第21話 カプサイシン

 カプサイシン。

 

 脂溶性の無色の結晶で、アルコールには溶けやすいが冷水にはほとんど溶けない。摂取すると実際に温度が上昇しないものの激しい灼熱感をひきおこす。この機構はメントールによる冷刺激と同様である。また、痛覚神経を刺激し、局所刺激作用あるいは辛味を感じさせる。体内に吸収されたカプサイシンは、脳に運ばれて内臓感覚神経に働き、副腎のアドレナリンの分泌を活発にさせ、発汗及び強心作用を促す。ワサビ、カラシの辛味成分アリルイソチオシアネートとは風味が異なる。

 化学式:C18H27NO3

 融点:62~65℃

 沸点:210~220℃

 

 ※ウィキペディアより引用。

 

 という説明はさておき。

 

 カプサイシンは唐辛子の辛味成分です。

 

 これがもぉ!

 皮膚に付くと痛いのよ!!

 

 

 

 二学期も始まった土曜日の午前中。

 

 まだまだ暑く、ほとんど夏休みと気温は変わっちゃいない。

 エアコンガンガンに効かせた部屋でゴロゴロしていたら、母親から


「ユキ~。いなや(=納屋)に干しちゃー唐辛子。あれ、実ぃ全部千切って、一株分はすぐ使うき刻んじょって。」

 

 超絶面倒っちぃ指令が出た。

 

「は~い。」

 

 仕方なく納屋に行くと、

 

 うっわ~…これ全部?1束でもでったんあるよ?

 

 絶句。

 10束の唐辛子が物干し竿に掛けてある。

 膨大な量に軽く眩暈がした…気がした。

 早速心が折れかける。

 しかし、着手しなくては終わらない。

 

 午後からは桃代と釣りに行く約束をしている。

 とっとと終わらせないと、釣りの時間が短くなってしまう。

 

 縁側に持っていこうとして引っ掛けてあるのを外すと、

 

「え?」

 

 思わず目が点に。

 10束と思っていたら、1束が2束ずつ結んで掛けてある。ということは20束処理するワケで。

 酷くショックだった。

 手を着ける前から打ちのめされた。

 しかも根っこには泥が残っているので、このまま家に持って上がるとばら撒いてしま、怒られること必至。

 刈込鋏で切り落とし、蚊の猛攻に遭いながら、畑の隅のゴミダメに捨ててきた。

 

 え~くそ!でったん蚊に食われた。


 ムヒを塗る。


 やっと家に持って上がれる状態になったときには満腹だった。非常に作業したくない。が、やらないことには終わらないから剪定鋏を取ってきて、新聞紙を敷き、チャック付袋と煎餅の空き缶を用意する。

 

 さあ!張り切って?作業開始だ。

 

 まずは実だけを取る。

 1束だけでも重労働。

 それが20束とか…。

 改めてその膨大な量を目の当たりにし、またもや絶望感。黙々とハサミを動かし続けた。

 腰が痛くなってくる。

 

「あ~~~…。」

 

 寝っ転がって伸びをする。


 無心で作業する。

 どのくらい経っただろう。

 やっと先が見えてきた。

 ラストスパートだ。

 一生懸命鋏で実の根元の茎を切り、煎餅の空き缶に投げ込んでいく。

 

 最後の1束。

 

 おそらく100個前後は実がついているであろう。

 

 がんばれ!オレ!!

 これをやっつければ晴れて自由の身だ!

 

 で、なんとか取り終わる。

 

 あとは刻むだけ。

 刻むというよりは輪切りか。

 

 調理バサミを台所から持ってきて、

 チョキチョキチョキ…

 黙々と切り続ける。

 

 相当な量だ。

 まあまあ泣きが入ってきた。


 まぁだ終わらん…


 チョキチョキチョキチョキ…


 指の付け根がたいがい痛くなってきた頃。

 

 終わった~!

 

 切り終わった物をガスッと握り、ジップロックに詰め込んでゆく。

 チャックを閉めて終了!

 昼飯前になんとか終わらすことができた。


 さぁ!飯食って釣りの用意!!

 暑いけどインスタントラーメンでいーや。

 具は…もやし発見。

 豚肉とキャベツ…これも入れよ。


 タオルを首にかけ、汗だくになりながらラーメンを作り、食う。

 泳げないけど泳いだみたいになった。

 

 部屋で扇風機に当たりながら、桃代を待ちながら釣具の準備。


 そうこうしているうちになんだかションベンしたくなってきた。

 

 パンツの中からチン●を引っ張り出し、放尿。

 

 あ~…すっきりした。

 

 部屋に戻り始めたその刹那。


 チン先がチリっとした。


 被った皮の先っぽと尿道口の辺り。すぐさまそれは痛みと熱感に変化した。

 そして…。

 ついに我慢できないほどの激痛に!

 

 「あ~~~~~~~~っ!」


 声を出さずにはいられなかった。

 

 何?何が起こった?

 

 襲い来る熱感と激痛!

 特に尿道口付近は尋常じゃない痛さ。

 うずくまり、悶え苦しみ、転げまわる。

 

 なんで?どうしてこうなった?

 

 考えるものの、何も思い当たる節はない。

 

 脂汗が滲み出る。

 頭の皮膚から汗が流れ落ちて目に入る。

 それを手で拭った瞬間、またもや


 「あ~~~~~っ!」


 2度目の絶叫!

 今度は目とその周辺に同じ感覚。

 目を開けていられない。

 涙がボロボロと溢れ出す。

 それに伴いどんどん痛い面積が広がっていく。


 地獄だ!


 と、そこに桃代がやってきた。


「ごめんくださ~い。」


「あ、桃ちゃん。上がりぃ。部屋におるよ。」


「は~い。お邪魔しま~す。」


 トントントン…


 廊下を歩く音。


 コンコン。


 前に、いきなし開けたらセンズっていたことがあった(複数回)。

 でったん気まずかったので、ちゃんとノックする。


「ユキく~ん、来たよ?」


 一声かけるのも忘れない。しかし…


「…」


 あれ?


 返事が無い。


「ユキくん?」


 寝ちょーんやか?


「…」


 うめき声が聞こえた気がした。


 ヤバ!もしかしてコキよった?


 センズ●の場面が頭をよぎり、赤面するも


 なんかおかしい!


 部屋から感じるオーラが●ンズリのそれとは違う。

 心配に変わり、一気に頂点に達すると、


「ユキくん!開けるよ」


 ガチャッ!

