第29話① お買いもの(桃代の場合)

「桃ぉ〜…お前、もーちょい女っぽい服着らな、つまらんっちゃ〜。」

 

 期末も終わり、夏休みを意識しだす7月上旬の週末。

 土曜日の午前中。

 桃代は女子の幼馴染全員から、普段着についてダメだしされていた。

 

 参考までに。

 桃代の普段着はというと、冬は主に上下揃いのジャージ数セット。

 何着かのジーンズとトレーナー。防寒のための上着が数点。

 夏は上がタンクトップとTシャツ。下はショーパンとハーパン。ちょっとした上着的なものが数点。

 シンプルなモノばかりで、女の子らしいヒラヒラフリフリした服が一着もない。

 スカートに関しちゃ制服だけしかない。

 太ももの、スカートを穿いたら見える位置に大きな火傷の痕があるため穿きたがらないのだ。

 それにしても、年頃の女の子なのに持ってなさすぎる。


 あと、持ってなさすぎる一番の原因は顔の傷痕。

 このせいで自己評価がすこぶる低く、オシャレすることからことごとく逃げてきた。

 無傷の方は超絶可愛いのだから、活かせばすごくいいのに…。


 ちなみに他の幼馴染達はちゃんとオシャレに興味を持っていて、全員自分がどんなカッコをしたら可愛らしいかよくわかっている。

 

 

 

 ※筆者はオシャレに疎いので、流行とかそーゆーのは全く分かりません!センスなんか皆無ですので詳しい描写が不可能です。ごめんなさい。

 

 


「え~…だってウチ顔こんなんやし。オシャレとかしたっちゃ全然似合わんと思うし。サオとリール買わないかんし…。」

 

「うるせー!ごちゃごちゃゆーな!今日は服買い行く!」

 

 往生際が悪いので菜桜から怒られる。

 

「ちょ!待って、菜桜!ウチの意見は?」

 

「うるせー!そげなもんは無い!」

 

「なんでよ!ウチ、服やら買わんきね!」

 

 すると渓が、

 

「ユキから嫌われるぞ?浮気されたらどーする?」

 

「ユキくんはそんなことしません!」

 

「ミクも狙いよぉし。」


 弱いところを情け容赦なく突いて、煽ってくる。

 そして意地悪く笑う。

 

「!!!」

 

 ビクッ!と身体が震えた。

 ミク効果あった!

 かなり動揺している。

 この頃桃代に対して遠慮しなくなってきつつあるミクだから、かなりの脅威なのだ。

 環とともにミクを猛烈に警戒している桃代であった。

 不貞腐れながら、


「分かったちゃ。行けばいーんやろ、行けば…。」


 OKした。

 

「渓、ナイス!」

 

 菜桜がサムズアップ。

 渓もサムズアップし返す。

 

 

 

 という訳で、隣町のショッピングモールに無理矢理連行されることとなったのだった。

 メンバーは桃代、菜桜、環、美咲、千春、渓、涼、舞、ミク。

 駅までのバスの中。

 

「あ~あ…どーしてこうなった…。」

 

 一人だけブルーの桃代。

 家を出て今まで、ずっとブツブツ言っている。

 みんなオシャレしてきている中、桃代だけが地味だ。

 いつもの如く、Tシャツにハーパン、ちょっと飾りのついたサンダル。

 釣りに行くときのカッコと大して変わらない。

 今日は、人がいっぱいいるところに行くから、髪がなびいて傷痕が見えないよう、ピンで固定している。

 ずば抜けて可愛いので、たくさんの人が振り返る。

 



 ちょうど、自分たちの年頃の女の子をターゲットとした店にて。

 

 実のところ、桃代は胸こそツルペタだが、スタイルは悪くない。

 背は高くて無駄な脂肪が一切なく、足も長くて色も白い。

 着せ替えさせて遊ぶのが今日の彼女たちの狙いだったりする。

 

