第6話 釣りガール

 最近、「釣りガール」とか「釣女」といった釣りをする女性に焦点を当てた釣り番組がちょいちょい放映される。

 名前すら聞いたこともないタレントさんや、流行が過ぎて旅番組ですら見ることもなくなった元アイドル。そんな人たちがよく出演している。

 何度出演しても上手くならなくて、実釣の度、「これどうしたらいいんですか?」とか「もう巻いていいんですか?」と、指導的立場の人に尋ねている。好きでやっているのであればそれなりに覚えられそうなものだけど…。

 流行らせたい一心で気持だけが先走りし過ぎ、痛々しく空回りしまくっている感じがものすごく伝わってくる。やらされた感ありありで、あからさまに楽しそうじゃないのが見ていて分かってしまうのだ。あれでは見ている方も全然面白くない。女性を取り込んで釣具の売り上げを伸ばしたいのだろうが、あまり効果が無いように思えてならない。はたして実際に体験して楽しいと思い、趣味の一つとして継続している女性はどれくらいいるのだろうか?と、いらん世話なことを考えてみたりした。


 関東や関西などの人口が多い地域になると、そういった女性のいる確率は相対的に上がってくるのかもしれないが、福岡みたいな地方、しかも筑豊といった人口が少ない地域に限定すると、大幅に減少する。遠賀川流域とその周辺の湖沼に於いて、「釣りガール」や「釣女」はほぼ見かけない。

 あれだけ放映されているのに、あれだけ釣り場に通いつめているのに見かけないとなると、実はテレビ番組の中だけで作られた架空の出来事?とさえ思えてくる。


 ここで、何故見ないか、その理由を考察してみよう。

 まず考えつくのが楽しくないからだと思う。

 テレビを見ていて感じる「やらされた感」が「楽しくない」に結びつくのではないだろうか。

 そして危険かつ不便。

 ざっと考えただけでも以下ようなマイナス要素を思いつく。


 女性一人だと何かと危険。

 釣り場は人目につかないところも多く、単独釣行していて女性ならではの事件に巻き込まれる可能性が0じゃない。


 トイレの問題。

 公園が隣接する釣り場でもない限り、無い場合が多い。


 日焼けの問題。

 紫外線を浴び続けると、若いうちはなんともなくても、ある程度歳を重ねてくるとシミやそばかすの原因になると言われている。


 どれも軽視できない問題ではないだろうか?


 そもそも、そんな危険な思いや不便な思いをしてまで釣りなんかしなくても、他に面白いことがたくさんあるじゃないか!


 以上、筆者の個人的な意見でした。


 そうじゃないよ!と思われた方。

 本当にごめんなさい。


 ここから先は、そんな問題なんかどこ吹く風?な、おねいさん方のお話。

 ちゃんと釣りガールしてますよ!しかも上手いです。




 昼休み。

 幼馴染女子チーム+最近加わった涼と舞は、グラウンドに続く階段でたむろして放課後について考える。


「ねぇ、どっか釣り行ってみらん?」


 と、桃代が提案。


「いーばい。」


 と、菜桜。


「どこ行く?」


 と、千春。


「大体、何人来るん?」


 と環。


「ここにおる全員。」


 と、美咲。


「多いな。でったん広い場所やないとできんっちゃない?」


 と、涼。


「男どもは?」


 という質問に対して、


「今日は、珍しくパーフェクトで用事やら委員会。」


 と答える。


「あ~あ。ユキ来んのやね。」


「ガッカリ…」


 シュンとなる桃代。

 桃代は女子だけの時にユキの話題でいじられても大して取り乱さない。ユキ本人に聞かれそうになったときのみ、赤面&狼狽の本領を発揮する。一応隠しているのだから。一応ね。

 ちなみに、顔は少しだけ赤い。


「釣り場で、またえっちしようと思いよったんに。」


 勿論ウソ。バリバリの処女である。見栄を張りたいお年頃なのだ。

 このメンバーはノリがいい。即座にリアクション。


「またってか!青姦大好きか!」


「白い汁出してか。」


「うん。」


「中出しか?」


「当たり前やん!女の喜び。愛されちょ~っち感じがする。穴の中からドロっち出てくる感触がいいよね!」


「はいはい。なんが愛されちょーか。本人おったらグダグダなくせに。」


「そげなことねぇし!」


「ほぉ!じゃ、お姉さんが直々にユキくんにゆってあげましょう。」


「あ~!ダメダメ。そげなことありました。」


 言い負けた。

 下ネタ満載の話は続く。




 今日は大人数。

 それなりの規模の場所を選ばないと、全員がポイントを確保できない。だから、この前桃代がユキに乳を見られた場所は却下。

 それよりもだいぶ下流の、広範囲に大きな石が消波ブロック代わりに沈めてあるポイントを選んだ。

 だいぶ、と言ってもせいぜい数百m~1kmぐらい。

 全員大して太ってないくせに、ダイエットという名目で歩き。

 サオを持ってワラワラ歩く女子中学生。

 まあまあ珍しい光景だ。



 釣り場に到着。

 お気に入りのポイントで、各々得意なスタイルで始める。


 まず最初に出会えたのは千春。

 30分ほど過ぎた頃だろうか。流心付近の石と土の境目を狙っていた。

 使用しているルアーは2インチセンコーのノーシンカー。オフセットフックにセットしている。

 フォール(ルアーが沈むこと)中、突如糸が走った。

 鋭くアワセるとサオが弓なりになる。


「きた~!」


 曲がり具合からして30cmは余裕でありそうだ。

 即座にドラグを緩め糸を出す。


 ジ―――!


 ドラグ音が鳴り響く。

 障害物を巧みにかわしつつ、ある程度走らせ、少しドラグを締めて巻き取りに入る。

 ド派手なエラ洗い。


「うぉ~!跳ねた~。シビレル~!バレんなっ!」


 ドラグ音を響かせながらもリールを巻き続ける。突っ込まれたら障害物をかわしながらサオを立て、弾力を利用し耐える。ウマいコト突っ込みをやり過ごし、さらにリールを巻く。

 手前まで引き寄せて…

 最後はネットですくう。


「釣れたぁ。」


 ホッとした笑顔が可愛らしい。

 測定すると34cm。

 記念撮影して、


「またね。バイバイ!大きくなってまたおいで!」


 逃がしてあげた。

 全員が寄ってきて、


「何で来た?」


 ヒットルアーを聞く。


「2インチセンコーのノーシンカー。フォールで来た。」


「マジか?今日はちっこいのが好みなんかぁ。ベイトじゃ飛ばんぞ。マイッタな。」


 ここで、みんなワームにチェンジ。



 この日、千春以外はフィネスをしていない。

 全員普通のベイト。

 極端に小さい仕掛けは飛ばせない。比較的小さいワームを選択する。


 全員ノーシンカーに交換。

 みんな期待しながらルアーを操作し、アタリを待つ。


 約20分後。

 今度は環。

 ルアーは3インチファットヤマセンコー。長さの割に太い高比重のストレートワーム。

 キャストして最初のフォールで中層辺り。

 小さな波を立てて沈んでいた糸が止まった。

 居食い。

 気付かずに飲まれてしまう一番厄介なアタリだ。

 僅かな変化に気付き、


 ん?ここもっと沈むはずやけど?


 サオを少しだけ上げ、聞いてみる(魚が食ったか確認する)。

 動かないがサオ先に重さを感じる。

 ひと呼吸置いて、


「よっしゃ!食った!」


 力いっぱいアワセる。

 向こう岸に向かって突進され、大きくサオが曲がった。


「でけぇ!」


 思わず声を出す環。

 異変に気づき、全員が環を見る。


「うぉ~!掛っちょーやん!」


 桃代が走ってくる。

 突進した際、沈んでいる障害物に入られた。


「ヤベー!石か何かに巻かれちょー!糸がゴリゴリいーよー!」


 環はかなり無茶できるように、14ポンドのフロロを使用する。

 しかし、傷が入ればどんなに太い糸でも極端に強度が落ちる。

 慎重にファイト。

 サオを立てたり寝かせたりして障害物から糸を外そうと試みる。

 その甲斐あって魚が障害物から離れ、糸が外れた感触がサオ先に伝わってきた。


「よっしゃ!外れた!」


 かなり擦られた。多分糸に傷が入っている。

 強引なファイトが封じられたため、スタードラグ(ベイトリールのドラグ、機能はスピニングと同じ)を少し緩める。

 再度走られるがドラグを滑らせ耐える。

 なんとかこっちを向いた。いつでも魚から反撃の突っ込みを食らってもいいように、ドラグは緩めたまま巻き取っていく。

 観念したらしく、ユラッと浮いてくる。

 右手を高く上げ、手が届く距離まで引き寄せ、開いた口に親指を入れ、掴んで上げる。


「やったね!40up。」


 この時ばかりはいくら地味とは言え笑顔が可愛い。

 指を広げザッと測定。


「42cmぐらいやね。」


 糸を触ってみると、ルアーの上数10cmにわたり傷が入ってザリザリになっている。


「あぶね~!糸切れるとこやった。でったんザリザリやし。」


 ダメになった部分を切ってリグり直す。




 みんな再度頑張るが次が出ない。

 ボチボチ暗くなってきたので糸が見えにくい。


「釣れんくなったし、糸も見えんくなってきたき帰ろうや!」


 と、菜桜。


「そうやね。帰ってマ●ズリでもコクかな。」


 と、桃代。


「なんかそれ、ホントっぽい。」


 涼がニヤッとする。



 片付け終わり、家へと向かう。

 散々ルアーを替えてもパターンにハマらず、数も伸びなかった。

 結局あの2匹のみ。

 でも、それも釣り。

 フィールドに出て、考えて、投げて、巻く。

 まだ見ぬ魚を思いながら。

 同じことは二度起きない。それが魅力だ!と言っていたプロがいるが、ホントにそう思う。

 だから釣れなくてもまた行く。

 次こそは!と思いながら。

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