 ドアを開けた。

 そこには目と股間を押さえ、丸まるユキ。


「ユキくん!どげしたん?ねー!ユキくん!大丈夫?」


 駆け寄る桃代。


「目が…チン●が…」


 か細い声で苦しんでいるユキ。


「またクワガタ?」


「イヤ…違う…」


「救急車呼ぶ?」


「いや…そげなんじゃないっち思うけど…っち、辛っ!」


「何?『辛』っち何よ?」


 目を擦って、汗をぬぐった時、偶然滴った汗が口に入った。


「汗が塩辛いんやないで唐辛子辛い!だけん(だから)かぁ。」


 指を舐めてみる。

 10本とも激辛だ。


「うわっ!指、辛っ!」


 謎が解けた。


 さっきラーメン食った時は、汗をかくことが分かっていたのでタオルを首からかけていた。

 それで拭いていたから気付かなかったのだ。


 既に顔はほぼ全部痛い。

 あとウナジと首筋。

 温感を刺激されたため汗が引かない。

 とりあえず石鹸で手を洗うことにした。


 カプサイシンは、最初に述べた通りアルコールや油には溶けるが水に溶けない。

 皮膚に付着した場合、痛覚と温感を刺激され、とにかく痛い。

 汗をかいた場合、含まれる脂質に溶けて広がり、痛い部分が拡大する。

 アルコールに溶けるからといって脱脂綿などに含ませ、拭きとるのも非常によろしくない。拭いたトコ全域に広がり、地獄を味わうことになる。


 付着したら、もう諦めるしかない。

 ただひたすら痛みに耐えるだけ、という拷問が待っている。

 ちなみに病院に行くと、火傷と同じ処置をされる。


 そして指に付着した場合、男は高確率でチン●に付着し、ゴージャスな痛みを味わうことになる。

 放尿したばかりなのに尿意が治まらない。そんな感じがする。




 段々痛みが引いてきたユキ。

 実際は慣れてきただけ。

 痛覚が麻痺してきたと言った方が正解かも。

 石鹸で洗いはしたが、まだかなりの高濃度で皮膚に残留したままなのだ。


「ふ~…なんぼか治まったばい。釣りいこっか?」


「うん。いーけど大丈夫?」


「ん~…多分大丈夫やろ。いらんことで時間食ってしもぉたね。」


「それはいーけど、ユキくんチ●コに災難ばっかし。気を付けてよ?起たんごとなったらウチ、悲しいきね。」


「分かった。気を付ける。」


 準備も終わり、やっとのことで釣り開始。

 今日は二人ともワームは持ってきているが、巻きメイン。

 秋の爆釣を味わえたらいーなと思っている。


 いつもより少し上流。

 水中にウィードパッチ(水草の塊)が点在するポイントだ。

 ここでトップを引く。


 少し離れて場所を確保。

 実釣開始!


 桃代は青ガエル模様のストームの名作、ラトリンチャグバグ。

 タイプ的には…ペンシルポッパー?

 かなり重いのでぶっ飛ぶ。


 ユキはメガバスの名作、ポップX。

 去年はこれ一個でかなりいい思いをした。


 今年はどうかな?


 お互い沈んだウィードパッチの上を狙う。


 カポ…カポ…カポ………。


 出ない。

 まぁそれも想定内。

 続ける。


 9月も半ば過ぎなのにまだまだ夏みたい。

 暑い。

 二人とも麦わら帽子装着だ。

 桃代もユキも、通気性のいいダボダボのシャツにハーパンにサンダル。

 桃代は今日、ちゃんとスポブラをしている。

 近頃、釣り場で知らない人間と遭遇することが多くなってきたからだ。


 それにしても釣れない。

 ワームにチェンジ。

 桃代は4インチシュリンプをノーマルにセット。

 ユキは4インチセンコーをノーマルにセット。

 どちらもフックのシャンクに板オモリで沈む速さを調整している。


「あ~あ、トップで釣りたかったね。」


「ホントっちゃ。まぁこれで釣れる…かな?」


 自信がない。

 近頃ホントに釣れない。


 真正面のウィードを狙う桃代。


 カチッ!


 ヴ―――ン…ポチャ…


 投げて、沈めて…着底。

 スッとサオを立て、


 ツ―――…


 リールを巻いて、スッとサオを立てる。


 ツ―――…


「こんねぇ。」


 回収するために早く巻いた。


 ガボッ!


 デカバスが追跡。足元で食ってきたのだ。


「うお~!焦った~!足元まで追いかけてきちょった。」


「マジ?」


 慌てて去っていった方に投げるが、食ってこない。


「あれは取れんね~。ショック。これで終わりかな?」


 少し落ち込む。


「暑いし、ボチボチ帰ろっか?」


「そぉやね。今ので集中力切れた。」


 片付けて帰る。

 土手を歩きながら、


「部屋でマッタリしよ。」


「うん。」


 そしてユキの部屋。

 暑い…。

 扇風機全開!

