第8話
「斎藤君、ちょっといい?」
田中君が、僕を昼食に誘った。会社が入っているビルの一階にある、ファーストフード店に向かう。
「斎藤君って、中島部長と付き合ってるの?」
「部長?」
「うん、前からの知り合いか何か?」
「社長の葬式、からかな」
「…ふうん」
彼は、落ち込んだ人のするように、うつむき加減でハンバーガーを口に運ぶ。
僕はそのとき、ケチャップの赤い色と、彼のネクタイの赤い色が重なって、彼の存在の中心を占めているように思えた。
「田中君は、赤い色が好きなの?」
「へ? あぁ、まぁ。勝気になりたいときはこれをするんだ。似合わない?」
「いや。ただ、なんで赤い色が好きなのかなって」
「なんでって…赤は‘憧れ’なんだ。一生似合わないかもしれないけれど、それでも僕は、赤のネクタイをびしっと決めても、文句の言われない男になりたい」
「憧れ?」
「そう、水島課長みたいになりたいよ」
彼はこう言って、元気を取り戻した。
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