エピソード58/母親
先程まで、
俊之は今日、学校が終ってから、すぐにアルバイトへ行っている。
絵美は、こうして時々、俊之の家の夕飯の手伝いもしていた。
俊之の母「ただいま」
勝手口のドアが開いて、俊之の母が帰って来た。
絵美「おかえりなさい~」
俊之の母「絵美ちゃん、いつも、どうもありがとう」
俊之の母が家にあがりながら言う。
絵美「いえ、私の方もお料理を教えて貰っていますから」
俊之「教えるも何も、絵美ちゃん、相当に鍛えられているじゃないの」
絵美「でも、私はまだまだレパートリーが少ないから」
俊之の母「そんなのは少しずつ、自然に増えていくもんなのよ」
絵美「そうなのかな~」
俊之の母「今のままでも十分に上出来だわ」
絵美「えへへ。それで今日のおかずは何にするんですか?」
俊之の母「今日はハヤシライスにしようと思っているんだけど」
絵美「私、ハヤシライス、大好き」
俊之の母「じゃあ、決まりね」
そして二人は夕飯の支度を始めた。
暫くすると、夕飯の支度も終り、二人は台所の椅子に座って、お茶を飲みながら話を始める。
絵美「お母さんに、ちょっとお訊きしたい事があるんですけど、いいですか?」
俊之の母「何かしら?」
絵美「俊君が、男の子は中学生くらいになると、自分の誕生日を家族に祝って貰ったりはしなくなるって言っていたんですけど」
俊之の母「そうね。俊之も中学生になったら、急に嫌がる様になったわねぇ」
絵美「お母さんはお祝いをしたくないんですか?」
俊之の母「そんな事はないわよ。やっぱり、自分の子供だからねぇ」
絵美「そうですよね」
俊之の母「でも、男の子が、そういう事を嫌がる様になるのは成長の証でもあると思うから、それは、それで嬉しくも思ったりはするのよね」
絵美「そっかー」
俊之の母「絵美ちゃんの訊きたい事って、それ!?」
絵美「はい。俊君は嫌がっているけど、お母さんは、どう思っているんだろうと思って」
俊之の母「そうなんだ。でも、何で、そんな話になったのかしら!?」
絵美「この前、俊君と誕生日のお祝いをした時に来年の話になって」
俊之の母「うん」
絵美「来年は私の誕生日の当日に二人きりでお祝いをしようよって言ったら、俊君に、それは駄目だって言われて」
俊之の母「何で?」
絵美「俊君は私のお父さんが一番、私の誕生日を祝いたいはずだよって」
俊之の母「そうね。女の子の男親は娘を可愛がるからねぇ」
絵美「それで俊君が、二人きりでお祝いするのは俊君の誕生日にしようって言うから、それじゃあ、今度は俊君のお母さんがお祝いを出来なくなっちゃうじゃんって、私が言って」
俊之の母「なるほど。そうだったのね」
絵美「結局、来年もまた、今年と同じ様に間の日にズラして、二人きりでお祝いをしようって事になったんですけど」
俊之の母「私の事なんて気にしなくていいのに」
絵美「そういう訳には、いきませんよー」
俊之の母「いいのよ。さっきも言った様に、私にとっては誕生日なんて祝えなくても、俊之がちゃんと成長をしてくれている方が嬉しいんだから」
絵美「でも~」
俊之の母「ありがとうね。私の事を気遣ってくれて」
絵美「いえ、俊君だって、私の家族の事を、きちんと考えてくれているのに」
俊之の母「でも、本当にいいのよ。仕方がないの。そういう年頃なんだから」
絵美「そういう年頃!?」
俊之の母「誕生日だけの話じゃないのよ。普段は私と一緒に出かけたりするのも嫌がるんだからね」
絵美「そうなんだ」
俊之の母「絵美ちゃんだって、そうなんじゃない!?」
絵美「私ですか!?」
俊之の母「お父さんと一緒に出かけたりはするの?」
絵美「うーん。家族皆でならあるけど、二人で出かける事はないかな」
俊之の母「でしょ~」
絵美「お父さんと出かけるとしても、何処へ行ったらいいのか分からないな~」
俊之の母「絵美ちゃんのお父さんも、そうなんじゃないかしら!?」
絵美「そうなのかな~」
俊之の母「
絵美「時々だけど、一緒に釣りに行ったりはしています」
俊之の母「やっぱり、そうなのよ。お父さんも絵美ちゃんだと、何処へ連れて行っていいのか分かんないのよ」
絵美「そっかー」
俊之の母「難しい年頃なのよね。特に親と異性の子供って」
絵美「お母さんも私ぐらいの時って、そうだったんですか?」
俊之の母「私は兄弟が多いからねぇ。親との関係よりも兄弟姉妹の間で、そういう事はあったけどね」
絵美「そうなんだ」
俊之の母「でも、そういうのも大人になるまでの話」
絵美「私なんて、まだまだ子供なのかな」
俊之の母「そうそう。俊之だって、そうよ」
絵美「そっかー」
俊之の母「さっき、俊之の成長が嬉しいって言ったけど、それでも、まだまだ子供なの」
絵美「そうですよねー」
俊之の母「だから、私にはまだまだ、母親としての楽しみが残されてもいるの」
絵美「母親かぁ」
俊之の母「だから、私の事は気にしなくていいわよ。絵美ちゃんは俊之と一緒に今を楽しみなさい」
絵美「はい」
俊之の母「青春は今しかないんだから」
絵美「青春かぁ」
俊之の母「ちょっと臭い言い方だったかしら!?」
絵美「そんな事はありませんよ~」
二人はこうして、おしゃべりをしながら、俊之の帰りを待っていた。
もうすぐ桜の花も咲き始めるだろう。
そんな初春のひと時であった。
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