話其の伍/余りにも衝撃的で意外な事実

桃太郎は意気揚々たる表情で鬼ヶ島へと向かっていた。


途中、一匹の犬が桃太郎の行く手を塞ぐ。


桃太郎は犬が餌を求めて桃太郎の前に現れたと思って、先ず、犬を撫でようと近付いた。


「お前、これから何処へ行くんだ?」


突然、何処からか話し掛けられた。


桃太郎は周りを見渡したが誰も視界に入らない。


「お前、俺が分からないのか?」


また何処からか話し掛けられた。


桃太郎は何が何だか分からずにいる。


「俺だよ、俺。目の前に居るだろ」


桃太郎は目の前に居た犬の顔を伺う。


「そうそう。俺だよ」


桃太郎はびっくりした。


犬が話し掛けてきていたのだ。


「お前、犬だよね」


今度は桃太郎が犬に話し掛ける。


「確かに俺は犬だか、それがどうかしたのか?」


「犬が人間の言葉を話すなんて事、聞いた事がないよ」


「俺は人間の言葉なんて話してないぞ。俺は鬼の言葉で話してるのだが」


「鬼の言葉?よく分からないけど、最初の質問に答えると、俺はこれから、その鬼を退治しに鬼ヶ島へ向かっている」


「なんだ、お前。鬼のくせに鬼を退治しようとしてるのか!?」


「鬼!?俺は人間だぞ」


「いや、お前は間違いなく鬼だぞ」


「俺が話してるのは人間の言葉のはずだけど」


「確かに、お前の言葉は人間の言葉だ。何故、鬼の言葉で話さないんだ?」


「俺は人間なんだから、人間の言葉を話すのは当然じゃないか」


「だったら、何故、俺が話す鬼の言葉をお前は解るんだ?」


「そんな事を言われても、俺に判る訳ないよ。それよりも俺には人間の言葉にしか聞こえない。そもそも鬼の言葉って何なの?」


「鬼と仲良くなった動物は鬼の言葉が話せる様になる。俺は人間の勝手な都合で人間に捨てられた犬だ。だから鬼の味方をすると決め、鬼と仲良くなった。そして鬼の言葉でお前とこうして話をしている」


「なるほど。君の事情は解った。しかし鬼は人間をいじめている。俺はそんな鬼を許せない」


「いや、それは違う」


「何が違うんだ?」


「人間が勝手な都合で自然を破壊するから、鬼はその理不尽に立ち向かっているだけだ」


「確かに人間にも悪い部分はあるだろう。だからと言って、いじめていい理由にはならないはずだ」


「だから、いじめてるんじゃない。理不尽に立ち向かっているんだ。それより先ず、お前は自分が鬼であるという事を認識する必要があるんじゃないのか?」


「俺は本当に鬼なのか?」


「お前は人間に育てられたのか?」


「そうだ。年老いた祖父と祖母が親代わりだった」


「だったら周囲の人間と比べて、おかしいと感じた事はないのか?」


「確かに俺は有り得ないくらいに成長が早かったらしいが」


「やっぱり、お前は鬼だ。人間は大人になるまで二十年程かかるが、鬼は七年くらいで大人になる」


「俺の年齢は五歳なんだけど」


「もう完全に鬼だね。お前は。人間の五歳がそんなにでかい訳がない。鬼の言葉を解った事も裏付けになる」


「そうだったのか。俺は鬼だったのか」


桃太郎にとっては余りにも衝撃的で意外な事実であった。

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