第2話 再会
額から変な汗が出ているのを感じながら、いつもの広場で待っている。表情は心穏やかとは程遠いものをしているのだろう。
あの女の子は今頃、ベルにおぶられながらこちらに向かっているところだ。
頭が混乱する、心の余裕はゼロ。
正直に言うと、凄く会いたくない。できるものなら走って逃げたいくらいだ。
どうして来た? どうやって来た?
俺に会いに来た、なんてことは考えられない。彼女とは初対面同然だし、そもそも来ようと思って来れるところではない。
つまり、受動的にこちらに召喚され、そこで偶々ベルと知り合った、もしくはベル自身が無意識に召喚してしまったので、同じような境遇にある俺に相談しに来た。これが一番、筋の通った考えだとは思う……。が、なぜよりによって、ほんの少しでも面識のある彼女なのか、70億分の1の確率で偶然彼女が召喚されたなんてことがあるのか?
これから俺は、彼女がもとの世界に戻る方法を探ることになるのだと思う。
それは別にいいとしても、一番面倒なのは、もし帰る方法が見つかった際に『俺は、帰らないよ』で済むだろうか? 済むはずもない。だってもとの世界では俺がいなくなったことが、少なからず騒ぎになったはずだ。同じ学校、その上同級生である彼女がそのことを知らないはずもない。
つまり、問題なのはなんと言って俺がここに残ることを彼女に納得させるかだ。そのとき、俺を置いて1人だけで戻ってきた、という感傷を彼女の心に残してはならない。
これが、非常に難しい。
ーーいや、まだ話も聞いてないのに考えてもしょうがないよな。
「ごめんな、エミ」
今日は、俺のせいでなんのトラップも仕掛けることなくベルを通すことになってしまった。
職務怠慢だ、申し訳ない。
しかし、エミは俺の言葉に、少し頬を赤らめて、はにかむ。
「なに遠慮してんのよ、今までさんざん巻き込んで、頼ってきたんだから。たまには頼ってくれてもいいじゃない……」
こっちまで恥ずかしくなってくる。思わず、俯いて前髪を掻いた。
「休日っす~!!」
『ガッシャン! ガッシャン!』
小躍りするくらい喜ぶアイルスとピーちゃん。
どんだけ休みたかったんだよ……割とホワイトな職場だと思うんだけどな。危険ではあるが3食宿付きで、労働時間は
まぁ、休みがないのは全面的にベルのせいなので、文句なら彼女に言ってもらおう。
「ご主人、噂によれば手を使って魔人大帝ヴィルヘルク・ディーセンベリク・アルベリオンが作れるらしい、教えて」
「……」
ーー誰だ……。
いつものように、玉座にふんぞりかえっているルルを見つめながら石のように固まってしまった。
ヴィルヘルム……なんだったっけ?
ヴィルヘルムなにがしオン……? を手でつくる! それ多分、手がいくつあっても足りない気がするね、名前的に。
いや、知らないのは俺だけで魔族界では結構メジャーな人物なのだろう。そうじゃなければ、あんな自信満々な顔……といっても表情の変化が乏しいので、見分けられるものは少ないだろうが、俺には解る。彼女にとってヴィルヘルクなにがしオンをヴィルヘルクなにがしオンと呼ぶのは、食パンを食パンと呼ぶのと同じくらい当たり前のことなのだろう。
それならば、同じく魔族であるエミ達に聞けばいいだけの話だ。
「……」
ダメだ、むっちゃ首振ってる。
そもそも、なんで既に魔王がいるのに大帝が出て来るのか。謎だ。
一旦、探りを入れよう。そうすれば誰かしらは思い出すかもしれない。
「ルルは、どうやったらできると思うんだ?」
その言葉に、彼女は少し考え事をするような素振りを見せる。
「ルルは、たくさんのナメクジをチンすればいいんだと思う」
「……」
え……手ってそういう意味なんだ……。
てか、チンってアレか? 電子レンジの音か? もし、そうだったら割と怖いよ? 多分、ナメクジ蒸発しちゃうよ? 残るのは無だよ? ヴィルヘルクなにがしオンは無なの? 無のことなの?
