなったり、まだ沈むはずのが途中で止まったり。あとは横に走ったりもする。サオ先にコツンっちくるときもある。どのアタリ出ても一呼吸待って強めにアワセる。」


「それっち、でったんドキドキもんやない?アワセのタイミング難しそ。なんかウキ釣りみたいやね。」


「そらぁもぉドキドキやね!楽しいよ。好かん人はじれったいき嫌とかゆーけどね。ウキ釣りっち結構似ちょーかもね。アワセのタイミングは馴れやもんね。最初はフロロよか、ナイロンのが軽いで浮くき、色々わかりやすいっち思う。」


「そーなんて。こんやか?はよ見てみてぇっちゃ!ちゆーか、ウチのサオでできんの?プラグ用じゃ軟すぎる?」


「できんことはないよ。食ったらプラグよか大きくアワせりゃ大丈夫。」


 というわけで、早速試すことに。


「はい。これとこれね。」


 オフセットフックとワームをわたす。

 最も無難で信頼しているスティックベイト。4インチヤマセンコー。カラーはプロブルー。

 地べたに腰を下ろし、胡坐をかいて、若干前かがみになって、黙々と仕掛けを作る桃代。

 と、この時。

 ユキ史上最大級のエロ事件が発生していた。

 横に立ち、釣りしながら何気なく作業中の手先に目を移すと、偶然胸元まで視界に入った、のだが…


 ん?


 目を疑った。


 オレ、暑さでアタマおかしくなったかの?


 念のため、もう一度よ~く見てみる。


 違う、そうじゃない!


 暑いから襟も袖も大解放なわけで。

 シャツの下に、透け防止の意味であろう黒いタンクトップを着ているものの、その下は素肌のみ。

 透き通るような白い肌。

 うっすら、本当にうっすら。申し訳程度のごくごく僅かな盛り上がり。

 その頂上には…キレイなピンク色。


 生乳100%! いいね!


 超がつくほどのツルペタだけど、男のとは明らかに違う、柔らかな曲線で構成された女の子の、胸。

 芸術的ですらある。あるのだけど…ムラムラ真っ盛りでイカ臭い男子中学生にこの刺激は猛毒に等しい。

 週刊誌のグラビアですら超敏感に反応する。それがナマモノともなると、もはや冷静でなんかいられるはずがない。

 心拍数が、本日二度目のレッドゾーンに突入する。

 同時に海綿体への血液の流入が開始される。激しく脈打ち、どんどん厳しくなってくる愛棒。見る見るうちにテントが完成する。


 フル勃起!不自然に腰が引けて、パンツで先っぽ擦れていー感じ❤


 とか考えている場合じゃない。

 短パンの、チン●の部分があからさまに盛り上がり、流石に言い訳できない状況になっている。


 緊急事態発生!


 急きょ、落ち着くまであっちを向きつつ立膝で座って釣ることに。


 数投しかしてないのに、わざとらしかったか?


 桃代も何か思うことがあったのか、


「どげしたん?」


 不思議そうな顔して聞いてくる。


「いや、ちょっと疲れて…。」


 ダメだ!言い訳が嘘っぽすぎる!そもそもそんなに疲れるコトしてねーし!


「そぉなん?」


 一層不思議そうにこちらを見てくる。

 胸を意識しまくり、どうしてもそこにしか目がいかなくなってしまっていた。


 座ってもかなり奥まで見えるじゃないか!


 今の時点で乳輪が確認できるほど。

 最大級のピンチのはずなのに一切気付くことなく、一生懸命ワームをセットしていらっしゃる大好きな人。

 これまで感じたことのない罪悪感に胸を締め付けられた。


 このままずっと見ていたい。いや…でも…それは人として…。


 天使と悪魔がモーレツに格闘中である。


 激闘の末、僅差で天使が勝った!


 よしっ!ここは、ありのままを伝えることにしよう。


 このまま見続けていてもバレるのは時間の問題。


 コソッと見よったの、バレたら軽蔑されるよね?それはショック過ぎる!


