第4話ダンジョンマスターになりました。

 朝食は、まさかのパン食だった。

 食文化の水準に関しては、もといた世界とあまり変わらないようだ。『米はあるの?』と聞いたところ、大昔には食されていたらしい。日本の食文化、淘汰とうたされてました……俺、どちらかというと米派だから残念。

 と思いきや、パンの上にトロトロに溶けたチーズをのせてくれたので寧ろ僥倖ぎょうこうだ。

 米にチーズはのせないもの、少なくとも俺はのせたことがない。


 朝食を終え、お茶をしながらエミと駄弁っているときにそれは起こった。


  ビー ビー ビー ビー !!


 けたたましいサイレンの音と共に、エミの目の前に半透明なウィンドウが突然出現した。


「来たわね~」


 エミは、ぐ~っと伸びをすると真剣な顔つきでウィンドウに向かう。


 画面には、4人の人物が映っている。

 魔女のようなトンガリ帽を被り、全体的に真っ黒な衣服に身を包む長身の女性。緑の神官服を着た小柄な少女。分厚い胸板と丸太のように太い腕が鎧を通してでも解る、屈強な中年男性。そして昨日、俺がこの世界に来て始めて出会った女騎士だ。


「増えたわね……」


「昨日は、何人だったんだ?」


「1人よ」


「は?」


 それはおかしいだろ。そもそもパーティの役割分担ができないじゃないか、攻撃役アタッカー盾役タンク補助役サポーターそして回復役ヒーラーこの4つがなければパーティとして成立しない。


「この金髪女、勇者なのよね~。多分だけど、昨日は力だめしのつもりで乗り込んできたんじゃないかしら? デビュー戦だったらしいし」


「にも関わらず、昨日は攻略されて、ヒソヒソ隠れてたところに俺が召喚されたのか。タイミング悪かったな」


「そういうこと、私って平和主義者じゃない、『遂に、ここまできたか勇者よ~』とか柄じゃないのよ」


 エミは、なにやら話し合っている勇者一行を画面越しにカツンカツン叩く。


 ーーもうちょい危機感を持てや。


「そんなこと言ってもさ、昨日とか結構ヤバかったんじゃねえの? 見つかったら殺されてたろうし、そもそも"神台"壊されたらどうする気だよ」


「結果、大丈夫だったじゃない。それに本当にヤバイときには、戦うわよ。

私これでも魔族、随一の強さなんだから」


 それは解る。なぜなら魔族は実力至上主義だからだ、強い奴が偉い。そして最も強い奴が魔王になるらしい。


「てか、"神台"ってどこにあるんだ?」


「昨日、見てたじゃない」


「覚えがねぇけど」


「昨日、シャンデリア見たでしょ? アレよ」


 ーー台じゃないね……。


 てか、相当ヤバかったってことじゃないかそれ。勇者さんも、ガンガンにその光浴びてたよね。


 エミは、ファサッと昨日と同じ真っ黒いローブを羽織り、広間へと向かう。やっぱり、その格好で行くんですか、今日の魔王コーデは白いシャツに黒いミニスカというモノトーンコーデだ、いちいち現代チックだよね。


「行ってくるわ」


 その背中を俺は呼び止める。


「ちょっと待ってくれよ。よかったらでいいんだけどさ、俺にも手伝わせてくれないか?」


 エミは、俺の言葉に嬉しいような困ったような、そんな複雑な表情で振り返った。


「気持ちは嬉しいけど、あなたにできることなんかないわよ?」


「そんなことはないだろ。昨日みたいに、勇者が来たらそれとなく帰らせることがてきるかもだし。なにより俺、やってみたいんだよ、ダンジョンマスター」


「確かにそうかも……でも、危険よ?」


「それはエミだって同じだろ? 女の子にだけ危険な真似させるわけにはいかねぇしな」


 エミの顔が赤く染まった、戦いを前にして興奮してるのかもしれない。


「こっちの世界じゃ、人間は魔人のことをオスかメスかとしか判別しないわ、あなたにとって私は女の子なんかじゃない……」


「俺はこっちの世界の人間じゃない。俺にとっては魔人だろうが魔王だろうが関係ない、エミは可愛い女の子だよ」


 そう言うと、エミはローブをひるがえし背を向けてしまう。


「……あっそ! そうよ あんたは居候なのよ! 働いてもらうに決まってるじゃない! しっかり働いて、私を楽させなさい!!」


「任せろ! 暇過ぎて眠くなるくらい楽させてやる!」


 改めて、これからよろしく。という意味を込めて握手しようとした俺。


「こっち見るんじゃないわよ!!」


 ーーなぜ、怒られたし!?



  ※     ※     ※



 広間から居住スペースまで行くのは面倒だが、その逆は簡単だ。

 急勾配な通路を滑り降りるだけ。

 広間からこの通路は通れないらしいので、なかなか考えられた作りだと言えるだろう。


 俺はそこで復活の儀式を執り行うこととなった。死ぬ気なんてサラサラないが、保険だ。死ぬのビビって判断が遅れても困るし。


「両手をだして」


 言われた通りに膝まづきながら両手を差し出すと、エミは俺の手に自分の手を置く。


「手、熱くね?」 「熱くない」


 どうやら、これが常温らしい。


「顔」 「赤くない」


 赤くないらしい。


「なんか緊張」 「黙れ」


 ーーはい……。


 エミは、フッと息を吐くと『よし!』と気合いを入れ、『カボチャ、カボチャ』と呟いてから詠唱を始める。

 いや、『カボチャ、カボチャ』も詠唱に入るのかもしれない。


「我、神に選ばれし高潔なる"神台"の管理者なり、我が名のもとに、汝、ヒダカミ カリヤと盟約を結ぶ」


 朗々とそう呟くと、勢いよく俺の額に唇を押し付けてきた。所謂、口づけだ。

 けど、なんだろう萌ない……なにも言われてなかったからビックリした、とかではなく勢いが凄過ぎて前歯が当たってむちゃくちゃ痛かった。


「「痛~」」


 相手も相手で、口を押さえながら涙目になっている。


「え……こんだけ?」


「な!? これ以上、なにを求めてたのよ!!」


 顔を真っ赤にするエミ。


 ーーそういう意味じゃねぇよ。


 ちょうどそのタイミングで、勇者一行も慎重に動き出した。



 そんななか……


「ここのね、道具ボタンをタップするといっぱい絵が出てきて、左の絵がトラップの種類で右の数字が設置できる数よ。まぁ、みんな1000個以上は用意してあるから数の心配はいらないわ……」


 呑気にも、俺はトラップの設置方法を教わっている。画面には、勇者一行の様子と、15階層を映した画面、道具リストが映し出されている。

 ちなみにこのダンジョンは、100階層まで存在し、形状はすべて横20メートル、縦500メートルほどの一本道だ。


「で、この絵を押したまんま設置したい場所に移動させて離すと……」


 モワワワンと煙が上がったかと思うと、そこに宝箱が出現した。


 ーー『どう○り』じゃねぇか!!


「こんな感じ、解った?」


「随分と、簡単なんだな……ところでさ、ダンジョンといえばモンスターだろ、どこにいるんだ?」


 俺の、その言葉にエミはどこか浮かない顔をする。


「みんな辞めちゃったのよ……」


 ーー雇用関係なのかよ。


「オゥ……それはまた、なぜに?」


「魔族が『実力至上主義』なのは知ってるでしよ?」


「あぁ」


「当然、魔族のなかで一番強いものが魔王になるんだけど……」


「知ってる、知ってる」


「でね、今までに女性が魔王になったことがないのよ……」


「なるほど……」


 つまりあれか……女に魔王なんて務まらないって決めつけて、みんな反発して辞めてったってことか……。

 『実力至上主義』の極みだな。


「ていうかいいの? 金髪女もう4階層まで来てるけど」


「あぁ、10階層までは様子見」


 俺だって、ただ駄弁っているわけではない。しっかり敵の特徴や弱点を探っているのだ、しかし流石は勇者のパーティなかなかの精鋭揃いだ。


 魔女みたいな格好の長身の女性は、魔法戦士だろう。体にピタリと張り付くセクシーな服から見える扇情的な肉体には無駄な脂肪が少しもなく、よく鍛えられていることが解る。パーティの役目としては攻撃役アタッカー補助役サポーターだろう。(魔女さんと呼ぼう)


 緑の神官服を着た少女は、当然神官で回復役ヒーラーだ。しかし見た目は小学生くらいにしか見えず、見るからに体力もなさそうだ。実際、まだ5階層に差し掛かったばかりなのに少しバテ始めているように見える。代わりに、神官としての実力は相当なものかもしれない。

(みどりちゃん)


 無骨な鎧を着た中年男性。正直、画面越しで見る限りはコイツが一番ヤバそうだ。なんだろうか、長年培われた戦士としての経験か5階層まで来て一つもトラップがないこの状況において、一番警戒心を示しているのはこの人だ。戦士、パーティでの役目は盾役タンクだろう。正直、真っ先に回復役ヒーラーを潰そうと思っていたがコイツがいる限り叶いそうにない。(武蔵)


 勇者さん。攻撃役アタッカーだろうな。よく警戒心は保ってるとは思うが、魔女さんとときたま雑談している。実力は未知数だが当然強いんだろう、なんせ勇者だ。(今まで通り、勇者さんと呼ぼう)


 ここは欲張らず、一人づつ確実に潰して行こう。最初のターゲットは魔女さん、彼女はグラマラスな見た目に反してなかなか活発なようだ。このなかで一番警戒心がなく、一人で勝手に進んで武蔵から度々注意を受けている。特に新しい階層に着いたときなんて必ず最初に足を踏み入れるのは彼女だ。


 勇者一行が8階層に着いたとき、俺は11階層に二つだけ落とし穴を仕掛けた。最初は、10階層に仕掛けようと思ったが、節目となる階は警戒されると思ったのだ。


「二つだけじゃ作動しないかもよ?」


「いや、流石に新しい階層に入ったら警戒して辺りの様子を伺うからな」


 エミは、わけが解らないといったような表情をするが、難しいことでわない。 実際に、自分が周囲を警戒して様子を伺うとき、どのようにやるだろうか?

 大抵は、背後からの攻撃を避けるために壁に背を向けるだろう。

 傾向として、魔女さんは左側の壁を背にすることが多いが念のために両側の入口付近の壁の足下に落とし穴を設置した。


 すでに、10階層も半ばに差し掛かった勇者一行、遂に11階層に入ってきた。

 案の定、魔女さんが先行し武蔵が呆れるという今まで通りの展開になった。


 ーーやっぱり、左側か。


 左側の壁に背を向け安全を確認した魔女さんは、来ていいぞと仲間に合図し自分自身も一歩前に出る。


 ガゴン!!


『ッ!?』


『マリーーーー!!!!』


 勇者さんの絶叫と共に一人、落脱。

 俺は込み上げた笑い声を押し殺した。


 ーー本番はここからだ。


 この一手で敵の警戒心は一気に高まった。


回復役ヒーラーを潰しておきたいな……」


「あぁ、この弱っちそうな子ね」


 ーー武蔵、邪魔!


「とり合えず、疲労させるか」


 俺は、12階層から20階層まですべて巨大石玉を設置する。やはり、トラップのデメリットは敵にしっかりと作動させるための工夫がいることだ。


 12階層、中心部に宝箱を設置。宝箱付近にトラップがあるように思わせて、実は入ってから一歩目にスイッチがある。踏んだのは勇者さんだ、勇者さんは単身で、武蔵はみどりちゃんを抱えながら背後から迫る石玉から逃れる。

 13階層、壁の両サイドから石矢が放たれる。勇者さんと、再びみどりちゃんを抱えた武蔵は、最も石矢が届くまでに時間の掛かる中央を小走りに進む。しかし、中央には横幅2メートル、高さ1メートルほどの小さな壁がある。普段なら壁を避けて進むだろうが、石矢から逃れているこの状況ににおいて飛び越えざる負えない。案の定、壁の裏にはスイッチ。今回踏んだのは武蔵だ、2人は猛ダッシュする羽目となった。

 剣で矢を打ち払われるかもしれないという難点もあったが、そこは数の利で解決できた。


 こんな引っ掛けを続けること9回、2回は失敗に終わったが上出来だ。流石に、勇者のパーティといえここまでされると疲労が隠せない様子だ、それに15階層辺りからは武蔵がみどりちゃんを抱え続けている。


 23階層、そろそろ仕掛けようか。

 宝箱、大盤振る舞い。宝箱を5つも設置してやった。流石は、勇者一行だ宝箱なんかには目もくれない、知ってた。

 二人はなるべく宝箱から遠ざかり、警戒しながら慎重に歩みを進める。

 これまで落とし穴と石玉、石矢に固執してきたため、そのことばかに注意を置いている。つまり床と壁にしか注意を払っていないのだ。


 高さ180メートルほどのところにピンと張ってある細い糸の存在には気づきもしない。


 勇者さんは、身長168センチくらい。武蔵に関しては身長178センチくらいだ、しかし兜とその上にくっついている角みたいなのを含めると185センチくらいになる。


 ブツンッ!!


 不吉な音。


 ガン!!!!


 天井から岩、ていうか岩石が降ってきた。兜も鎧も意味を全くなさないほどの巨岩、普段ならけられていたかもしれないが疲労状態にある現在においてそれは出来なかっただろう。しかし、咄嗟にみどりちゃんを勇者さんの手に投げ渡したのは流石としか言いようがない。


「……」


 ーー殺しちゃったよ……。


 いや、魔女さんをさっき殺したじゃないか……でも、目に見えて死んでると俺がやったんだな~って実感する。だって、岩石の下から血がさ……。

 まぁ生き返るからいいんだけど、もしそうじゃなかったら発狂してた。


『『……』』


 勇者さんらも唖然としている。


 ……よし!! 半分、減らした。気を取り直そう。


 しかし、そこから勇者さんは怒涛の勢いで猛進した。本当に猛進だ、みどりちゃんを抱えながら全力ダッシュでドンドンドンドン進んで行く。

 必死に俺がトラップを仕掛けても全く勢いを落とさず、ときには剣で破壊し、ときにはジャンプして躱し、てか早過ぎてトラップが作動しても大抵のものがそのときにはすでに、遥か遠くに勇者さんが疾走しているという悲しいことになっている。


「疲れ知らずかコイツ!! 昨日もこんなんだったのか!?」


 勇者さんが、10分足らずで50階層を突破した。


「い……いや、だって昨日は78階層で夜営してからここまできたもの」


「でもこのペースだと、あと15トルくらいでここまでくるぞ!?」


 そんなことを言っている間にも、勇者さんはトラップを次々破壊し除けながら55、60と爆進する。あまりの荒々しさに小脇に抱えているみどりちゃんがさっきからピクリとも動いていないが、あれは大丈夫なのだろうか?


 65、70、75、80、85、90


 ーー全然、止まらねぇ!!


「エミ、隠れとけよ!!」


「言われなくても、もうやってるわよ!」


「速いな!!」


 万策尽きたか……と思われたとき、使ったことのないトラップが目に入った。


 ーーそういえば絵の意味が解らなくって使わなかったんだっけ。


 なんか円柱形のものに『危険物注意』って書いてある。トラップに気づかいはいらないんだよ!! しかし、俺は藁にも縋る思いで『危険物注意』を設置する。


 当然、そんなあからさまに危険なものに近づくはずはないのだが、勇者さんはなりふり構わず、立ち憚るもの全てを薙ぎ払っていた。そのため本当に奇跡的なことに勇者さんが『危険物注意』をぶった斬ったのだ。


 ゴウ!!!!


 画面を通さずとも聞こえてくる爆音に仕掛けた俺自身ですら唖然とした。


 ーー爆弾だったのかよ!!


 勇者さんを映していた画面が真っ白になる。




 ゴゴゴゴ!!


 音が聞こえた。重いものが引き摺られるような。


「え……は!?」


 咄嗟に俺が音のする方に顔を向けるが……椅子ごとぶっ倒れそうになった。


 ーー石扉が開いてる!?


 扉の隙間からもくもくと黒い煙が上がる、それほどの爆発だったのだ。

 生きているはずがない……よね?


「ごは……ごほっ! ごほっ!」


 来たよ、来ちゃったよ、来ちゃいましたよ!


 煙を上げながら堂々とヤツはそこに立っていた。

 抱えていたはずのみどりちゃんは、爆風でお亡くなりになってしまったのか、いない。


 怖い、怖い、ただただ怖い。

 俺は必死に笑顔を作り、勇者さんをお出迎えする。ここで敵対する姿勢を見せたら確実にられる。


「い……いっしゃい」


 勇大かつ凛とした立ち振る舞いで真っ直ぐこちらに向かってくる勇者さん。なんたる威厳。


 ーー怖い……。


 遂に、勇者さんは俺の目の前で足を止めた。


「!?」


 ビックリ! 目の前に剣がありました。あまりに一つ一つの動きが自然過ぎて全く気づかなかった。

 昨日、同様ギラギラと俺のことを威嚇している。すごいデジャブ感。


「お前が魔王か、私は勇者 ベルティーユ!! 魔王を滅ぼし世界に平穏をもたらす者である!」


 ーーだから、なにこのデジャブ感!


 昨日、言ったよね!? 魔王じゃないって言ったよね!?


「昨日も言いましたが……」


「よくも仲間を殺してくれたな!!」


 ーー聞け!! 確かに殺したけども、聞け!!


「魔王じゃないですって!」


「貴様……名前は?」


「ハイハイ。エミリアじゃなくって日高見 雁矢です」


「なに? エミリアじゃないのか?」


 もう解ったよ! 昨日のことを忘れたいんだろ? 現実見ろコラ!


「昨日のこと、覚えてますよね?」


「……知らな~い」


 斜め上を見ながら、吹けもしない口笛をフ~フ~吹く勇者さん。


 ーーすっとぼけんな! 『知らな~い』じゃねぇよ!


「フフ……ハハハハハハ!!」


 ーーまたやってるよ……。


「私はな、あの後考えたのだ。町への帰路でも、湯浴みでも、夕食のときも、そして布団のなかで、壁越しに新婚のお隣さんの部屋から聞こえるあの……あれの……声に、なかなか眠れくて苦しみながらも、ずっと考えていたのだ。ヒダカミ カリヤが何者なのかを!」


 顔を赤らめる勇者さん。


 ーー私生活暴露ましたよ、大変なんだね……いろいろと。


「そして私は答えを導き出した!!」


 自信満々の勇者さん、その口調から確信を持って言っていることが解る。


 ーーへぇ~、俺でもよく解ってないのに。まぁ、どうせ『やっぱりお前が魔王なんだろ?』とか言うんだろうな。


「お前、魔王の夫だな!! 新婚か?」


 ーーうぉ~い!


 絶対、布団に入ってるときに閃いちゃったヤツじゃん! お隣さんの情事聞きながら思いついちゃったヤツじゃん! 『新婚か?』じゃねぇよ!!


「それはないです!」


「エミリアとは女の名だ、つまり魔王は女! 女と男は、あれだ……あれ……あれがあーなってあーで……」


「聞け!!」


 声に出てた……。

 まぁ、勇者さんは爪先で地面を叩きながら『あれあれあれあれ』言っているので多分、聞こえていないだろう。


「……つまりだ! 私の考えは完璧だと言うことだ!!」


「違います!!」


 俺の叫びに勇者さんは一瞬固まってから『はっ!』と明らかに何か閃いた表情をする。


「つまり、熟年……」


「夫婦から離れろ!!」


 ーーもうやだこの人……。


 その後、俺とエミが夫婦ではないということを必死に訴えた結果、なんとか勇者さんに解ってもらえたかと思ったら、

『覚えてろ!』といかにも小者っぽい言葉を叫んで帰ってしまった。

 もう、来なくていいのに……。


 気づけば俺は、完全に勇者さんに対してタメ口になっていた。


こうして初ダンジョンマスターとしての仕事は、大失敗で終わったのだった。

 そのせいか、エミの態度がやけにトゲトゲしかったがそれも仕方のないことだろう、この屈辱を踏まえて明日も頑張ろうと日記に書き記した。
















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