 少しはマシだ。


「ジュース持ってくんね。」


「あ~…ありがと。」


 スポーツ飲料で喉を潤し、ベッドに身体を預けだらける二人。

 特に何か話すわけでもなく、グデーっとなる。

 このマッタリ感がいい。


 そして、ムラッとする。

 ダラーっとしている桃代の胸をこそっと触る。

 ピクッと反応した。


「こら。」


「バレた?」


「うん。」


 服の上から揉む。

 そして中へ。

 ハーパンの裾から手を入れ…


「…ん…」


 指を入れ…


「…!ユキくん?ちょっと待った!なんか痛いばい!」


「へ?」


「あ~っ!」


 すぐに抜き、今入れた指を舐めてみた。


「うわっ!でったん辛っ!っちゆーかごめん!ホントごめん!」


 謝りまくるユキ。


「いや…いーけど…これはちょっと…あ~~~!今度は乳首も…イッテ~!」


 乳首の方は乾いていたので、若干遅れて痛みがきた。


「ごめん!」


 慌てまくるユキ。

 石鹸で洗ったのに全く取れていなかった。

 それからしばらく桃代は転げまわって苦しんだ。


「痛かったね~。ユキくんたまらんかっちょろ?」


「うん。もぉ二度と味わいたくないね。そーだ!唐辛子、一個持って帰っていい?」


「いーよ。なん?癖になった?」


「ならんよ!もぉあげな痛い思いしたむねぇばい。」


「それもそうやね。俺もイヤ。」


「菜桜の指に付けさせて、マン●リするとき痛い思いさせる。」


「ははは。菜桜ちゃんゼッテーでったん怒るっち思うばい。」


「いーと。いっつもやられよーっちゃき。仕返しすると。」


 桃代はそれを大事に持って帰った。




 えっちの方は、痛みが落ち着いてからリベンジ。

 ユキは指を使わず、舌だけでどうにか気持ちよくさせてラヴラヴした。

 二人の大切な時間。

 ハプニングはあって痛かったけど、今日も嬉しい気分になれた。




 次の日の昼休み。

 いつもの部活棟の自販機スペースにて。


「菜桜!これ。」


「唐辛子?」


「うん。スゲーばい。トリップできる!」


「はぁ?意味わからん。新手のドラッグか?」


「指に塗ってマンズってん?スゲーき。」


「バカゆーな。痛いの見え見えやねぇか。」


 菜桜は考えた。


「それ、ちょー貸してん?」


 手を出す。


「はい。塗ってみる気になった?」


「うん。」


 唐辛子の先っぽをちょこっと千切る。

 親指と人差指と中指の腹を擦りつけ、


「ほら!」


 桃代の腕になすりつけた。


「うわ!バカ!何しやがる!…あ~~~っ!イッテ~!」


 さらになすりつける。


「イテーっちゃ!やめれ!」


 大騒ぎである。

 付着したところに別の部位が触れても痛くなる。

 別の人に付着した部位をなすりつけても痛くなる。

 桃代は、なすりつけられた腕を菜桜の太ももになすりつけ返した。


「桃、きさん!何しやがる!あ~~~!イテー!でったんイテーき!」


 二人とも、なすりつけられた部分が赤くなってきた。

 一緒にいた人たちは、巻き添えを食らわないように安全距離を取る。

 結局二人とも、腕と太ももに付着して痛いまんま、汗だくで授業を受けることとなった。


 下校時までに痛みはなんとか治まった。




 家に帰りマッタリとした菜桜。

 ベッドに転がり、なんとなく服の上からいじっていたら、したくなってしまった。

 よくあることだ。

 週に数回はする。


 部屋のカギは締め、準備OKだ。

 まずはブラを外す。

 下を全部脱いでタオルを敷いた。

 これが菜桜のスタイル。

 菜桜汁が大量に出るため、こうしておかないとパンツに染みて、風呂に入るまで、気持ち悪い思いをしなくてはならないし、マットレスにも染みてしまうからだ。

 Tシャツの上から胸を揉む。

 捲り上げ、乳首を転がす。

 切ない吐息。

 いい感じになってきた。

 声を殺し快感に耐える。

 既にマ●コは白い汁がダダ漏れ。

 クリを指で刺激。

 穴に指を出し入れ。

 と、ここで


 ん?なんかいつもより熱い?


 段々痛くなってきて…


 ~~~~っ!


 指に大量に付着していることを完全に忘れていた。

 当然、菜桜汁の脂質によって性器全体に万遍なく広がっていく。


 激痛。


 声を出すわけにもいかず、半裸でうずくまり悶え苦しむ。

 クリから穴にかけて焼けるように痛い。

 ションベンが出そうで出ない、そんな感覚。


 ちょっと待て!シャレにならんぞ!


 天罰が下った。


 しばし悶え苦しんだ。

 風呂に入った時、アソコだけ熱湯に浸かっている感触がした。

 指を舐めてみる。

 辛さはなくなっていた。

 さっきハプニングで強制終了になったため、改めて寝る前にやり直した。



 次の日。


「桃、昨日の唐辛子、酷い目に遭ったぞ!」


「ね?マ●コ痛かったやろ?ウチも大変やったっちゃき。だき、人に付けたらつまらん。ダメ、絶対!」


 なんか、薬物乱用防止のポスターみたいになった。


「もう絶対扱わんぞ。」


 完全にトラウマになった菜桜だった。

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