 というのもあるけど、無防備すぎるのはもっと問題。この後、他の釣り人がやってきて気付かれでもしたらこの上なく嫌。

 見続けたい気持ちを押し殺し、勇気を振り絞って頑張った。


「あの~…大変…申し上げにくいこと…なんですがぁ…」


「ん?な~ん?ウチ、セットのし方、なんか間違っちょった?」


「いや…そぉではなくて、ですね…」


 言い辛い。


「どげんしたんねっちゃ!」


「…ゆって怒らん?」


 ヒジョーに言い辛い。


「なんねっちゃ!怒るわけなかろぉもん!勿体ぶらんでゆってん?」


 笑顔が眩しい。

 罪悪感がMAXだ。


「心して聞いてね…」


「何?」


「モロ見え。」


「何が?ハリ先?」


「いや…そーじゃないで、えっと…ね?……乳が。」


 言葉の意味を噛みしめ、ことの重大さを理解した時、眩しい笑顔のまま固まった。

 僅かな間をおいて、


 チュドーン!


 爆発音が聞こえた…気がした。

 笑顔から一転、顔全体が爆発的に真っ赤に染まり、狼狽え、セット中のワームを放り投げて胸を押さえ、咄嗟にあっち向く。


「うそ?マジで?」


「うん、マジで。」


「どこまで見えた?もしかして…先っぽまで?」


 すぐさま顔だけこっち向け、聞いてくる。


「先っぽまで?」っち…ノーブラの自覚はあるんやね。


 それにしても今の涙目と、大赤面で狼狽えた顔が反則的に可愛い!

 破壊力がハンパなかった。


 自分の身に直で降りかかったエロいイベントには、こげん取り乱すって。

 訳:こんなに取り乱すんだ


 初めて知った幼馴染の一面。

 ちょっと新鮮。


 っち、そもそも小さい頃エロいイベントとか無かったしね。


「うん。それはもぉ、両方ともハッキリクッキリとね。」


 見たままを告げると、


「あちゃ~…しまった~。やらかした~。で、どぉやった?」


「…はい?」


 どぉやったっち、何?オレ、感想を求められている?


 怒られてぶっ叩かれるのを覚悟していたから、想定外の反応をされ戸惑う。


 この場合、何ち答えるのが正解なん?


 全力で考えるものの、圧倒的な経験不足。というか未経験ゾーン。残念ながら自分の引き出しの中に、「不意に生乳を見てしまった時の対応マニュアル」は…無い。

 緊急事態である。

 できるだけ早く最適解を導き出し、安心させてあげる場面なのだ。

 なのに、


「えっと…おいしかった。」


 っち…食レポやねぇんぞ?やっちまったよ!なんてこったい!ガッカリだよ、オレ。ここは上手いことフォロー入れなきゃでしょ!


 激しく後悔していると、


「それは…どうも…」


 まさかのお礼。


 ん?怒ってない…正解か?この答、正解だったのか??


 表情を見つつ答え合わせをしていると、


「ウチが巨乳やったら、いつでもどこでも見せまくっちゃるのに!しかも揉ませて吸わせてパイズリもしちゃるのに!」


 なんかもう、可哀そうなくらい空回り、グダグダになってしまっている。


 早く何か気の利いたこと言ってあげないと!


 とは思っているものの、気ばかり焦り


「………」


 激痛な沈黙。

 コチラもテンパりマクっているので、適切な言葉が出てこないのだ。それでも尚、言葉を探していると、


「ちっぱいでごめんね?」


 謝られてしまう。

 申し訳なさそうな顔。


「そ、そんなことない!見せてくれてありがと!」


 口を開いた瞬間、さらに青ざめる。 


 いやいやいや!「見せてくれて」っち?「ありがと」っち何よ?


