第2話異世界という機会(チャンス)

 

「……」


  一瞬、思考がショートした。


  やむを得ないだろう、なんせ腰を下ろしていたはずの場所が突然なくなるなんてそうあることではない。しかし一瞬後、つまり思考を取り戻したとき俺は猛烈に焦った。


  今の自分の姿はどうなっているだろうか?


  無様にも地面に仰向けになりながら目をつむり、両手で耳を塞いでいる、しかも人混みのなかで……完全にヤバイ奴だ。 恥ずかしくって、怖くって目が開けられない。唯々、俺はその場で固まった。

  今は誰も何も言わないが、きっとみんな唖然としているだけだ、誰か一人でも笑えばそれが伝播でんぱして俺は大勢の笑い者にされる、それが人間心理だ。

  まぁ、そこまではまだいい、問題はそれが噂になってクラスの全員がこのことを知ってしまうことである、ちょっとしたことですらイジメに繋がりかねない時世だ、少なくとも俺の肩身は今以上に狭くなるだろう。


「お、お前が魔王か!? 私は勇者 ベルティーユ!! 魔族を滅ぼし世界に平穏をもたらす者である!」


  しかし、人混みから上がった第一声は俺の予期していたものとは異なり、自信と気合に満ち溢れた凛とした声であった。


  ーーヤベェのが出て来たぞ!


  なに、なに!? もしかして同族と思われてるのかな? 違うよ、この格好には深い事情が……てか何で魔王?


「魔王よ……、

 私の話を聞け! 直ちに耳に当てている手をどけ私の話を聞き、目を開け私の顔を見よ!!」


  ーーできるか!!


  怖ぇよ! あなたを直視できないよ!


  てか誰か何か言えよ! 笑いたければ、笑えよ!!


「フフッ……ハハハハハハ!!」


  ーーあんたじゃないよ!!


 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い!


「つまり私程度を倒すのに目も、耳も必要ないということか!」


  そんなこと言ってないよ! てか倒すていなのこれ!


「その慢心が貴様の敗因となるだろう!」


  慢心なんてしてないぞ!? むしろ空虚感にさいなまれていたところだよ!?


  ーーカシャッ


  何だ今の音……? まるで金属同士が擦れあうような……。


「その腕を斬り落として無理矢理にでも私の話を聞かせてやる!!」


  ーー嘘だろ!


  普段なら冗談だろうと無視できるが、相手は頭がアレな人だ、それに先程聞いた音が俺の不安を増長させた。


「待った! タイム! ターイム!!」


  俺は咄嗟に両手を耳から離し、人質に取られたときのように両手を挙げ、目を開く。すると眼前に何かが横切り、風切り音と共に前髪が揺れた。


  自分でも忘れそうになっていたので、一応言っておくが、俺は未だに仰向けに倒れている。


「なんだ、命乞いか?」


  そのとき始めて見た、仰向けに倒れる俺を見下す人物を。


「女騎士……」


  心の声がつい口から出てしまった。


  しかし、それも仕方のないことだろう。

  何故なら、あまりにも思い描いていた通りの女騎士だったからだ。

  腰まで届くほど長い金色こんじきの髪、筋の通った鼻、青い瞳からは強い意思が感じられる。俺は始めて人間の顔を見て純粋にこう思った。


  ーー美しい。


  思わず息を飲むほどに。


  女騎士は、固まる俺に痺れを切らしたのか、俺の鼻先に獲物を突きつける。

  騎士の獲物、つまり剣だ、女騎士の顔に釘付けになっていた俺はこのとき始めてそれを見て息が詰まった。


  「命乞いしないのか? 言い残すことがあるのなら聞いてやろう」


  どうなってる、この状況。

  俺を見下す女騎士は、コスプレの人だろうか? 触れただけで切れてしまいそうなほど鋭い剣はギラギラと俺を威嚇し、シルバーの鎧は決して派手ではないが彼女の気品を際立たせている。


  これらの武装が偽物なのか?


