第7話【入寮一週間目】「瑠璃も玻璃も照らせば光る」後編
「も、燃え尽きたZE☆」
「望月、言葉とテンションが全く合ってないぞ」
「お昼食べた気がしないから、模試とか試験は嫌いだよ…」
「ほんと、大したネタが無いからって、中谷に腹ペコキャラ定着させようと筆者も大変だな」
「メタ発言はやめような」
「高瀬さんは模試どんな塩梅でした?」
「ん、そうだネ…、まぁ悪くないくらいじゃないカナ?だいたい、詰めが甘いのが僕だからネ。ケアレスさえしてなければそこそこの点数だとは思うヨ」
と、ちょっと疲れた様子で言いつつ、高瀬さんはコンビニ前の喫煙所で煙草を吸っている。
模試も何とか切り抜けた俺たちは、あとは予備校に帰るだけとなったわけだが、
周りに触発されて、食事中も参考書を読んでいたせいで、味気のない昼となった分を補填するべく、予備校から少し遠いコンビニで二度目の昼食を取っていた。
高瀬さんは
「夕飯もあるし、今はニコチンと飲み物があれば平気ダヨ」
と、百円コーヒーと手持ちの煙草を吸っていた。
ほんと、何かにつけてかっこよく見えるのが凄い。
ここまで華がある人も珍しいんじゃないか?
芸能界とかに入ったり出来そうだけど…
「高瀬さんって、男から見ても嫌みのないイケメンですけど、外見生かした仕事とかしようって思ったこと無いんですか?」
「無いヨ。むしろ毛嫌いしてるかもしれないネ」
「そりゃまたなんで?」
「面倒事が多そうだからダヨ」
「でも、お金は稼げそうですけど…」
「モッチー、僕はネ、芸能界っていう『目に見えない事が多い世界』で生きるなんて無理ダヨ。それなら、普通のサラリーマンの方がずっと良いヨ」
「そんなもんですかねぇ」
「僕は高瀬さんの気持ち分かるなぁ。高校の友達にジュノンボーイがいるけど、楽しい事だけじゃないみたいだったよ。まあ、どの仕事でも同じなんだろうけど、それでも噂とか陰口が多そうなイメージはあるよね」
「中谷もそうだけど、福島県はイケメンが多いの?」
「イケメンだけで生きられる程、実際は甘くない世の中だってことだヨ、モッチー」
「もし俺が高瀬くらいイケメンだったら主夫という名のヒモになってたわ」
「それでいいのか神輝…」
「一回くらいそういう経験してみたい」
まったく、コンビニの前で馬鹿な会話をしてると高校生に戻ったみたいだよ
「さて、僕は吸い終わったから、いつでもいいヨ。帰る?」
「俺らも食い終ってるから帰りますか」
「だね。ロールケーキ美味しい」
「甘いもの食いたくなるな。ただ、これ以上気軽に買い物するのは厳しいんだよね。ちょっと節約しないと…」
「そんなに使ったか?」
「いや、俺仕送り貰ってるけど、月に一万なんだよね。洗濯と日用品買うだけで一万なんてすぐ消えるでしょ?今月はさすがにやばい」
「一か月一万?いや、それ生活できないでしょ。土日は昼買わないといけないし、洗濯機回すのも、乾燥機かけるのもあるし…」
「まあ、だからかなりきついよね。今月は使いすぎたかな」
「望月、今月足りるのか?」
「まあ、本当に必要な分だけで使えば何とか…」
「まあ、浪人している以上は何も言えないけどさ、さすがに一万は厳しいな」
「何かあったら、言ってね?」
「金は親にも借りるなって言われてるし、その辺は何とかするよ。ありがとう」
「良い心がけだネ。本当にそうだヨ。不必要な縁は持ち込むべきじゃないサ」
実際、気が緩んでた。初めて親元離れて生活するっていうだけで、浪人生の実感を忘れてた。本格的に勉強が始まってないからといってその間、両親は俺のために仕事をしていたはずだ。
『今日の日誌に正直に書こう。親に行くはずだし…』
気落ちしていたからせいで、高瀬さんにじっと見られていた事に俺は気付かなかった。
帰寮したが、国立組がまだ模試をしているせいでかなり人数は少なかった。
まだ話したことのない奴らは、私立理系組だろう。
やたらと眼鏡君が多いのは気のせいか?
