第40話① マイカー(クルマを探そう)
帰郷した次の日。
桃代は爺ちゃんの愛車、ハイゼットトラック(青・4WD)を借りて出社した。
関東にいた時は、通勤を含め公共の交通機関を利用した移動が普通だった。
バスも電車も本数が多く、行先も様々で、大概のところは数回の乗継で辿り着くことができる。
特に電車は渋滞しない。
事故とか自然災害の影響がない限り、正確な時間に目的地に到着できる。
夜の遅い時間まで走っており、都心に至っては最終が深夜1時くらいだ。
それに比べクルマはどうだ?
まず渋滞する。交差点では信号が複数回変わっても通過できないのが普通。
時間が読めないため時間厳守の用事には圧倒的不向きだ。
都会では土地が狭いため駐車場の問題も無視できない。
上手いこと自宅やアパートに駐車場があればいいが、そうでない場合も多い。
家からかなり離れたところに駐車場を借りている人も多く、金額も高い。
出先でも駐車料金を払わなければならなくて、しかも高い。というか、出先に駐車場が無いことだってある。
どうしてもクルマが必要な時は、営業車を貸してもらえるから、なおのことマイカーはいらない。
九州事業部はというと。
家から近いとはいえ、歩きだと3~40分はかかる。
公共の交通機関で最も身近なのはバス。
しかし、会社の位置的な都合で通勤には使えない。
産廃屋という職業柄、結構な山の中なのだ。
家からバス停は近くても、会社の近くにバス停がない。
しかも、極端に本数が少ない。
人口の流出に歯止めが効かず、寂れていく一方の町。
これから先、バスという交通手段そのものが無くなる可能性だってある。
だから、移動手段として、どうしてもクルマとか原チャが必要となってくる。
チャリという方法もあるにはあるが、イノシシが怖い。
日のあるうちは見かけないが、夕方辺りからちょいちょい見かけるようになる。
山の中とはいえ傾斜はさほどキツくなく、20分ほどの距離。
運動にもなってよさそうなのだが、結構命がけだったりする。
爺ちゃんは、毎日使う訳じゃないから通勤に使っていいという。
でも、全く必要ないかというと、そうじゃない。
近くのホームセンターとかスーパーへ買い物に行ったり、釣りに行ったりする。
婆ちゃんは運転できるけど、自分のクルマを持ってないし、お母さんは通勤に毎日使う。
二台とも出てしまっている時に、有喜がケガや病気をしたら?
ないハナシではない。
以上のような理由で、いつでも動けるクルマが一台はないと困るのだ。
とりあえず今はユキが毎日乗せて行ってくれているけど、世話になりっぱなしじゃ申し訳ない。
せめて、一日交替くらいで乗せて行ってあげたい。
関東にいた時は、特別遊びまわったわけでもなく、高額なブランド品を買ったわけでもない。
大きい出費は全くなかった。
それなりの新車を一括で買うだけのお金は持っている。
というわけで、購入を決意する。
どんなのにしよっかな?
広くて楽に荷物を積めるのがいいな。
そうすると…ミニバン?ステーションワゴン?
軽自動車でも普通車でも、この方向で探したら見つけやすいよね!
色々考えていると、ちょっとだけ楽しみになってきた。
桃代が異動してきて2週間ほど経った週末、土曜日のこと。
只今ユキは、休日出勤中。
ふて腐れながら原子吸光分析の前処理をしていた。
金曜日、週末モードでウキウキの中、まさに帰ろうとしたそのとき、大急ぎで分析しなければならないサンプルが入りやがったのだ。
せっかく桃代が来てくれたおかげで手つかずのサンプルがほぼ無くなったというのに…。
溶出試験なので、一日仕事。
月曜日中にはデータの提出を要求されているから、その日の朝には測定しないと間に合わない。
というコトは、土日のどちらかで振とうと濾過までやっておかないと。
日曜出るのはマジで嫌だったから、土曜に渋々出勤した、というのがこれまでの流れ。
桃代が手伝おうとすると、
「そこまで多くないし、オレ一人でやるきいーよ。ユーキと遊んでやりよき。」
と言って、一人で全部引き受けた。
仕事上ではパートナーなので、一人にやらせるのは非常に申し訳ない。
大好きな人だからなおさらだ。
せめてお昼ご飯でも!と思い、作って持って行ってあげることにしたのだった。
3人で食べる。
昼休みも終わり、ユキは作業を開始する。
完全にやることが無くなった。
一緒にいたかったけど、有喜が暇を持て余しそうだったので、仕方なく帰ることにする。
会社から戻り、弁当箱を洗うと完全にやることが無くなった。
何をしようかと考える。
庭に目を移すと母親のクルマがある。と、ここでいいことを思いつく。
お母さんどっこも行かんのなら、クルマ借りれるかもよね?もし借りれたらちょっと自分のクルマ探しに行ってみよう!
思いついたらすぐ実行。
「お母さん。今からどっこも行かんのならクルマ貸して?」
「いーけど、どこに行くん?」
「ん?自分のクルマ探そうと思って。」
「そーね。じゃ、行ってき。」
キーを受け取り、いざクルマ探し!
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