好きの答え
なんだかんだ、このあと一ヶ月私は山中君に情報を伝えたり、当たったライブのチケットを譲ったりなど関わっていた。関わって分かったのは、あまり女の子と話したりしないこと。こんなに話したりしているのは私くらいだった。
「優希ー。今思い出したんだけど、前のあの感情についてはわかったの?」
「あー、全然。最近考えてもいなかったわ」
そういえばそうだ。ここ最近それについては全く考えていなかった。
「もうどうでもいいならいいんだけどねぇ」
「そうだねー」
実はどうでもよくなかったり……、一度思い出すと気になってくるものだ。楓花はすぐ席に戻ってしまって、もう何とも言えない。あっ、珍しく山中君が女の子と話している。ふーん。とくに思ったことは他にないけれど。そう思っていると、山中君がこっちに来た。
「岩倉さん、こいつもあの歌手好きらしいよ」
「そう……なんだ」
この時なんだか、二人だけの共通点・関係性じゃなくなったような気がした。なんで、残念な気持ちなのか分からないけど。
「これで三人で情報交換できるな」
「……そうだね」
私はこの後、この気持ちが分からないまま一日を過ごした。
授業が終わった放課後、どうして私が残念なんて思うのだろうと考えていた。全く分からない。山中君は私と話していたように、あの子とも話すと思うと、なんだか変な感じというか腹が立つというか、なんとも言えない気持ちでいっぱいになる。最近の私はどこかおかしいのかもしれないな。
こんな気持ちを持ったまま一日一日が過ぎていった。あの子とはあの日から毎日のように話しているみたいだ。私とはそれに比例するかのように減っていった。前まですれちがったときは軽い挨拶くらいはしていたのだけれど、それもなくなってしまった。もしかしたら、彼女でも出来たのかもしれないな。あの子とかね。まぁ、それならしょうがないよね。彼女が近くにいるのに他の女の子とは仲良く話せないよね。私はそう、自分に言い聞かせていた。よし、今日は本屋にでも行こう、そうしよう。
いつものように地下鉄に乗る。今日は山中君はいない。最近は講習にもちゃんと出ているようだ。彼女と一緒に帰るためかな? 理由が不純だが、それがいい方向にいくならいいことだ。さて地下鉄ではすることがない。スマホでゲームでもしようか、さっき読み終わった本をもう一度読もうか、うーん、何もしないでボーッとしようかな。前までは帰りが同じになることが多くて、こんな時も話してたから、一人でいるとこんなにも時間が長く感じてしまうのか。いつも同じだけの時間が同じ速さで過ぎているのに。長い長いと思いながらこの一人という状態を過ごすと、ようやく降りる駅に着いた。本屋に向かって歩いていく、ん? なんか今見たことのある人がいたような気がするけど……気のせいか。本屋のほうが今は大切だし。
そして本屋での用事も終わって、街中を歩いていると、目の前から知ってる人が歩いてきた。山中君だ。誰かと楽しそうに話している。今まで一度も見たことがない笑顔、私が見たことのあるものとは全然違う。ふと視線を下げるとその手は他の手と繋がれていた。相手はもちろん女の子で私の知らない子だった。その子は誰?
彼女なの? クラスのあの子ではなく、本当に知らない子。お互いゆっくり歩いていく、すれ違う寸前に山中君は私に気付いた。でも見てなかったふりをして、知らない人のようにすれ違った。このまま、私は近くのカフェに入った。周りが囲まれている一人用の席に座る。大好きなココアがしょっぱい。そうか、私がしょっぱくさせているんだ。目から溢れ出る涙がココアに混ざっている。なんで泣いてるのかな。心がぐちゃぐちゃにかき回されている感覚のせいだろうか。どうして悲しいのかな。どうして山中君で頭がいっぱいなのかな。どうして胸が苦しいのかな。あぁ、そうか。これがあの感情の答えなんだ。これが恋なんだ。私は山中君が好きだったんだ。今更分かったってもうどうしようもないのに。忘れてしまおう、こんな感情は。
結果、好きという感情は苦しく、儚いもので、明確にこういうものだとは決めることが出来ない曖昧なものだった。
曖昧なもの 福蘭縁寿 @kaname54
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます