第9話① 嫉妬(仲のいい友達が!)
秋。
文化祭のシーズン。
準備期間で毎日遅くまで学校に残り作業する。
ユキ達のクラスはメイド喫茶をやることになった。
色々な飾りや小物など、手作りできるものはすべて作る。
過去に作った小道具や飾りなんかは、ひとまとめにして校内のプレハブにしまってあり、再利用できるものはそこから引っ張り出していいことになっている。
桃代はメイドさんに選ばれ練習中。
一度衣装を着ているところを見せてもらったが、背が高くて映える!そして、髪を下ろすから傷も上手い具合に隠れ、今大ブレイクしているアイドルもビックリなほど可愛かった。関東で何度もスカウトされた意味がよくわかる。
これでまた確実にファンが増えることだろう。ユキは密かに心配している。
ちなみに今はジャージ姿。
ケチャップでオムライスに絵を描く練習をやっている。
勿論代替品で。
持ち前の器用さを惜しげもなく発揮している最中だ。
そして指でハートを形作り、振り付きで
「美味しくなるお呪いをしますね!美味しくな~れ。美味しくな~れ。萌え萌えキュ~ン!」
お約束のセリフ。
大盛り上がりだ。
ユキはというと…。
装飾品などの制作担当。
同じ担当の女の子、長谷ミクと一緒に何か使えるモノを探しに離れのプレハブへ行くところだった。
菜桜が教室から出ていく様子を見ている。
そして、やっぱしいらんことを思いつく。
「あ~あ。あれ見てん。」
指さして、あえて桃代に意味ありげにおしえる。
あまりにも当たり前すぎる光景。しかも、これまで何回も見ている。言われるまでは何も気にしていなかった。
なのに…
「ユキ、またミクとどっか行きよぉやん。桃、盗られたね。残念。」
とっても意地悪い笑顔であおる。
意識した途端ジワリと不安が湧いてくる。
「プレハブん中でヤりよぉばい。」
「ユキくんはそんなことしません。」
「いや、分からんよ?」
不安が膨張する感じが如実に伝わってきた。
桃代はユキが絡むとホント、ダメダメだ。ウソや冗談を全く見抜けなくて瞬殺であおりに乗ってしまう。既に8割がた乗ってしまっている。
不安をかき消すかのように
「そんなことない!」
叫び気味に言う。
さらに追い打ちをかけるように菜桜がニヤける。
桃代をいじることに関しちゃ菜桜の右に出る者はいない。
「あいつ可愛いし性格いーもんね。女から見てもいいヤツやもん。それに乳ふってーし。」
不安が頂点に達した。
「大丈夫やか…」
目にいっぱい涙を溜めている。声も震えてしまっていた。
練習の真っ最中なので、追いかけて行って確かめるわけにもいかないことを理解した上での意地悪。
ホントに質が悪い。
そろそろ涙がこぼれそうになってきたのでフォローする。
「ウソウソ。ユキが浮気やらする訳ねかろぉがっちゃ。」
「そぉよね?」
もうほとんど泣く寸前。
完全に鼻声だ。
他のクラスメイトもそのことに気付く。
「桃?何あんた泣きよぉん?」
「いや…別に…」
「いじりよったら半泣きこいた。」
「また菜桜か!」
「うん。ちょっとやり過ぎた。」
「も~…お前やめちゃれちゃ~。可哀そうに。ねぇ桃。」
友達からヨシヨシと頭を撫でられ慰められている。
「泣いたら練習にならんやろーが。」
菜桜は怒られる。
「あんた、ホント桃いじるの好いちょーよね。」
「だってオモシレーもん。」
全く反省しちゃいなかった。
極めてよくある光景なので、クラスメイトも「また菜桜が」というふうにしか思ってない。
菜桜が桃代をいじって泣かしかかっているとき、ユキはというと…別に、何も起こっていなかった。ユキ「は」ね。
黙々と二人で物色中。
使えそうなものがあれば引っ張り出して、あーでもないこーでもないと相談し、フツーに作業。
色っぽいイベントなんか微塵もありません。
しかし、ユキも桃代も知らないところで大変なことが既に起こってしまっていた。
ミクは文化祭の用意が始まってユキと同じ係になり、一緒に作業するうちその優しさに気付いてしまったのだ。あまり積極的に喋ってこないので、最初のうちは全く気付かなかった。が、しかしそれなりに長い時間一緒にいると「ん?」と思う瞬間がある。
例えば。
作業している時にさりげなく重い荷物を持ってくれたりだとか、面倒な作業で上手くいかないときに率先して手伝ってくれたりだとか、倉庫の中でモノを引っ張り出していて、不安定な足場でよろけた時庇ってくれたりだとかである。
そして決定的なイベントが発生してしまう。
ド定番!ツーショットでお家までお送りイベントだ!
