第4話① 涼と海の物語
元城海。
もとしろ かいと読む。
ユキ達の幼馴染グループの一人で釣り仲間。
いつもつるんで行動している。
背はそれほど高くなく、細く青白く病弱だ。
持病があるわけじゃないが、風邪ひいたり、熱出したりでちょいちょい学校を休む。
無口というわけじゃないが、控えめで大人しく優しい性格。
顔は…中の下くらい。
クラスの皆からは嫌われてはないが、恋愛対象になるか?と問われるとNO。そんな感じだ。
町田涼
まちだ すずと読む。
ガラの悪い地区出身のワルソ(ヤンキー)だ。
髪はロングで真っキンキン。
顔立ちはキレイ系だが、眉毛を細く剃って怖い感じ。
近寄り難い雰囲気を醸し出している。
誰のグループにも属さず、学校もしょっちゅう休む。
余所の学校の生徒とのケンカ、喫煙、薬物、暴走行為等々、どこまでが本当か不明だが、よくない噂フル装備。
咥えタバコ&ノーヘルで原チャの無免許運転している姿をたまに見かける。
「絶対真似をしないでください!」の見本みたいな女の子。
こんな二人が何故かいい感じ。
学校ではあまり話さないが、下校時たまに一緒に帰っている姿を目撃できる。
あまり他人と関わりを持ちたがらない涼にとって、海は特別ともいえる。
実は涼が告白されているのだが、なんというか…肝心なところでヘタレて返事は保留みたいな感じになっている。
まぁ9割がた、付き合っているようなものだが。
海が、返事は急がんでもいーよ、と言ってくれたので、その言葉に甘えつつも、いずれハッキリさせるつもりでいる。
いい感じになったきっかけは、お約束もお約束。海がワルソに絡まれているところを助けられたことだ。
それは中学に入学してわりと早い時期のとある日の夕方、海がガラの悪い地区のスーパーに親に頼まれた夕飯の食材を買いに行った時のこと。
田舎のコンビニとか、スーパーの駐車場にある自販機コーナーとか、やたらヤンキーがたむろするスポットが存在する。
このスーパーもまさにそんな感じだ。
海が前を通り過ぎようとすると、余所の学校のワルソにお約束のように絡まれ、たかられる。
買い物のお金をむしり取られようとしたその時。
涼がいつものごとく原チャでフラフラしていると、その現場をちょうど目の当りにした。
あいつウチの班の弱っちそうなやつやん!なん絡まれよぉんか!あの腐れ、余所の学校の分際でウチの学校の人間に手ぇ出すげな、いー根性しちょーやねーか!
と、心の中で思い救出に向かう。
猛スピードで突進し、後ブレーキだけかけて、ケツを滑らせながら絡んでいる奴らを一人残らずなぎ倒す。
「何しよんか!きさん!」
訳:何してんだ!貴様!
ワルソが叫ぶ声。
「はよ乗れっちゃ!」
「え?あ?うん!」
「よーと掴まっちょけよ!」
茫然と立ち尽くす海を強引に後ろに乗せ、颯爽と去っていく。
まるで特撮モノのヒーローのようだ。
安全な場所まで走って海を下ろす。
「お前、情けなすぎ!いっつもそげな感じでオロオロしちょーき、あげなバカからたかられるんぞ!」
説教される。
「うん…そぉやね…助けてくれてありがと。」
「礼やらいーき、もーチョイ堂々としちょけっちゃ!」
「うん…わかった」
「お前、買い物あるっちゃろ?ついて行っちゃーき買ってこい。でも、今すぐ行ったらあのバカ達まだおるやろぉき、もぉいっときしてから行くぞ。」
「え?いーと?」
「当たり前やんか。一人で行ったら、顔覚えられちょーき、ゼッテーまた絡まれるぞ。」
いつもは睨んだような顔をして無愛想。
取っ付きにくい雰囲気を醸しだしているが、話してみると意外にも話しやすい。
表情が豊かで面倒見が良く、頼り甲斐もある。
「姉御肌」という言葉がピッタシ!
