第23話 優しさ

 環が事故に遭った。

 

 相手は飲酒運転だった。

 同じ町内に住む面識のない中年男性で、アルバイトを解雇された腹いせにやったという。

 極めて悪質な事故だった。

 

 今、環は町内の総合病院に入院している。

 ユキが溺れた時に搬送された病院だ。

 左足の複雑骨折と、他数カ所の骨折。

 特に左足の骨折は酷く、一時は切断も考えなくてはならないほどだった。

 なんとか切断は免れたものの、元通り動くようになるかは今の時点では分からないとのこと。

 

 

 それは、あと数日で冬休みという12月に起こった。

 その日、環は桃代と菜桜と美咲と涼とで、学校の近所にある駄菓子屋でお菓子を買って、帰り道の途中にある公園でたむろして駄弁っていた。


 そこに、明らかに怪しい運転の、小汚い軽自動車が近寄ってくる。

 警戒しだす彼女たち。

 クルマがこちらを向いた瞬間、加速しだす。

 必死で逃げ回ったものの、環を標的にしてフル加速で突っ込んだ。

 飛び退いたけど間に合わなくて、左足をモロに踏まれた。

 激しい衝撃と共に激痛。

 その場に倒れ、もがき苦しむ環。

 介抱する美咲。

 桃代がソッコーで救急車を呼ぶ。

 菜桜は車種とナンバーを警察に通報。

 涼はバイクで追跡。


 環を轢いたクルマは特に逃げる様子でもない。

 何事もなかったかの如く車道に出て、制限速度で走り、信号の渋滞に引っ掛かり、堂々と停止している。

 すぐに涼が追いつき、


「きさん!何してくれよんか!降りれ!はよ降りてこんかちゃ!こらぁ!」


 真横にバイクを着け、ドアをガンガン蹴りまくり、怒鳴り散らす。

 それでも犯人は平然としており、わざとらしくドアをロック。涼の顔を見てバカにしたようにニヤッと笑い、何事もなかったかのように再びクルマを動かそうとする。


 ぶち殺しちゃる!


 涼の怒りが頂点に達した。


 ちょうど帰宅ラッシュ。

 右折が多い片側一車線の交差点。右折レーンが無いため渋滞し出すとなかなか進まない。

 完全に止まったのを確認した涼は、バイクをクルマの前に割り込ませ、コキ倒し歯止め代わりにする。クルマが進めなくして通りに面した家の庭の花壇にしてあったコンクリート製のブロックを持ってきて、犯人の頭めがけて力の限り投げつけた。

 砕け散る運転席側ドアのガラス。思いもしない行動に走った涼にビビり上がる犯人。ガラスの無くなった窓にもう一つ、フルパワーで投げ込んだ。ブロックの角がものすごい勢いで犯人の側頭部を直撃した。耳の穴から血を流し、目が虚ろになって朦朧としている。ドアのロックを解除すると、引きずり下ろし、血まみれになった頭をさらに殴り、蹴る。

 完全に意識が無くなる犯人。

 余りにも凄惨な光景だったため、他の運転手に止められた。

 相手はひ弱なもやしタイプで、反撃する間もなく速やかに半殺しにされた。

 重い脳挫傷だった。

 警察に「ここまでしなくても」と激しく怒られたが、そんなことはどうでもよかった。

 本気で殺すつもりだったのだから。


 この事件はその日の夜、全国版のニュースで流された。




 他の三人は救急車に同乗し、環と一緒に病院へ。

 手術は深夜にまで及ぶとのことだったので、消灯時間になった時点で帰された。


 次の日見舞いに行くと、環は疲れた様子でベッドに横たわっていた。この様子じゃさらに疲れさせてしまうと判断したため、ちょっとだけ喋り帰ることにした。

 外来の待合スペースでちょうど環の母親に会ったため挨拶すると、全員に礼を言った。

 恐る恐る、


「ねぇ、おばちゃん。環、どんな?」


 今の状態を聞くと、


「命に別状は無いっちお医者さん言いよったけど、足がね…。」


 あからさまに表情が曇った。

 それを見た幼馴染たちは一斉に血の気が引く。


「切断せないかんかもっち。」


 予想をはるかに超えた状況に絶句。

 

 なんで環がこんな目に遭わないかんの?犯人ぶち殺したい!


 ここにいる全員がそう思った。


 


 後日、病室にて。

 環は比較的元気だ。

 麻酔から覚めたあと2~3日は疲れた様子だったものの、今はいつも通り。

 地味だけど、しっかりしていてメンバーの中じゃお姉さん的立場の環。菜桜とともに幼馴染の中ではリーダーっぽく振舞う。

 友達からも信頼されているため、見舞う者も多い。

 いつも見舞に来た友達とバカ話をして爆笑している。

 足の状態を知らされたあとも、ケロッとしていてなんらショックを受けている風には見えなかった。

 そんな環を誰もが強いと思った。




 その日、見舞いに来たのはユキのみ。

 誰かと一緒に来ているときはそれなりに賑やかしいユキだが、一人だと流石に大人しい。ベッド脇の丸椅子に座ってたまに一言二言喋り、また黙る。

 環と二人でいるときはいつもこんな感じだ。


 ジッと包帯の巻かれた左足を見つめているユキ。

 どういった具合なのかも、ある程度は知っている。

 そんなユキをなんとなく見ていた環。


 ?


 様子がおかしい。

 肩が震えているような…。

 直後、鼻をすする音がした。

 ハッとなり、


「ユキ?」


 声をかけると…泣いていた。


「どげしたん?」


 予想外の出来事に焦る環。


「いや…酷いなっち思って…なんで環ちゃんがこげな目に遭わないかんの?っち思ったら納得いかんでから…あの腐れ、マジで今すぐぶち殺したい…。」


 そっか…そーやったな。

 昔っからユキはこげなふうやった。

 優しいんよ。

 でったん優しいんよ。


 息が詰まり、目元が熱くなる。


「そげゆってくれてありがとね。でも死なんやったき…ここはよしとしちょかなやろ?」


「そぉやけど!…足…動かんごとなったら…歩かれんごとなったら!」


 ものすごく心配してくれているのが手に取るようにわかる。

 彼女がいるくせに、自分なんかのために泣いてくれている。


 …だき…好きなんよ。たとえこっち向いてもらえんでも…。


 封印していた感情が再び大きくなってゆく。

 強気に振舞ってきたが、この優しさに縋りたくなってしまい、堪えていた弱さが溢れ出す。


「うん。ホントはね…怖いよ。まだ、どげなるか分からんきね…。でも…でもね…お前とか…みんなが良くしてくれるき…でったん嬉しいよ。」


 泣き笑いみたいな顔で語りかけると、


「もし、動かんごとなってもオレ、おんぶして釣り行く!絶対行く!遊び行くときも足の代わりする!絶対!」


 涙を流しながら宣言する。


「うん…ありがと。嬉しいよ。そん時は期待しちょくきね。」


 純粋に嬉しかった。

 いつの間にか、頬を涙が伝っていた。


 ユキは面会時間終了まで傍にいた。




 帰った後、ついつい考えてしまう。

 もし、ユキの彼女になることができたなら、どれだけ嬉しいことやろう、と。

 でもそれは絶対に叶わない夢でしかない。

 両想いである桃代との間に入れる余地なんかこれっぽっちもない。

 分かっているだけに、どうしようもなく悲しくなる。


 永遠に報われない恋…か。


 消灯後の部屋で静かに泣いた。




 年末年始は、無理を言って家に帰らせてもらった。

 そしてまた病院生活。

 ボチボチ二か月。

 毎日誰か来てくれる。

 ケガの方も、だいぶマシになってきた。

 リハビリも始まった。

 でも、元通り動くようになるかは甚だ疑問。

 今のところ、全く動く気配がないのだ。


 もし、動かなかったら?

 歩くことができなかったら?


 ふとした拍子に考えてしまい、恐怖の波が押し寄せてくる。

 不安で胸が一杯になり心が病みそうになる。

 

 そんな時、ユキが言ってくれた言葉を思い出し、どうにか持ち直す。というか、持ち直せるわけじゃないけど、少し気が楽になる。

 

 だって、大好きな人がかけてくれた言葉だから。




 今日は桃代とユキが来てくれている。

 他の誰かが一緒にいるときは比較的穏やかでいられるのだが、このツーショットを直に見ているのはハッキリ言って、病みそうになってしまうほどツラい。

 そして、桃は鋭い。ユキへの気持ちを気付かれている可能性は否定できない。ミクの恋心を、早い段階で見抜いたのを知っているから。


 ボチボチ面会時間が終わる。

 二人が立ち上がったその時。

 今まで感じたことがなかったほどの強い不安に襲われ、発作的に縋り付きたくなる衝動に駆られてしまう。


 次の瞬間。

 力尽くで引き寄せ、抱きしめてしまっていた。

 桃代がいるにもかかわらず。

 ユキは抱きしめられたまま、ビックリして目を見開いている。

 桃代は茫然と立ち尽くしている。

 震えながら、


「環…あんたやっぱし…」


 どうにかこうにか言葉を絞り出す桃代。


 その声を聞いて、やっと我に返る環。あわててユキを解放した。

 やはり気付かれていた。

 気まずすぎる。

 暴挙に出た自分を悔いた。


 心が病んどった…のは、理由にならんよね?



 面会時間が終わる。

 しかし個室だし、そこまでは厳しくないので桃代に自分の気持ちを話すことにした。


「あんね、桃…」


 声が震える。


「ん?」


「ウチね…ユキのこと…。」


 本題に入ろうとする環の言葉を遮るように、


「知っちょったよ。」


 怒ってはいない。どちらかというと悲しげな表情。

 ユキは先ほどとは違い、ビックリした表情。


「…いつから?」


「小っちゃい時から…」


「そっか…バレちょったんやね。」


「うん。」


「ごめんね、桃。お前の気持ち知っちょーんに、こげなことして。」


「ウチ…何ち答えればいーか分からん…」


 目には涙が浮かんでいる。

「知っていた」とは言ったものの、なんとなく「そうかな?」くらいの感じでしかなかった。


 ユキは彼氏なんだから、誰からも盗られたりしないし、告られもしない。


 根拠のない自信があった。

 ミクの脅威はとりあえず去ったため、最近ではその自信が回復しつつあったのだが、今回再び打ち砕かれた。

 これほどまでに「根拠のない自信」があてにならないとは…改めて痛感した。

 最も身近で仲良し幼馴染の恋心が今、確実なものになってしまった。

 環のことは、大好きなので敵視したくてもできない。

 だから、なおさらツラい。

 ユキに関する不安要素がどんどん増えていく。


「盗ったりせんき!信じて?でも…諦めがつくまでは、もうチョイかかりそう。」


 申し訳なさそうな顔。


「………。」


 桃代は俯いて泣いている。


「ユキも…ごめんね?困らせて…」


 謝ると、


「いや…うん…ビックリした。でも、ありがとね。嬉しかった。今まで気付ききらんで…ホント、ごめんね。」


 逆に謝られた。


 悪いことしたのは自分なのに。


 こんな時の言葉さえも優しいとか…諦められるはずがない。


 どうするかな。ホント困った。


「そんな…謝ったらいかんちゃ。お前、桃しか見てないんやき、気付かんで当たり前よ。お前はそれでいいと。一途なのはいいことなんやき。」


 自分に言い聞かせるように、口に出してはみたものの…いいわけがない!こっちを向いてほしい!


 でも…。


 向いてくれるはずがない。


 それだけは確定なので、いずれ諦めることになるのだろうが、すぐには無理。

 だから、それまでは勝手に好きでいさせてもらうことにした。


「そげゆってもらったら…助かる。」


 頭をかきながら苦笑い。

 結局、この後も桃代は口をきいてくれなかった。というか、ショック過ぎて言葉が出てこなかった。


 二人が帰った後、

 

 シクったなー…桃と気まずくなるのだけは避けたいけどなぁ。


 一人悩むことになってしまう。

 この日を境に桃代とはしばらくぎこちない日々が続いた。

 しかし、それでも毎日のように見舞いには来てくれている。

 あの日のことは、幼馴染の誰にも言ってないように見える。

 その証拠に、いまだ誰からも何も聞かれてはいない。




 この日は珍しく誰も来ない

 昼過ぎに母親がちょっと顔を出しただけ。

 こんな日もあるのか、と自己完結してボーっと寝転がっていると、


 ガラガラガラ…


 ドアの開く音。

 寝返って視線をそちらに移すと…桃代が立っていた。


「…環、寝ちょった?」


 気まずそうに声をかける。


「ううん。今日は桃一人?」


「うん。」


 入ってきて、ベッド脇の丸椅子に腰かける。

 まだだいぶぎこちない様子。

 一人だとそれが余計に際立つ。


「一緒…食べよ?」


 スナック菓子を持ってきていた。


「うん。」


 袋を開け、一緒に食べる。


「環…ごめんね。この頃ずっと態度悪いで。」


 まだ落ち込んでいる。


「ごめんはこっちやろーが?」


 安心させるために明るく微笑んでみせる。


「でも…怒ってない?」


 仲が悪くなるのを恐れているのが丸わかり。


「なんでか?どっちかっちゆったら、ウチの方がお前から怒られらないかんとぞ?」


「ウチのこと…好かんごとならん?」


 不安そうな顔。


「なんでか?なるわけねぇやろーが!そげな顔すんなっちゃ。」


 ことさら明るく応えてやる。


「ホント?」


 既に涙が溢れそうになっている。


「うん。当たり前。」


 それでもまだ不安は拭えない様子。


 まぁ、しょーがないか。逆の立場なら自分もそーなるやろうし。


 そんなことを考えていると、


「ユキくんのこと…好きなんやろ?」


 聞いてくる。


「うん…あれは…しょーがないよね…」


 正直に答えた。


「み~んなに同じごと優しくするき…心配でたまらんっちゃ。」


 口を尖らせて俯く。


「あれはねー…素やき…性格やき、どーしょーもないよね。多分ね…ウチら全員、一回はユキのこと好きになっちょーぞ。今回でもそげあったっちゃ。だいたい、ガッツリ凹んじょー時に、泣きながら『おんぶしてでも釣り行く』とか、『足の代わりになっちゃる』とか言われてみぃ?嬉しくないヤツやらおらんと思うぞ?」


 この前のことを白状し、苦笑する。


「そげなこと…ゆったん?」


 驚いている様子の桃代。

 さらに続ける環。


「おぅ。ゆった。でったん嬉しかったぞ。」


「もぉ~…誰にでもそげなことゆーっちゃき。だき、ミクが好きになるっちゃ。」


「そーやねぇ。でもあいつ、普段女と喋らんき、そんだけで済んだんぞ。」


「今から先、不安だらけ。喋ったら好きになる人、いっぱいになるやん。」


「そーやの。でも、そこまではないっちゃない?基本、自分から喋りかけんし。」


「そーやけど…女の方から話しかけることもあるやん?そしたら好きになるかもよ?」


「そん時はお前が『ウチが彼女です!』っち主張せな。」


「あ~あ…」


 ひとしきり喋り終わると二人して落ち込んだ。

 そして、


「ちゆーか、お前は大丈夫なんか?クラスん中だけでも結構狙われちょーとぞ?」


 予期せぬ方向へ話が飛ぶ。


「え?ウチ?なんで?」


 全く分かっていなかった様子。


「お前、知らんの?ちょいちょい鏡使って自虐ネタしよろーが?あの顔、でったん可愛いっち、余所のクラスでも噂になっちょーんぞ?その顔、写メられたやろ?あの画像、男子の間でかなり出回っちょーんぞ。あと性格。男にとってツボげな。どストライクらしい。」


 クラスの男子がしていた話を桃代におしえる。


「そげなん、ホントのウチやないやん。ちゆーか、性格ツボとか意味わからんし。」


 混乱しだす。


「性格、でったん可愛いっち。向こうおった時はどげんやったんか?告られたりとかは?」


「それは何回あった。」


「他は?なんかなかった?スカウトとか。」


「…それは街で何回かあったかも。」


「ほらみてみぃ。ふつーの女が街歩くだけでスカウトやらされんぞ?それが可愛いっち証拠て。」


「え~。分からん。ウチが可愛いとか、マジ分からん。」


 昔から桃代は火傷の痕のせいで自己評価が極端に低い。


「だき、しっかりしちょかな。それこそ、ユキからヤキモチ焼かれるぞ。」


「え~…分からん。でもそれはイヤ。気を付ける。」


 こんな感じの会話は面会時間が終わるまで続く。


 桃代が帰ったあと、考える。


 会話の内容やら調子は普段と変わらんやったな。どうやら丸く収まったっぽい。


 お互い、気まずくならなくて、ホントに良かったと胸をなでおろした。




 暖かい日がだんだん増えてくる3月。


 ようやく退院。


 なんとか一人で立つことはできるが、ケガした方の足はまだあまり動かなくて、日々不自由な思いをしている。

 学校生活に関しては、幼馴染達が精一杯フォローしてどうにかこうにか成り立っている。

 学年末考査もなんとかクリアして、進級も確定した。

 事故の補償も、相手の親が出てきてなんとかなり、この事件は一応の決着を迎えることとなった。


 涼も、あれから色々あったが、学校にもちゃんと行っている。海からは、ものすごく心配され謝りまくっていた。海には弱い涼。見た目が激しくワルソなのに、ひ弱な男にオロオロする姿は、周りから見ると、さぞかしおかしかったに違いない。




 ユキは入院中の約束を実行していた。


「こら!環!乳当てんな!」


 横から桃代が猛烈に抗議する。


「しょーがない。お前よかちょっとデカいき、ちょっとだけ当たるのは勘弁してくれ。」


「うるさい!何がちょっとか!自慢か?ホント、頭にくる!」


 かなりの激オコっぷりである。

 環は笑いながらおんぶされている。

 あれから成長し、菜桜を追い抜いて爆乳の域に達していた。

 それをわざと桃代に見せつけるように、ユキの背中に押し当てる。

 背中がものすごく気持ちいいユキ。

 顔を赤くして、ゆっくり土手を下りていく。


「あー!ユキくん勃起しちょー!環、降りれ!今すぐ降りれ!」


 桃代は気が気じゃない。

 自分じゃない女子に勃起するとか、許しがたい光景だ。


「ちょ!桃!危ない!危ないちゃ!まだ、足治ってないんぞ!」


 まだ土手の斜面を下りきってもいない不安定な状態なのに、容赦なく引き摺り下ろそうとしている。

 やっと下り終わり、護岸までたどり着いた。


 というわけで、今日は久しぶりに釣りに来ている。


 春のポカポカ陽気。

 そよぐ風が気持ちいい。

 河川敷は菜の花が満開だ。

 遥か高い空で小鳥が鳴く。

 テントウムシも冬眠から目醒め、春を謳歌している。

 ピクニックしている家族連れ。

 ツクシ取りを楽しんでいる。


 そろそろ魚は卵を産む。

 今釣れるのはヘラブナみたいに体高があり、お腹パンパンの重たいヤツ。

 条件次第ではそんなのが数釣れる、春爆という現象がある。

 是非とも味わってみたいものだ。


 釣れるといいな。




 今回の事故。

 死ななくてホントに良かったと思う。

 また、こうして一緒に釣りに行くことができた。

 生きているという幸せを、このようなツラい経験で思い知りたくはない。

 これはユキの時にも思ったこと。


 足はまだまだビミョー。

 なんとしてでも治ってほしい。

 それまでは、できる限りフォローする。


 全員、そう心に誓っている。


 ドラマチックじゃなくていい。

 普通でいい。

 いや。

 普通がいい。

 普通の中に、たまにちょっとの幸せがあればそれで充分だ。

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