その日はユキ達の担当する作業だけがうまくいかなくて極端に遅くなり、完全に真っ暗になってしまっていた。
こんな時に限って、ミクの両親は用事で迎えに来られず、暗い夜道を一人で歩いて帰らなければならなくなっていた。
ここで一つ。
ミクは幽霊ネタが大の苦手。
自分の部屋にいるときでも、何か音がしたりすれば「ビクッ!」となるくらい怖がりなのだ。
それなのに今日は歩き。
家はそこまで遠くないのだが、街の外れで道には外灯などの灯りが意外と少なかったりする。
ちょっとした森的なものがあったり、田んぼで外灯の無い区間があったり、神社や寺、墓地があったりでそれはもうフル装備で怖い。
同じ集落の幼馴染は別の係で、既に帰宅してしまっている。
入学してこれまで、運よく一人で帰ることはなかったが、ついにこの時が来てしまった!というわけだ。
「でったん遅くなったね。」
「ホント。ここまで遅くなるっち思わんやったばい。でったん真っ暗やん。」
2人、喋りながら昇降口へと向かう。
互いに靴を履き替え、
「じゃあまた明日。バイバイ。」
「う、うん。バイバイ…。」
昇降口を出たとき思わず言葉が詰まる。
ここからは完全に一人。
さて困った。
で、こんな時ほど絶対に思い出してはならないものを思い出してしまう。
昨日放映されていた「季節外れの怖い話」。
しまったぁ…なんでこのタイミングであのテレビ思い出すかなぁ…。
怖いシーンが続々と鮮明に甦ってくる。
遅くなって帰り、一人晩御飯を食べている時、お姉ちゃんがガッツリ見ていた。
見たくないのに!
お姉ちゃんもミクが怖がるのを知っていて、意地悪しておもしろがっている。何度か別の番組に変えるよう頼んだのだが全く聞き入れてもらえない。怖い映像が流れる度、指さしてミクの目線をそちらに向けようとする。いい加減怖いので、急いで食べて自分の部屋へ避難。したはいいものの、ハッキリクッキリアタマに焼き付いてしまっている。近年まれに見る怖さだったため、寝るとき灯りを消すことができない。豆球にすらできない。結局遅い時間まで寝れなくて、夜も明けかかった頃やっと寝落ち。寝坊して遅刻しそうになった、というわけだ。
ユキは、田舎の方の小学校出身なので、少し遠いためチャリ通。
自転車置き場にチャリを取りに行き、再びミクと別れた昇降口の前を通る。
と、そこにはまだミクがいた。
「あれ?まだおったん?迎え待ち?」
不思議に思い声をかけると、気まずそうに笑いながら
「へへへ…ちょっと怖いでね。ウチ怖いの全然ダメで…昨日見た心霊特集、このタイミングで思い出してから…怖いで帰れんくなって…小路待っちょった。悪いけど家まで送っちゃらんやか?ダメ?今日、お父さんもお母さんも用事で迎え来れんっちゃ。」
ダメモトでお願いしてみる。
すると、
「いーばい。送っちゃーよ。」
意外にも即答。
渋るか断られるか、どっちかだと思っていたため、自分からお願いしたにもかかわらずビックリする。
そして、暗い夜道の一人歩き回避で安堵のため息。
やっぱ間違いない!小路っちこーゆーとこ優しいんよね。
なんでみんなここに気付かんの?
ウチのクラスの女子は見る目無いな。
それとも、桃に気を使っちょーんやか?
そんなことを考えた。
「助かる。ありがと。」
「あれ、オレも見た。結構怖かったよね。確かに暗い中、アレ思い出しての一人歩きは怖いかも。家、どの辺?」
「えっとね~…街外れの方。田んぼとか神社あるとこ。」
「あ~。そら~コエーね。あの辺、電気無いき真っ暗やん。」
「そーなんよ。」
チャリを押し、他愛もない話をしながら一緒に歩く。
駄弁っているうち、偶然エロい方にハナシが飛んだ!
ユキはかなりエロい。
平気で直接的表現をしまくる。
だから、クラスの大部分からユキ=スケベと認識されている。
しかし、ユキがエロネタで盛上るのは幼馴染限定で、他の女子にはしない。そのことをミクは知らない。幼馴染とエロ話しているイメージしかないのだ。
この時は、たまたま今人気の芸能人の話になり、ユキがその手の話にイマイチ疎いもんで、説明するために身体的特徴である巨乳の話をしたら、エロ方向に話題が飛んでしまったのだ。
「あ~、それなら知っちょー。CMとかドラマいっぱい出ちょーよね。あれでったんフッテーよね。生で見てみたい!ねぶりたい!挟んでしてもらいたい!」
「あんた、モロやな。流石スケベ。」
「男のロマンだ!」
グッと拳を握り締め力説する。
ここで大切な情報を一つ。
ミクは巨乳だ。
しょっちゅう男子から凝視されたりからかわれたりしている。
よくあることとはいえ、恥ずかしいのでいい気はしない。
ハナシをフッて盛り上がってしまった後、次は自分が標的になることを想像してしまい後悔する。
やっべ~…胸のネタになるかな?小路、桃たちと一緒の時はでったんヤラシイ話しよるもんな。これからいじられたりするんかな?
身構えたものの、いくら話を続けてもミクの胸のネタにはならない。それどころかチラ見することすらない。
あっれ~?
疑ったことに軽く罪悪感。
警戒しつつ話すから明らかに不自然だ。
ユキも、会話の調子に違和感を覚えたらしく、
「急に喋り方変くなったけど、どげんかした?」
首を傾げ聞いてくる。
「いや…その…胸のハナシ…ウチからフッてしまって…なんかまたいじられるんかな?っち勝手に警戒してしまって…っち、ウチ何いーよーっちゃかね。ごめんごめん。今のナシね。」
テンパり過ぎて、しどろもどろ。言おうとしたことがまとまらなくなり、恥ずかしくなってしまう。
そこまで話したところでやっと、
「あ。あ~…そーゆーことね。なるほどなるほど。何も気にしちょらんやったばい。言わんかったら気付かんやったんに。」
気付いて照れ笑い。
笑顔…いいな。
「ちょいちょいネタにされていじられるもんやき、ついつい警戒しまってね~。」
「そっかー。おっきかったら、そげな悩みがあるんばいねー。そらぁ好かんね。」
バカにするどころか親身になって受け答えしてくれる。
「うん。よくあることとはいえ恥ずかしいっちゃ。」
「そぉよね。分かった!オレは気を付けとくよ…っち、あれ?こげなことゆったら今まで見よったんかっち話になるよね?なんか、言い方ムツカシイね。」
「あはは。それはないよ。」
ユキの優しさが純粋に嬉しかった。
温かい気持ちになる。
桃、幸せ者やな。
羨ましさと…
そして少しの嫉妬。
「好き」が少しずつ大きくなっていく。
ボチボチ家。
送ってもらうの、ここでもいいがまだまだ話していたい。
だから…
家の前まで送ってもらお。知っといてもらいたいしね。
「小路っち付き合いいいね。」
「そぉかね?普通じゃね?」
「ううん。なんか優しい。桃が好きになるの分かる気がする。」
なんてストレートな!
「へ?なんでそこで桃代ちゃん?」
変な声が出た。
思いもしなかった方向にハナシが飛んで、モーレツに動揺してしまう。
「何?もしかしてあんた、マジで気付いてないん?でったんバレバレやん!端から見よったらモロ分かりやし。っちゆーか、流石にあれ気付いちゃらな残酷過ぎやろ!」
どうやら鈍感と思われている模様で、かなり呆れられている。
しかし実際は…
泣けてくるほど気付いている。鈍感じゃなく臆病なだけ。ヘタレなだけなのだ。
もし自分の思い過ごしだとしたら?
桃代ちゃんが俺のコト好きでもなんでもなかったら?
みたいなネガティブな考えが邪魔をして、肝心な場面で怖くなってしまう。
なら、いっそ今のままの方がいーや。
結局、毎回この考えに落ち着いてしまうため、未だ何の発展もないままなのだ。
実際気があるような言動は今まで何度もあった。
ただ、照れが激しい桃代はユキの前で必死に隠そうとする。これもまた自信を持てない原因で、心にブレーキをかけてしまう。
しかしまぁ…第三者からソコをツッコまれると超絶照れる。
「そぉなんかぁ…。」
「まぁ、ウチがとやかくゆー問題やないき、何も口出しやらせんけど。」
「ヘタレやきね、オレ。」
力なく笑う。
この返しの声と調子だけで桃代のことが大好きというのが丸わかり。
告白はしてないけど、お互い気付いてないけど両想い。
入り込める余地無し、か…
改めて考えてしまうと悲しくなってくる。
でも諦めたくない!
この優しさを自分だけのモノにしたい!
「好き」と「独占したい気持ち」がまた少し大きくなる。
家に到着。
もっと話していたいけど、長引かすとホントに離れられなくなってしまいそうで…。
「小路、今日はありがと!また明日ね!バイバイ!」
未練を断ち切るかのように手を振って、家に入っていった。
その夜。
色んなことを考えてしまう。
なんかの漫画に載っていた「夜の学校効果」という言葉が頭に浮かんだ。
都市伝説的な何かと思いよったけど…実際にあるもんなんやな。
実際に我が身に降りかかり、思わず感心してしまう。
ちなみにその「効果」は一時的なもので、イベントなどが終われば自然消滅する、と付け加えてあった。
はたして今抱いているこの感情は一時的なモノ?
文化祭終われば自然と消えてゆく?
自身に問いかけてみる。
しかし、どう考えてもそんなことはなさそうで…恐らく相当本気で好きになってしまっている。
この気持ち、どげするかな?
告るだけ告る?
でも、明らかに桃と両思いやしな。今の時点で既に終わっちょーしなぁ…。
諦める?
考えては見たものの、難しすぎて結論には至らなかった。
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