エピソード57/一緒くたのバースデー

俊之としゆき絵美えみの二人は、いつも利用をしているラブホテルに来ていた。


先々週、俊之の誕生日があり、今週は絵美の誕生日がある。


だから、二人は今日、一緒に二人の誕生日を祝った。


プレゼントの交換をして、それから1回戦を終えたところである。


俊之「明日はちょっと遠出をしような」


絵美「何処へ行くの?」


俊之「もうすぐ、ホワイトデーじゃん」


絵美「そうだねー」


俊之「美味しいケーキがある店を調べておいたから、そこへ」


絵美「そうなんだ。って、ホワイトデーまで一緒に済ます気なんだー」


俊之「そう。でも、明日だから行けるんだよ」


絵美「そうだけどさー」


俊之「何!?ケーキは食べたくないの?」


絵美「そうじゃないけどさ」


俊之「じゃあ、何だよ!?」


絵美「誕生日もホワイトデーも、みんな一緒くたにされちゃうのが、ちょっとねー」


俊之「そりゃ、仕方がないべ。絵美がホワイトデーの3日前に生まれるからだよ」


絵美「何、それ~!?」


俊之「だから、その代わりと言っちゃなんだけど、美味しいケーキをご馳走するって言っているんじゃん」


絵美「うん。それはありがとう。でも、これからも、そうなっちゃうのかなって思うとねー」


俊之「それは俺じゃなくても、そうなっちゃうと思うよ」


絵美「そうなのかなー」


俊之「クリスマスと一緒じゃなくて、マシだったって思えよ」


絵美「何、それー」


俊之「物は考えようって事」


絵美「それに俊君も俊君だよねー」


俊之「何が?」


絵美「何で、私が生まれる2週間前に生まれるのよ」


俊之「だから、それを言ったら、何で、俺が生まれた2週間後に絵美が生まれたんだよってなっちゃうよ」


絵美「そうなんだけどさー。一緒にされちゃうと、なんか、損をした気分になるんだよね」


俊之「何でよ!?」


絵美「だって、別々だったら、2回、お祝いが出来るのに、一緒にしちゃったら、1回だけになっちゃうじゃん」


俊之「あはは。回数の問題なのかよ」


絵美「そう。おかしいかな!?」


俊之「いいじゃん。回数よりも一緒に祝える事で、より幸せを感じる事が出来ればさ」


絵美「それは、そうなんだけどねー」


俊之「お互いの誕生日が近かったから、一緒に祝えるんだし」


絵美「うん」


俊之「それにさー」


絵美「何!?」


俊之「絵美がもう半月、生まれるのが遅れたら、学年が違っちゃっていたのかもしれないって思うとさ」


絵美「そう言えば、そうだね」


俊之「一緒の学年になれて良かったなって」


絵美「うん」


俊之「だから、そうブーたれるなって」


絵美「別に、ブーたれている訳じゃないんだけどさ」


俊之「分かったよ。来年は別々にしてみよう」


絵美「本当!?」


俊之「うん。でも、別々にってなると、二人きりでって訳には、いかなくなっちゃうかな」


絵美「どうして?」


俊之「だって、別々にするんなら、当日にお祝いをする訳じゃん」


絵美「うん」


俊之「絵美のお父さんやお母さんだって、絵美の誕生日を祝いたいはずだよ」


絵美「そうなのかな!?」


俊之「だから、みんなでって事になっちゃうかな」


絵美「じゃあ、日にちをズラせばいいじゃん」


俊之「日にちをズラすなら、今年と同じ様に俺のと一緒でいいじゃん」


絵美「えー、何でよー」


俊之「そんなに祝ってばかりいて、どうするんだよ!?」


絵美「いいじゃん。お祝いは多い方がさー」


俊之「多ければいいってもんでもないだろ!?」


絵美「そうかな!?」


俊之「それに祝ってばかりもいられないだろ」


絵美「どうして?」


俊之「俺はバイトもあるし、勉強だってしなきゃならないんだよ」


絵美「それは、そうかもしれないけど」


俊之「絵美だって進学を考えるなら、勉強をしなきゃ」


絵美「えー」


俊之「えーって、何だよ」


絵美「だってー」


俊之「来年の今頃は、もう受験まで1年を切っちゃうんだよ」


絵美「そう言えば、そうだね」


俊之「だって、とか言っている場合じゃないって」


絵美「うーん」


俊之「だから、来年、俺の誕生日は二人きりでお祝いをして、絵美の誕生日は絵美の家族と一緒でいいじゃん」


絵美「分かった。でも、そうすると俊君のお母さんがお祝いを出来ないじゃん」


俊之「ウチは気にしなくていいよ」


絵美「そんなの駄目だよー」


俊之「男の子の場合は余り誕生日とか祝わないんだ」


絵美「え!?そうなの?でも、ウチは隆行たかゆきの誕生日を祝うよ」


俊之「そりゃ、絵美だけ祝って、隆行を祝わなかったら、おかしいだろ」


絵美「そうだけどさー」


俊之「だから、男の子だけだった場合だよ」


絵美「そうなんだ」


俊之「小学生くらいまでは祝うのかもしれないけどね」


絵美「何でなの?」


俊之「男の子は中学生くらいになると、親に誕生日を祝って貰うのって、こっ恥かしかったりするんだ」


絵美「でも、お母さんはお祝いをしたいんじゃないの?」


俊之「そうかもしれないけど、もう何年も祝っていないから、来年、急にって言われたら、それは、それでお袋も困ると思うよ」


絵美「そうなのかなー。今度、俊君のお母さんに訊いてみよ」


俊之「訊くのかよ」


絵美「うん。それで、俊君のお母さんが祝いたいって言ったら、俊君の誕生日は俊君のお母さんと一緒にお祝いをするよ」


俊之「勘弁してくれよ」


絵美「勘弁しない~。それで、私の誕生日を二人きりにしよ」


俊之「それは駄目だって」


絵美「何で?」


俊之「絵美の誕生日を一番、祝いたいのは絵美のお父さんなんだよ」


絵美「そうなのかなー!?」


俊之「女の子の男親ってのは、そういうもんなんだよ。親戚の人達とかを見ていると、よく分かるんだ」


絵美「私も由佳ゆかのお父さんを見ると、そういう感じが分からないでもないけど、自分のお父さんは、そういう感じがしないけどなー」


俊之「とにかく、絵美のお父さんから絵美を祝える機会を奪う訳にはいかないからさ」


絵美「そっか」


俊之「俺は絵美と一緒に居れればいいし」


絵美「私も俊君と一緒に居れればいいよ」


俊之「じゃあ、家族と一緒でもいいじゃん」


絵美「そうだね」


俊之「でも、本音は二人きりがいいんだけどね」


絵美「じゃあ、さ。来年も今年と同じ様に一緒に祝おうよ」


俊之「何だよ。結局、そうなるのかよ」


絵美「えへへ」


俊之「本当にそれでいいの!?」


絵美「うん」


俊之「分かった」


絵美「楽しみだなー。明日のケーキ」


俊之「何だよ。もう頭の中はケーキに切り替わったの!?」


絵美「うん」


俊之「じゃあ、俺も切り替えよ~」


そう言いながら、俊之は絵美の尻を触った。


絵美「やだ、も~」


そして絵美の口を塞ぐ様にキスをする。


二人はそのまま2回戦へと突入していく。


春を迎えて昼間は少しずつ、暖かくなりつつあるが、夜はまだまだ寒さも残っている。


しかし、俊之と絵美は、そんな寒さなど吹き飛ばしてしまいそうな程、お熱い夜となった。

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