話其の弐拾/帰り道

周囲が宴会の準備を進める中、桃太郎はすぐに帰ろうとする。


「済みませんが、俺は帰らせて貰いますね」


「腹減ってるんだろ!?折角なんだから食べていけよ」


岩どんが桃太郎に言った。


「お腹は空いていますが、村の皆に早く知らせたい」


「別に明日になったからって、そんなに違わないだろ」


「村の皆を早く安心させてあげたいんです」


「そっか」


岩どんが応えた。


続けて、周囲の者達に大声で知らせる。


「おーい!桃どんは帰っちゃうってさ~」


それを聞いた周囲の者達は手を止めて、桃太郎達の近くに集まって来た。


「申し訳ありませんが、一早く、村の皆を安心させてあげたいので、今日は帰らせ頂きます。此処には父も母もいるので、また近い内に寄らせて頂きますので、その際には、宜しくお願い致します」


桃太郎が周囲の者達に挨拶をした。


「そうか。残念だが、仕方がない」


「ちぇっ、折角、美味い酒が飲めると思ったのに」


「また、来いよ~」


周囲からは様々な声があがる。


「お前達はどうする?」


桃太郎が動物達に訊いた。


「お前が帰るなら、俺も帰るよ」


猿が応えた。


「俺も帰る」


犬が応えた。


「じゃあ、俺は先に帰るね。嫁さんが待ってるから」


雉は、そう言って飛び立って行った。


そして菊どんと桜ちゃんが桃太郎に寄って来た。


「お腹が空いてるだろう。蒸し芋を入れておいたから、帰り道でお食べ」


桜ちゃんがお弁当を桃太郎に渡す。


「とにかく元気そうでなによりだった。しっかりやるんだよ」


菊どんが桃太郎に声を掛けた。


「ありがとうございます」


桃太郎は二人に礼を言った。


「それじゃ、俺が送って行こう」


岩どんが言った。


岩どんと一緒に、桃太郎と犬と猿は舟に乗って鬼ヶ島を離れていく。


舟の上で桃太郎が蒸し芋を頬張る。


「お前、そんなに腹が減っていたのか!?」


犬が桃太郎をちゃかした。


「そりゃあ、そうだよ。お前達は黍団子を食べたからいいけど、俺は何も食べていなかったんだよ」


「俺にも、少しくれないか?」


猿が桃太郎にねだる。


「お前、まだ食べるの!?」


桃太郎が猿に訊く。


「なんか、お前が食べてるのを見てたら、美味しそうだから」


「それは言えてるな」


猿が応え、犬が同調した。


「仕方がないな。ほら」


桃太郎は一つの蒸し芋を二つに割って、犬と猿に渡した。


それを犬と猿が食べ始める。


「岩どんも食べますか?」


桃太郎が岩どんに訊いた。


「俺の事は、お構いなく」


岩どんは苦笑した。


そして対岸に着き、桃太郎達が舟を降りると、岩どんは一人、鬼ヶ島へと戻って行く。


桃太郎達は来た道を帰る。


峠の途中で猿と別れた。


そして桃太郎が犬に訊く。


「お前は、うちに来るかい?」


「いいのか?」


「構わないよ。きっと爺ちゃんも婆ちゃんも喜んでくれるよ」


「だったら、お言葉に甘えさせて貰おうかな」


桃太郎と犬は峠道を村に向かって帰って行く。

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