エピソード45/アルバイト先巡り

正月も終り、冬休みも残りが少なくなってきた。


そして由佳ゆか絵美えみの家へとやって来る。


由佳が絵美の家のチャイムを鳴らした。


絵美の母が玄関の戸を開けて、顔を出す。


絵美の母「あら、由佳ちゃん、いらっしゃい」


由佳「明けまして、おめでとうございます」


絵美の母「はい。おめでとうございます」


由佳「絵美、居ませんよね!?」


絵美の母「うん。アルバイトに行っているわ」


由佳「それじゃ、これ。お土産です」


由佳が包装紙に包まれた菓子箱の様なものを差し出す。


絵美の母「そんなに気を遣ってくれなくてもいいのに。ありがとうね」


絵美の母がお土産を受け取る。


由佳「それじゃ、私は帰ります」


絵美の母「ちょっと待って」


由佳「何ですか?」


絵美の母「今、とし君が来ているから、由佳ちゃんも上がっていきなさいよ」


由佳「えーっと。それじゃ、丁度、良かったかな」


絵美の母が由佳を玄関の中へと招き入れる。


絵美の母「それじゃ、それは俊君の分なんだ」


由佳が持っていた、もう一つのお土産を見て、絵美の母が言った。


由佳「はい。此処へ来る途中で、山ノ井やまのい君チにも寄ったんだけど、誰も居なかったみたいなので」


絵美の母「とにかく、あがりなさい」


由佳「はい。お邪魔します」


由佳は絵美の母に促されて、家にあがった。


そして絵美の母に連れられて、リビングに来る。


絵美の母「由佳ちゃん、来たわよ」


俊之としゆき「何だ、佐藤さとう。どうしたのよ!?」


由佳「何がどうしたよ。こっちが言いたい台詞だわ」


絵美の母がリビングの戸を閉めて、台所へと行った。


俊之「何を言っているんだよ!?」


由佳「はい。これ、お土産」


由佳がお土産を差し出す。


俊之「お、サンキュ。俺にまで、お土産を買ってきてくれたんだ」


俊之がお土産を受け取って、テーブルに置く。


由佳「仕方がないじゃない。一応、山ノ井君にはお世話になっているし」


俊之「仕方がないのかよ」


由佳「そうよ。って、何で山ノ井君だけが絵美んチに居るのよ!?」


俊之「今、ちょっと遠くの親戚に不幸があってさ、ウチのお袋、近くの親戚連中と一緒に葬式に行っているんだよね」


由佳「そうなんだ」


俊之「昨日、出かけて、明日、帰って来るんだけど、その間、絵美んチで飯をご馳走になっているんだよ」


由佳「山ノ井君は行かなかったんだ」


俊之「うん。子供まで連れて行くと大変だからって留守番」


由佳「そっか」


俊之「それに、俺は2度くらいしか会った事のない親戚だからさ」


由佳「へぇ~」


俊之「行っても、どうせ、つまんねーし、丁度、良かったかな」


由佳「葬式なんて、どっちみち、面白くなんてないんじゃない!?」


俊之「そうなんだけどさ。従兄弟とかと仲が良ければ、会うのが楽しみだったりはするじゃん」


由佳「それは、そうだね」


俊之「おっと、隆行たかゆきを忘れていたよ。佐藤」


由佳「何!?」


俊之「絵美の弟の隆行」


由佳「何度か見かけた事はあるけど、話をするのは初めてかな。由佳っていうの、宜しくね」


隆行「宜しくお願いします。由佳さんって呼べばいいですか!?」


由佳「いいわよ。私は隆行君って呼ぶね」


隆行「呼び捨てでも構わないですよ」


由佳「じゃあ、そうさせて貰うわ」


俊之「佐藤」


由佳「何よ?」


俊之「これから、暇か!?」


由佳「別に、何の予定も無いけど」


俊之「じゃあ、丁度、良かった」


由佳「山ノ井君、アルバイトは休みなの?」


俊之「うん。バイト先の伯父さんも葬式に行っているから、休みになっちゃったんだ」


由佳「そうなんだ。私は絵美のアルバイトが休みだったら、遊ぼうと思っていたんだけどね」


俊之「だから、これから絵美を冷かしに行かねーか!?」


由佳「それ、いいね。だったら、木綿子ゆうこのところも行かない?」


俊之「長谷川はせがわもバイトをしているのか。じゃあ、長谷川のところで昼飯を食うか!?」


由佳「そうしよう」


俊之「お母さん」


俊之が台所にいる絵美の母に声をかける。


絵美の母「何かしら?」


絵美の母がリビングの方へ向いて応えた。


俊之「俺達、外で昼飯を食べてきます」


絵美の母「もう準備をしちゃっているけど」


俊之「夕飯に回す事は出来ませんか!?」


絵美の母「分かったわ」


俊之「それじゃ、行ってきます」


絵美の母「いってらっしゃい」


俊之が立ち上がる。


俊之「ほれ、隆行、行くぞ」


隆行「俺もですか!?」


俊之「お前、留守番の方がいいの!?」


隆行「いえ。俺も行きます」


隆行も立ち上がる。


そして俊之と由佳と隆行は絵美の家を出て自転車で、絵美が働いているファーストフードへと向かった。


ファーストフードへ着くと3人で絵美のところへ向かう。


俊之「よう」


絵美「俊君、どうしたの!?」


由佳「絵美」