「あ~…そぉやね。そしたらお願いね。」
「ん。」
海はホントのこというと、中学に入学してすぐ一緒の班になった時から涼のことが気になっていた。最初は怖そうだけど綺麗な人、くらいの淡い憧れに似た感情だったが、先程の一件で一気に「好き」へと傾いた。
よくない噂をしょっちゅう耳にするが、本当はいい人だった、ということが分かって今日は大収穫だ。
何もかもがお約束で、ベッタベタ。
でも、それが実際に自分の身に起こると、かなり感動モンだ。
嬉しくて仕方ない。
それからしばらくして再度スーパーに向かう。
まずは涼が原チャで先に行って様子を見る。
どうやらさっきのワルソはいなくなったご様子。
そして、2ケツ(二人乗り)でスーパーに戻ってくる。
カートにカゴを乗せ、二人でスーパーの中を見て回る。
「なんかデートみたいやね。」
「そうか?」
あれ?頬が微妙に赤い?
「うん。女子と一緒にこげなことできるとか夢にも思わんやったき嬉しいばい。」
「私げなワルソ連れてまわったっちゃ自慢にもならんっち思うよ?」
「ううん、そげなことないよ。町田さん可愛いき自慢できるばい。」
大人しいヤツだから、そんなこと言われるとか思いもしなかった。
完全に油断していた。
言われ慣れてないから理解した瞬間すごい勢いで紅潮する。
元々肌が白いのでスゴイことになっている。
「バ、バカ!何ち言ーよーんかっちゃ!スーパーん中ぞ!恥ずかしかろぉが!」
「あっ。そーやったね。ごめんごめん。」
笑いながら平謝り。
「ホントもー…ビックリするわ。」
今の照れた顔は絶品だった!
正直もう少し堪能しときたかった。
今日はなかなか収穫量多い!
頼まれたものは全部揃った。
会計を済ませて外へ。
「今日は、助けてもらえて嬉しかったよ!買い物まで付き合ってくれてホントにありがとね。」
「いーくさ。」
「これ。」
ペットボトルのジュースを差し出す。
「は?なんで?」
「いや…僕の気持ち…これくらいしか思いつかんけど飲んで。」
「大したことしてねぇのに…まぁ…ありがと。」
今まで荒みきった生活しかしてこなかった涼は、海のストレートな優しさと純粋さ、笑顔に大いに戸惑う。
他人とのまともな会話のやり取りとか、ここ最近してなかった気がする。
こいつは大事にしてやらんといかん。
素直にそう思えた。
自販機コーナーのベンチで二人、ジュースを飲みながらくつろいでいると涼の方から、
「ケータイおしえろ!なんかされたらすぐ電話せぇ!」
提案された。
もちろん断る理由なんか微塵もない。
食い気味に、
「うん。」
気になっていた人との番号とメアド交換。
自然とニヤケる。
「どげしたんか?ニヤケて。」
「ん?番号交換できて嬉しかった。」
「そげなもんか?」
「うん。」
「お前、絡まれやすそうやき、ヤバいときはちゃんと電話せぇよ!」
心配してくれている。
「うん。」
こんなに嬉しいことはない。
できるだけピンチにならないように、心配かけないようにしなくては。
「何もないでもメールとかしていい?」
「おぅ。いーぞ。」
「やった!」
結局このあと原チャは押して、歩きで家まで送ってもらってしまった。
その日の夜、寝る前。
試しにメールしてみよ。
思い立ったが吉日。
即実行に移す。
『今日はありがとね。』
それほど遅れることなく返信が来た。
『いーくさ。』
『また明日学校で。』
『うん。』
『あんまし欠席したらいかんよ。』
『わかった。今度から休まん。』
『んじゃ、おやすみ。』
『おやすみ。』
こんなクズな自分でも気遣ってくれる人がいる。
そう思えたらなんか…とても心が暖かくなった。
次の日。
涼はちゃんと遅刻せず学校に来ていた。
委員会の用事から戻ってきた海から、
「おはよ。」
机にうつぶせていたが、ムクッと頭をあげ、
「ん。」
また、うつぶせる。
短いけど嬉しいやり取り。
今まで誰ともしてこなかったコミュニケーション。
涼は、3年間誰とも話さず終えるつもりでいた。
でも元城海という人間に出会ってほんの少しだけ変われた気がする。
多少戸惑ってはいるが、この関係は大事にしていきたい。
こんな日が来るとは夢にも思わなかった。
ある日の放課後。
幼馴染達は各々用事やら委員会やらで、下校時間がバラバラとなる。
海は一人、家路につく。
と、前に歩く涼を見つける。
駆け寄っていき、横に並ぶ。
「おう。お前も帰りよんか?」
「うん。町田さんみっけたき、一緒帰ろっかっち思ってね。」
何でもない会話をしながら歩いていてふと考え付く。
彼女を釣りに誘ってみよう。
「町田さん、趣味っち何?」
「いきなしどげしたん?趣味?…ん~特にないね。」
「んじゃ、釣りとかしてみらん?」
「はぁ?」
「嫌?」
「嫌っちゆーか…ねぇ。考えたこともなかったき。」
おっ!脈ありか?