エミ達に助けを求めよう……。
全員、そっぽを向きやがりました。
ーーもう、なんでもいいか。
「右手をチョキ、左手をグーの形にしてチョキの上にグーを乗せるんだよ」
満面の作り笑顔で言ってやった。
結果、ヴィルヘルクなにがしオンは、俺の中でカタツムリとなった。
魔人大帝……魔人ですらないが、ナメクジをチンするよりかはマシだ。
「こう?」
ルルは、ヌボーっとした目をしながら、小首を傾げる。
ーー違うね。
グーをチョキで挟んでしまった。
つまりは『\
「左手のグーを、右手の甲に乗せるんだよ」
「できた」
ルルは、瞳をキラキラ輝かせながら満足気な様子だ。手で作ったヴィルヘルクなにがしオンをニョロニョロ動かしている。
喜んでもらえたのは何よりだが、一体ヴィルヘルクなにがしオンとはどのような人物だったのか、それは誰にも解らない……。
って、なんの話ししてんだよ! 今は、こんなことしてる場合じゃねぇだろ!?
「
「「「だから、誰なんだよ(なのよ)(なんすか)!!」」」
『ガシャン!!』
この場にいるみんなが、思わず声を
ヴィルヘルクなにがしオンは、それでもニョロニョロと動いていた。
「なんだ、騒がしい」
あ、ヤバイ……。
なにがしオンが、突然喋り始めたせいで、全く心の準備ができていない。
聞き慣れたその声に振り向くと案の定そこにいるのはベル……。
「ッ!」
振り返ると同時に、なにかが胸にぶつかってきたため小さな声を上げてしまったが、思いの外軽い衝撃だったので簡単に支えることができた。
しかし、ぶつかってきたものを見て思わず息が止まった。
「ぐすん……うぅぅ……よがっだ、よがっだよ~……」
抱きついてきた例の女の子が、滂沱の涙を流しながら俺の胸に顔を
「ちょっと! 離れなさいよ!!」
「コラコラ〜、カリヤが困っているだろ?」
しかし、魔王と勇者は無慈悲であった。
エミが俺の、ベルが女の子の首根っこを掴んで引きずり離してしまう。
きっと彼女は、突然異世界召喚されて、自分がどこにいるのかも解らい、周りに知り合いすらいない状況に、相当心細かったのだろう。そこに始めて現れた、自分と同じ境遇の知り合い、緊張の糸が緩んで泣いて抱きついてしまうのも仕方のないことだとも思える。
「そんな無理矢理、引き摺り離すことはないだろ?」
「日高見ぐ~ん」
「騙されるなカリヤ! この女はーー」
「うわあぁぁぁぁぁあん!!」
ベルの腕を必死に振り解こうと暴れまわる女の子。そんなに心細かったのか、呼吸を荒らげ、目は血走っている。
ーーてか、俺の名前知ってるのか……。
「ちょっと、カリヤ? あの
「同級生だよ」
「わぁ~、覚えてくれてたんだ! 日下部です! 日下部 晴香っていいます!」
ついさっきまで、滝のように止めどない涙を流していたのに、今ではそれもピタリと止み、笑う余裕すらあるみたいだ。
「あぁ、ご丁寧にどうも。
一応。日高見です、日高見 雁矢と言います」
「敬語だなんていいよ! 晴香! 晴香って呼んで!!」
なんだか怒涛の勢いで距離を詰めて来るな。始めて出会う知り合いとのコネクションを持つために必死なのだろう。
「解ったよ。それなら俺も、雁矢でいいよ」
その言葉に、晴香はボンッ! という音が聞こえそうなほどに顔を真赤にする。
「か……かか! 雁矢きゅん!!」
「うん、晴香……しゃん?」
「ふゎ……」
ベルの腕の中にあった、晴香の身体から力が抜けた。
「おい? おーい。
ダメだな、失神している」
ーーなにが起こった!?
※ ※ ※
ほどよい反発性、かつ絹のように滑らかな感触のベット。白い天井、派手すぎずしかし美麗な装飾の施された調度品の数々、そして彼と2人きり。ここは天国なのだろうか? と思い晴香は目を擦る。
「晴香さん、大丈夫? 大分、疲れてたんだろうね」
「ふぁ……」
「晴香さん!?」
危なかった、また失神するところであった。
晴香は、気を失う前の出来事を思い出し……。
「ふぁ……」
「晴香さん!?」
危ない、危ない。
晴香は彼に抱き付いた上に、お互いを下の名前で呼ぶほどの仲にまで急接近してみせたのである。
すべて、計画通り。
異世界だ? 勇者だ? 魔王だ? 関係ない。寧ろ、利用できるものは何だって利用してみせる。
彼がこの世界にいると解った時点で、いく通りものシナリオを考えていたのだ。
どんな世界であろうと彼がいるのであれば晴香がやることはただ1つ、全力で振り向かせるまでだ!
「疲れてるのかな? 疲れてるんだね。
あぁ……起き上がれない」
「大丈夫? 手を貸そうか」
「ううん、大丈夫だよ」
ここで"はい"と言わない! 無理して立ち上がってる感を醸し出して。
「あぁ……」
「うぉ、大丈夫?」
ワザと倒れたところを支えて貰ったほうが、触れる面積が増え、且つ護ってあげたくなるような雰囲気を演出すことができるのだ!
晴香は目頭が熱くなる感覚に涙を堪えながらも、この幸運を噛み締めている。
今までは、挨拶しかできなかった。それはチャンスがなかったからだ、そう運が悪かった、決して晴香に勇気がなかったからではない。
しかし今日はチャンスチャンスの連続、おかげで彼との距離も縮まった。
ガン!
そのときちょうど、扉が勢いよく開かれる。
「騙されるなカリヤ! その女はーー」
「ああ!! 雁矢くんに、聞きたいことが沢山あったんだった~!!」
晴香には、懸念材料が幾つかある。
先ずは、この鎧姿の金髪少女。ベルティーユという名の少女だ、雁矢がここにいると教えてくれたのは紛れもない彼女なのだが、そのときはあまりにもテンションが上がってしまって『これを機に、日高見くんとの距離をグッと縮めるよ! 頑張れ私!!』と1人、声を上げたのを聞かれてしまったのだ。
つまりは、晴香の『
それにもう1つ、大きな問題がある。ちょうどそのとき、噂の問題達がゾロゾロと部屋に入ってきた。
「あら、起きたのね」
「ビックリしたっす!」
『カシャン』
「ニョロロロニョロロ。
ナメクジ、ナメクジ」
女が多い!! 晴香は先程から激しい焦燥を感じている。
しかし、それも仕方のないことだと言えるだろう。
何故なら、そのメンバーはみな嫉妬したくなる程に美しく、可愛らしい容貌をしているからだ。
「ああ、まずは紹介した方がいいのか。
一番右が、エミリア。ダ
「どうも。
エミリア、エミエミ、もしくはエミタンと呼びなさい」
「それ気に入ってんの?」
「ちょっとね、ほんのちょっと。
我ながら、なかなかキャッチーな挨拶だと思わなくもないわ。第一印象がこう、柔らかくなる気がしない?」
「そうだね、エミエミ」
「だから、その呼び方わ辞めて!!」
プンプンと怒りながら雁矢に食ってかかる少女。可愛らしい顔立だ、身長は晴香よりも少しだけ高いくらいだろう、華奢な体躯で計算高くも彼の庇護欲を日々、刺激しているに違いない。
そして、事前に打ち合わせをしてきたのではないか? とも思えるほどの小気味いい会話の応酬、まるで夫婦漫才のようでわないか!
「で、その隣がアイルス。うちの従業員だ」
「どもっす!」
溌剌とした笑顔で右手を上げる青髮の少女。ひときは目立つのは真白な猫耳と尻尾だ。そう、猫耳と尻尾だ! 美少女、猫耳、尻尾、このトリプルパンチに抗える男はそうはいないだろう、笑顔の裏ではなにを考えているのやら……空恐ろしい。
「次に、ピュア♡プルだ。同じく従業員」
『カシャリ』
ぺこりとお辞儀をするピンク色の鎧。不思議なことに全く生気を感じない、異世界ならではのとんでも人間なのかもしれないが、侮ることはできない。ヒシヒシと感じるこの女子力! 多分、彼女は誰も気に掛けないようなことをさり気なくやってしまうような気の使える女性なのだろう。
男性には相当に好印象を与えるはずだ、彼もそのちょっとした気遣いにドキッときたことも1度や2度ではないはず!
「で、最後がルル。何と言うか、愛玩動物的なポジションだ」
「ナメクジ」
圧倒的な愛玩力を有した、白髪、白眼、白肌の少女が、明らかにカタツムリなものをこちらに向けてきた。
『それはカタツムリだよ〜』と言って抱きしめたくなる。
年齢は10歳くらいにしか見えないが、やはり侮れない、このヤル気のなさそうな顔で発せられる、ミステリアスでありながらも子供らしい無邪気さを感じさせる言葉、あまりの可愛らしさに、彼が新たな境地に目覚めてしまう恐れすらある。
「魔人大帝ヴィルヘルク・ディーセンベリク・アルベリオンではないか、上手だな」
「知ってんの!?」
なんだか小難しい言葉をベルが呟くと
、雁矢が咄嗟に彼女の肩を掴み声を荒らげた。
ベルは、頬を少し上気させながら答える。
「有名な舞台の主人公だが」
「マジか! なんでカタツムリみたいな形してんの?」
「なんでも、カタツムリの殻を、帝国民を護る城に見立てているそうだ」
「なら、『食事か女かだったら、ナメクジを選ぶ』っていうのは明言みたいなヤツなの?」
「そうだ。
「カタツムリの中身はナメクジじゃないけどな」
「「「「え!?」」」」『ガシャ!?』
「え!?」
その場を沈黙が走る。
晴香は思っていた、ナメクジはみなカタツムリになるために殻を探し求めているのだと……。
「まぁ……覚えとけ。
それにしてもアレだな、魔人大帝ヴィルヘルクなにがしオンってのは、なかなかいいヤツなんだな」
「いや、最後の最後に隠れて私欲の限りを尽くしていたことが発覚するのだ。そうすることで、子供達の魔族への敵愾心を掻き立てようという思惑だ」
「上げて落とす展開か、その前に設定をもっと解りやすくしろよ」
「同感だな」
クスクスと笑い合う2人。
やはりこの女も難敵だ。生真面目そうな顔をして実は少し天然というギャップ。それに、2人の話すペースが妙に合っているように見える、つまりお似合いの2人なのだ。
晴香には、ここにいるすべての人間が、悪魔にすら見えてくる。
「って、そんなことよりもだ。
晴香さんは、どうやってこんなところにまで来たんだ?」
ついつい、話を聞き入っていた晴香はハッと、なにか大切なことを思い出したときのような顔をする。
「それが、私にもよく解らなくって。
気付いたらベルティーユさんが目の前にいたの」
「ふむ、だいたい俺と同んなじだな」
彼は、顎に手を当てて考える素ぶりを見せる。
「なら、やったのはベルのはずよ。
異世界召喚なんて大層なことをできるほどの、魔力を保有しているものなんてそうはいないでしょうからね。
召喚直前に強く思ったことはなに? その思いが強すぎて魔力が暴走したんだと思う」
「……」
エミの質問にベルは、顔を真赤に染めながら押し黙ってしまった。言えるはずもないだろう『
異世界召喚を成してしまうほどの強い思いと聞いて、晴香は心にチクリとした痛みを感じた。
「原因なんて探っても仕方ないと思います。そんなことより、戻る方法は解ってないんですか?」
その言葉にエミは、困ったような顔をする。
「そんなこと言われてもね、調べてすらないし」
「え……でも、雁矢くん……」
雁矢も、困ったように笑う。
「俺は、戻る気がないから」
「なんで!?」
「大丈夫、晴香さんが戻れるように、こっちでも調べてみるよ」
晴香は、痛いくらいに手を握りしめる。この感情は……怒りか。
「なんで!……戻ろうと思わないの?」
「ここが俺の居場所だから」
即答。それは反論されるのを拒む……いや、恐れているようにも見えた。
晴香は、唇が真白になるくらい下唇を強く噛み、眉間に深々と皺を寄せて床を睨んだ。
目の奥が燃えるように熱い、危うく雫が零れ落ちてしまいそうになった。
「なら……」
(なら、中学生の頃だったらどうしてた?)
出かかった言葉を必死に押し殺した。怖かった、答えによっては罪悪感で潰れてしまう気がしたから。
混濁した頭のなかに真っ先に浮かんだ顔は……。
「愛莉矢ちゃん……愛莉矢ちゃんが、心配してた! それに、工藤さんも!」
晴香は、縋るように叫ぶ。
雁矢の笑顔の奥に、確かな迷いが見えた。
「2人に会ったんだ。元気だった?」
「うん……」
「ならよかった」
雁矢は、弱々しく笑うと『話はこれで終わりだ』と言わんばかりに話題を替えてくる。
「そういえばベル、俺が街で暮らす件はどうするんだ?」
「あ……あぁ、どうしたものか。
この女は、しばらく私が預かろうと思う。こうなってしまったのも私の責任だがらな」
「なら、晴香さんの件が終わったらでーー」
「待って! なにその話し!!」
ガツン! と晴香の頭にショックという名の鈍器が打ち付けられ、一瞬視界が歪んだ。
(2人は、もうそんな関係なワケ!?)
「今日から1週間ここを出て、街で暮らすってベルと約束したんだよ」
(なにその、お試し期間!!)
しかし、考え方を変えれば、彼が街で暮らすということは、一緒にいる時間が増えるのではないか? そして、なによりも、彼とベルを2人きりにするのは絶対に阻止したい。
そう考えれば、晴香の行動は早い。
「今日からで、いいんじゃないかな?」
「はぁ!? なにをーー」
反発してきたベルを、片手で制する。
「私は、この世界の情報を聞きたい。
それに雁矢くんにも、日本での情報を教えたいの。例えば、日記のこととか」
これは懇願でも、提案でもない、駆け引きだ。弱みに漬け込むようで、あまり出したいカードではないのだがこの際仕方がない。
「へぇ〜、そんなことまで知ってるのか」
実際、彼はこちらを見透かすような目をしながら、面白そうに笑った。
その反応に、晴香は心のなかでガッツポーズをした。興味を引いた、それだけで彼はきっと首を縦に振る。
「解った、今日からにしよう」
晴香の思惑に気づいているのであろう雁矢は、呆れたように、両手を軽く振った。
対して、ベルは眉間にシワを寄せて食ってかかる。
「反対だ! 反対だぞ!」
「雁矢くんが、今日にするって言ってるんですよ〜? なにか不満があるんですか〜?」
勝ち誇ったことへの優越感が晴香を何倍にも大きくしている。
「な、なぜなら……そうだ! これは私とカリヤとの約束なのだぞ! 部外者はシッ! シッ!」
「え? でも街にはたくさん人がいますよね、彼らは部外者じゃないんですか? 彼らと私の違いはなんですか? それとも、私がいてはいけない理由でもあるんですか? 知りたいな〜、納得できる理由だったら私も引きますけど? ねぇ、教えてくださいよ?」
「別に、理由などは……」
最早、涙目。唇を一文字にして、固く閉ざしている。
「理由がないなら、別にいいですよね?」
「イヤだ!!」
遂には、癇癪を上げて、ガルル〜と唸りながら、刃物のように鋭利な眼光で睨み着けた。
しかし、圧倒的優位にある晴香にとってはただのオモチャも同然。むしろ、鼻で笑ってやった。
「イヤって言われても〜」
「ダメだ! 絶対ダメ! ヤダ!!」
怒りに震えるベル、歯牙にも掛けずに嘲り笑う晴香。
パン!!
聞き馴染みのある澄んだ音が部屋に木霊する。
そこには、やはりどこまでも冷静な表情が、声があった。
「落ち着け。
晴香さん、ベルをイジメてやるな。それとベル、他の日に埋め合わせをすればいいだろ? ちゃんと1週間」
その言葉に、ベルの顔がパッと明るくなる。
「うん!」
「ぐむ……」
ベルが駄々をこねたせいで、余計な約束事がくっ付いてきてしまったが、結果としては成功と言えるだろう。いや、成功するかどうかは、今日から1週間の晴香の行動にこそかかっている。
この1週間で、彼を説得し日本に一緒に帰ればいいのだ!
「お世話になります。ははは」
「あぁ、遠慮はいらないぞ。ははは」
2人の間を、火種もないのに火花が散る。
こうして、3人の街での奇妙な生活が始まるのであった。
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