  本物を見たことがない俺だが、これだけは確信を持って言える。


  ーー本物だ。


  額に汗が滲む。

  『カシャッ』

  女騎士が剣をスッと引いた。頭が真っ白になる。


「乞います! 乞います! 命恋しいです!!」


  真っ白な頭で必死に叫んだ。これが生存本能か。

  切っ先が再び俺の眼前に戻る。


「え? そうなのか……まぁ、言ってみろ」


  何故か、たじろぐ女騎士。

  本当に命乞いかされるとは思わなかったんだろう。


「あ、ありがとうございます。取り敢えず、お聞きしたいことがあるのですがいいでしょうか?」


「構わん」


  初対面の人には敬語、これは俺のマナーだ。

  中学のときの保育園訪問で園児に敬語を使ったがためにクラスメートから、からかわれたのを思い出す。


「まず、どうして僕の命を狙っているのでしょうか?」


  俺の言葉に、女騎士の顔が見るからに怒りに染まった。


「貴様! 今まで我等にしてきた悪行の数々、忘れたとは言わせんぞ!!」


  ……誰等?


「あの~、人違いかな~って思うんですけど」


「貴様……、名前は?」


「日高見、日高見 雁矢です」


「ヒダカミ カリヤ……エミリアじゃないのか?」


「そんな可愛らしい名前じゃないです」


  女騎士はキョトンとしながら固まった。

  エミリアってどう考えても女性の名前だろうが。


「うぅぅ、嘘をつくな! それならば何故、こんなところに人間がいる!?」


「いや、本当それ。自分でも全然分からなくて困ってるんです」


「「……」」


  え、なにこの沈黙……。


  重い雰囲気に耐えかねて、俺が口を開きかけた。そのとき女騎士が『ガシャッ』という音と共に俺に背を向け剣を鞘に収める。


「……帰る」


「……は?」


「帰る!!」


  女騎士は叫ぶと、そのまま真っ直ぐ駆けて行ってしまった。瞬く間に小さくなるその背中を眺めて俺は思う。


 ーー助けてよ……。



   ※      *      ※


 

  取り敢えず、立ち上がって頭を切り替えよう。


  まず、此処は何処だろうか?

 

「すごい……」


  この一言に尽きる。

  真っ白な壁、天井には豪奢なシャンデリアが上品な光を放っている。床には真っ赤な絨毯が敷かれており、靴底を通してでもその柔らかさと舐めからさがハッキリと分かる。しかし、何よりも驚くべきはその広さだ、ザッとだが、縦、横100メートル、高さも6メートル以上はあるだろう。


  俺から見て正面、つまり女騎士の走っていった方向には、横3メートル縦5メートルほどの通路が通っている。その手前には歪み傷付いた2枚の巨大な石板が転がっているが、その2枚を横に並べると、丁度通路と同じぐらいの大きさになるので、もとは石扉だったのかもしれない。


  その反対側には、椅子がある。

  といっても日常生活で使うような椅子ではない、肘掛けは金ピカに装飾され、背もたれは俺の身長よりも大きい。そうそれは玉座だ、絨毯と同じような真っ赤な色の玉座である。


  しかし、この広過ぎる部屋を見渡す限り目に入るものはこの玉座のみ、それ以外には家具もなければ窓すらない、とてもヒッソリとした広間だ。


  ここで、女騎士の言葉を思い出してみよう。


『お、お前が魔王か!?』


  あの困惑したような声音を思い出す。

  俺が魔王と間違われたということは、本来この場所には魔王がいるはずだったということだ、つまり此処は魔王城。


    女騎士、魔王、魔王城→ 異世界。


「俺……異世界召喚されたのか?」


  突拍子もない答えだが、そうとしか考えられない。

  まぁ、誰かに聞くのが一番か……。


  ところでだ、自慢じゃないが俺は常に人の顔色と目を気にして生きている。


  ーー本当に自慢じゃないな……。


  しかし、どんなことでもやり続ければ特技になるものだ。実際、俺も人目を気にして生きているが為に割と最近、新たな特技を得た、それは他からの視線にすぐに気づくというものだ。どれだけ隠れようが、どんなに一瞬であろうが、俺は

  (あっ! 今、あいつ俺のことみた!)

  と解ってしまうのである。


  こんな残念特技を身につけた俺から言わせてもらうと、俺は今、誰かに見られている。

  ついでにその視線は丁度、玉座の影それも右後ろから感じる。


  俺は、そこに向かって何のためらいもなく真っ直ぐに進んだ、そして視線の目の前まで辿り着く。


『タン  タン  タン  タン ーー』


  ーー逃げた!!


  しかし、柔らかな高級絨毯がアダとなった。見えない何かの重みで深々と絨毯が沈んでいる。


「チョッ! 待って!!」


「なんでついて来るのよ、変態!!」


  ーー喋った!


「変態じゃないです! ちょっと聞きたいことがあって! 待って!!」


「だからなんで私の場所が解るのよ!?」


  ーーよし、もうちょっとで追いつく。


「重さで、絨毯ーー」


「なにが、『あまりにもデブすぎて、不可視魔法をかけてても、むっさ苦しくってバレバレだぞw』っよ!!」


「そんなこと言って、ベフォッ!!」


  そのとき、俺の顔面を見えない何かが衝突。瞬く間に、視界は暗転した。



    ※     *    *



「ん、んっ……」


  額が痛い、一応触ってみる。 血は出てなかった。


  起き上がって、周りを見ると、先程と同じ広間だ。

 


「誰……?」


  いまさらだが、現在進行形で奇妙な人物が俺の目の前で正座しながら、こちらをジッとを見ている。

  真っ黒なローブを被る人物だ、その顔はローブの影で隠れているためなかなか見えない。多分、何かしらの仕掛けがしてあるんだと思う。


此方こちらの台詞だ」


  少しの抑揚もなく、性別すら解らない声に若干の違和感を覚える。

  人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗れということだろうか?


「僕、日高見 雁矢って言います。先程はどうも」


  俺の言葉に、その人物はビクッ! と肩を揺らした。多分、動揺しているんだろう。


「うぇっ!? なんのことだ?」


  抑揚のない声色からも『!?』がハッキリ解るくらいたじろいでいる。


「え? さっき透明だったかたですよね?」


「……なぜ分かる?」


「視線?」


「わけ解んないわよ!」


  やっぱりか、でもこの抑揚のない声、何だか変な感じだ。


「あの~、何か変な感じするんで、さっきみたいに普通に喋っていただけませんか?」


  俺が言うと、その人物は『まぁいっか……』と呟きながらフードを取った。

  フードの間から2対に束ねられた真紅の髪がハラリと飛び出した。所謂いわゆるツインテール、見たこともない美しい赤だ。目鼻立ちも整っているが、鋭い目つきからはけんが感じられる。

  妹の愛莉矢ありやが、物凄い不機嫌なときの顔に少し似ている気がする。

  それでも、さっきの女騎士を美しいと形容するならば、彼女は可愛いらしいと形容するべきだろう。


「私はエミリア、可愛らしい名前とかいうんじゃないわよ!? むしろ私は畏れおののかれるべき存在なのだから! なにしろ私こそが……!!」


「あぁ、貴方が魔王ですか」


  魔王は胸を目一杯張ったまま固まった。

  俺これと間違われたのか~、何か複雑。


「空気読みなさいよ……どうよ、私と対面してしまった不運な人間の感想は?」


「可愛いですね」


「はっ!?」


「そのアップリケ」

 

  それは魔王のローブの胸元に着いている白猫のアップリケだ、ローブが真っ黒なだけにやけに目立つ。


「そう! そうよね! 私は知ってたわよ!  私は魔王ですもの!」


  さっきから思ってたが、どうもこの声、聞き覚えがある。


「えーっと、そう! このアップリケのことよね! どうせだから、私がどれだけ極悪非道な魔王なのか痛感させてやろうじゃない!」


「それ、アップリケと関係あるんですか」


「大アリよ! なにを隠そうこのアップリケはね、私の愛猫なのよ!」


「え? ハートフルな話しですか?」


「それがね、この猫はこのまえ死んでしまったのよ……、私が殺したの!!」


「極悪非道じゃないですか!!!!」


  俺は、とんでもない人物と話しているのではないだろうか……。

  いまさらながら緊張する。


「28歳だったわ……」


「大往生じゃないですか!!!!」


  ーーなにそれ! そんな長生きな猫、聞いたことねぇよ!?


「私よ! 私が殺したの! 私がキャットフードを変えなければミミは死ななかったのよ!!!!」


「辞めて! 自分を責めないで!」


  絶対いい人だ、この人! だって自責の念にさいなまれているもの!

  大丈夫! 君は悪くないよ!


「私のせいに決まってるじゃない! 責めなさいよ! ねぇ! 責めてよ!!

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああん!!」


「よしよしよし、責めない責めない、誰も責めないよ、だって君の責任じゃないもの、だから泣かないよ」


  ーー俺は、なにをやっているのだろうか……?


  十数分後。

「グスン……分かってもらえたかしら? 魔王の恐ろしさが」


「ウン……」


  目を真っ赤に腫らしながら、鼻を啜る魔王。

  どう恐ろというのだろうか?

  でも大分、元気になってくれたようだ。これも俺のそれはもう献身的な励ましのお陰だろう。


「分かってもらえればいいのよ! それであなたはなんでこんなところにいるのかしら?」


  そう、それだ、俺が聞きたかったのは!


「はい、でも正直に言ってしまうと、自分自身なんでこんなところにいるのか解らないんですよね。

 なのでまず、僕がここに来た経緯を聞いてもらえますか?」


「しょうがないわね、私の寛大さに歓喜しなさい!」


「ありがとうございます!

 先ず、今朝から僕は頭痛のような違和感に苛まれていました。まぁ、これは貴方の『寂しいよ……』という言葉だったんですがーー」


  そう、俺もついさっき思い出したばかりだが、この声、どこかで聞いたことがあると思ったら異世界召喚(?) 直前に聞こえた女の子の声だ。


「ちょっと、待ちなさーい!! 私が、ミミが亡くなってからモフモフできなくって、虚しさのあまり気付いたら口癖のように『寂しい……』と呟いていることをなぜ知っているの!?」


  ーー初めて知ったよ。


  その後も数回、一悶着あったものの、なんとか俺は一通りの説明をし終えた。


 

    ※     ※     ※



「つまり僕は、寂しさのあまり暴走してしまった貴方の魔力によって異世界召喚された、そういうわけですね?」


  魔王曰く、寂しさのあまり膨大な魔力が暴走。その寂しさを紛らわせられるであろう人材が自動的に召喚されたのではないか、とのことだ。


  本当に、異世界って魔法とかあるんだな……まぁ、異世界によるのかもしれないが。


「私すっごい! 次元を超えた召喚なんて前代未聞よ! 天分の塊ね!!」


  踊り狂う魔王。なんか会話の途中からテンションがおかしくなったのだ。


  ーーこいつ、開き直ってやがるな。


「あの~、僕、日本という場所から来たんですが、突然人一人が消えるのって結構な事件なんですけど……」


  言ってみて思った。どんな問題が起こるのだろうか?

  いくら地味で目立たない一生徒であっても、数日後には学校側が不審に思い警察に通報、失踪事件として捜査が始まるだろう。

  当然、見つからない。日本の警察は優秀だと言うし、もしかしたら異世界での捜査もできるかもしれない……流石にないな。

  そして数ヶ月後に捜査は終わる。

  失踪者の両親や知人が再捜査を依頼したり、情報提供を求めたりすることもあるだろうが、俺の両親に限ってそんなことをするとも思えないし、親しい知人もいない、すぐにみんな俺のことなんて忘れるだろう。


  つまり、たいして大事にはならないのではないか?

