第20話 海水浴

 夏休み。

 

 ユキ父運転で、海に連れて行ってもらうことになった。

 メンバーはユキ、桃代、菜桜、美咲、千尋、千春、環だ。

 他は用事で不参加。

 ユキの妹はこのメンバーとは仲がいいが、友達との用事で出かけて不参加。

 

 釣り担当はユキ、桃代、千尋。

 泳ぎ担当は菜桜、千春、環、美咲。

 釣り担当とはいえ水着は着込んでいる。

 暑くなったら水に浸かる作戦だ。




 釣具やなんや荷物をぶち込み、いざ出発。

 ユキの家のクルマはグランドハイエース。

 ボンネット付の室内。

 幅には余裕あるけど縦の長さが短いので息苦しさがハンパない。

 それなのに中で大暴れ。

 暴れるのは主に菜桜と桃代。

 到着するまでに何度怒られたことか。



 海に到着。

 中規模の川が流れ込んでおり、少し沖まで岩場が点在する。

 沖にはテトラポッドが数カ所組んであり、外海で波が多少荒くても内側では泳げるようになっている。

 釣りするにも泳ぐのにもなかなかいー感じの場所だった。

 ちなみにこの日の海は穏やか。

 泳げないユキでもいきなり波をかぶってパニくるコトはなさそうだ。

 

 

 泳ぎ担当は服を脱ぐ。


 幼馴染の中で最も背が小さかった千春。

 ビキニを着ていた。

 そのことに対し、


「あ~っ!コイツ裏切った~!いつの間にかデカくなっちょー!」


 桃代が大ブーイング。

 ここのところ急激に背が伸びているのはみんなが知っている。

 しかし乳が!

 ここもちゃんと成長していやがった。決して大きくはないのだが、とてもキレイな形をしている。世間で言われるところの美乳というヤツだ。

 本人も大きくなったという自覚があるらしく、


「そうか?そんなにデカいか?」


 桃代にこれでもかとばかりに見せつける。


「あ~も~。コイツでったんムカつく~!」


 腹いせに


「お前なんか、こーしてやる!」


 後ろに回り揉みしだくのだが…。

 触った瞬間、ギョッとし手が止まった。思っていたよりはるかにデカいのだ。

 少し感じてしまった千春だったが、


「どげ?なかなかバインバインやろ?」


 平静を装い、さらに煽り立てる言葉を吐く。


「お前だけは裏切らんっち思いよったんに…。」


 悲しそうな桃代。なんか泣きそうだ。


「ウチ今絶賛成長期。っちゆーか、背が伸びる前もお前よかあったしね。桃、それだけ背も高いっちゃき、もぉ成長せんやろ。乳も。」


「乳も」を殊更強調した。


「もぉ~っ!コイツでったんはがいー!ゆーたらいかんことばっか言いやがる!」


 面白そうなので菜桜、環、美咲も加わる。

 何が原因で大騒ぎしているかは聞こえていたから知っている。

 あえて着ていたTシャツを脱いだ。

 この3人は普通にある。特に菜桜と環は巨乳の域に達していてかなりエロい。美咲はスリムなので巨乳とまではいかないが、バランスが取れていてカッコイイ。中学時代耳が出るほど短かった髪も少し伸ばした。金色の「尻尾」はまだ残っているが、耳も隠れ女の子らしさが増している。

 勿論3人とも可愛らしいビキニ。

 菜桜が寄ってきて、


「なんか、桃?はらかいちょーんか?」

 訳:何怒ってんの?