 これから桃代のための服選びが始まる。


 今回のお題はスカート。


 というのも私服のスカートが一つも無いからだ。

 早速全員がこれ!と思うものを選んでいく。


 そんな中、動きがあったのは菜桜。

 桃代の胸元に突き出し、

 

「これ穿け!」


 いつものごとく高圧的に命令する。

 物を見るなり、

 

「え~っ!ちょ、菜桜!何の嫌がらせ?」

 

 目が点に。そして、モーレツな拒絶。

 柄とかデザインは可愛らしいが、とんでもなく短いミニスカートを持ってきていた。

 

「いーき、穿け!」

 

 完全に脅迫だ。

  

「ウソやろ?こげな短いの穿いたら太ももの傷痕モロ見えやし!」

 

「カンケーねぇ!いーき穿け。はよ!」


 絶対に譲らない感を醸し出し、試着室へと追いつめる。

 

「も~…何なんよ…。」

 

 諦めた。

 いちばんの妹的立場だから弱いのだ。

 しばらくして、

 

「…これで満足か?」

 

 試着室のカーテンを渋々開ける。

 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに立っている。

 足が長くてかなり見映えがする。

 正直、似合い過ぎていた。

 でも、

 

「お前、なしか!何でこげな日にトランクス穿いてきちょーんか!服買いに行くっちゆったやんか!」

 

 モロ見えである。

 

「いーやんか!暑いっちゃき。」

 

「ホント、お前……は~~~…芯から残念やの。」

 

 せっかく似合うのに。


 頭を抱える菜桜。


 

「このミニ、キープね。」


 とりあえず一つ決まった。

 それにしても往生際が悪い。悪すぎる。

 

「マジで?マジでこれ?こげなんスカートっち言えんやん!ウチ、穿いたらゼッテーパンツ見えっ放しばい?止めよ?」


 ものすごく愚図る。

 

「ダメ!そげなことない!ミニはちゃーんと見えんごとできちょー!それでも見えるんならお前が悪い。」


 困り果てていた。

 全く聞き入れてもらえないのである。

 勝手に決められてしまい、

 

「あ~ん、もぉ~…。」


 完全に泣きが入っていた。

 一発目から大ショックだ。

 

 

 

 次は環。

 ヒラヒラがいっぱい着いた花柄ワンピ。

 こちらも、

 

「着れ!」

 

 菜桜に負けず劣らず威圧的である。

 

「も~…なんか、スカートばっかしやない?」

 

 泣きが入る桃代。

 

「当たり前て!今日のお題はスカートっちゆったやねーか!いーき着れ!着らなユキ盗るぞ!」

 

 そんな気は無いけど、最後の部分だけ内緒話のコソコソ声で脅迫する。

 ホントのところ、どうなのか分からないが、環の気持ちは表面上、他の幼馴染にはバレてないっぽい。

 ユキを盗られるのは困る。

 盗る可能性が否定できない環はホントに怖い。

 

「もぉ!分かったちゃ!」

 

 ゲッテン(癇癪)ぶちまわし気味。

 不貞腐れながら着てみる。

 無言で試着室のカーテンを開ける。

 

「おぉ~!」


 感嘆の声が上がる。

 そこにはいいとこのお嬢様がいた。

 マジで可愛い!

 清楚可憐を体現したかのよう。

 顔を真っ赤にして俯いて立っている。

 幼馴染達が目を見張る。

 店員さえも見惚れる。

 それほどまでに似合っていた。

 店外の通路を歩く人も一瞬立ち止まり見るほどのレベル。

 

「…恥ずかしい…もぉいい?」

 

 視線に耐えれなくなり許しを請う。

 

「いや~…これ買わないかんやろ。」

 

「うん。」

 

「足の傷、この長さなら全然見えんしね!」

 

 幼馴染達は真剣に絶賛していた。

 

「えぇ~!ウチこんなんあっても着らんばい?具が丸見えになるき好かん。」

 

