話其の拾漆/長との対面、そして問答

両親との対面を済ませた桃太郎。


今度は長との面会をする為、島にある広場へと連れて来られた。


すぐ近くに動物達と両親、そして岩どんが居る。


野次馬の鬼達は少し距離をとって、周囲に集まっていた。


手の空いている鬼は皆、この広場へ来ている様である。


暫くすると、長と思われる鬼がやって来て、桃太郎の前方にある椅子に腰を下ろした。


そして長と思われる鬼は、桃太郎に視線を向けて言う。


「ワシが、この島の長じゃ。お前が菊どんの息子か?」


「どうやら、その様ですね」


桃太郎は、やんわりと肯定した。


「菊どんに、そっくりじゃもんな」


「そんなに似てますか?」


暫く、長と桃太郎、二人のやり取りが続く。


「瓜二つじゃな」


「確かに、似ているとは思うけど、そこまで似てるかなぁ」


「それで、ワシ等に話があるとの事だが?」


「はい。人間達をいじめるのを止めて欲しいのです」


「それは出来ないな」


「何故ですか?」


「先ず、ワシ等は決して、人間をいじめている訳ではない」


「でも、多くの人間が貴方達、鬼達に苦しめられています」


「それは因果応報というものじゃ」


「因果応報!?」


「自業自得とも言えるじゃろう。とにかく、自分達の行いに対する、報いにしか過ぎない」


「その行いとは?」


「人間は、この世界を自分達だけの物だと思い上がっている。そして自分勝手に破壊を続けている」


「確かに、思い上がりは、あるのかもしれません。しかし、それだけではありません」


「何が言いたい?」


「人間達も自分達の行いを省みて、自然を大切にしようとする動きも増えてきています」


「それは判っておる。それでも、現実に自然は破壊され続けている」


「では、人間を虐げる事で、それを止める事が出来ると、思っているのでしょうか?」


「そんな事は思ってもおらん」


「どういう事でしょうか?」


「ワシ等の役目は、人間達の横暴に対しての抵抗をする事で、自然破壊の速度を緩める事にある」


「なるほど」


「ワシ等が人間を懲らしめても、それは、それだけの事だ。本当の報いは、この世界によって、もたらされる」


「本当の報いとは?」


「地震や大雨等の自然災害が、それに当たる」


「それは、そうかもしれませんね」


「ワシ等の抵抗は、それに対する忠告の様なものでもある」


「忠告であるのなら、暴力に訴える必要は無いのでは?」


「ワシ等だって、好き好んで、人間を懲らしめている訳ではない。人間の身勝手な行いに対して、やっているだけの事だ」


「では、本当は人間と仲良くしたいという事でしょうか?」


「元々、人間と我々、鬼を含む自然とは、上手く付き合ってきたはずだった。しかし人間の身勝手さが、それを壊した。更には自然そのものも破壊し続けている」


「確かに、それは、そうなのかもしれません」


「そんな人間を放っておく訳にはいかない。誰かが懲らしめる必要がある。その役割を我々が担っている」


「でも、それでは何の解決にもなっていないのでは?」


「だから、解決は我々がする事ではない。我々のすべき事は、自然破壊の速度を緩める事で、それは出来ていると考えているが」


「本当に、それでいいのでしょうか?」


「では、お前は、どうするのがいいと思っているんだ?」


長が桃太郎に訊き返した。


「俺は、この様な時こそ、人間だとか鬼だとかは関係無く、皆で協力する事で、問題解決に向かう事も出来るのではないかと、思っています」


桃太郎は堂々と、そう言った。

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