 いい加減、自分のアホさに呆れ果てる。

 後悔の波に飲み込まれそうになった時、


「ははは、なんじゃそりゃ。で、コフーンした?」


 笑ってくれた。

 徐々に持ち直していっているようで何よりだ。

 その後も、


「うん。もちろん!二次元とは比べ物にならんばい!流石ナマモノ!おかげで我慢汁デロデロ!」


「当たり前て!JC様のナマ乳首ぞ!鮮度が命!エロDVDやらエロ本と一緒にすんな!今晩、ちゃんとオカズにするよーに!んで明日、コイた回数と使い心地の感想聞かせるよーに!」


「了解!ご飯何杯でもイケそうばい。」


 どうにかアホなやり取りを出来るようになった。

 というか。

 ネタ的に完全にオイサンだ。

 安心していると、


「ウチ、顔こんなんやけど、ユキくんっち昔からウチのこと、ちゃんと女の子として見てくれるよね?だき(=だから)、でったん嬉しいっちゃん。」


 そんなことを言ってくれる。


 当たり前やん!大好きな人ですもの!女の子扱いしますとも!ちゆうか、女の子扱いしかしませんとも!


 といった本音はヘタレなので言えるワケもなく。


「そーやったかね?」


 昔のコトは忘れたフリをしてみた。


 そして釣りを再開しようとしていると、さっきまでのキラキラ笑顔が邪悪なそれに豹変し、


「ところで質問っ!」


「ん?」


 心当たりはある。ありすぎる。なんかもう嫌な予感しかしない。


「なんで立って釣りしよったんにいきなし座ったんですか?しかも膝立てて。もしかしてウチの乳みて勃起した?」


 ほらね、気付かれちょった。っち、あっこまでわざとらしく座ったりしたら流石にバレるよね。ちゆーか、質問どストレート過ぎやし。


「いや…それは…」


 誤魔化そうとはするものの、


「ウチの乳、タダでコソッと見たくせに!そこはおしえちゃらないかんやろ!」


 いちばん痛いトコロを突いてくる。

 全然許してくれそうな気配ではない。


「うっ…それは…。」


 返答に困る。


「正直に!」


「はい…。」


 強引に白状させられた。


「どぉ!見してん!」


 力ずくでM字開脚的に股を開かれると、


「あれ?なぁ~んも勃起やらしちょらんやん。」


 残念そうな顔。


「大丈夫。とりあえず収まったき。」


 サムズアップで有耶無耶にしようと試みる。


 勃起し過ぎてカウパー出まくり。先っちょヌルヌルでタマ●ン痛いけどね。


「ちっ!残念。」


 あまりにも残念そうな顔だったので、


「もっかい見せてくれたら今すぐにでも勃つけどね。」


 ニヤケながら言うと、


「バカ!二回目やらあるか!」


 顔を真っ赤にしながらぶっ叩いてくる。


「いでっ!ですよね~。」


 ゴソゴソとポケットから何かを取り出すフリ。


「『ユキくんは、ちっぱいでも勃起する』と。よし!覚えた。これで一安心。」


 エアメモ帳にエアシャーペンで書き込むフリ。

 な~にが「一安心」なんだか。




 乳首見せ(?)事件もひとまず終息し、釣り再開。

 桃代、ワーム極めるの巻。

 数投しただけなのに自分のサオじゃ操作しにくいことに気付き、


「ウチの軟過ぎ。しにくいき、ユキくんの貸しちゃらん?」


 わたすと、すぐさまおしえてもらったことを実行。


 と、ここで。


 巻き(プラグ)と撃ち(ワーム)のサオの違いについて。

 プラグには通常、トレブルフックという三本イカリ針が複数個着いている。このトレブルフックは、刺さる部分が多く、掛かりやすいが、ハリ自体小さくて懐も狭い。懐が狭いということは、掛りが浅くなるということ。

 浅いと暴れた衝撃で身切れを起こし、バレることになる。

 ファイト時の衝撃を効果的に吸収するため反発が弱い素材でできている。


 ワームはシングルフックを使う。シングルフックとは「釣り針といえば?」と尋ねられれば思いつく、あの形のハリである。

 軸が相対的に太く、懐も広く、頑丈にできている。

 よってバレにくい。

 しかし、軸が太いということは刺さりにくいということでもある。この刺さりにくいハリを、魚の硬い口に貫通させなければならないので、硬くシャキッとした反発の強い素材でできている。