 普段の行動や動作がアレなので、確実にパンチラしまくるであろうことが容易に想像つく。

 でも、

 

「これ着てその残念な行動を戒めな。」

 

「ダラッとできなストレスたまる。」

 

「うるせー!それがいかんっちいーよーったい!」

 

「だって!」

 

 言い訳のレベルが完全に子供のソレである。

 この服も候補である。

 というか一押しだ。

 幼馴染達は勝手にそう決めた。

 それにしても、環のセンスには脱帽だ。

 

 

 

 拷問は続く。

 次はミク。

 

「これ。」

 

 意地悪く笑う。

 

「も~!」

 

 またもやミニスカート。

 傷痕は置いといて、足の長さと色の白さは感動ものだった。

 もう一回見たくてあえて選んだ。

 チェックの可愛らしいデザインだ。

 トランクスが見えるので穿かないと言ってゴネている。


「今度、小路誘って二人っきりで…。」


「分かった!穿くき!」


 段々桃代の扱い方が分かってきていた。


「…はい。これでいい?」


 トランクスが見えっ放しなのを差し引いても似合っている。


「あんた、これもいいばい。」


 マジで似合っているのに、


「でも、こんなん絶対パンチラするやん。」


 既に泣きそうな桃代。


「そげならんよーに、これ穿いて気を付ける練習するっちゃろ?」


「でも!も~…。」


「それ穿いたらゼッテー可愛いばい。」


「こぉ!火傷の痕が!」


 諦めさせるために横を向いて指さして見せる。膝の少し上まで茶色く変色した部分がある。


「そっかー。でも似合うよね?」


 傷痕のアピールは軽く流された。

 ミクは隣にいた千春に同意を求める。


「うん。足長いし、羨ましい。」


 みんな素で羨ましがっている。




 涼のチョイス。

 真っ黒の長いスカートと、スパンコールの入った白いシャツ。

 いかにも涼らしいが、はたして…?

 ザ・水商売のオネーサンとか、どこぞのヤンキーみたいな感じの服だが、これがまたなかなか似合う。

 桃代が着ると水商売っぽく見えない。

 フツーに可愛い。大人っぽい雰囲気だ。


「お~。」


「これもなかなか。」


「うん。いーね。」


「ねぇ…こんなんいつ着ると?釣りに着ていかれんよね?絶対魚の汁拭かれんし。」


「文句ばっかゆーな!だいたいそげなことする服やなかろーが!今日みたいなときに着るったい!」


 さっきから文句しか言ってないのでまた菜桜から怒られる。

 考え方が根本的におかしい。


「え~!ウチそげしょっちゅうこげなトコこんよ?」


「お前、誘っても行かんっち断るき機会無いだけやろーが!ウチらしょっちゅう行きよるき、一緒来れば役に立つし。」


 女をサボりまくりの桃代はこうしてどんどん残念を拗らせていくのだ。

 残念な言い訳は以前にも増して悲しいことになっていた。


「次来るときはユキ連れてきて着せ替えながら意見聞こう。」


 菜桜が言うと、


「あ。それいいね。」


 美咲が頷く。


「次行くときはちゃんと女パンツ穿いてこなぞ。」


 千春が釘をさす。


「え~。次やらあるん?」


「あるくさ!これで終わるとか思うなよ?」


「マジで?ウチ、服いらんっちゃけど。こげいっぱい買ったらサオとリール買えんくなるやん。」


 また残念なことを言い出す。


「うるせー!可愛いっち思われたくないんか?」


 渓が呆れている。


「それは、思われたいけど…。」


「んじゃ、そっち方面の努力もせな。」


「あ~あ。」


 桃代がかなりブスくれてきたのでこの日はここで終わり。

 フードコートでハンバーガーを貪り、駄弁り散らかし、中をウロウロし、各々服を買ったり雑貨を買ったりして楽しんだ。

 桃代だけがビミョーな顔をしていたが、それでも無理矢理引っぱりまわって楽しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る