第5話

「ねぇ、あなた何?」

「あっ、中島部長」


 二日後の朝、通常勤務のために、僕は机で書類を折りたたんでいた。


「ねぇあなた、斎藤美月くん、っていうのよね」

「はい」


 僕は自分の名前を確認されるなど、おかしなことだと思った。


「斎藤君、それとも美月君?」

「はい」

「だ、か、ら、どちらがいいかしら?」

「斎藤でいいと思います。親しいわけではありませんし」


 部長は「一の字」のようにピンク色の唇を結び、偶然歩いてきた田中新入社員を追い払った。

 彼は、面接で僕に笑いかけた愛想のよい人間だ。なのに、可哀そうなことをした。


「昼時間、下のコーヒー屋の奥の席に座ってて。話があるから」


 部長はそれだけ言って帰った。

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