 勝手に掛るか(実際にはアワセるが)、こちらから意識して掛けるかといった釣り方の違いがサオの硬さに現れている。

 しなり方が明らかに違うため、釣りをやらない人でも振っただけで分かるくらい極端に違う。


「なるほど。こっちのが断然操作しやすい。今度ワーム用のサオ買お。」


 ホントはこれ、ワームザオじゃないでビッグベイトザオなんやけどね。


 さっき釣った杭エリア。

 流れが緩く巻き、反転流を形成するポイントを正確に撃つ。

 ゆっくり糸が沈みだし、中層を通過した辺りでフォールスピードが急に早くなる。


「これがアタリか!」


 小さくつぶやき、言われた通り一呼吸待って体重を後ろにかけ、仰け反るような男顔負けの鋭いアワセ。

 直後、サオが大きく弧を描く。


「よっしゃ!ノッた。ウチすげくねぇ?いきなし掛けきったばい!」


「やるぅ!」


 お世辞じゃなく、マジで上手い。

 重いルアー専用タックルなので、寄せるパワーはかなりある。だから強引なやり取りは超得意。

 障害物に入り込まれないよう魚を誘導。

 主導権を魚に与えないよう、一気に巻き、寄せる。

 そして取り込み。

 豪快に抜き上げた。


「お~!これもなかなか。40cmはあるね。」


 左手で下アゴをつかみ、右手でフックを外す。

 手慣れたもんだ。

 とてもワーム初心者とは思えない。


 記念撮影して指を広げ測定。

 魚をそっと水に浸け、手を離し逃がす。

 勢いよく元いた深場へ戻って行った。


「ありがと。バイバイ。もっとおっきくなってまた遊ぼ!」


 去っていく魚にお礼とお別れ。小さく手を振り語りかける。


 そういえば、さっきもしよったな。なんか、あのやり取り…いいな。




 ぼちぼち暗くなってきた。

 糸も結べなくなるし、バックラッシュでもしたら修復不可能だ。 


「暗くなってきたき、そろそろ帰らん?」


「そぉやね。」


 片付けて歩き出す。

 横に並ぶとユキの方が若干低い。


「今日はなかなか良い日でした!魚も釣れたし、また会えた!乳見られたのは予想外やったけど。」


 自分で蒸し返したくせに赤面しているのがエライカワイイ。

 そして、


「そーだ!」


 突然ポケットに手を突っ込み、こちらにケータイを突き出してきて、


「おしえて!」


 そっか。知らんやったんよね。


 一応ケータイは持っているが、あんまし興味がなかったため、いじり方がよくわからない。


 ここは桃代ちゃんに任せるか。


「オレ、いじり方よぉわからんき暇がかかる。勝手にいじっていーき、しちゃらん?」


「いーよ。貸してん。ちょっとサオ持っちょって。」


 素早く操作。

 流石、関東経験者。

 都会モンは一味違うぜ!

 っち、そういう問題じゃない。自分が疎いだけ。


「よし。これでヤラシイ写メとか送れるね。今晩勃起したとこヨロシク!」


 すぐ、そっちの方にハナシを持っていきたがるのがなんか面白い。

 だから、


「いーよ。その代り桃代ちゃんのマン●の写真も送ってよ?」


 そんな言葉で返す。


「ははは。そのうちね!」


 このばかばかしいやり取りが、心から嬉しいと思えた。




 帰り着くと部屋で一人、しみじみ思い出す。


 今日はいい日やったなー、と。


 頬が緩んでいるのが自分でも分かる。


 五年前の楽しかった日々が戻ってくる!


 そう考えると明日からでったん楽しみだ。





 再会できて、あの頃の思いが甦った。

 空虚だった日常に、最高の輝きが加わった。


 今度こそオレの気持ち、伝えることができるかな?できるといいな。


 そして…


 改めて。


 お帰り!桃代ちゃん!!

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