 声をかける。

 それも二の腕で挟んで少し前かがみになり、これでもか!と言わんばかりに谷間を強調しながら。

 環も、


「桃、怒らんとやが。人それぞれやろ?人間の価値っち乳の大きさで決まるわけじゃないっちゃき。」


 イヤな笑顔で煽る。

 美咲は、


「桃、ご立腹やん。何があったん?」


 分かっているのにあえて聞く。

 集中攻撃に遭った桃代は、


「お前らまで!ちょっとデカいっちゆってエバりよんか!」


 悲しいやら悔しいやらで絶賛発狂中だ。



 何やら面白そうなので男チームも寄ってくる。


「どげしたん?」


 分かっていて千尋が聞く。


「こいつらが!」


 桃代が女子チームを指さす。

 ユキが三人と見比べるフリをした。


「あー!ユキくん今、何した?」


 バシバシ叩かれる。


「ごめんごめん。」


 笑ながら謝り、また同じことをする。


「はがいー!ユキくんそげデカい乳がいーん?菜桜はユキくんに見せるな!」


「んじゃウチが…。」


 環がユキの方を向く。


「おぉ~う!たまらなくセクシー!」


 ユキは環にサムズアップ。


「お前ら、ホントたいがいにせぇよ!」


 桃代が怒り狂う。

 菜桜が桃代のシャツの首元を人差指で引っ掛け、中を見て、


「ふっ…」


 鼻で笑い追い打ちをかけた。

 

「きさん!酷過ぎやねぇか?」


「よし。もうちっぱいいじり飽きた。シャツ着て泳ぎいこ。」


 菜桜が酷い言葉で締めくくる。

 泳ぎ担当はクルマにシャツを取りに行き、海に走っていった。


「アイツらもぉ~!」


 やっぱし今日も負けっぱなし。




 釣り担当だけになった。


「釣りしよ?」


 ユキが桃代の肩を叩いて慰める。


「ふん。どーせ無いですよーだ。」


 ユキをジト目で見ながらブーたれる。


「オレは桃ちゃんの、好きよ。」


 耳元でそっと言う。


「ふん。何のフォローにもなってねぇし。」


 本気では怒っていない。

 実は嬉しい。

 少し赤くなりながらそっぽ向く。




 釣りの用意を始める。

 ユキは海用タックルを持ってない。バス用でもできるのだが塩水の後処理がイヤラシイので親父のフリームスKIX2500を貸してもらった。

 サオはメジャークラフトのシーバスロッド。

 10gバレットシンカーにオフセットフック。

 小さめのチューブワームをセットしたテキサスリグを使用する。


 桃代はちょっと前買ったバス用のスピニングセットでやる。

 近頃巻きでもワームでも釣れにくくなってきたので、ついにスピニングに手を出した。

 様子見なのでとりあえず中古。

 シマノのバイオマスターMg1000に4ポンドフロロを巻いている。サオはダイコーのブルーダー6.6フィートのLアクション。

 今後金が貯まり海に行く頻度が上がれば新品で揃えるつもり。

 5gバレットシンカーにオフセットフック、エコギアグラスミノーSをセットしたテキサスリグを使用する。


 千尋はABUのシーバスロッドを買った。

 リールはレボネオスで8ポンドナイロンを巻いている。

 スピンソニック10gを使用する。巻きでいく。



 実釣開始。

 3人とも川の流れ込みに陣取る。

 ユキと桃代は川の流心に向かって。

 千尋は海に向かって投げる。

 釣り方はバスと同じ。


 ユキはチューブなので、投げたらまず底を取る。

 そして可能な限りゆっくりただ巻き。

 ハンドルを3~5回転。

 止めて再度底を取る。

 底から離れるか離れないかというギリギリの早さで泳がせ、たまに底の凸凹に当たり砂煙を出すイメージ。

 これの繰り返し。


 桃代はグラスミノー。

 投げて底を取るのはユキと同じ。

 引き方はグラブと同じ。

 底を取り、スッとサオを立て、そのままの状態で底を取る。

 これの繰り返し。もしくは、ユキと同じただ巻き。


 千尋はただ巻き。

 投げてカウントダウンし、最初だけ底を取る。

 後はイメージした棚を引いてくるだけ。

 アクションは付けない。



 表層を引いていた千尋にヒット。

 サオ先を弾くようなアタリ。


「食った!」


 軽くアワセると重さが乗る。

 魚が暴れる感触はあるが、小さい為呆気なく寄ってくる。

 抜き上げると


「おぉ~!カマスやん。」


 20cmくらいのカマス。

 カマスは群れで回遊するため、手返しよく釣ると爆釣する。

 歯が鋭いので、少しでも飲まれ糸が歯に当たると、例え太い糸であっても簡単に切れるのでご用心。

 急いでハリを外し再度同じ場所へ。するとまた同じポイントで掛る。群れが去っていく間に4本釣れた。回遊を待ちつつルアーを投げ続ける。




 桃代はワームを食いちぎられまくっていた。


「え~くそ。ワームがだんだんちっこくなっていきよぉ。」


 ワームを見ると半円形のかじった跡。

 それをユキが見て、


「フグがおるね。」


「これフグかぁ。アタリすら出らん時あるばい。」


「こればかりはしょーがないね。」


 メインのパーツが無くなるまでボロボロのを引くことにした。

 そしてついに!

