話其の拾玖/想いの篭った黍団子

桃太郎が一人、暴力以外での解決を必死に訴えている。


「人間は少し、間違いをしてしまっているだけなのです。その間違いを正す時間を、与えて頂きたい」


先程まで考え込んでいた長も、今は、桃太郎の話を真剣に聞いている様だった。


更に、桃太郎が話を続ける。


「こんな事で分かって頂けるのかは分かりませんが、お土産を持ってきました。俺を育ててくれた、お婆さんが俺の為にと、心を込めて作ってくれたお弁当を」


「ほほう」


長が関心を示す。


「俺が鬼の子であるならば、お爺さんとお婆さんは誰の子かも分からない俺を、我が子の様に育ててくれた。そのお婆さんの想いを伝える事が出来るのではないかと思って、食べずに持ってきました」


「そういう事であれば、頂いてみようかのう。菊どん」


長が菊どんに声を掛けた。


菊どんが、お弁当を受け取りに桃太郎に近づく。


状況を把握した桃太郎が菊どんに、お弁当を渡す。


お弁当を受け取った菊どんが、長の前まで歩いて行く。


長が菊どんから、お弁当を受け取り蓋を開ける。


「おお!これは、これは、大きな黍団子じゃ」


お弁当の中に、拳大の黍団子が六つ入っていた。


「さて、どうしたもんか」


長が、ちょっと考え込んだ。


少しの間をおいて、続けて言う。


「先ず、菊どんと桜ちゃんには食べて貰おう。そして、ワシが一つ頂こう。後は不公平になるから、お前の友達の動物達に食べて貰おうかな」


それを聞き、動物達が色めき立つ。


「やったね」


「ちょうどお腹が空いていたんだよなぁ」


「待ってて良かった」


そして長は黍団子を一つ取り出して、お弁当の蓋を閉め、それを菊どんに返した。


菊どんは、お弁当を受け取ると、元の位置に戻って来て、黍団子を桜ちゃんと動物達に配る。


「それじゃあ、頂こう」


長が皆を促す。


「頂きます」


そして、それぞれが食べ始める。


「美味しいなぁ」


「人間の作る食べ物はねぇ」


「此処までついて来た甲斐があるなぁ」


動物達が美味しそうに食べている。


長は一人、無言で食べていた。


菊どんと桜ちゃんは泣いている。


泣きながら食べていた。


そして食べ終えた菊どんが長に進言する。


「この子の親代わりをしてくれた人間は、本当に、この子を大切にしてくれている事が解りました」


「うむ。そうじゃのう」


長が応えた。


そして菊どんが続ける。


「人間に機会を与えてみても、いいのではないでしょうか。いや、私からも、お願いします。人間と、この子に機会を与えてあげて欲しいです」


「私からも、お願いします」


桜ちゃんも菊どんに加勢する。


「お願いします」


最後に桃太郎も続いた。


「解った。解った。十年やろう。十年で人間に改善が見られない場合は判っておろうな?」


長が桃太郎に問うた。


「はい。ありがとうございます」


桃太郎が長に礼を述べた。


そして周囲が騒ぎ出す。


「さあ、ややこしい事は終わった、終わった」


「菊どんと桜ちゃんの子供が帰って来た、お祝いだ~」


「今日は飲むぞ~」


「お前は、いつも、だろうが!」


「うるせぇ。いつも以上に飲んでやるよ!」


周囲はすでに、宴会をする気に、なってしまっていた。

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