幕間2日下部 晴香の場合
「昨日の朝、日高見くんに会ったんだよ!」
雁矢が一人暮らしをしているアパートがよく見える喫茶店。2人は、その喫茶店の窓際の席を陣取っている。
真紀は、『直接会えば?』と言ったがそんな勇気、晴香にはないのだ。
「あのさ……そんなことよりも、いったい何回くらい来たら『いつものやつ』で通用するの?」
真紀は驚愕していた、まさか店主に『いつものやつ』と言う人物を目撃してしまうとは、そしてそれが大親友だとは……。
「週に2、3回かな?」
「あ……あのさ、まさかとは思うけど……日高見くんの家が見えるから来てるワケではないよね」
大親友が普通に怖い。
「そんなわけないじゃん! あはは」
安心した、大親友がストーカー紛いのことをしているなんて誰も信じたくないに決まっている。
「確かに最初は、あそこに日高見くんが住んでるのか~って、私服とか見れないかな~って、思って入ったんだけどね。そしたらここのケーキがすっごい美味しくってね! 行きつけになっちゃった!」
黒か、グレーか怪しいところだった。しかし、大親友ということで、
最初はどうであれ、今は純粋にケーキ目的で通っているのだ。つまりセーフ。
ちょうどそのとき、初老の女性がケーキと紅茶を二つ、お盆にのせてこちらに来る姿が見えた。店主の奥さんかもしれない、夫婦で喫茶店を営むというのもなんだか夢があるな~と真紀は思った。
大親友が絶賛するケーキ。それに真紀も女の子、甘いものは大好きなのである。胸が高鳴る。
「はい、お待ちどうさま。晴香ちゃん、いつもこの席ね」
「「……」」
黒だった。大親友ストーカーだった。
だって、この席は晴香が『ここが一番、日高見くんの家が見やすそうだよ!』と言ったのでここにしたのだ。
そもそも、晴香がなぜ他クラスの男子生徒の住所を知っているのか、真紀には不思議でならなかったのだ。
しかし、真紀には解る。晴香自身その気はなかったのだ、無意識にこのテーブルに座って、無意識にジーッと好きな人の家を見つめていただけなのである。
そう完全なる無意識、悪意など欠片もないのである。
「わた……ス、ストーカー……?」
やっと自分の無意識に気づいたのであろう晴香はショックのあまりロクに舌も回っていないようだ。
「うん……でもさ、今まで色恋なんかに全く興味持ってなかった晴香がさ、誰かを好きになるなんて、私は嬉しいよ」
問題は愛が重すぎることだけ……。
ケーキはすごく美味しい。店の静かな雰囲気も好きだ。しかし不思議とまた来ようとは思えなかった。
もし親友がいたら、なんて声をかけたらいいかわからない……。
「え~っと、それでなんの話だっけ?」
「そうだよ! だからね、日高見くんが昨日から学校を休んでんらしいんだけど。私、昨日の朝、日高見くんに挨拶したんだよって話!!」
その気迫に、真紀はたじろいだ。
「あ……あー。毎朝恒例の、挨拶しようにも緊張で変なテンションになる上に、走って逃げるアレ? まだやってたんだ」
「グググ……悔しい、でも反論できない……」
あれは辞めた方がいいと、真紀はかねてより言っているのだ。
だって、せっかく勇気を出して挨拶しても逃げちゃうんじゃ誰なのかすら解らない。
「途中で、体調崩して帰ったんじゃない?」
「うちに帰るよりも、保健室に行った方が早かったはずだよ」
「なら、途中で面倒臭くなって帰ったとか?」
「う~ん……連絡くらいするんじゃない?」
「やっぱりさ~、直接聞けばよくない?」
「そんなこと……無理だよ」
面倒臭い親友だ。
「解った。私が1人で行ってくるから」
あまりやりたくなかったが仕方がない。
他クラスの生徒がわざわざ家まで来た理由を考えなければ。そしてそれとなく休んでいる理由を聞く、親友のために頑張ろう。
「真紀ちゃん、抜け駆けは許さないよ」
怒気を含んだその声に真紀は心から思った。
ーーコイツ、面倒くせーー!!
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