第22話 巻き祭
秋。
10月は半ば過ぎ。
全ての田んぼの稲刈りが終わった。
下流の堰が開き、水位も落ちた。
季節が進み、気温の低下と共に水温も低下する。
暑さでダレていた魚達。
活動するのに適した水温になると、元気を取り戻し、盛んにエサを追い始める。
春先の産卵に向けて荒食いを始める時期だ。
と、いうことは。
セカンド巻きシーズン到来!
なのである。
雑誌でもテレビでも、今の時期はこのネタで大いに盛り上がる。
とはいえ。
荒食いはするけれど、影や流れなどの涼しい場所に執着しなくなるから、より広範囲に散らばってしまう。
だから、かえって狙いにくくなり釣り辛いという人もいる。
広範囲に散ってしまった魚を狙う場合、一般的には巻いて釣るのが効果的、と言われている。
だから、今回のテーマは「巻き」。
はたして爆釣なのか?それとも返り討ちに遭うのか?
それでは秋の巻き祭、始まります!
釣行当日。
場所は、家の前の川。
ユキと桃代が、エロいことをしていて菜桜に目撃された橋の下流である。
菜桜が聞かれてもないのにその場所を指差して、
「ここでね。こいつら…」
事細かに説明しだす。
「こらー!それはもぉいーっちゃ!」
桃代が真っ赤になって慌てふためき、菜桜の口を塞ごうとしている。
ユキは頭を搔きながら苦笑い。
「指入れて…」
「わ~!」
既に涙目になっている。
「何か、想像できるわ。」
と、無表情でつぶやく環。表情を殺しているから分かりにくいが、ホントのことを言うと、小さい頃からユキのことが大好き。だから、桃代とユキの仲良しエピソードは聞くのがツラい。圧倒的両想いっぷりに諦めようとはしている。しているのだが、これがなかなか難しく、現在に至ってしまっている、といった状況。
ここで。
幼馴染女子達の恋愛事情はというと…。
これが、困ったことにユキ一択なのである。
全員が強い好意を抱いてしまっているため、外に目を向けることができないでいる。
これは、只今絶賛桃代いじり中の菜桜も例外ではない。
なぜこんなことになってしまうのかというと、それは。
ユキがこれでもか!といわんばかりに優しいからだ。
その優しさは中毒性が強く、意識したモノじゃないので、向けられると素で嬉しくなり、勘違いしてしまう。
しかし、この優しさは幼馴染以外には向けられない。
というのも、幼馴染の女性以外とは積極的に会話しないからなのだ。よって、その優しさはかなり気付かれにくい。
だが、幼馴染は違う。他の女友達と比べると、一緒にいる時間が桁違いに長いため、結果的に優しさを向けられる機会が多くなる。
それはさておき。
「仲良きことは、美しき哉。」
と、渓。
「外ですんなよ。●ンコにバイ菌入るぞ?」
と、呆れる千春。
涼は経験あるのか、そっぽ向いて聞いてないフリを決め込む。
舞は生々しい体験談に赤くなる。
「桃の声、可愛かった~。」
「も―――――っ!」
赤面し、涙目になって菜桜を叩きまくっている桃代。
「あ~面白れ。」
「うるせー!バーカ!こっちは恥ずかしいだけて!」
「なら、外ですんな。アホ!」
「~~~!」
そりゃそーだ。
アホなやり取りは、尚も続く。
ひとしきり暴れたあとで、やっと釣り開始。
この日のメンバーはユキ、桃代、菜桜、千春、美咲、千尋、涼、環、渓。見学で舞。
いつもはスピニングタックルを多用する千春。今日は巻きオンリーということで、ロスト対策として太糸が使えるよう、ベイトを使う。
さて。
今日は巻きシバリ。
雑誌やテレビで紹介されているような、「巻きでの爆釣」があるかどうかを検証するのだ。
ここで、「ワームは一切禁止」というルールが決められる。
ルールを破ると電気あんまという罰則有。
なのに、バッグの中はあえて確認してない。
誰かがやらかすのを非常に期待しているのだ。
率直に言おう。
電気あんましたいのである。
もしも掟を破ると、帰ってから電気あんま地獄が待っている。
一人30秒ずつ。
しかも全員から。
という、かなりハードなお仕置きだ。
ルアーのチョイスは以下の通り。
ユキは黒金ワイルドハンチのラトル無。
桃代も同じ。
菜桜はD-ゾーンのナチュラルカラー。
千春はフェイス87のワカサギ。
美咲はショットダブルフルサイズのワカサギ。
千尋はロングA黒銀。
涼はビーフリーズ赤。
環はゲーリーヤマモトプロシリーズスピナーベイトの白。
渓はハイピッチャーのチャートリュース。
互いが邪魔にならない距離を開け、釣り始める。
これだけの種類で広範囲狙ったら、流石に誰か釣るでしょ!
最初に沈黙を破ったのは菜桜。
中層をただ巻きしていたらサオに衝撃。
「おっしゃ~!食った!」
アワセるとサオが大きく曲がる。
今日の好みはスピナベかな?
みんながそんなことを考え始める。
しばしのやり取り。
逃れようと必死の魚。
エラ洗いしたり、深場に突っ込んだり。かなりの抵抗を見せている。
菜桜のタックルはそんなにヘビーじゃないので無理はしない。
サオと糸に角度をつけ、弾力を利用し突進をやり過ごす。必要なら、ドラグも緩めたりする。
使いこなせてる感が伝わってくる上手いやり取り。
徐々に寄せてくる。
足元まで引き寄せ…口に右手親指を突っ込み、
「取った!」
デカい!
すぐにルアーを外し、写真を撮った。
指を広げ測定すると。
「43ぐらいやな。」
正確な長さをサオで測る。
「この辺やな。帰って測ろ。」
全員が羨ましそうに見ている。
「やったね!」
魚を持ったまま、嬉しそうにピースした。
こんなところは女の子らしくてホントに可愛らしい。
元々の容姿の良さもプラスされ、輝きが倍増する。
魚を逃がすとみんな元の場所へと戻っていく。
全員、黙々と投げては巻き、の繰り返し。
20分後。
今度は渓。
対岸の岸際に着水させ、ゴロタ場の石に当て、ヒラを打たせた瞬間のバイト。
多分これ、「リアクションバイト」と言われるやつだ。
「やったね!でったんつえ~。」
渓のサオはジグとかワーム用で結構強いはず。それがかなりの勢いで曲がっている。
リールはギヤ比が低いのでガンガン巻ける。
突っ込まれたら耐えて、跳ねられても焦らずにやり取りする姿がなかなかカッコイイ。
アシストフックも付いているので気持ち的にも余裕がある。
よいしょ!とサオを立て、こっちを向かす。
そして一気に巻く。
足元まで寄せて、掛り具合を確認し、抜き上げた。
「いーね!」
写真を撮って、指を広げ、測定する。
二回分でまだ余る。
「45ぐらいあるばい。」
「い~な~。」
桃代が羨ましがっている。
「今日はスピナベの日なんやか?クランク、何もアタらんっちゃき。替えてみよ。」
そう言いながら、元の場所へと戻っていった。
いちばん端っこで釣りをしていた千春の様子があからさまに怪しい。
キョロキョロ辺りを見回し、しゃがみこむ。
そして、取りだしたのは…
ワーム。
なんか釣れる気がせん。端っこやきバレんやろ。
スナップを開け、プラグを外し、4インチヤマセンコーを着けた。
どーせ釣れんなら、せめて可能性があるヤツで頑張ろう。もしかしたら魚の感触味わえるかもやし。
釣れたら他のヤツに見られる前にプラグへと交換し、写真を撮る作戦だ。
なかなかのワルである。
な~んてこと企んでいたら、一投目から糸が走る。
食った!
心の中で叫び、周囲の人間にバレないようにファイトする。
しかし、こんな時に限ってとんでもない大物が掛かる。
ガバッ!ガバッ!
重々しいエラ洗いを食らい、ド派手な水柱が上がる。
一斉に注目された。
やっべ~…
青ざめる千春。
「千春がなんかすんげーの掛けちょーばい!行ってみよ!」
気付いた美咲と菜桜が走ってくる。
くんな!不正がバレっしまう!
心の中で叫ぶが、情け容赦なく近寄ってくる。
激しく曲がるサオ。今まで感じたことのない重量感。
ベイトでよかった。スピニングやったら取れんやったかも…
不正がばれるのを恐れつつも、ファイトを楽しんでいた。
「待っちょけ!取っちゃーきの。」
菜桜が千春のランディングネットを持って、水際で待機する。
もはや言い逃れのできない状況だ。
終わった…電気あんま確定やん。
全てを諦めた。
ヒットから結構時間が経っていて、魚もようやく観念したようだ。
徐々に菜桜の前へと寄せられ、すくった瞬間、
「よっしゃ!取れたぞ!っち、なんかこれ!ワームやねーか!」
不正がバレた。
モーレツ悪い笑顔になる菜桜。
ここまで来たらバレバレのウソを吐き通す!
そう心に決め、
「うそぉ?投げた時までプラグやったばい?おかしーね。」
言い放った!
「はぁ?お前、オモシレーことゆーの。投げて巻きよぉうちにワームに変わったっちゆーんか?」
「うん、そう。」
反省の色なんか一切ない。ここまで来たらいっそ清々しい。
「へ~。お前、電気あんま確定ね。」
「大丈夫。お前みたいに汁まみれにならんし。今日、溜まっちょったき、帰ってマンズ●コクつもりやったっちゃん。手間が省けたぞ。菜桜、ありがと。」
焦ったところを見られるのは嫌なので、意地になって平静を装う。
が、実際はヤバい。
菜桜や桃代みたいに一瞬で音が聞こえるほど濡れたりはしないが、フツーにベチャベチャになる。
電気あんまは王様ゲーム以来味を占め、何かする度罰ゲームとして採用される。完全に定着してしまっているのである。
だから、誕生日などのイベントで、必ず何人も犠牲者が出る。
この魚は「巻き」で釣ってないためノーカンになった。が、デカいので写真は撮るし測定もする。
テキトーに測ったが、60cm近くある。
スナップを結び替える時、糸を切って魚の長さにし、帰って正確に測定することにした。
釣りを再開する前に菜桜が、
「みなさ~ん!不正が発覚しました!千春、帰って電気あんまね。」
嬉しそうに暴露。
自分がされるのは超絶マズイが、他のヤツにするときはマジで手加減なし。
本気でイカすつもりだ。
事態は収まり、釣り再開。
千春は平然としているが内心完全にマイっていた。
計算する。
9人から電気あんま?一人30秒で9人…270秒っち!5分近く大事なところを刺激され続けるげな…アホやねーんか?
耐えられるわけがない。
あん時の桃や菜桜みたいに、人前でイってしまうかも。大勢の前で恥ずかしい声を出すげな…どげな羞恥プレイよ。
心の中で呪いのように文句を言い続けていた。
完全に巻きを諦めて、懲りずにワームで釣り再会。
そして直後にまた釣る。
「よっしゃ!」
既に遠慮というモノが無くなっている。
大声でヒットを宣言。
みんなが注目。
千春のサオがブチ曲がっている。
「今日はノーシンカーが好きみたいやね。センコー、サイコー!」
余裕の表情。
反省もせずに、またワームを使っていた。
いつの間にか横にいた菜桜が、ボソッと、
「お前…一人1分ね。」
「はぁ?ちょっと待てっちゃ!なんでか?」
ファイトしながら抗議する。
「当たり前て!今日は巻き縛りっちゆったやねぇか。二回目の不正やき二倍たい。」
「そげなん理由になるか!もぉいーやんか!ワーム使って。」
何か吹っ切れた顔で言い放つ。
「いーけど、電気あんまは一人1分確定やき。」
「は~~~…もぉ、いーごとせぇ。」
諦めた表情の千春。
それとは対照的に菜桜は嬉しそう。
上がった魚は38cm。
キレイな魚体だった。
写真を撮って逃がす。
それ以来、何を投げても反応が無くなった。
検証は終了。
この日の釣果は4本。
大人数でやっても、いつもの釣果とさほど変わらない。
とても検証できたとは言い難いデータの量。
ユキの家にて。
部屋に上がりこむなり、罰ゲーム開始。
「ほら、千春!股開け!パクッと!」
まずは菜桜から。
ノリノリだ。
ケータイのストップウォッチを起動させ、股を開かせ両足を持って、スタート!
「…くっ…」
歯を食いしばり、顔を真っ赤にし、恥ずかしさに耐えている。
が、人が変わるたびに険しさが増していく。
「…んぁ…」
思わず漏れたエロい声。
半分過ぎた時点で果てたっぽい。
上半身を大きくのけ反らし、ピクピクっとなったあと、スーッと力が抜けていった気がした。
ジャージの大事な部分が湿っている。
息が荒い。
肩で息をしている。
「も…もぉ…いーやろ?」
赤面し、息も絶え絶えに千春が頼む。
「だめ~。あと三人。」
菜桜がにやける。
「ダメやろ…これ…」
舞がドン引いている。
ユキは桃代から「他の人のマン●触るとか絶対許さん!」と警告されていたし、千尋も菜桜の件で生々しくて恥ずかしい。
よって男たちは棄権すると言い出した。
とりあえず、お仕置きは終わった。
「最悪…潮吹いたし。汁でパンツベチャベチャやん。」
千春がぐったりして文句を言っている。
やっと落ち着いてきた千春が思い出したように、魚の長さに切った糸をポケットから取り出す。
「これ、測ろうや!」
「そうやった。ユキ!メジャー。」
「あいよ。」
糸を伸ばしてメジャーにあて、目盛を読む。
「すっげ~!58cmっち!こげなんおるんばいね~。」
もちろん本人は記録更新だ。
これで一カ月くらいは自慢話ができる!
結局、この日のパターンはノーシンカーっぽかった。
スピナーベイトはパターンかどうかイマイチ判断しにくい。
菜桜の釣った魚は食おうとして食ってきたのだろうが、渓が釣ったのは多分リアクションだったからだ。
広範囲に散っていた、というのは当たりかも。
釣果の少なさが、それを物語っている。
生き物が相手の遊びである。
その日の機嫌とか好みがあるはずなので、例外だって多々ある。
巻きで釣れる希少性。
年々プレッシャーが高まっていっている。
だから今後、もっと釣れなくなる可能性だってある。
このような状況なので、一生懸命ファイトしてくれた魚には感謝!
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