話其の拾陸/一方だけの再会
両親だという菊どん達を待つ桃太郎。
一緒に動物達、そして野次馬の鬼達も待っている。
暫くすると一人の鬼が駆けて来た。
「今、菊どん達を呼んで来たから、もう少しでこっちに来るはず」
「ご苦労さん」
岩どんが菊どん達を呼びに行っていた鬼を労った。
その鬼は他の野次馬の鬼達に混じっておしゃべりに加わる。
幾らもしない内に二人の鬼がこちらに駆けて来た。
恐らくは菊どんと桜ちゃんであろう。
一人の鬼は桃太郎にそっくりだった。
そして二人の鬼は桃太郎のところまで来ると、そのまま桃太郎を挟む様に泣きながら抱き着いてくる。
桃太郎はどうしたら良いのか困ったが、取り敢えずは為すがままにされるしかなかった。
周囲の鬼達の中には貰い泣きしている鬼もいる。
「俺、この鬼、知ってる。この臭い、覚えている」
犬がそう言った。
「俺もこの臭い、知ってる」
雉も犬に続いた。
「俺は顔も見た事無いし、臭いも分からないな。お前達は臭いで判断してんの?」
猿が犬と雉に訊いた。
「そんなの当たり前だよ」
犬はそう応えた。
「お前は臭いじゃないの?」
雉は猿に訊き返した。
「俺は臭いもあるけど、見た目の方が大きいかな」
猿が雉に応えた。
「流石、人間の出来損ない」
犬が猿に嫌味を言った。
「何!?」
猿が犬を睨んだ。
「ごめん、ごめん。今度は俺が悪かった。ちょっと口が滑った」
犬が猿に謝った。
「ふん!」
猿は犬からそっぽを向いた。
桃太郎は両親と思われる鬼達に抱き着かれながら苦笑する。
暫くすると桃太郎に抱き着いていた鬼達が、桃太郎から離れた。
それでも両親と思われる鬼達はずっと、桃太郎の顔から目線を外さない。
桃太郎はただただ気まずかった。
辺りは微妙な空気に包まれていく。
それを見て岩どんが声を掛ける。
「こちらがお前の両親の菊どんと桜ちゃんだ」
「そうですか」
桃太郎はそう言われてもピンとはこない。
「桃どん、とにかく元気そうで良かったよ」
菊どんが桃太郎にそう言った。
「本当にそれだけで十分ありがたいよ」
桜ちゃんはそう言った。
「俺の名前は桃っていうんですか?」
桃太郎がどちらともなく訊いた。
「そうだよう。だから桃の保育器に入れてたんだけどねぇ」
桜ちゃんがそう応えた。
「因みに俺はお爺さんに桃太郎と名付けられたんだけど」
桃太郎はそう言った。
「それはすごい偶然だ」
菊どんがそう言った。
「偶然なんかじゃないよ。桃の保育器に入っていたので、桃を付けただけでしょう」
桜ちゃんが菊どんの浅はかさを指摘した。
「そう言われれば、そうだな」
菊どんはバツが悪そうだった。
そして、それから桃太郎は両親に鬼ヶ島へ来た経緯や、生い立ち等を話する。
動物達は退屈そうにしているが、野次馬の鬼達の方は、菊どん達と桃太郎との再開を祝福する様な空気に満ちていた。
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