幕間1 日下部 晴香の場合
衣替えも終わりいよいよ夏の熱さも本格化してきた今日この頃。しかし、今日に関しては日差しもなく、とても過ごしやすい一日だ。ポカポカ暖かいうえに昼食を食べ終えたばかりとあってクラスメイトのなかには舟を漕いでいるものも少なくない。晴香もいつもなら、机に突っ伏しながら夢の世界へと沈んでいっていたであろう。
しかし、晴香の目は冴えわたり、脳みそは煙が出そうなくらい猛スピードで回転していた。できることなら今すぐにでも学校を飛び出して彼を探しに行きたい。
なぜ晴香がこんなことを考えているかというと、昼放課のことである……
晴香は今日、日直であったために職員室に行く必要があった。
担任の教師に必要書類を提出し、少し雑談するだけ。なんてことはない、以前にも一度やったことがある。
職員室に入ると、沢山の教師用のデスクと教師陣の他に1人の女生徒が男性教師となにやら話していた、1年3組のクラスリーダーと担任、どちらも名前は知らないが、顔は覚えている。なぜなら彼のクラスだからだ。まったくもって、羨まけしからん。
晴香の用があるのはその隣の、1年1組の女性教師の席。晴香の担任だ、優しいとみんなから人気で、1組が天国で3組は地獄らしい。それでも晴香は3組が良かったと心から思っている。
まぁ、正確には彼と同じクラスならばどこだって良いのだが……。
「こんにちは、先生。日誌とプリント持ってきました」
「あら、ありがとう。日下部さん」
女性教師は、屈託のない笑顔を浮かべ必要書類を受け取ると、世間話を始めた。正直、煩い。
なぜなら今、隣の席では彼の話をしているからだ。
『日高見は、今日も来てないか?』
『はい、来てません』
『昨日もそうだが休むときはしっかり理由を言えってんだ……』
男性教師が愚痴るように呟くと、クラスリーダーはアハハと苦笑いした。
「嘘……」
ーーウソ……ウソ、ウソよ。だって私、昨日見たもの……。
晴香は、衝撃のあまり
晴香は確かに昨日、彼を……日高見 雁矢を見たのだ、登校のときに彼の後ろ姿が見えたのでその背中に『おはよう』と声を掛けたはずなのだ、いつものように彼も挨拶を返してくれたので間違えなどあり得ない。そもそも晴香が彼のことを間違えるなどあるはずがないのだ。
「日下部さん? ねぇ、日下部さん」
「あ……はい」
「どうしたのボーっとして? 気分でも悪いの?」
「い、いえ。大丈夫です、失礼しました」
で、今に至る。当然、授業なんて全く聞こえてこない。
(登校途中で体調が悪くなった? いや、私が日高見くんを見たのは学校の目の前だったから帰るよりも保健室に向かったほうが早いはず……。
もしかして誘拐!? いや、日高見くんは背が高いからそれは難しいし、学校から近すぎる。
もしかして変な女に
「さっきから顔真っ青になったり、真っ赤になったりしてるけど大丈夫?」
「!?」
突然、話しかけて来たのは晴香の前の席の女生徒、熊沢 真紀だ。晴香の小学生のときからの親友でもある。
周りが全く見えていなかった晴香は、驚きのあまり悲鳴を上げそうになったがギリギリ呑み込んだ。
「本当に大丈夫?」
大親友が気遣ってくれているのだ、晴香は意を決して日高見 雁矢の失踪のことについて話すことにした。
「あのね……日高見くんが昨日から学校に来てなくて……」
晴香の泣き声を押し殺すかのような声。大分、端折ったが親友である真紀には解ると思ったし、なによりこれ以上話すと泣いてしまいそうだった。
「出たよ……日高見ロス」
解ってもらえなかった……。
晴香の頬に一筋の涙が伝う。
ーー日高見く~ん……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます