大学生編

第34話① 崩壊(始まり)

 関東に旅立つ前日。


 ユキの部屋にて。

 桃代はユキにいっぱい可愛がってもらった。

 

 高校時代はいつも一緒で、好きなときに好きなだけ抱きしめてもらえた。

 

 でも…これからは違う。

 

 一緒にいることすら叶わない。

 逢えるのは長期休暇の時だけ。

 

 これだけドップリと依存しきっていて、果たして4年間耐えられるのか?

 

 永遠を感じる。

 絶望でしかない。


 そんなことを考えながら、互いの身体が離れた時、少しだけ何かが壊れた…気がした。

 猛烈な寂しさが容赦なく胸を抉る。

 酷く心が痛い。何度も何度も悲鳴を上げている。

 涙が頬を伝う。


 ユキが優しく涙を拭う。

 

「次、逢うのはゴールデンウィークか夏休みやね。気を付けて行ってきぃよ?病気せんごとね?土産話、楽しみに待っとくよ。」


「………。」


 心配させまいと必死に笑顔で応えようとするが、引き攣ってうまく笑えない。

 声が出ない。

 返事すら真面にできない。

 かなり痛々しいことになってしまっている。

 既に相当心が病み始めている。

 無理矢理笑顔を作ると、名残惜しさを断ち切るように勢いをつけユキの部屋を後にした。



 出発の朝。

 ユキに小倉駅まで送ってもらう。

  

 新幹線のホームにて。

 発車までの間、ずっと手をつないだまま二人並んでホームのベンチ。

 涙が止まらない。


 電車が到着し、車両の中と外。

 奥に入ろうとする間際、激しく抱きつき人目も気にせずキスをした。 

 ユキはこの時、明らかにおかしいと思った。

 そもそも桃代は人目があるところでキスなんかしない。というか、できない。恥かしさが先に立って絶対できないのだ。

 不安が大きくなってくる。

 

 いよいよ出発。

 発車のベルが鳴る。

 車両の内と外。


「気を付けて行ってらっしゃい。」

 

「…行ってきます。」


 なんとか声を絞りだす。

 と同時にドアが閉まった。

 

 

 今度こそ、ずっと一緒にいれると思っていたのに…。


 またしても予期せぬ出来事により引き裂かれることになった。

 なかなか思うようにならない。


 大きな不安だけを抱え、関東に旅立つ。


 桃代の二度目の筑豊生活が幕を閉じた。


 新幹線の中でずっと泣きっぱなしだった。

 美咲と渓がずっと側にいてくれた。




 夕方。

 寮に到着する。

 五階建てで、それが二棟。

 パンフレットでは見ていたが、実際に見るとかなりの規模。

 片方が文系、もう片方が理系。

 大まかにそう別れているらしい。

 美咲と渓は同じ棟で、桃代が別の棟ということになる。


 今晩は桃代が心配だ。

 自分の引越し荷物には手を付けず、手荷物を部屋に放り込み、すぐさま二人で駆けつける。

 桃代の部屋をノック。


「…はい。」


 力のない返事。

 ドアを開ける。

 泣いてはいなかったが、座ってボーっと遠くを見つめている。


「桃?大丈夫か?」


「うん…ごめんね…心配かけて。」


 寂しそうな顔がすごく痛々しかった。


「そげなことはいーちゃ。でも、はよ元気出さなぞ?」


「うん。」


「飯食い行こっか?」


「そやね。」


 部屋を出て寮の食堂へ。



 食事を終え、駄弁っていると桃代のケータイにメールの着信音。

 画面を見ながら目がウルウルしている。


「ユキ?」


「…うん。」


 寂しさを紛らわすためのやり取りがしばらく続く。

 美咲と渓は、ユキに今の客観的に見た桃代のコトを報告する。


 『桃ちゃんのことよろしくね。』


 桃代のことを託された。


 『まかせろ!でったん慰める!』


 そう返信して安心させる。


 関東での一日目は、涙と不安で過ぎていった。

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