第7話

「斎藤君」

 中島部長が声を掛けてきたのは、それから一週間後の金曜の夜だった。

「部長、お久しぶりです」

「久しぶり」


 部長は目を輝かせて、青の花柄のスカートに合った、白のジャケットという格好だった。僕は七時に会社を出て、駅の改札前で部長に会った。


「斎藤君、この前は御免なさい。私は混乱してたのね、おかしなことを言っちゃった。全部忘れて、私と飲みに行かない?」

「なぜ、ですか」

 僕は行きすがる人波の光に、だんだんと目まいがしてきていた。


「なぜってあなた、それは普通のことよ」

「普通?」

「えぇ、私はあなたが特別、あなたも私が特別でしょう?だから、飲みに行くの、話をするのよ、お互いのことをね」


 僕は、中島部長の羽根がくすんで見え、それに反して、部長の目が光っているのが、とても気になり、また部長の言うことが分からなかった。



「部長が特別、って、僕にはわかりません。部長は悪魔で特別かもしれませんが、僕は特別ではありません。ただの新入社員で、昨日も課長に叱られました」


「そう、そういうことなら…」

 中島部長は少し目を伏せ、首をかしげてから、もう一度僕に言った。

「私はあなたのことが知りたいのよ、私が話したように、あなたのことを教えてくれなければ、引き下がれないわ」


 僕は、空腹を感じ始めた。


「中島部長、今度、僕の履歴書を見てください。なんなら家に来てくださっても構いません。実家には母と父と妹がいます。きっと僕のことを話してくれるでしょう。それでは失礼します。よい週末をお迎えください」


 僕は、ひどく疲れたのは部長のせいだと、なんだか呪わしくなった。

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