第33話 別離

 11月。

 

 大学入試が始まった。

 

 まずは推薦入試から。

 

 流石に各々の希望が大きく異なるため、一纏まりで同じ大学という訳にはいかない。

 文系、理系、専門学校、就職。

 完全にバラバラだ。

 

 

 

 男子チームで進学を希望する者は、年内に終わらせてしまいたいから、すべて推薦入試。

 落ちたらその時考える。

 ユキ、千尋、海、大気は県内の公立理系四年制大学を志望。

 ユキと千尋は地元の同じ大学。

 海は福岡、大気は北九州である。

 朗は地元の専門学校を志望。

 この専門学校は、他の大学の3年次に編入可能なシステムがあるらしい。

 そこから大学を狙うことにした。

 ちなみに建築科だ。

 

 女子チームの推薦は以下の通り。

 桃代は地元の公立理系四年制大学を志望。ユキや千尋と同じ大学だ。

 菜桜、千春、舞、環、は県内の私立文系四年制大学志望。

 菜桜は地元の私立の指定校推薦。

 美咲と渓は指定校推薦で関東の私立文系四年制大学志望。

 ミクは福岡の公立文系四年制大学志望。

 涼は、先生の紹介で地元の製菓会社を薦められ、工場の製造要員として既に内定をもらっている。

 

 

 

 ついに入試が始まる。

 まずは専門学校と私立大の推薦入試だ。

 みんな一生懸命頑張った。

 

 結果は以下の通り。

 千春は北九州の大学の文学部。

 環は福岡の大学の文学部。

 舞は福岡の大学の商学部。

 菜桜は地元の大学の社会福祉学部。

 美咲は関東の大学の商学部

 渓は関東の大学の経済学部。

 美咲と渓は同じ大学だ。

 朗は地元の専門学校の建築科。

 

 そして公立大の推薦入試。

 ユキと千尋は地元の同じ公立大。

 ユキは工学部環境化学科環境コース。

 千尋は工学部電気科電子コース。

 海は、ユキ達より偏差値の少し高い福岡の公立大の理学部生物学科。

 大気は北九州の公立大の工学部電子科情報コース。


 上手いコトほとんど全員推薦で合格した。

 

 


 で、桃代とミクは?

 

 桃代は大変なことになっていた。

 受験生最大の敵ともいえるインフルエンザ。

 この年は例年になく猛威を振るった。

 推薦入試の2日前から体調を崩す。

 倦怠感と関節痛。

 熱を測ると38度。

 風邪を引いたと思い病院へ行くと、インフルエンザと診断され、一週間の出校停止。

 推薦入試を受けることができなかった。

 

 学校、学部、学科を全てユキと同じにして臨んだ受験。

 まず推薦で躓いた。

 ユキは決まったため、既に選択肢が一つだけとなる。

 同じ学校に行くためには一般入試で合格しなければならない。

 偏差値的にかなり余裕があるが、三月まで勉強尽くし。


 ミクはそもそも推薦を受けてない。実力で一般入試オンリーだ。


 …長い。


 頑張るしかない。

 

 

 

 ユキ達は自動車学校に通いだす。

 二人は羨ましく思いながらも、合格を勝ち取るべく勉強を頑張る。

 

 

 

 一月の中旬。

 公立の※一次試験。 ※)作中では昔の方式に似た試験です。

 手ごたえはあった。

 あとは二次試験を頑張るのみ。

 

 二月。

 私立の一般入試。

 前半、桃代は美咲と渓の通うこととなる学校の理系を受験。

 難なく合格する。

 ちなみに第一志望の公立より偏差値は高く、以前関東に住んでいたアパートの近所だったりする。

 とりあえず、現役で大学に進学できることとなり、ホッとした。


 二月下旬から三月上旬にかけては地元の私立。

 もしも万が一、公立がダメでも遠くに行かなくていいよう、保険のために三校受験する予定だ。

 

 

 

 この年の風邪は質が悪く、学年閉鎖になるほど激しかった。

 細心の注意をしていた。

 マスクもしていたし、帰ってウガイと手洗いも欠かさずやった。

 寒く無いように着込んで、暖房も入れて勉強を頑張っていた。

 そこまでやってもかかるときはかかる。

 ここにきて風邪でダウン。

 地元の私立試験日前日に激しい悪寒。

 熱を測ると40度超え。

 意識が朦朧とする。

 真夜中病院へ。

 試験どころじゃなかった。

 39度以上の高熱が数日続く。

 思ったより回復が遅れ、二週間以上学校を休んだ。

 その間に公立の二次試験を含む全ての入試は終わってしまい、一校も受験できなかった。

 ユキが毎日見舞いに来てくれた。

 嬉しかったがやはり落ち込む。

 別離の足音が聞こえてくるようだ。


 二度と離れたくない!


 そう誓ったのに…。




 長期に及ぶ欠席。

 どうにか学校に復帰できるほど回復。

 二次募集など視野に入れてなかったため、願書を出すどころか調べもしてない。

 学校で情報を収集してみたが、願書の受け付けなどとっくに終了していた。


 一縷の望み。

 二次募集。

 前年、第一志望の公立は定員割れを起こしており、二次募集があった。

 それに賭けるしかない。

 

 と、思ったのもつかの間。

 この年は定員割れを起こしてなく、二次募集は行われなかった。

 

 桃代の大学受験は終了した。


 見事なまでの負の連鎖。

 結局受験できたのは五校のうちの一校だけ。


 関東行が決定した瞬間だ。

 

 何の冗談?ウチなんか悪いことした?


 目の前が真っ暗になる。

 思いっきり泣いた。


 ユキは、


「あ~あ…一緒に行きたかったなぁ。でも、こればっかりはしょーがないね。四年間頑張って!毎日メールする!ゼッテー待っちょくき!」


 約束してくれた。

 嬉しかった。

 けど寂しい。

 

 小学校の頃の引っ越しでは、ユキに対する強い思いはあったものの、今のような激しい依存はなかった。

 付き合っているわけではなかったしまだまだ幼かったのでので、気の持ちようが違ったのだ。

 が、今は状況が違う。

 彼女であり、しかも強力に依存している。

 離れるなど恐ろしくて考えられない。

 

 遠距離恋愛。

 

 ウマくいかなくて別れた。

 よく聞く話。


 自分達はそんなヤワな関係じゃない。強い絆で結ばれている!


 そう自分に言い聞かせるけれど、不安は全く拭い去れない。

 

 ずっと後になって思うこと。


 浪人して同じ学校に行けばよかった!


 後の祭りである。

 

 

 とりあえず、教習所に通うことにした。

 入校時期が遅かったため、こちらで最後まで終わらなかった。

 残りは関東の教習所で取ることになった。

 

 

 ミクはというと。

 第一志望の福岡の公立文系四年制大学は不合格。

 志望順位の低い愛知の私立文系四年制の大学に二次募集で辛うじて決まった。

 三月末の出来事だった。



 幼馴染女子チームは桃代以外全員文系だし、同じクラスに菜桜がいるため、何かしら話す機会がある。だから、このことはみんな知っている。

 しかし、男子チームは理系なのでなかなか会う機会がなく、その上二次募集だったため、最後の最後まで受験勉強だった。だから、誰にも何も話せないまま春休みを迎えることとなったのだ。

 

 春休み。

 合格通知が来た翌日のこと。

 ミクはユキに結果を伝えるべく、近所のファーストフード店で会うことにした。

 同じ学校とは言え、なかなか会う機会がなかったため、まずは世間話で大いに盛り上がる。


 そして本題。

 

「小路…あのね…ウチ…愛知の大学決まったよ。福岡のに行きたかったけど落ちたっちゃん。もうすぐ一人暮らしせないかん。でったん不安ばい。寂しかったら連絡するき、よろしく。」


 寂しげな顔。

 

「そっか…遠くに行ってしまうんやね。でったん寂しくなるね。でも、決まったきよかったやん。おめでと。」

 

「ありがと。桃のことであんなに困らせたのに、寂しいとか思ってくれるって。」

 

「思うくさ。長谷さん、こげなヤツでも今までずぅっと仲良くしてくれたんやもん。」

 

「『こげなヤツ』じゃないっちゃ。小路、自己評価低過ぎ。それよくないよ?」


 諭すように言って微笑むと、

 

「自分に自信ないきね。これから頑張ってみる。」

 

 笑って返す。

 そして、少しだけ真剣な顔になり、

 

「気を付けて行ってこなばい?いつでも連絡しーよ?悪い男につかまらんごとね。長谷さん、可愛いき心配。」

 

 いつもの心配性を発揮している。

 

 

「ありがと。小路、ウチのこと可愛いとか思ってくれるって?嬉しいよ。」

 

 温かい気持ちになって少し照れた。


「思うくさ。悪い男もそうやけど、ゼッテー身体壊さんごとね?病気やらケガせんよーにね?なんかあったらオレ、ホントイヤやきね!」

 

 真剣な表情。本気で言ってくれているのがものすごく伝わってきた。


 桃と離れ離れになるの、ツラいやろうに…こんな時でもウチのこと、真剣に心配してくれるんやなぁ…。


 諦めるどころかますます好きになってしまう。

 


 既にかなりの時間、居座ってしまっていた。

 流石に気が引けて、

 

「ボチボチ出よっか?」

 

「そーやね。」


 店を出る。

 

 無言のまま並んでゆっくり歩く。

 ミクの家が近づく。

 

「ねぇ、ユキ?」

 

 あの…実はまだユキのこと好きで…諦めきれてなかったりするっちゃけど。やっぱウチじゃダメかね?

 

 そのあとに言おうとした言葉。

 

 あと少し勇気が足りなくて、結局言えなかった。

 これから先、諦めきれるかどうか分からない。

 諦めきれなかったその時は…再度告白しよう。

 心に誓った。

 

「ん?」

 

 呼び方変わった!


 そんなことを思いつつ、ミクの顔を見ると目が合った。

 涙を浮かべて微笑んでいた。


 でったん可愛い!


 そう思った瞬間。

 背伸びして目を閉じ、

 

 チュッ!

 

 頬に微かな温もり。

 触れるだけの口づけ。

 悪戯っぽく笑うと、

 

「じゃーね。またいつか。いってきま~す!」

 

 走って行ってしまう。

 

 あえて、「バイバイ」とか「サヨナラ」は言わなかった。

 可能性が完全に0になるその時までは、その言葉は言わないでおこうと決めていた。

 

「あ…ちょ…」

 

 上げて何かしようとした右手が空を切る。

 頬を擦りながら呆然としていた。

 

 家に帰り、自分の部屋に駆け込むミク。

 サヨナラは言わないと決めたものの、それは自分の中だけの決め事で、これが最後という可能性も否定できない。

 そう考えたとき涙が頬を切った。

 ベッドにそのまま突っ伏して、しばらく泣いた。

 

 数日後、ユキへの思いを胸に抱き、愛知へと旅立っていった。

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