第15話① ロストバージン(まだ入れてない時のお話)
中学生活に於ける最大のイベント。
県立高校の入試が終わり今日は合格発表。
登校日なのだ。
学校に行き、担任から一人ずつ呼ばれ結果を聞く。
果たしてその結果は?
全員合格!
朗と涼はそれぞれ建築科と家政科。
全員普通科とはいかなかったものの、バラバラになってしまうよりははるかにいい。
めでたしめでたしなのでありました。
今は春休み。
みんな受験勉強の毎日から解放され、晴れて自由の身になった。
高校の入学式前日まではオニのよーに遊び狂う。
街に出て買い物したり、お別れ会的なパーティーしたり、卒業旅行したり。
三年間通して、この休みが最も解放感あるんじゃないのかな?
ユキ達は、親を含めた幼馴染全員で温泉旅行に行くことになっている。
幼馴染の親たちも両親又はどちらか片方が幼馴染なので全員仲がいい。
予定が合う複数の家族で、ことあるごとに子供達と一緒に何かしたがる。
だから、割と親同伴のイベントが多かったりする。
今回は幼馴染に加え、中学からの友達、涼、舞、朗も同行だ。
ミクは家の用事で残念ながら不参加。
行きたいと言っていた。
旅行当日。
これから行く予定の旅館は、山の幸と星空と混浴が売り。
「温泉旅行」「混浴」というワード。既にラッキースケベの予感しかしない。
テンションMaxで、出発前からずっと桃代をいじり倒している。
「桃、これからの予定は?間違って男湯に入る?それとも…間違って男湯に入る?」
「うるさい!それ一択か!」
「だってお前、でったんしそうなんやもん。」
「するか!そもそも見ればわかるし!」
「そぉいや混浴もあるっちいーよったね。何か起こるとしたらそっちか?」
「うるせーっちゃ!なし既に起こること前提なんかっちゃ!」
「んじゃ、何も起こらん自信あるんか?」
「あるくさ。」
「すげぇやん。ウチは起こる方に賭けるね。」
「失礼な!そげいっつもドラマチックなことばっか起こってたまるか!」
このやり取りが延々と車内で行われているのである。
それはもうウルサくてウルサくて。
途中、何回親に怒鳴られた事か。
出発し数時間。
滞りなく旅館に着く。
標高があり、規模もデカい。
まだ夕方前で、普通に明るい。
夕飯まではかなり時間がある。
大人チームは夕飯前に風呂。
酒持込み可とのことで、風呂に浸かりながら食事前の一杯を楽しむことにした。
荷物をおろし、早速風呂へ。
浴場は廊下でつながった別館にあり、24時間入浴可能。
男湯と女湯が上の段、混浴が下の段。高低差を利用してある。
男湯と女湯は似たような作り。
どちらも屋内と露天があり、それぞれ岩風呂。
広くはないが風情がある。
混浴は半分が屋根付き。あとの半分は露天でかなりの規模。
屋根の下から露天までつながっていて、泳げるくらい広い。
解放感と風情の両方を求めるならば混浴一択だ。
川のせせらぎが聞こえ、遠くまで見渡せてなかなか景色がいい。
ユキ達は釣り。
旅館の横には川が流れていて、よく見ると魚がキラキラしている。
ユキは前もって調べていたので、渓流ザオと仕掛けとエサ(練り餌)を持ってきていた。
話を合わせ、釣具を持ってきていたのは千尋と海。
荷物を部屋に運ぶと早速釣りに行く。
旅館の関係者に遊漁券のコトを尋ねてみたところ、マス類は放流していないので必要ないとのこと。
ありがたい話である。
川には旅館から歩いて数分の場所に砂防ダムがあり、直下にサオを3本出しても余裕がある規模の淀みというか溜まりがある。
各々仕掛けを組んで釣りをスタートする。
ごく一般的な玉ウキの仕掛けに一本針。
仕掛けは以下の通り。
道糸0.6号にゴム管を通しヨリモドシを結ぶ。
ハリスは0.4号。
針は袖バリ。
ゴム管に小さな玉ウキを付ければ完成。
流れ具合によってハリスにガン玉をうつ。
練り餌を付けて流す。
一投目からアタリが出るがエサ持ちが悪く、アワせるタイミングを逃がす度エサが無くなる。
練り餌だからしょうがない。
あ~面倒臭い。サシ持ってくればよかったよ。
再度エサを付け、流すとすぐにアタる。
玉ウキが僅かに沈む分かりにくいアタリ。
アワセると、プルプルっと小気味よい感触。
上がってきたのはハヤ(オイカワ)。
婚姻色はまだ出てないため、銀色に近い魚体だ。
サオが柔らかい為、15cmくらいになると結構引く。
久しぶりのエサ釣りなんだけど、これがまたなかなか楽しい。
一匹釣ったら交代する。
そんなルールが話し合わなくても決まっている。
楽しいコトはみんなで!がモットーだから、自然とそうなるのだ。
ここにいる初心者は涼と舞だけ。
涼は海に、舞は千尋におしえてもらうようだ。
流れのある場所でのウキ釣りはアタリの見極めが難しい。
消し込みのアタリは誰にでもわかるが、問題はその他。
流れているウキが一瞬止まる。
さらに早く流れる。
逆流する。
わずかに沈むなど様々なパターンがある。
しかも、どのアタリも万遍なく出る。
おかしいと思ったらすぐにアワセることが釣果を伸ばすコツ。
先ずはベテランである千尋と海がやってみせて、流れを理解させる。
そして初心者へとバトンタッチ。
二人はアタリを見極められず、タイミングが合わなくて苦戦している。
そんな中、ついに涼が釣る。
一瞬フッと沈むアタリ。
海が、
「今!」
アワセるタイミングをおしえる。
軽くサオをあおるとサオにプルプルと生命感。
初エサ釣りでの初フィッシュ。
上がってきたのは小さなアブラハヤ。
海と手を取り合って喜んでいる。
勿論、大きさに関係なく記念撮影。
ちなみに二人は先日晴れて彼氏彼女の関係になった。海の方から告ったと聞いている。
ラブラブっぷりが全開で羨ましい限り。
間もなく舞も釣る。
流れの緩い場所で、ハッキリと分かる消し込みのアタリ。
千尋が、
「今!」
アワセのタイミングをおしえる。
軽くあおると待望の生命感。
10cmくらいのカワムツだった。
カワムツはオイカワに似た魚だが、色が違うのですぐわかる。
オイカワは、薄い青のような銀色のような魚体に、薄いオレンジの不規則な模様がある。
カワムツは側線に並行して色が分かれる。ベージュっぽい色と淡いピンク色、側線に沿って灰色の線が入る。
4~5周はしただろうか。
魚も警戒心が芽生えてきたらしく、アタリが遠のいてきてあからさまにペースが落ちる。
「ぼちぼちやめて戻ろっか?」
千尋が言う。
「そやね。」
薄暗くなってきたので仕掛けを片付ける。
釣果は全員で30匹を超えていた。
魚影の濃さがハンパ無い!
短時間だったけど充分楽しめた。
全部逃がし終了。
撤収だ。
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