まあ、何はともあれ早くに帰ってこれたし、部屋に干した洗濯物を取り込もう。
「望月」
「ん?あ、高瀬さん。どうしました?」
まさか高瀬さんから苗字呼びされるとは思わなかった。何か怒らせる様な事したかなぁ…
「後で時間ある?できれば二人きりで」
「え、あ、はい。割と早くに帰ってきましたし、時間はありますよ。どうしました?」
「いや、後で話そう。何時ごろなら平気?」
「洗濯物取り込んで、畳むだけですし、三十分もかからないですよ」
「それじゃあ、それくらいの時間に、呼びに行くね。ちょっとコンビニまで付き合って」
「まぁ、いいですけど…」
「オッケー。それじゃ、また後でネ」
神輝たちから少し離れて話しかけて来たと思ったら、いきなりのマジトーン。
何の話だろう…
中谷と神輝とは部屋の前で別れて、取りあえず急いで洗濯物の片づけに入った。
どれくらいかかる話かも分からないし、こちらから高瀬さんを呼びに行きたかった。
いつものおちゃらけた雰囲気の話し方でもなかったし、内心おっかなびっくりだよ。
準備も終わり、改めて部屋を出ようとすると、廊下の端、高瀬さんの友達の部屋から人が出てきたところだった。もちろん一人でだけど。
俺のほうを向いたかと思ったら、こっちに歩いてきた。
「君が、望月、君?」
「え、あ、はい。そうですけど」
「高瀬から話は聞いてる。ついてきて」
「え、あの、高瀬さんは?俺、高瀬さんに用事があるんですけど…」
「その、高瀬から、連絡、もらった。コンビニ、でしょ?」
「そうです…」
「大丈夫。きっと、良い話」
「わ、分かりました。行きます」
いきなり高瀬さんの友人(正直、名前すら知らないし、見たこともほとんど無い)から突然話しかけられたかと思ったら予想外の出来事になった。
話し方も、かなりボソボソしてる。高瀬さんのタイプからして、失礼かもしれないけど、この人みたいな友人がいるとは思わなかった。
無言のまま高瀬さんの友人(仮)さんについて行って、寮の裏手にあるコンビニまで来た。
高瀬さんは着替えていたのか、上下ジャージで、相変わらず煙草を吸っていた。
「ハイハイ、お疲れサマ」
「いきなり初対面の人を連絡係に寄越さないで下さいよ。びっくりしましたよ」
「ごめんネ。話を始める前に頭の中を整理したくてネ。それに服部もいないと話が進まないからネ」
「初めまして、望月君。服部文哉、です。よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「それじゃ、役者も揃ったし、今日の本題にいこうカ。単刀直入に言うヨ?アルバイトをする気はないカイ?」
「へ?」
「なるほど、つまり、金銭面で大変になることが予想されるなら、生活費の足しになる程度でいいから、高瀬さんのバイト先に来ないか、と」
「ソユコト!」
「でも、それとこれとで、どこに服部さんが関わって来るんです?」
「それは、僕から、説明するよ」
「よろしくネー」
「僕は、この予備校に、二年目になるんだけど、ある程度の規則なら破っても、黙認されてるんだ」
「え、俺らの行ってる予備校、ですよね?それはかなり嘘くさいんですけど…」
「言いたいことは、分かる。全部じゃないけど、本当。許されていない部分については、ズルしてる、けど」
「文哉の部屋には、隠してあるけどパソコンとルーター、スマホもそうだけど、一通り揃っているんだヨ。それを使って、寮の監視カメラに細工してあるんダ」
「は?細工?」
「そ、細工。寮長が居ない間に、寮長室に入って、監視カメラに繋がっている、パソコンに少し、手を加えている。過去の映像を切り取って、寮長室の画面に映す事なら、直ぐにできるよ」
なるほど、入寮した日に、高瀬さんが服部さんの部屋から堂々と出てきたのは、その仕組み使ったのか。
未だに、ほとんど年齢の変わらない人がそんな事をできるとは信じられなかったが、事実、そうなんだから信じるほかない。
「それで、そのスキルを持っている服部さんが今回のアルバイトの話とどう関係が?」
「堂々と正面玄関を使って、夜にバイトをしに行くのは、さすがに僕でも完全にアウトダヨ。自習を完全に休むのも少し難しいネ。毎回やっていたら怪しまれるヨ。自習時間の途中で『体調が悪くなった』とか言って、抜け出すのが精一杯ダヨ。」
「そこで、、僕が監視カメラの映像を、誤魔化すんだ。部屋に戻ったら出て行くところの映像を、摩り替える。正面玄関は、電子ロック錠だから、さすがに僕でも記録を消すのは、やりたくない。というか、面倒」
「一階まで降りたら、ランドリーの窓から出るんだヨ。下側に扉みたいに開けられる窓があるんダ。それで寮から出れるヨ」
「随分大掛かりですね…」
「それでも、背に腹は変えられないでしょ?」
「まあ、そうですけど」
「その代わり、手間賃は貰うけど」
「金取るんすか」
「まあ、取らなくても良いんだけどね」
「どっち!?」
「一ヶ月あたり、板チョコ五枚とポテチ五袋。値段にすると千円位かな」
「結局、それくらいは必要ってことですか」
「そのうち、ただでお菓子が手に入るようになるよ」
「そうなんですか?」
「例年通りならネ」
「?」
まあ、なんにせよ、短時間とはいえ、アルバイトを定期的にすることができて、今後も何かと重宝する友人、というか共犯者ができるのはありがたい。
勉強時間を完全になくすのは本末転倒だから、これが限界措置か…
これ以上実家の家計を圧迫したくはないし、とはいえ、大学にも受からなければ意味がない。うまくやるしかないけれど…
「高瀬さん」
「ん?」
「その生活をして、多浪してるんじゃ…」
「アチャー、そう言われると苦しいネ。まあ、僕の場合は自業自得なのサ。遊んでたしネ。今年は年齢的にもうそれは無いけれどネ」
「実際、高瀬さんって何歳なんですか?」
「企業秘密ダヨ」
「二十歳と十六ヶ月」
「ばらさないでヨ!」
「二十一ですか」
「まあ、そうだヨ」
「服部さんは?」
「僕は、二十歳」
「しかも、総資産四千万ダヨ」
「いきなりそれ、言う?」
「え?」
「文哉は、株に手を出してるのサ。高校生の時に、親から要らないと、貰った某会社の株を上手いこと回してネ。そこからトントン拍子に膨らんでいったんダヨ」
「もう、何を聞いても驚かないです…」
「それじゃあ、高瀬が、将来会社の跡継ぎだって言っても?」
「それもまだ言ってなかったのに…」
「頭が痛くなってきました」
「「ははは!」」
この予備校には今まで生きてきた中で、会ったことも無い人種が居るようです、母さん…。しかも、二人揃って悪い子でした。
八話に続く
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