  俺がいなくなったってなんの不都合もなければ、誰も悲しまないのだから……。


「どうしよ~、戻し方なんか知らないわよー!!」


  やっと現実を見た魔王が、次は狂ったように頭を抱え始めた。


「いや、いいです」


「え?」


「いいんですよ」


「いいってなにがよ?」


「戻さなくっていいです、僕、こっちの世界で生きていくことに決めました」


  俺は、きっぱりと答えた。

  普通、アニメやラノベではこういったとき、もとの世界に戻ろうと努力するだろう、でもそれって大切な人に会うためだろ? 俺にはそんな人いないし、思い残すようなこともない、敢えて言うなら牛丼屋の生卵無料券を使い忘れてたことくらいか。


「え? でも色々と困るんじゃない?

  ほら、ご両親とか」


「いや多分ですけど、むしろ両親にとっては僕がいなくなって好都合だと思いますよ」


「随分、複雑な親子関係ね……」


「はい……色々とやらかしちゃいまして」


  むしろ俺は興奮していた。

  だってこれは俺が望んでいたことではないか、誰も俺のことを知らない、両親にも分からないところに行きかったんだよ、俺は。


「俺……こっちの世界で人生やり直してみたい……です!」


「俺?」


  あぁ、ついつい熱くになってしまったようだ。


「すいません、素が出ました」


「いいわよ、無理して敬語使わなくても、あと貴方じゃなくてエミリア、エミエミ、もしくはエミタンと呼びなさい」


  魔王らしさがまったくないな、本当に。

  別に無理して敬語で喋っているわけではないが、お言葉に甘えよう。


「分かったよ、エミエミ」


「あんた結構、性格悪いわよね」


  エミエミは、ジトッとした目でこちらを見てくる。


  違うぞエミエミ、君がいじりたくなるようなリアクションをするからさ。


「だから俺をもとの世界に返す手段とか考えなくていいからさ、エミエミは魔王頑張れよ」


「エミエミは辞めなさい! エミ! エミって呼びなさい!!」


「分かったよ、なら俺も雁矢でいいぞ」


  よしよし、異世界ライフは決定だ。

  あとはこれからどうするかだが、まずは近隣の町や村を探しそこで情報収集、3食宿付きの仕事が見つかれば最高だ、もとの世界での知識もあるし引く手数多あまたかもしれないな、フフフ……。


「質問なんだが、この近くに町や村はあるか?」


「なによカリヤ? 出て行くつもり?」


「そりゃね~、働かないと飯くえね~し、俺死ぬじゃん?」


「あんたはどうして私に召喚されたのかしら?」


  エミは、恥ずかしそうに口を窄めている。


「あまりの寂しさで無意識に呼び出しちゃったんだろ?」


「グググ……そうよ。カリヤ、あなたは私の寂しさを紛らわすために召喚されたのよ、認めたくはないけどね。つまり、あなたの仕事は私のそばにいることじゃなくて?

  それに、あなたが召喚されてしまったのは私の責任なわけだしね」


  う~ん、確かにエミは、自覚はなくとも俺をもとの世界から連れ出してくれた、少なからず感謝はしているし、その不器用な優しさも嬉しい、しかしだ……


「お年頃の女の子と、同棲ってのはどうなのよ? 俺そういう経験ないからなんか落ち着かんし」


「な……な、な! なに考えてんのよ!! 変態!」


「なにを考えたんだよ、変態」


  そういえば、エミはどこに暮らしているのだろうか、流石にずっと玉座に座ってるわけではないと思うが他の部屋は見当たらない。


「違うの!? 違うのよね! それだったらいいけど。それに安心しなさい我が家の部屋数はなんと50を優に超えているわ、同棲感なんてゼロよ!」


「えっ、ご両親は?」


「父はもう亡くなったわ、母は別のところにいるの」


「つまり……」


「一人暮らしよ!」


「……」


  部屋数50以上の広大な家で一人暮らしだと……それは……寂しいよな。


「カリヤ……今、わたしのこと可哀想だと思ったでしょ」


「……俺、ここでお世話になるよ」


  こうして、俺の2度目の人生はスタートしたのである。

  耳元で『ねぇ! 哀れんでるわよね! 寂しい奴だと思ってるわよね!』と、誰かが叫んでいるが無視、久々に昂ぶる心に一人浸ったのだった。


「聞きなさいよ!! ねぇ!」


  無視。


 

 


 

 

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