第9話
土曜日、僕は朝の五時頃、散歩に出かけた。駅と公園をつなぐ円を描いて戻ってくるという行程だった。
人気のなさは、やはり不気味だった。しかし、白い空気の中、駅前の銀行で見た中島部長の姿は、もっと不気味に見えた。
「部長…ですか」
こんどは僕が声を掛けた。
「あぁ…斎藤君」
部長はくたびれた白いシャツに、黒い皮靴を片方ぬいでいる、といった格好だった。
「銀行は、まだ開いてないですが、どうされたんですか」
僕は、部長のいつものカバンが無いことに気付いた。
「すられちゃって、交番に行って、それでうん…電車賃はもらえたんだけどね、そういえば家の鍵も無いし、おなかはすいて、でも眠くは無くて…」
部長は軽く酔っているようで、ビールの苦い香りが、離れて立つ僕の鼻にも届く。
「僕の家に寄るつもりなら、連絡を下さればいいんじゃないですか」
部長はふわふわと視線を漂わせ、壁に手をついた。
「斎藤君って、何が言いたいのか、いつもわからないじゃない…私、気兼ねしたのよ、年下なのにね…」
僕は、早朝から開いている喫茶に、部長を連れて行った。
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