絵美「あれ、由佳もいるの!?隆行もいるじゃん」


俊之「絵美んチに居たら、佐藤が来たからさ、みんなで絵美の様子を見に来たんだ」


絵美「何、暇な事をしているのよ~」


俊之「あはは。それで、これから長谷川のところで飯を食おうと思ってね」


絵美「いいな~」


由佳「絵美。台に乗った方がいいんじゃないの!?」


絵美「うるさいわね~。それより注文はどうするの?」


俊之「ポテト3つ」


絵美「それだけ!?」


俊之「うん。飯は長谷川んところで食うから」


絵美「此処で食べるの?」


俊之「いや、お持ち帰りで」


絵美「ちょっと待っていて」


隆行「姉貴、ちゃんと働いているんだな」


俊之「何をしていると思っていたのよ!?」


隆行「いや、仕事をしないで、しゃべってばかりいるんじゃないかって」


由佳「私もそれ、ちょっと心配だった」


俊之「あはは。それを絵美が聞いたら、どうなるかな」


そして絵美がポテトを3つ持ってくる。


絵美「お待たせ~」


俊之が支払いを済ませる。


俊之「それじゃ、頑張れよ」


絵美「うん。ありがとう」


由佳「またね」


絵美「バイバイ」


俊之達が店を出て行く。


絵美は次の客の相手をする。


由佳「山ノ井君、お金」


俊之「いいよ。今日は俺が奢るよ」


由佳「いいの!?」


俊之「それとも、佐藤が奢ってくれんの?」


由佳「え!?じゃあ、甘えちゃおう。ありがとう」


隆行「ありがとうございます」


俊之「隆行、これ持っていて」


俊之が隆行にポテトを渡す。


そして隆行が自分の自転車の籠にポテトを入れて、3人は再び自転車に乗り、今度は木綿子が働いているファミレスへと向かう。


ファミレスに着くと店の中に入っていく。


丁度、木綿子が対応に来た。


木綿子「いらっしゃいませ」


そう言った後に小声で続けて言う。


木綿子「何をしに来てんのよ!?」


俊之「飯を食いに来ただけだって」


由佳「そうそう」


木綿子「全く」


小声でそう言った後、続けて声を普通に戻して言う。


木綿子「何名様でしょうか?」


俊之「3人だけど。これ持ち込みいい!?絵美んところで買ってきたんだけど」


俊之が隆行の持っているポテトを指して言った。


木綿子「ちょっと待っていて。聞いてくるから」


そう言って、木綿子が店の奥の方へ行ってしまう。


幾らもしない内に木綿子が戻って来る。


木綿子「特別にいいって」


俊之「サンキュ」


そして木綿子に誘導されて、3人は席へと着く。


木綿子は席から離れていった。


隆行が俊之の隣に座ろうとする。


俊之「お前は、あっちに行けよ」


由佳「何で?」


俊之「俺と隆行は結構、食べるからさ、並ぶと食べ辛いと思って」


由佳「そっか」


俊之「佐藤は一人前で十分だろ!?」


由佳「うん」


隆行が由佳の隣に座る。


そして木綿子がメニューを持って来る。


木綿子「お決まりになりましたら、呼びつけて下さい」


木綿子が再び、席から離れる。


俊之「長谷川の方がちゃんと仕事をしているな」


由佳「そうだね~」


隆行「姉貴、話し言葉で対応をしていたもんな」


由佳「本当、その時は気にならなかったけど、木綿子の対応を見ると、絵美のって、おかしいよね」


俊之「俺は長谷川の対応の方が面白いけど」


由佳「それも、そうなんだけどさ」


俊之「好きなもん、頼んでいいぞ」


3人はメニューを見て注文を決める。


そして木綿子を呼びつけて注文を言う。


俊之と隆行は3人前、由佳は1人前の注文をした。


注文を聞き終えると、木綿子が席から離れていく。


俊之「そういえば、佐藤はバイトをしないの!?」


由佳「私は冬休みが終わってからにしたんだ」


俊之「そうなんだ」


由佳「本当は冬休み前からやろうと思っていたんだけど、話を聞いていたら、面倒臭くなってきちゃってさ」


俊之「ははは」


隆行「何のバイトをするんですか?」


由佳「コンビニの店員」


俊之「何処のコンビニよ?」


由佳「眼鏡屋の隣のところ」


俊之「あそこって、余り場所は良くないよな!?」


由佳「そう。だから、楽かと思って」


俊之「客が少ないからか!?」


由佳「当たり」


隆行「でも、あそこって、元々、酒屋でしたよね!?」


俊之「そうそう。それで今でも配達とかもしているからさ」


由佳「そうみたいだね」


俊之「じゃなかったら、潰れているのかもしれないよ」


由佳「潰れたら、困っちゃうな」


俊之「まだ、暫くは大丈夫だろ。俺達が大人になる頃には潰れているかもしれないけど」


そうして俊之、由佳、隆行の3人は木綿子の働くファミレスで話を続ける。


それから幾らもしない内に正午へとなった。


周りを見ると、まだ客は大していない様である。


客が来るのを待っている木綿子がつまらなそうだった。

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