第6話最強勇者さんの、恐ろしい本性
俺の思惑は当たったようだ。
「へ~、今日は5人もいるじゃない」
そう、今日は5人の人間がダンジョンに入ってきた。
1人は当然、勇者さんだが、他の4人の男女は多分パーティを組んでいるのだろう、4人でなにやら話しながら勇者さんに羨望の眼差しを向けている。
勇者さん、1人だけ浮きまくってて気まずそうだ。ニマニマ……。
「昨日、勇者さんに渡した手紙を読んだんだろう」
「あんな内容に引っかかるヤツもいるのね」
大抵いるのだ。興味本位や怖いもの見たさに『嘘だ』、『下らない』と思いながらも来ちゃう奴が。
ちなみに、明らかに胡散臭い内容を混ぜたのは人数調整のためだ。
「これで勇者さんも好き勝手できなくなったな」
高い地位や、人気には責任が付いて回るもんだ、ましてや勇者が同志を殺したなんてことになったら、勇者さん個人の問題ではなくなってくるだろう。
案の定だ、勇者さんはしっかり歩いている(まともに歩かせるだけで一苦労とか、介護かよ……)。時たま近くを歩く4人組に何か話してはものっすごい
「落ちんな……」
流石は勇者さんだ。さっきから、集中砲火……てか勇者さんしか狙ってないのに、涼しい顔だ。当然といったら、当然だな。
俺の狙いは、そこじゃあない。だって、物理攻撃じゃどうにもならないことなんて知ってるもの。
俺の狙いは精神攻撃だ、このまま気不味い雰囲気で夜営させて精神的に参っているところを、叩く。
「結構、ダンジョンマスターも大変なんだな……飯のときまで見とかなきゃならんとわ」
15階層。
丁度、勇者さん達もお昼ということで、俺もサンドウィチを食べながらポンポンと16階層以降のトラップを設置して行く。
やはり、4人組に合わせているためペースは相当遅い、このペースのままだとここまで来るのに2日は掛かるか。
勇者さんも、いい感じに孤立している。羨望とは畏れと近しいものがある。可哀想に、ニマニマ……。
『君たち』
おっ、勇者さんがなんか話し始めた。
『『『『はっ、はい!?』』』』
むっちゃ、ビビられてる。
『だから、そう固くならなくともいい……』
この下り見るの何回目だろう、勇者さんが呆れたように嘆息する。
『『『『すいません!!』』』』
さっきから、この4人は妙に息ピッタリだな……軍隊みたいだ。結構、歴の長いパーティなのかも。
まぁ、勇者さんには合わないパーティだろうな。あの人、肩書きと喋り方の割にはお堅いのが苦手な、ちょっと残念な勇者だし。
『はぁ~……先から見ていたが、君たちはなかなか、いいパーティーだな』
『『『『あ! ありがとうございます!』』』』
ーー中を固める気か……また、面倒なことを。
『そこで提案なのだが、私と君たちで別行動を取るというのはどうだろうか?』
『『『『「は!?」』』』』
驚きの声の一つは俺のものだ。
コイツ、平然となに言ってやがる!
『その反応も解る。今までの凶悪な罠の数々、恐ろしく思うのは当然のことだ、むしろこの状況を楽観視しているような愚か者を私は評価しない。実際、私も正直恐ろしい』
ーー嘘つけ~。
誰かが言った。
『そ、その通りです……僕たちなんて……』
『しかしだ!!』
みんながちょっとビックリしている。
『君たちは、生きている! 勇者ですら、慄くほどの罠の数々に、心折れることなく生きている!』
ーーお前が、すべてのトラッブを漏れなくぶっ壊してくれちゃうからだよ!
男性が1人、のそりと立ち上がった。
『俺たち……生きてる……』
ーーそだね……。
男性に釣られる様に他の3人も立ち上がる。
『『『俺(私)たち……生きてる……』』』
ーーおい……お前等、そこまで乗っかるような空気でもなかっただろ?
そもそもお前等、なんもやってないからな?
『できるな』
『『『『はい!!』』』』
ーーもうヤダ……。
『安心してくれ、私が先陣を切って罠の大部分は一掃しておこう』
4人は、日本でいう老人が天皇に会っちゃったたときみたいな目をしている。 もとから抱いていた羨望に、尊敬やら信頼やらが加わったみたいな……。
『それでは、行って来る』
『『『『お気を付けて!!』』』』
『君たちもな』
毅然とした態度でそう言い残した勇者さんは、風のように去って行った。残され4人は、唯々その背中を見ている、見えなくなってもジッとそれを見つめていた……。
ーーや~め~ろ~!!
それからは、あっという間だった。
最早、勇者ではなく悪鬼羅刹のようにしか見えない
というワケで、いつもの光景。
「感謝するぞ、ヒダカミ カリヤ! お陰で昨日はグッスリだ!!」
「よかったね」
そりゃね、不倫がバレたかもしれないのに、呑気にやりませんわな。
「しかし、今日は参ったな、まさか他のパーティーが来るなんて、お陰で少し遅刻してしまった」
ーー定時制じゃねぇし! そもそも来てなんて言ってねぇし!
「それでなんだ? 今日は謝辞を言うためだけに来たのか?」
「……そ、そんなワケあるまい! 私は、魔王を倒しにここまで来ているのだぞ!
「
「
「
揚げ足を取ったつもりだったのだが……これはノリがいいのか、ただの天然なのかどっちなのだろう?
少なくとも、魔王を倒す使命を忘れていたということだけは、最初の間から解った。
「あっ、そう言えば……あの4人組はどうなったんだ?」
全くもって、
「17階層で、自爆」
あれは酷かった……宝箱に群がること群がること、中身に気を取られてトラップのことなんか忘れてるみたいだったもの。まぁ、考えてみれば、昨日の手紙の内容からして金品目的でここに来たのだろう。
「情けない……ヤツらは金の話しばかりしていて、どうも好かん」
へぇ~、向こうが壁作ってるだけだと思っていたが、勇者さんにも苦手意識があったのか。
「もしかしたら、明日からそんな奴らばっか来るかもな~」
ーー俺のせいで。
「あまり考えたくないな……そうだ! もしもに備えて、奴等のようなパーティを撒くときの言い訳を一緒に考えよう!」
ーー1人で考えよう!?
そんな、『我ながら名案』みたいな自慢気な顔するな!
ここは、お悩み相談する場所じゃないんだぞ!?
まぁ、適当に時間稼いで帰らせよう。
「みんな、ぶった斬っちまえ」
「それでは、私が悪役になって国を追われてしまう」
「冗談だよ」
もう少し、勇者らしい発言をするかとは思っていたがな。
「勇者が
「死ぬのはヤダ」
命をかけて世界を救うのが勇者じゃなかったんですか?
「猛ダッシュで独走するとか?」
「尊重性がないと思われる」
ーー学校か!?
まったく、ガキみたいなこと言いやがって。
まぁ、勇者ってのは民衆の希望らしいから、どんな理由であっても悪い印象を抱かれるのは避けたいのだろう。
「なら、バレないようにワザと『危険物注意』をぶった斬って爆発させたら? お前くらいだろ? あれで生きてられるの」
「う~ん……あれはなかなか痛いのだ、それに煙が嫌だな……まぁ、最後の手段としては悪くないか」
他人の命とかどうでもいいのな。
「でも、あの4人と仲良くできなかったのはお前にも問題があるぞ?」
学校で、1人として友人のいなかった俺が言えることではないな……。
「むむ……なにがいけないのだ?」
「喋り方が、お堅いんだよな~。それじゃあ嫌でも緊張しちゃうよ」
「
「
この感じで話せば多分、大丈夫だと思うけれど……もしかしたら、いじられ役か、マスコットキャラクター的な立ち位置になってるかもだけどな。
「どうやったら、もっとホンワリさせられるだろうか」
真剣な顔でそういうこと言えちゃうのがホンワリだよ。
「俺的には、結構ホンワリしてると思うんだよな~、友達とかに言われないか? 『ホンワリしてるね~』って」
なにか思い当たることがあるようだ。そうじゃないとこんな、ジャンヌ・ダルクが初めて神の声を聞いたときみたいな顔できないだろう。ホンワリ。
「そういえば、子供の頃は両親や、故郷の人々に『ベルちゃんは、ホワホワしてるね~』ってよく言われた! 友人のテリーゼにも『ベルは、本当に綿菓子みた~い』って言われたぞ」
ベルって一瞬、誰かと思ったけどそういえば勇者さんの名前ベルティーユだったな。
それにしても、綿菓子……なぜ?
「勇者って、後天的になるものなんだろ? 勇者になる前は、なにやってたんだ?」
「故郷の村で、農作と牧畜をやっていた両親が農家なんだ」
勇者さんは、昔のことを懐かしんでいるのか、少し優しい目になった。
「その頃の喋り方で話せるか?」
「う~ん、かれこれ2年ほど帰れていないからな……」
「ちょっと、やってみろよ」
「仕方ないな~」
ーーオワ! コイツ、ヤル気のなさそうな顔しやがって! 誰のためにやってると思ってんだ!
「こんな感じ~」
「あー……そんな感じなんだ!」
「う~ん」
このヤル気なさそうなのが、素の表情だったのか……村人に賛同だな、綿菓子はよく解らんが。
「すごい! すごい! ホンワリしてるぞ!」
「
無意味に前後左右に揺れる。
「
「ベル、すげぇ?」
コテッと小首を傾げる。
「ベル、すげぇよ!」
「やった~」
両手を上げてバンザ~イする。
「グハァ! なんだこの生物……可愛いな……おい」
頭、ナテナデしたい……。
「これでベル、人気者~?」
「ベルの思ってるのとは違う人気が出る気がするよ」
「帰ってみんなに、こんにちはして来る~」
「辞めといた方がいいんじゃないかな~、勇者としての威厳みたいなものが消し飛ぶぞ」
またなにか思い出したらしい、頭の上に電球がピカッと現れた。
「そういえば~、パパとママも『王都に行くんだからしっかりしなさいね~』って言ってたの、それでね~ベルが『お馬さんに乗って行くの~』って言ったら『しっかりしなさいね~』って言ったの、二ヒヒ」
ニコニコしながら、揺れる揺れる。
「グハァ! そうだね、パパとママの言うこと聞かなきゃね……かわわ」
「うん~、しっかりする~」
あぁ……なんて惜しいことを……。
ベルの瞳に、少しづつ強い意思が宿っていく。
「ふむ、なかなか難しいものだな」
まるで別人だ。
「両極端過ぎるんだよ……足して2で割れないのか?」
「ならば、明日からは一緒にその練習をしようか」
俺もやる前提かよ……まぁ、面白そうだしやるけどね。
今日も、勇者さんは騒がしく帰って行った。明日からの練習に付き合うのが普通に楽しみだ。
※ ※ ※
「随分と、イチャイチャしてたじゃない」
痛い! 痛い! 視線が痛いよ!
「イチャイチャなんてしてないだろ? ちょっと相談にのってやっただけじゃないか」
「いやいや、明らかに態度がいつもと違ったわ」
確かに……あれは、ギャップ萌えだった。
「違うぞ、あれは女性に対して抱く感情ではなく、小さな娘やペットに抱くような感情だ。リビドーではなくパタニティーだ!」
「あれを可愛いと捉えるか、面倒くさいと捉えるかは個人差があるでしょ」
「確かにな、俺は9割前者で、1割後者だ。でも、手間のかかる子ほど可愛いと言うし、そういう意味では10割前者だ!」
「私は、6対4と言ったところね」
なんて不毛な会話……楽しい。
「でも、あの感じで媚びを売ってないところを評価したい!」
「いつになく熱いわね! ロリコン」
満面の笑顔で言うエミ。
ーーふざけんな!!
「ロリコンってのわな! 6才以上、12才未満の少女にしか好きにならない奴のことだろ!? 勇者さんって17、8くらいじゃないか?」
あれ……死人みたいな目をしてらっしゃる。
「つまり……それは……金髪女のことが好きってこと?」
錆び付いた機会のようにギリギリと首を傾げるエミ……怖い!
「そ……そういう意味じゃないだろ? 俺は、自分がロリコンではないと言いたくって……」
冷や汗が……。
「 居候のクセに、私の断りもなくな感情を持つなんて! 生意気ね! 眼球ピンね!!」
ーー居候って感情を持つことすら許されないの!? 俺の自由、奪われすぎだろ!
わぁ! ヤバイ、目玉焼きができちゃう!
エミの手が伸びて来たため、咄嗟に逃げようとした瞬間。
「ニァ!」
エミが変な声を上げながらこちらに倒れこんで来た。
すべらかな絨毯に足が滑ったのだろう。
咄嗟に俺は、エミを抱きかかえるように支えたのだが、この絨毯ほんとすべらか、俺も後ろ向きに滑った。
「グヘッ!」
エミを上にして倒れるかたちになったのでギリギリ男としてのプライドは保てたが、俺まで変な声を出してしまった。
「な!? ななななな!!」
顔を真っ赤にさせながら『なななな』発っするエミ。俺が抱きかかえていた腕を離すと飛ぶように離れていった。
「そんなに避けるか! 流石に傷つくぞ!?」
折角、助けてやったものを! なんという薄情者!
「いや! 違うの! 男の人にこんなことされるの……じゃなくって! あんたの手が冷たくてビックリしたのよ!!」
ーー冷え性……割と気にしてるから、ちょっとショック。
「でも……うん、ありがと……」
顔を伏せながら、モゴモゴ言う姿がなんともいじらしい。
ーーどういたしまして!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます