第12話

                

「斎藤君…あなた、どういうつもりなの」


 僕は、ベランダの柵の向こう側から、部屋の中にいる部長を見ていた。


「部長、ここは二十三階ですから、問題はありません」


 部長は窓の方まで歩み寄ってきて、恐ろしげな顔をした。


「あなた、冗談にもほどがあるわ。なに? 私を脅しているの?それともこれは夢?」


 僕は、部長があまり慌てないように考えた。


「部長、僕は自分の好きな色が何か、ずっと、考えてきました」


 部長は目を丸くして、窓枠にしがみつく。僕は気にせず続けた。


「人が、白と黒を好きな理由も、考えてきました。それで、結局、白い色が好きな理由はよくわからなかったのですが」


 部長の羽根は、やはり大きく、彼女の背中でバサバサといっていた。


「黒が好きな理由はわかった気がします」

「何なの…」


 ひとりごとのように部長がつぶやくと、僕はすこし、感情が高まった。


「黒は自由の色なんです。あなたの羽根は黒い。僕はあなたの羽根が好きだ。だから」


 僕は、勢いよく手を離した。頭がグンと、風を切る。


 腕は振り子のように回り、僕は自分の身体が堅くなるのを感じた。

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