 ユキにヒットする。


「食った!」


 プルンとアタリがあり、少し待ってアワセた。


「おっしゃ!のった!」


 重量感。

 エラ洗いこそしないが感触がバスに似ている。

 何が掛かった?

 リールを巻くと、なんか茶色いヒゲのないナマズっぽい感じの…マゴチ!


「やった!マゴチ!高級魚。美味しいばいこれ。」


「わ~!いいな~。」


 25cmのマゴチが釣れた。




 桃代もフグの猛攻に耐えつつ頑張っている。

 その間に千尋はまた回遊に当たる。バタバタと5本釣る。


「ちょっと他の魚も釣ってみてぇな。」


「千尋くん贅沢言わんと。ウチまだ釣ってないんよ。」


「ははは。そぉやったね。頑張れ!」


「頑張るぜ!」


 それから30分。

 ついにその時が訪れる。

 砂地を引いてきて、足元の捨石にルアーが引っ掛からないようにするため、少し早めに巻いた瞬間。


 ゴッ!


 ひったくるようなアタリ。サオが突然絞り込まれる。


「うわっ!焦ったぁ。」


 ジ―――!

 ドラグが唸る。


「なんか強い!」


 サオを立て気味にして耐える。

 止まったのでリールを巻く。

 バス用のライトなタックルだ。水の抵抗が強烈で、寄せるのに苦労する。

 巻き取り中もドラグは滑りっぱなし。

 糸が切れそう、というわけではないが、寄せるパワーがイマイチ。

 なんとか水際まで寄せるが抜き上げは不可能だ。

 取り込むためにギリギリまで降りることにした。

 そして、


「やった!ヒラメ!30cmぐらいある!」


 姿を確認して大喜びする桃代。

 波に乗せて足元の石の上にズリあげた。

 暴れるヒラメ。

 ユキと千尋で押さえつける。


「おぉ~!スゲーやん。これでみんな釣れたね。」


「ノルマ達成!」


 ハリを外しクーラーボックスへ。



 全員釣ったことにより心に余裕ができた。

 桃代は巻きでいく。

 スレバス用に買ったちっこいクランクベイト。

 プチピーナッツ。

 ディープランナーなので、川のような浅いフィールドなら底に着くまで潜る。

 色んな角度でアプローチ。

 たまに何かコツンとアタる。が、のらない。

 さらにゆっくり引いてみた。

 またもやアタる。

 軽くアワセてみると生命感。


「何か掛った!」


 小さな魚の感触。

 リールを巻き続け、手前に来たので抜き上げた。


「ん?ハゼ?」


「ホントやん!ハゼっちルアーで釣れるって。」


 エサ釣りの対象魚とばかり思っていた。

 釣り番組で水中映像を見ていると、誘いを入れて釣っていた。

 動くモノに興味を示すらしい。

 なるほど。納得だ。

 ルアーを咥えたところを記念撮影。


 フックを外し、魚をクーラーに入れ、再びキャスト。

 ハゼなら同じところにまだいるはずだ。

 再現性を試す。

 同じ速さで巻いてみると、


 コツン!


 来た。

 軽くアワせて巻いてみると、同じくらいのハゼ。


「パターンかも。」


 ヒットした周辺に投げ続ける。

 結局10匹釣れた。


 帰ってネットで調べてみると、ルアーでのハゼ釣りは流行っているとのこと。

 ハゼクラとかハゼングというらしい。


 なるほどね!




 しかし暑い。


「あっち~…海入ろ?」


 色白の桃代が日に焼けて、ほのかにピンク色になっている。

 限界のようだ。


「そやね。」


 タックルをバラし、片付ける。


 クルマに荷物を積んで服を脱ぐ。

 先に脱ぎ終わった千尋は、一目散に海に走っていった。



 残された桃代とユキ。

 桃代は可愛らしいフリフリのいっぱいついたワンピースの水着。

 思わず見惚れていた。

 桃代は胸に手を当て俯いて、


「ごめんね。ぺったんこで。」


 さっきのを気にしていた。

 そんなこと気にすることないのに。


「ううん。全然いー!マジででったんかわいーっちゃけど。」


 照れて、日に焼けた頬が更に赤くなる。


「へへへ…ありがと。」


 海水浴客で賑わっているから髪を下ろして風になびかないようにピンで厳重に固定している。

 傷が隠れるとアイドル的なオーラがある。

 圧倒的存在感。

 気付いた人は必ず目で追っていた。


 見せたくねぇ。


 純粋にそう思った。




 浮き輪を持って波打ち際へ。

 泳げないユキは、浮き輪の穴にケツを突っ込んで漂っている。

 それに桃代がつかまって浮く。

 なんか嬉しい。


 いきなり桃代から顔に水をかけられ、


「ぅわっ!」


 必死で顔を拭うユキ。

 少量でもダメだ。


「こら!」


 怒ったフリ。


「へへへ。」


 悪戯っぽく笑う桃代。

 浮き輪からだらんと放り出した手で乳を揉んでやり返す。


「ンあ…。」


 不意打ちされ、思わず色っぽい声が出て焦る。


「もぉ。バカ!」


 頬を赤くして怒る。


 そのまま濡れた髪に手を添える。

 そっとかきあげ目を瞑り…口づけた。

 幸せなひと時。




 だいぶ日が傾いた。


「帰ろっか?」


 ユキ父が声をかける。


「「「は~い。」」」


 素直にみんな上がってきた。

 全員いー感じに日焼けしている。

 海の家があるわけじゃないので持ってきていた真水で洗うだけ。

 クルマは真っ黒のスモークが貼ってありブルーシートも敷いてあるから、バスタオルを巻いて水着のまんま帰る。




 帰り道。

 クルマの中で、


「焼けたね~。今日お風呂入ったらでったんイテーばい。」


「ヤベーね。」


「イチオー日焼け止め塗っちょったんばってんが…。」


「塗っちょったきこんだけで済んだっちゃない?」


「でったんクッキリやし。こぉ!見てん。」


 菜桜はわざとらしく胸元を開け、桃代に見せる。

 桃代はそのデカさが羨ましくて仕方ない。

 やられっ放しは悔しいので、無言で手を突っ込み乳首を触る。

 コリッとされた瞬間、


「あっ…。」


 堪えきれずエロい声がでた。

 菜桜も猛烈に感じやすい。

 限界が極めて低いため、ちょっとした刺激でも簡単に声が出る。


「うわっ。菜桜…」


 千春がニヤッとする。


「お前もそーとー可愛い声出すよね。」


 環もニヤける。

 顔を真っ赤にして、


「きさん!何しやがる!」


 走行中の車の中で暴れ始める。


「うるせー!お前がいらんことしてくるきて!いつまんでもやられっ放しっち思うなよ!」


 やり返されて当然のことをしているので仕方ないのだが何せ妹分。

 上に乗られ、理不尽な攻撃を受ける。

 水着の胸元から手を入れ直で乳首を触る。


「あっ!ちょ!やめ…」


 流石に暴れ過ぎた。


「こら!お前ら!」


 ユキ父からまた怒られた。


「ほら見ろ!怒られたやろーが。」


「お前がいらんことするき!」


 反省もせず、なすりつけあう。




 それから約30分。

 到着するまで暴れっぱなし。

 何回も怒られた。


 ユキの家に到着。

 殆ど乾いたので水着の上に服を着る。


「「「ありがとうございました!」」」


 ユキ父にお礼。


「おう!またいつか一緒行こうの!」


「「「は~い!」」」


 元気に帰っていった。




 魚は分けるほど多くない。

 持って帰るのも面倒臭いのでユキが全部貰った。

 その日の夕食。

 全て素揚げで食卓に上った。

 ヒラメとコチは身が多くてなかなかの食べごたえだった。




 また一つ楽しい思い出ができた。

 次があるとするならば、用事で来られなかったみんなとも一緒に行きたい。

 こんなふうに思える仲間がいるというのは幸せなことだ。


 ずっとこんな関係続けていけたらいいな。


 思い出が増える度、強く強く思うこと。

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