「嫌やないなら帰ってから一緒行ってみらん?」
「そぉやね。家おってもなんもすることないき、行ってみよっかね。んで、どこ行きゃいーん?」
やった!来てくれる!
「んーっとねぇ…あっこの神社んとこ水門。」
場所を決めて待ち合わせ。なんかデートみたいでドキドキする。
「わかった。」
「用意できたらすぐ行くね。んじゃ、またあとで。」
「おう。」
自分の分と涼の分。
サオを2本用意する。
涼は初心者なので、1本はスピニングタックル。
海はベイト。プラグもワームもやれる万能タイプだ。
バタバタ用意を済ませ、出かける。
待たせたくないので必死こいて走る。
涼は待っていた。
いかにもヤンキーな、金属光沢のある刺繍の入ったジャージの上下にウンコ座り。
「おまたせ!」
体力ないのに走ってヘロヘロだ。
「おせーちゃ!はよこんか!っち、嘘やけど。」
「ごめんね。これ、町田さんの分ね。」
「おう。」
「利き手、どっち?」
「右。」
「ちょっとハンドル回してみて?回しにくかったら付け替えるき。」
「ん~…イマイチやりにくいよ。」
「んじゃちょっと待ってね。ハンドル付け替える。」
本来スピニングリールのタックルは巻き取る力が弱い為、強く器用な方の利き手でサオを持ち、魚の力をやり過ごしながら、繊細なやり取りをする。右利きなら右手でサオを持ち、左手でハンドルを回す。しかし、初心者が初めて使う時は逆の方が使いやすかったりする。今回はそのパターン。
「どぉ?」
「こっちの方がいいね。」
右巻きに決定。
仕掛けを作る。
「んじゃ、投げ方教えるね。」
「うん。」
ルアーはプラグ。トップウォーターだ。
潜るやつで根掛かりして面白くないと思われたくない。釣れる確率は低くなるけど、まずは投げて巻く楽しみを知ってもらいたい。
そのことを了承してもらった上で、
「やってみるき、見よってね。持ち方はこう。(右手の)中指と薬指にリールの足挟んでサオ握って、垂らし(サオ先からルアーまでの糸の長さ)は20cmぐらいかな。人差指に糸をかけてこれ(ベイル)を起こす。ホントは片手で投げるけど、初めてやき左手はサオのケツに添えた方がやりやすいね。そして、後に振りかぶって前に振る。この時に人差指を離す。そしたら、ね?飛ぶやろ?んで、持ち替えて、さっきと同じごと持って巻く。」
サオを振る角度は、横から見た様子を時計を例に説明される。大体2時の位置まで振りかぶり、10時の位置まで振り下ろす。その間の12時の位置辺り(指に一番力がかかる位置)で指を離すと飛んでいく。
「ほぉ。」
「やってみてん。」
「ん。」
咥えタバコで、見よう見まねでやってみる。
ちょっと必死な顔がなかなか!
高く上がって、すぐ目の前に落ちる。
「その場合、指離すタイミングがチョイ早い。」
「なるほどね。」
次はライナーで勢いよく着水。
「ん~…なかなかうまいこといかんね。」
元々きれいな顔立ちのため、笑顔がイチイチ可愛い。
「何回かやるうちに離すタイミングはわかるよ。最初は力入れんで軽めにサオ振ってみてん?」
「了解!」
何回か同じことを繰り返し、そして、
「おぉ~。こげな感じやろ?」
飲み込みが早い!
原チャの乗り方見てもすぐわかるほど運動神経がいい。
そういったのを応用できるタイプであることが容易にわかる。
運動が苦手な海は、何をやるにもある程度苦労した。
涼を見て心底うらやましいと感じ、嫉妬する。
「…うん。上手いよ。」
涼は嬉しそうに笑う。
しかも得意げだ。
「よかったよかった。」
「で、投げて巻くのは楽しい?」
「うん。遠くの狙ったとこに飛んだら嬉しいばい。」
「…よかった。それが楽しいなら続けれるよ。偽物で釣りよるき、どうしても最初はなかなか釣れんもんね。だき、諦めんで頑張ってね!」
「釣れんでも面白い。また一緒行くぞ!」
「ホント?また一緒行ってくれるん?楽しみ!」
この日は釣れなかったけど、冗談抜きで楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます